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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 08 インド洋武器密輸船捕捉せよ!
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第十二話

 セイシェル諸島近傍で、AI‐10たちは……今回もROCHIに任せたのだが……通算四回目の定期交信を行った。

「情勢と計画に変更があったわ」

 スカディが、受信内容……ドリスコル戦隊の戦力増強とキファリア艦隊の接近を皆に説明する。

「明日のお昼前にキファリア艦隊と合流、その少し前にドリスコル戦隊がソマリア沖を出港、その後明後日の午前中に臨検、という予定なのですねぇ~」

 ベルが、今後のスケジュールを確認する。

「ジャンフーⅢ改が一隻、ハイナン級が二隻、ホウシン級が二隻か。旧式艦ばかりだけど、侮れんな」

 亞唯が、言う。

「ゴミみたいな戦力なのです! キファリア海軍に合衆国海軍と喧嘩する度胸があるはずないのです!」

 シオはそう主張した。ちなみに、臨検を行うのが合衆国海軍だという情報は、隠しておいても無駄ということで、すでにシャオミンにはばらしてある。

「まあ、なんとかなるやろ」

 雛菊が、のんびりとした口調で楽観的に言う。

「まあ、キファリア側も無理はしないでしょうね」

 笑いながら、シャオミンが言った。

「この船に積まれている兵器は、推定で一億ドルを超える価値があると見られているの。まわりで交戦などすれば、流れ弾被弾で爆薬に引火、すべてが海の藻屑ということもあり得るわ。無茶はできないはずよ」

「……とすると、万が一の際のわたくしたちの緊急脱出手段も考えておく必要がありそうですわね」

 スカディが、言った。

「一応緊急装備はまともなものを備えているようですねぇ~。カッターボートタイプの救命艇は二隻ありますですぅ~」

 ベルが答える。原則として、外洋船舶は片舷に乗員乗客全員が乗れるだけの非常用移乗脱出手段……各種のボートや膨張式の救命筏など……を備えねばならない。この船も、乗員全員が乗り込めるサイズのボートが、両舷に一隻ずつ吊り下げてあった。

「念のため、ROCHIに救命艇がまともに使えるかどうか調べてもらいましょう。ところでシャオミンさん。あなたは独自で救命装備をお持ちですか?」

 スカディが、訊いた。

「一応、膨張式の救命胴衣はあるわ。残念ながら、あなた方の分はないけど」

「それを聞いて安心しましたわ。わたくしたちのことはご心配なく」

 スカディが、にこりと微笑んでシャオミンの気遣いに応える。



 難航していたアリシア・ウー中校の捜査が、ようやく進展した。

 捜査線上に浮かび上がった、グー・ウェンイー上尉と頻繁に会っていたと見られる怪しい中年男。民警は彼を見つけ出そうと努力を続けたが、成果ははかばかしくなかった。言うまでもなく、上海は中国最大の都市であり、ありふれた風貌の中年男性など腐るほど居住している。目撃者の証言により作成されたモンタージュ写真を公開すれば捜査は捗っただろうが、もしその中年男が台湾の工作員であれば、捜査の開始を知って姿をくらましてしまうだろう。そうなれば、唯一無二の手掛かりが途絶えてしまうことになる。民警は、地道な捜査を続けるしかなかった。

 一方アリシアは、別な観点から独自に捜査を行っていた。グー上尉が、コンテナ船への何らかの『干渉』を狙っていたと仮定し、怪しい中年男はコンテナ埠頭に関連した人員だと推測して、上海基地警備隊と協力して、上海基地関係者と港湾労働者を中心に洗ったのだ。その結果浮上した容疑者数名を、アリシアは自ら尋問したが、グーに繋がる確実な証拠を得ることはできなかった。

 だが、その努力は意外なところで報われた。警備隊の中から、上海基地勤務の士官の一人が、モンタージュの中年男に似ているという情報が寄せられたのだ。

 アリシアは半信半疑で民警にその士官……リー・チン海軍中尉の身辺を探らせた。そこで集められた数々の証拠……リー中尉の借金とその返済状況、褒められたものではない素行の数々から、アリシアは彼がグーと会っていた可能性は高いと判断した。そこでさっそく昨晩、民警にリー中尉の連行を指示したのである。

