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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 08 インド洋武器密輸船捕捉せよ!
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第三話

「実は、すでに小型のロボットなら、コンテナ船に潜り込ませる手筈は整ってるの」

 メガンが言って、一枚の写真を取り出した。テーブルの上に置かれたそれを、AI‐10たちが覗き込む。

 濃いグレイに塗られた楕円体のボディと、その底面から横方向へ伸びている六本の脚部。前方に延びている腕は、おそらく脚部兼用となっているのだろう、途中で二股に分かれている。印象は、甲虫のそれであった。

「モス・ロボット・インダストリーズの新型だよ! 名称は、ROCHIだ」

 ジョーが、説明する。

「まさしくローチ(ゴキブリ)やな」

 雛菊が、笑った。

「ROCHIはReconnaissance and Observation Compacted Hiding Invaderの略称だよ!」

「日本語で言えば、偵察および観測用小型隠密潜入体、というところでしょうかぁ~」

 ベルが、ざっくりと意訳する。

「小型で機能は制限されているけれど、これはそれなりに優秀なロボットよ。コンテナ船内に事前に潜入させて、あなたたちのサポートを行わせる予定よ」

 メガンが、写真を回収する。

「では、作戦に関する具体的な情報を伝達するわね。目標となるコンテナ船の出港場所は上海。上海市内を貫流する黄浦江の河口付近に、上海海軍基地があるわ」

「日本のロボットであるお前らには、呉淞ウースンと言った方が判りやすいだろー」

 畑中二尉が、口を挟む。

「その南側、黄浦江を少し遡った処にあるコンテナターミナルの一部が、人民解放海軍によって現在封鎖されている。そこで、五隻のコンテナ船が積み込み作業を行っているわ。五隻とも、中国の国有企業、チャイナ・パシフィック・シッピング・グループ・カンパニー(中国太平洋運輸集団公司)、略称CPSCOに属しているわ。出港は、早くても明日の朝からと見込まれる。おそらく、こちらをかく乱するために半日程度の間隔を開けて港を出るでしょう。リストはこれよ」

 メガンが、一枚の紙を取り出した。


 金牛山 ジンニュウシャン 480TEU ジュリエット

 三月天 サンユエティエン 480TEU シエラ

 宝鶏  バオジー     420TEU ブラボー

 五星  ウーシン     400TEU ウィスキー

 太白  タイバイ     400TEU タンゴ


「……いずれも外洋コンテナ船としては小さいわね。まあ、いくら輸出大国中国といえども、アフリカ向けの貨物はそう多くは無いからね。経費の関係で、空のコンテナを運ぶわけにはいかないし」

「このTEUというのは、なんでありますか?」

 シオは紙を指差して訊いた。

「twenty-foot equivalent unitの略よ。その船に、二十フィートコンテナがいくつ積み込めるか、という意味ね。コンテナ船の積載量を表す指標と思ってくれていいわ。480TEUなら、四百八十個ね。四十フィートコンテナの場合、二十フィート二個分と換算されるから、二百四十個が積めることになる」

「二百四十個とは、大したものであります!」

 シオは感心した。メガンが、笑う。

「今は、10000TEUを超える船が何隻も運航されているわ。全長四百メートルのコンテナ船がいるくらいよ」

「四百メートル。原子力空母よりでかいな」

 亞唯が、感心したように言う。

「五隻とも、名前が覚えにくいのでそれぞれ頭文字を元にしたフォネティック・コードを付与したわ。これに、あなたがた一人ずつ潜入してもらいます」

「わたくし、ぜひウィスキーに潜入したいのですぅ~」

 ベルが、さっそく志願した。

「スカぴょんはジュリエット、ってイメージやな。うちはタンゴがええで」

 雛菊が、言う。

「じゃ、シエラはもらった」

 亞唯が、すかさず言った。

「では、あたいがブラボーなのでありますね!」

 シオは喜んだ。なんとなく、縁起がいいような気がする。

「……なんか、あっさり決まったね」

 意外そうに、ジョーが言う。

「続けるわよ。乗員の数ははっきりとは判明していないけれど、五隻とも二十名以下だと思われるわ。それにおそらく、船員に偽装した人民解放海軍か陸軍の保安要員が数名加わるでしょう。その程度の人数を相手にするのなら、隠れていることは難しく無いはずよ。小さいとはいえ、全長百メートル以上あるわけだから」

「具体的な潜入方法は?」

 スカディが、訊く。

「空中からの潜入よ。南シナ海南部で、夜間にタイ王国内からUSAFの輸送機を飛ばすわ。そこから、特殊なラムエアパラシュートで降下してもらいます」

「パラシュートですかぁ~。難しそうですねぇ~」

 ベルが、顔をしかめる。

「ラムエアパラシュートで、夜間に航行中の船にこっそり降りるなんて、ジェームス・ボ〇ドでなきゃ無理だよ」

 亞唯が、笑う。

「ル〇ン三世なら、華麗に成功させるのです!」

 シオはそう主張した。

「ジャッキー・チ〇ンでもいけそうやな。無事降りて安心したところで風に煽られて、海に落ちそうになって船縁でじたばたするんやね」

 雛菊が、嬉しそうに言う。

「目に浮かぶようですわね。そのあと、脛を何かに盛大にぶつけて、無音で甲板上をのたうち回って痛がるまでがお約束ね」

 スカディが、微笑む。

「大丈夫。あなたたちでもできるわ。モーターパラグライダーのものに似た補助推進装置がついているし、レーザー誘導方式の自動操縦装置もあるから。上空から船上でROCHIが指示した位置にレーザービームを当て続ければ、自動操縦装置がその地点に導いてくれるわ」

