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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第十八話

「行きますよ、ベルちゃん、シンクちゃん!」

 シオは、アクセルを踏み込んだ。

 がくんと一回揺れてから、トラックがゆるゆると走り出す。

「ギアチェンジ」

 上から、シンクエンタの声が降ってくる。

「了解なのですぅ~」

 ベルがすかさずクラッチを踏み込み、ギアを入れ替えた。

 三体がかりでの運転だった。ダッシュボードの下に潜り込んだシオが、足でアクセルとブレーキを操作する。その隣で、ベルがクラッチとシフト、それにサイドブレーキを担当する。シンクエンタは、運転席の上に置いた牛肉缶詰の箱に腰掛けて、ハンドルを操作する。

 運転席の右側には、夏萌とスカディが座っていた。荷台には、お兄さんと二組の面々、それに小麦粉の袋から作った紐で腕を縛られた捕虜が乗っている。

「なかなか順調な走りっぷりね。三人とも、息が合ってるわ」

 スカディが、褒める。

 トラックは、時速三十キロほどのゆっくりとした速度で北を目指した。悪路のうえ夜間なので、それ以上速度を出したら目立ってしまう。ちなみに、ヘッドライトは点灯してある。光量増幅装置を使えば星明り程度でも運転に支障はないが、無灯火で走れば確実に怪しまれてしまうからだ。

 ミアススコエの村は、ひっそりと静まり返っていた。トラックは、難なくそこを通り抜けた。しばらくして舗装された幹線道路に入ったが、衛星情報によればその先に常設の検問所があったので、すぐに脇道に逸れて進む。

 事前に得ていた衛星情報に基いて慎重に迂回路を選択したことが功を奏したのか、たいしたトラブルに見舞われることなく、トラックは二時間五十分後にオクチャブリスキーの東に到達した。もちろんこのトラックの本来の目的地である砲兵部隊駐屯地は無視し、北東へ伸びる砂利道へと乗り入れる。

「あと三十キロ程度。このまま、幸運が続けばいいのだけれど」

 スカディが、つぶやくように言う。

「いけません、スカディちゃん。それは不運を呼び込むフラグです!」

 ダッシュボードの下から、シオは抗議した。

「そうかしら?」

「少なくとも、映画ではそうなのです!」

 トラックは進み続けた。一度軍の所属らしい小型トラックとすれ違ったが、何事もなく済んだ。イヴァノフスクの町は思慮深く迂回し、なおも北東を目指す。

 トラブルが生じたのは、マップによればオルドゥインスコエの村を通り過ぎたあたりだった。

「前方に明かりと車。検問かな?」

 前を見張っていた夏萌が、報告した。

「シオ、減速」

 すかさず、シンクエンタが指示を出す。シオは、アクセルを緩めた。

「どうするの?」

 夏萌が、スカディを見る。

「たぶん、衛星写真が撮られたあとに設けられた検問ね。これは、ごまかしようがないわね」

 小型のロボットたちが運転する軍の食料輸送トラック。誰が見ても、怪しさ満点である。

「強行突破しましょう。亞唯、聞こえるかしら?」

 スカディが、低出力で無線を使い、亞唯と打ち合わせを始めた。

 近付くにつれ、検問の様子が詳しく見えてくる。軍ではなく、保安局の臨時の検問のようだった。二台のUAZ‐469四輪駆動車が路肩に停車し、路上に簡易な木の柵がひとつ、置かれている。

「作戦が決まったわ。車両の数から推定すれば、敵は多くても十名でしょう。シンクエンタ、向こうの合図に従って停車して。夏萌、あなたはわたくしと一緒に来て。右のドアから飛び出します。シオ、あなたはブレーキをベルに任せて、左側に来る敵を制圧して。二組とお兄さんは、停車する前に飛び降りて、闇に紛れて敵の不意を衝く予定。一組の優先任務は時間を稼ぎ、二組とお兄さんが展開する余裕を与えること。次に二組を援護しつつ、トラックに接近した敵を制圧すること。発砲はできうる限り控えて。いいわね」

 早口で、スカディが説明した。

「では、ブレーキをお願いします、ベルちゃん」

「了解ですぅ~」

 シオはダッシュボードの陰からそっと頭を突き出した。肩にAKを掛けた保安局員が、手にしたライトを振って停車を命じている。他に人影は、路肩に立っている二人しか見えない。だが、UAZ‐469が二台ある以上、もっといるはずだ。

 と、UAZ‐469のうちの一台のヘッドライトが点灯した。あたりが、急に明るくなる。スカディだろうか、舌打ちの音がシオの耳に届いた。いや、AI‐10に舌はないから、正確に言えば舌打ちの音に似せた合成音声だが。