 だが、運悪くリー中尉は非番で、行方をくらましていた。昼近くになってようやく、民警は娼館から戻ってきたリー中尉を捕縛、民警本部に連行した。

 アリシアは今回も尋問を自分で行った。出だしの会話で、リーが『小物』であることを見抜いたアリシアは、単純に脅しつける形で尋問を進めた。スパイ行為には死刑の適用もあり得ることを指摘してびびらせてから、グーの写真を見せる。リーはあっさりとすべてを喋り、自分は情報は売ったが祖国を裏切ったわけではないと必死の形相で弁明した。


 アリシアは小部屋から人払いをすると、カオ少将への直通番号をダイヤルした。リーの証言内容だけ、かいつまんで報告する。

「女性一名だけ、埠頭の封鎖区域内に入れたのだな?」

 カオ少将が、念押しする。

「はい。台湾工作員と推定される女性一名だけです。彼女が埠頭封鎖区域を出たことは、確認されていません」

 アリシアは冷静な声音で答えた。

「よし。よくやった」


 一人だけの工作員。

 電話を切ったカオ少将は、半ば無意識のうちに『中華』に火を点けながら、素早く頭脳を回転させた。

 おそらく、その工作員はコンテナ船に潜り込んだのだろう。そして、一名だけということは、台湾側が『本命』のコンテナ船を事前に知っていたことを意味する。拙速な作戦ではない。周到な情報収集と準備に裏打ちされた、大規模な作戦に違いない。

 やはり米台共同作戦なのだろう。目的は、コンテナ船の拿捕か。これを阻止するには……。

 と、内線電話の着信音がカオ少将の思考を中断させた。



 『遥感ヤオガン』は、中国語でリモートセンシングを意味する。

 2006年の遥感1号を皮切りに、現在までに多数の『遥感』シリーズ衛星が、中国航天工業公司によって製作され、長征ロケットで軌道上に投入されている。その任務は地球観測にあり、主に資源調査、環境観測、災害対策などであると発表されているが、一部は合衆国海軍が運用するNOSS(海軍洋上監視システム)に類似した海洋偵察衛星であるとみられている。

 その衛星群……三機一組で運用されている……のひとつが、ソマリア沖から四隻に増えたドリスコル戦隊が移動を開始したことを捉えた。情報は即座に北京航天飛行制御センターに送られ、海軍を通じ関係各所にも伝達された。人民解放軍総参謀部作戦部海軍局に送られた情報は、事前の依頼に従ってカオ少将の元にも伝達された。



 揚陸艦二隻。護衛の巡洋艦一隻と駆逐艦一隻。ソマリア沖を南下中。

 カオ少将は受話器を置くと、壁に臨時に張ってある東アフリカと中東南部、それに北西インド洋を収めた地図を見た。

 現地時間は明け方。巡航速度二十ノットと仮定すると、明日の午前中に『宝鶏』の推定位置に到達する。

 幸い、キファリア海軍艦隊は、もうまもなく『宝鶏』と合流するはずだ。キファリア艦隊にがっちりと護衛させてキファリア領海へ逃げ込めれば、勝機は十分にある。それにはまず、コンテナ船に潜り込んでいる台湾の工作員を始末しなければならない。

 カオ少将は電話を取り上げた。副官に、海軍司令部に繋ぐように命ずる。



 ROCHIに異常事態発生を知らされたAI‐10たちは、ごそごそと偽装コンテナから這い出すと、物陰から船橋方向をそっと覗いた。

 船尾方向から照らす朝の光の中で、拳銃を手にした保安要員に先導されながら、何人もの特殊部隊兵士が、油断なく武器を構え、コンテナの捜索を開始していた。シールボルトを切断し、中身をひとつひとつ検めてゆく、という徹底捜索のようだ。