「レーザー誘導爆弾みたいなもんだな。これなら、なんとかなりそうだ」

 亞唯が、言う。

「潜入に成功したら、コンテナの封印を解いて中を検める。ジョー?」

 メガンが、ジョーに振る。ジョーが、テーブルの下からごそごそと何かを取り出した。長さ四センチほどの円筒と、長さ十センチくらいの太いボルトのようなものだ。

「これが、コンテナの封印に使われるボルトシールというものだよ! スチールを芯にして、強化プラスチックで覆ってあるものが多いね! このボルトをコンテナのロック部分に差し込んで、円筒部分と結合すると、外れなくなるんだ! これで、運搬中にコンテナが開けられないようにするんだよ!」

「配送先に着いて正規に開ける時はどうするのですかぁ~?」

 ベルが、訊く。

「ボルト部分を切るんだ! 大きなボルトカッターで切ったり、グラインダーで切ったりするんだよ!」

「あたいなら、簡単に切れそうですね!」

 シオは自慢げに言った。

「電動工具は不可よ。ボルトカッターを支給するから、持って行ってちょうだい。内部の木箱や金属容器を開封する必要がある場合に備えて、その他の工具類も支給します。コンテナ内を調べたあとは、接着剤でボルトシールをくっつけて、ごまかしておいて。船上でわざわざチェックはしないはずだから、単なる見回り程度なら気付かれないでしょう。コンテナの中で武器を見つけたら、もちろん詳細に記録してね」

「通信は?」

 亞唯が、訊く。

「定期的にドローンを飛ばすわ。あらかじめ時間は決めておくから、報告はその時に」

「他の装備はどうなのですか? 武器の携行は?」

 スカディが、訊いた。

「武器使用の時点で任務失敗になるから、持って行っても意味がないけど、ある程度の自衛用武器ならば構わないわ」

「爆薬は自衛用武器に入りますかぁ~?」

 『バナナはおやつに入りますか?』というノリで、ベルが訊く。

「好きにしなさい」

 メガンが、苦笑する。

「撤収はどうするんや?」

 今度は雛菊が訊いた。

「臨検を受けるコンテナ船に乗り込んだ者は、そこで合衆国艦艇に移乗して。その他の者は、キファリア到着後に密かに脱出して。現地の工作員が、アメリカ大使館に連れて行ってくれるわ。出国は、たぶんCIAが手配した貨物船に乗ってケニアあたりに脱出、という形になるでしょうね」

 ちょっと懸念の色を見せながら、メガンが言う。

「先生、質問があるのであります!」

 シオは挙手した。

「なに?」

「あたいたちは水に浮かないのであります! 万が一の場合、船の上では逃げ場がないのです!」

 シオは真剣な表情で言った。前回の任務で『泳ぐ』はめになったが、沈んだ船が漁船だったので浮材が多く、沈まずに済んだ。だが、コンテナ船から追われて海に飛び込もうとする場合、浮き輪代わりの物を探している余裕はないだろう。……インド洋の海底目指してまっしぐら、ということになりかねない。

「ふふふ。やっとあたしの出番が来たぞー」

 畑中二尉が、嬉しそうにパイプ椅子から立ち上がった。

「これを見ろー」

 畑中二尉が、一本の黒いベルトのような物を取り出す。通常のベルトよりも厚みがあり、小さなシリンダーのようなものが付随している。

「前回の任務でお前らが溺れそうになったんで、西脇二佐が作ってくれた『AI‐10専用救命浮き輪』だー。ベルト代わりに腰に巻いておけば、約二秒で作動し、圧搾空気が強化ポリエチレンフィルムを膨らませて、浮き輪になってくれるー。七十キログラムまで浮かせられるから、装備ごとでも大丈夫だー。今回は、これを全員に支給するぞー」

「それはありがたいですわね。ですが、もう少しデザインはどうにかならなかったものでしょうか」

 スカディが、残念そうに言う。一応体裁はベルトだが、見た目はどちらかと言えばゴムのチューブに近い。

「形は無理だが、色くらいは西脇二佐に頼めば可愛いやつに変えてくれるだろー」

 専用救命浮き輪を左右に振りながら、畑中二尉が答える。



 AI‐10たちと細かい打ち合わせを終えたメガンとジョーが退き、代わりに畑中二尉と三鬼士長が前に出る。例によって、三鬼士長はノートパソコン持参だ。

「よーし、おまえら。今回の任務、バックアップが得られにくいうえに単独ミッションだからなー。慎重にやれー。まず、コンテナ船の予想航路から説明するぞー」

 三鬼士長が、ノートパソコンにユーラシア南部と東アフリカが表示された地図を出す。

「これが、予想される航路だー」

 畑中二尉が、手を伸ばしてエンターキーを叩いた。上海から赤い線が伸び、東シナ海の中国沿岸を南下してゆく。台湾海峡を抜け、東シナ海に入った線は、インドシナ半島の東側を通り、するすると進んでいったところで……止まった。