 減速するトラックが、揺れた。お兄さんが、飛び降りた衝撃だろう。

「シオ。窓をあけて」

「はいなのであります」

 シオはドアのハンドルをくるくると回して、汚れて埃の縞がついているサイドウィンドウを下ろした。閉めたままでは、怪しまれてしまう。

 シンクエンタとベルが、ゆるゆるとトラックを止めた。ライトを振っていた局員が、それでトラックのフロント下部を照らす。軍の車両登録番号を調べようというのだろうか。

 路肩に立っていた二人が、近づいて来た。二人とも、所持している銃は中国製の85式短機関銃のようだ。ひとりはスリングで肩に掛けたままだが、もう一人は腕に持っている。銃口はあさっての方を向いていたが、指はトリガーガードに添えられていた。

 スリングで短機関銃を吊った局員が、小さなハンドライトを点けた。運転台のステップに足を掛け、窓から中を覗き込む。

「ドーブルイ ヴィーェ……」

 保安局員の目が、点になる。

「今ですわ!」

 スカディが、叫んで右側のドアを開いた。

 すかさずシオも左側のドアを開けた。ステップに立っていた保安局員が、悲鳴をあげて地面に叩きつけられる。

 もう一人の保安局員が、手にしていた85式短機関銃を構えた。だが、その指が引き金を引き絞る前に、運転台から飛び出したシオの身体は保安局員に激突していた。

 突き飛ばされた保安局員の手から、短機関銃がこぼれる。

 勢い余って地面に転がったシオが身を起こした時には、すでに二人の保安局員はベルとシンクエンタに取り押さえられていた。フロント下部を調べていた局員も、スカディと夏萌に制圧されている。

 前方で、悲鳴が上がった。

 お兄さんの巨体にグレネードランチャーの砲口を突きつけられた局員が発したものだった。力の抜けたその手から、めーがAKを奪い取る。

 亞唯が、颯爽と姿を見せた。その後ろには、両手を挙げた二人の局員。さらに後ろに、ライチとエリアーヌ、そして雛菊が続いている。

「三人しかいなかったよ」

 意気揚々と、亞唯が報告した。

「合計六人。思ったより、少なかったわね。では速やかにここを片付けて、前進しましょう」

 スカディが、指示を出す。

 十体は六人の保安局員を縄と手錠……UAZ‐469の車内にたくさん備え付けてあった……でがんじがらめにすると、二台のUAZ‐469に押し込めて、近くの森の中へと隠した。トラック運転手も、ついでに押し込める。

「とんだ道草を喰ったわ。出かけましょう」

 スカディの指示で、一同は再びトラックに乗り込んだ。

 シオはダッシュボードの下に潜り込んだ。シンクエンタの指示を聞きながら、アクセルとブレーキを操作する。隣でクラッチとシフトを操るのは、もちろんベルの仕事だ。

「そろそろ、ヴォルホフ基地襲撃に関する打ち合わせが必要だわね」

 五分ほど走ったところで、スカディが言い出した。

「そうですねぇ~。AM‐7がお兄さんだけでは、正面から突破するのは無謀かもしれませんっ~」

 ベルが、同意する。

「何か工夫が必要なのですね!」

 アクセルを操作しながら、シオは知恵を絞った。スカディが亞唯に連絡し、二組の面々も頭をひねり始める。

 AI‐10は、思考における応用力も優れている。先ほどの検問所での一件でも、スカディと亞唯は自分たちの戦力と相手の戦力および配置、ROM内の教範から引っ張り出した一般的な検問の手順を勘案し、優れた戦術を選択した。

 だが、所詮AIはAIである。新しいアイデアというものは、論理的思考だけではなかなか生み出せないものだ。ヴォルホフ基地の守備隊を出し抜けるような奇抜かつ独創的なアイデアは、誰もひねり出すことはできなかった。

「シンクエンタ。シオ。トラックを止めて。ゆっくりとね」

 不意に、亞唯からの通信を受けたスカディがそう指示した。

「どうしたのですかぁ~」

 ベルが、訊く。スカディが、明るい声で答えた。

「お兄さんに作戦があるそうよ。会議しましょう」

 シンクエンタが、トラックを路肩に寄せた。シオは、ブレーキを奥まで押し込んだ。停車したところで、ベルがハンドブレーキを掛ける。

 五体は運転台を降りた。一応周囲を警戒してから、トラックの後部にまわる。

 二組の五体は、すでに荷台を降りていた。AM‐7は荷台に残ったままだ。

「どのような作戦ですの、お兄さん」

 スカディが、荷台のAM‐7を見上げる。

「あたしから説明するよ。二手に分かれる作戦だって」

 亞唯が、進み出た。

「ヴォルホフ基地で一番警戒が厳重なのが、正面の物資搬入口だ。そこへ至る道路も、重点的に警備されている。お兄さんと組のひとつは、そこへトラックで突っ込み、敵の注意を引き付ける。もうひと組は、途中でトラックから飛び降りて、別のTEL(輸送起立発射機)出入り口から侵入する。そういう段取りだ」