「あちゃー。ついに始まってしまったで」

 雛菊が、額をぱしんと叩きつつ言う。

「どうして急に徹底捜索が始まったのでしょうか?」

 スカディが、首を傾げる。

「キファリア艦隊との合流前に、ちょっと船内を『きれい』にしよう、と思い立ったのではないでしょうか?」

 シオは憶測を口にした。

「たぶん、上からの命令だろう。こちらのあずかり知らぬところで情勢の変化があったに違いない」

 AI‐10たちの頭のあいだから覗きつつ、シャオミンが言う。

「逃げるか隠れるか戦うかの三択だな」

 難しい顔で、亞唯が言った。

「海で漂流したくはないのですぅ~」

 ベルが、逃げる選択肢を拒否する。

「同感ね。隠れる、も難しいわね。あの徹底した捜索ぶりでは、さしもの偽装コンテナも見破られそうですわ」

 スカディが、隠れる選択肢も否定する。

「なら、戦うのです! 幸い、時間はあるのです!」

 シオはそう主張した。慎重かつ丁寧な捜索を行っているので、ここまで来るまでには後たっぷり一時間は掛かりそうだ。

「となると、武器が必要だな。あたしのMP5Kと、みんなの拳銃じゃ特殊部隊一個小隊とやり合えないよ」

 亞唯がそう指摘する。

「わたくし、C4がたっぷりありますですぅ~」

 爆破を行えそうだと予想したベルが、嬉し気に告げた。

「ベルたそ、船上で爆破はまずいで。誘爆したら、みんな吹っ飛んでしまうわ」

 雛菊が、慌てて止める。

「大丈夫ですぅ~。指向性を持たせますからぁ~。中国兵の皆さんを、船外へ吹き飛ばすだけですぅ~」

 ベルが、笑う。

「うまい具合に、武器なら文字通り売るほどある。気合いを入れて歓迎準備を整えるとしよう」

 シャオミンが、ほくそ笑んだ。



 中国陸軍特殊部隊一個小隊は、保安要員を案内役にして、慎重にコンテナの捜索を続けていた。

 シールボルトを切断し、内部に銃口を突っ込む。気配がないことを確認してから、小柄な兵を隙間に突っ込ませ、捜索する。さらに狭い隙間には、持参した軍用のファイバースコープを突っ込んで調べる。

 すでに彼らは、シールボルトが切断されたコンテナを複数見つけていた。この船に、台湾の女性工作員が潜入していることは確実である。まず間違いなく武装しているこの工作員を狩り出そうと、特殊部隊は精力的に捜索を継続していた。



 スカディ、シオ、雛菊、それにシャオミンの三体と一人は、中国製のサプレッサー付き85式短機関銃を手に、偽装コンテナの中で待機していた。

 85式短機関銃は、正規軍における補助的火器や民兵組織での使用を前提として開発された短機関銃である。安っぽい作りの機関部とピストルグリップ。下方に突き出たバナナ型弾倉。側方折り畳み式の金属製ストック。使用弾薬は、7.62×25mm。いわゆる、30口径トカレフとしても知られる拳銃弾である。

 その短機関銃に、長い円筒形サプレッサーを装着し、専用の亜音速弾を使用するのが85式微声衝鋒槍……サプレッサー付き85式サブマシンガンである。

 有効射程は短いが、コンテナ船上で撃ち合う分には支障はない。箱弾倉の容量は三十発。全員が、それぞれ六本の予備弾倉を携行していた。

『そろそろ始めるよ』

 亞唯から、無線が届いた。

『こちらは準備よし』

 スカディが、無線で返す。

『じゃあ、始めるよ』



 亞唯はコンテナの上から身を乗り出すと、手にした56式自動歩槍をセミオートで撃ち始めた。一人の中国兵が倒れ、銃声に驚いた特殊部隊員たちが伏せる。

 すぐに、応射が始まった。亞唯は身を低くして、射撃を続けた。弾倉が空になると、新しいものをはめ込み、さらに射撃を続ける。



 95式自動歩槍を構えた特殊部隊員たちが、どたどたと偽装コンテナの脇を走ってゆく。

 隠れて見張っていたROCHIが、偽装コンテナの側面をとんとんと叩いて、安全であることを告げる。隠れていた三体と一人は、コンテナを出ると二手に分かれた。右舷側が、スカディとシオ組。左舷側が、雛菊とシャオミン組である。