「このあたりで、お前らが乗り込む予定だー。アメリカ空軍が、タイのスラートターニー空軍基地から、C‐130輸送機を飛ばしてくれるー。パラシュート降下するのだー」

 畑中二尉の言葉と同時に、タイ南部のマレー半島東岸、クラ地峡(マレー半島の狭隘部)の南の一点が青く灯った。そこがスラートターニー基地なのだろう。

「ちなみに、この基地にはタイ王国空軍の最新鋭機、サーブ39グリペンが配備されているぞー。今回の任務には、関係ないがなー」

 畑中二尉がそう言い終わるとほぼ同時に、線が再び動き始めた。やがてシンガポールに達し、そこから北西へ向きを変え、マラッカ海峡を通過する。スマトラ島の北端を掠めた線は、インド洋に入ると西南西に針路を取った。そのまま、インド洋を押し渡ってゆく。

「アメリカの艦隊は、ソマリア沖で待機しているー。艦隊と言っても、ささやかなものだがなー。中国側に怪しまれないように、いまのところ海賊対策の警備任務に就いていると偽装しているぞー。タイミングを見て、南下。適当なところで、コンテナ船をインターセプト。臨検し、武器密輸の証拠を押収するー」

 赤い線は、キファリアの沖合で停止した。そこに、赤いバツ印が生ずる。

「難しい任務じゃなさそうだな。主役はあくまでアメリカさんだし」

 ディスプレイを注視しながら、亞唯が言う。

「どうでしょうか。今までにこなしてきた任務の内容からすると、思わぬ方向へ事態が急転してしまう可能性は高いと思いますわ」

 スカディが、考え込みながら言う。

「せやなぁ。たいてい悪い方へと転がって、苦労するはめになるんやな」

 雛菊が、そう応じた。

「臨機応変に対応できるところが、お前らの強みだからな~。プログラム通りにしか動けないロボットじゃ、難しい任務だー。ま、それなりに覚悟していけー。欲しい装備があれば、今のうちにリストを作っておけー。明日までには、準備しておくー」

 畑中二尉にそう言われ、AI‐10たちは装備品リスト作りに取り掛かった。AI‐10専用銃は身元の特定につながる、という理由で携行を禁じられたので、シオはとりあえず自衛用の自動拳銃を所望した。

 五体全員が申し出た品目を、三鬼士長がメモ用紙に記入してゆく。皆はシオと同様、自衛用に拳銃を要求していたが、火力重視の亞唯は短機関銃を注文していた。ベルは例によって、大量のC4プラスチック爆薬を欲しがる。

「よーし。それじゃ資料を配るぞー。各コンテナ船の船内見取り図、外形写真、北京語ROM、チャート類、おまけにキファリアの公用語でもあるスワヒリ語ROMも入れといてやったぞー。役に立つかどうかはわからんがー」

 畑中二尉が言いながら、ROMカセットを配ってくれる。

「お前らの当面の『敵』となるコンテナ船船員について、説明しとくぞー。全員がおそらく中国籍だと思われるー。人数は二十名以下だろー。船長と一等から三等までの航海士。甲板長。甲板員が三人前後。機関長と一等から三等までの機関士、操機手、機関員が一人か二人。司厨長、調理員、助手。それに事務長といったところだなー。あと、メガンが言っていたが人民解放陸軍か海軍の兵士が、船員に偽装して数名、保安要員として乗り組んでいるだろー。装備は軽火器程度だろうが、こっちは要注意だー。見つかったら、問答無用で撃ってくる可能性が高いー」

「そのような事態になったら、どうしたらよいのですかぁ~?」

 ベルが、首を傾げつつ訊く。

「無理せずに逃げろー。海に飛び込んでしまえー。西脇二佐特製の浮き輪で浮いていられるから、節電に努めつつ定期的に電波発信しろー。CIAがインド海軍あたりに働きかけて、拾ってくれるはずだー。無理する必要は、ないぞー」

 そう言った畑中二尉が、なにかを思いついたようにくすくすと笑いだした。

「もし本命の兵器密輸船だったら、弾薬が詰まったコンテナの中に逃げ込むのありだなー。大量の銃弾と爆薬、ひょっとするとミサイル弾頭なんて物まで積み込んでいるはずだからなー。下手に撃てば、誘爆して轟沈だー。CIAの推定では総額一億ドル近い兵器類が積み込まれているらしいからなー。保安要員も怖くて引き金が引けないだろー」

「それはいい手なのです! 覚えておくのです!」

 シオは大喜びで宣言した。


 第三話をお届けします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジュリエット、シエラ、ブラボー、ウイスキー、タンゴとついたコードネームですけれど、日本語だとそのまま読めちゃうので山・天・鶏・星・白と略したくなっちゃいます。
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