「他にアイデアのある方は?」

 スカディが、居並ぶ九体の仲間を見渡した。

 発言は、なかった。

「では、お兄さんの案で行きましょう。で、どちらの組がお兄さんと一緒になりましょうか?」

「あんたらでいいだろう。トラックを動かすのは、慣れてるだろうし」

 亞唯が、言う。

「わかりましたわ。一組が、お兄さんと共にトラックで突入します。二組が降りるタイミングはどうするのかしら?」

「それは、お兄さんの指示次第だね」

「ではみなさん、突入準備をいたしましょう。予備バッテリーは、ここに置いて行きましょう」

 スカディに言われ、みんなは背中の予備バッテリーを外した。まだ三分の一ほど電力は残っているが、ここからは身軽な方がいい。もちろん体内バッテリーは、予備バッテリーから充電されてフル状態だ。お兄さんの予備バッテリーも、二組の面々が外してやる。

「これ、持っていってくれ」

 亞唯が、持参の手榴弾袋の中からM18発煙手榴弾を取り出し、シオとベルに一発ずつ渡した。

「役に立つのでしょうかぁ~」

 ベルが、首を傾げる。

「空では照明手榴弾が役に立ったじゃない。備えあれば憂いなしだよ。持って行って」

「餞別というやつですね! ありがたくもらっておきましょう、ベルちゃん!」

 シオはスプレー缶のような円筒形のM18をベルトにぶら下げた。



 進んでいた砂利道が、立派な舗装道路に合流した。

「ベロホルムスクからの道ね。このまま行くわよ」

 スカディが、指示する。

 シオはアクセルを緩めた。路面状況が良くなったので、踏み込まなくても十分なスピードが出る。

 標高が高くなったので、周囲の木々はベニマツやエゾマツなどの針葉樹に変わっていた。シオの外部温度計も、先ほどよりもやや低めの温度を記録している。

「ヴォルホフ基地の岩山が見える」

 夏萌が、指差す。

 左前方に、低い岩山が姿を現していた。

「そろそろ最初の検問ね。強行突破するわよ」

 緊張を帯びた声で、スカディが告げた。

 ヴォルホフ基地の正面玄関とも言える物資搬入口に繋がる道路は、ほぼ真西から真東へと、ややうねりながら伸びている。最初の検問所は、基地から直線距離で五キロメートルほどの箇所に設けられていた。第二の検問所は、二キロ半。最終検問所は、七百メートルほどの地点だ。

 舗装路が、ゆるく右にカーブする。その先に、第一の検問所があった。道路右側にコンクリート製の警備小屋がひとつ。道路両脇には、土嚢を積み上げた銃座があり、そこには機関銃が据えつけてある。警備小屋の向こう側には、GAZ‐66トラックが停まっていた。

 検問所前後の路肩には、ナトリウムランプらしいオレンジ色がかった光を放っている照明灯が何本も立っており、昼間のように明るく照らし出されていた。路上には、金属製らしい柵が置かれていたが、いかにも脆そうだ。

「油断させて突破……と行きたいところだけど、無理みたいね」

 スカディが、苦々しげに言った。

 この時刻に通過する予定の車両など、なかったのであろう。接近するトラックに気付いて、警備小屋からばたばたと兵士たちが飛び出してきつつあった。警備小屋の屋根に取り付けられていたサーチライトも点灯し、臨時ロボット302分隊が乗っているトラックを白い光で照らし出す。シオは慌てて眼の光量増幅装置の感度を落とした。

「覚悟を決めましょう。シオ、踏み込んで」

 スカディが命ずる。シオは、アクセルを床まで踏み込んだ。


 いきなり、ZIL‐151トラックの荷台上面の幌が、割れた。

 幌を突き破るようにぬっと現れたAM‐7が、射撃を開始する。ボディ右側の96式40ミリ自動擲弾銃から、40ミリ対人対装甲擲弾がぼんぼんぼんという大きい割にはあまり迫力のない発射音と共に、何発も吐き出された。狙われた警備小屋と右側の機銃座が、爆煙に包まれる。光芒を放っていたサーチライトが、あっさりと消えた。

 同時にボディ前面の74式車載機関銃が吠え、左側の機銃座に射弾を集中して送り込んだ。赤い曳光弾が、糸を引くように伸びてゆく。銃座に走りこんだ兵士たちが、慌てて土嚢の陰に身を隠す。

 ZIL‐151は疾走を続けた。AM‐7の機関銃がなおも銃弾を吐き出し、AKM突撃銃で反撃しようとした兵士たちを片端から撃ち倒した。40ミリ擲弾が飛び込んだGAZ‐66トラックが、激しく炎上を始める。陰に隠れていた兵士は逃げ出したが、たちまちのうちに着弾した対人対装甲擲弾の破片になぎ倒された。

 夏萌が助手席側の窓から右腕を突き出し、AM‐7が撃ち漏らした兵士を射殺する。

 ZIL‐151のフェンダーが、金属柵を弾き飛ばした。炎上する検問所を走り抜けつつ、荷台から亞唯が左側の機銃座に破片手榴弾を投げ込んだ。あがった兵士の悲鳴が、爆発音でかき消される。

 臨時ロボット302分隊は、ついにヴォルホフ基地守備隊と交戦を開始した。


第十八話をお届けします。

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