 一個小隊とまともに撃ち合えば、こちらに勝ち目はない。だが、背後に密かに回り込んで、消音サブマシンガンを使って少しずつ敵戦力を削っていけば、充分に勝機はある。

 シオはスカディのあとに従って走った。射撃している特殊部隊員たちが見えた処で、スカディが足を止める。

『射撃準備』

 無線で、スカディが指示を出す。シオはコンテナの陰に身を隠すと、85式短機関銃の安全装置兼用セレクターを連射にセットした。

『雛菊、そっちはいい?』

『位置に着いた。ええで』

 スカディの問いかけに、雛菊が応答する。

『シオ。あなたは左から。わたくしは右から撃ち倒します』

『了解なのであります!』

 シオは85式短機関銃を持ち上げると、一番左にいる特殊部隊員の背中に照準を合わせた。

『では、打ち合わせ通りに頼みます、亞唯』

 スカディが、送信する。



「行くぜ!」

 亞唯は56式自動歩槍でセミオート射撃を開始した。十秒かけて、一弾倉を撃ち尽くす。射弾はすべて外れたが、亞唯は気にしなかった。目的は、銃声を発することなのだ。



 85式微声衝鋒槍の消音銃としての性能は、実はあまり良くない。確かに通常のサブマシンガンより銃声は小さいが、それでも銃の発射音だと明確に判断できる音が発生する。

 だがその音も、付近で銃声がしていれば完全にかき消されてしまう。

 シオは短いフルオート射撃を三回繰り返し、三名の特殊部隊員を倒した。スカディも同様に、三名を射殺する。最後の一人がコンテナの陰に飛び込もうとしたが、シオとスカディの射弾がほぼ同時に命中して絶命した。ちなみに、普通のドライコンテナに使われているスチールパネルの厚みは二ミリ程度なので、至近距離であれば7.62×25mmなら楽々貫通できる。だがもちろん、コンテナ内部には貨物がぎっしりと詰まっていることが大半なので、遮蔽物に使うことは可能だ。

 シオはほぼ空になった弾倉を捨て、新しいものを装着した。スカディと一緒に動かずに、辺りの気配を探る。

「どうやら、気付かれなかったようね」

 スカディが、小声で言った。

 再び、銃声が聞こえ出した。亞唯が撃ち出したのだ。その音に紛れて、スカディとシオは移動を開始した。



 中国陸軍特殊部隊員たちが、後ろから襲われていることに気付いた時には、すでにその過半数が倒れていた。

 船尾方向よりも船首方向の敵が少ないと判断した特殊部隊員たちが、亞唯に対して制圧射撃を行いながら、船首方向へ一時撤退しようとする。

「そろそろ、わたくしの出番ですねぇ~」

 ベルが、コンテナの陰から顔を半分だけ突き出して、状況をうかがう。

「では、いきますですぅ~」

 どかん。

 光ファイバーケーブルからの信号を受けて、ベルが舷側付近に仕掛けたC4が爆発した。三人の特殊部隊員と一人の保安要員が悲鳴をあげて、舷側から海に放り出される。混乱した特殊部隊に亞唯がすかさず連射を叩き込み、二人が倒れた。



「馬鹿な!」

 部下と共に95式自動歩槍を撃ちまくりながら、排(小隊)の指揮を執る中尉は喚いた。

 北京からの通信では、敵は女性工作員一人という話だった。それが、どう見ても複数名の、それも明らかに戦闘慣れした連中に襲われているのだ。

 すでに、統制は失われている。生き残った部下は分断され、各個撃破の危機に晒されている状態だ。火力を増強しようと、汎用機関銃が入っているコンテナに入ろうとした部下がいたが、そこには罠が仕掛けられていた。少量の爆薬が炸裂し、その部下を含む三名が死傷してしまう。

 ごそり、という音に中尉は振り向いた。反射的に、音源に銃口を向ける。

 小さなロボットがいた。まるで大きなゴキブリのようなそいつが、腕に挟んでいる物を見て、中尉は目を剥いた。82‐2式手榴弾だ。

 ロボットが、手榴弾を放り出すと素早い動きでコンテナのあいだに逃げ込んだ。中尉は慌てて伏せた。

 どん。

 62グラムのTNTが起爆し、数百の弾片を周囲に撒き散らした。いち早く伏せた中尉は生き延びたが、反応が遅れた三人の部下は即死した。


 第十二話をお届けします。

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