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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 07 南海島国民主選挙妨害防止せよ!
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第十七話

 シールドルームを出たマラミス大佐は、デスクのパソコンを起動させ、データベースからコンスタンサ・トロエに関するファイルを呼び出した。メイアルーア国内で活動しているジャーナリストに関しては、自国民外国人を問わず、常に最新の情報を集めているので、コンスタンサに関するデータは詳細を極めていた。

 一通り読み終えたマラミスは、インターネットに接続すると、AI‐10について調べ始めた。手始めにアサカ電子のホームページを開き、言語を英語に設定してから製品案内に進む。

 ……しかし、何度見ても間の抜けた外見だな。

 AI‐10のビジュアルは、日本の選挙監視団と一緒に活動しているところを見たことがあるので、すでに知っている。その時も、なぜあのようなふざけた見た目にしたのかと首を傾げたが、この製品案内に添えられている何枚かの画像も、まったく購買意欲をそそらないものであった。……日本人の感性というのは、どうもよくわからない。

 その低性能風の姿にも関わらず、記されていたAI‐10のスペックはかなり高いものであった。おそらく、他の日本の工業製品と同様、耐久性にも優れているだろう。これを始末するのは、トロエ記者の殺害より難しそうだ。

 マラミス大佐は、パソコンを画像検索に切り替えた。AI‐10と打ち込み、エンターキーを押す。

 表示された画像の数々を見て、マラミス大佐は文字通り仰け反った。AI‐10が、様々な衣装を着せられた画像が、何十枚も表示されたのだ。カジュアルな服装からフォーマルなドレス、キモノ、水着、メイド服、女子学生風、サッカーのユニフォーム……。迷彩戦闘服に突撃銃を持たせたものまである。

 ……外見の美しいロボットなら、着せ替え人形代わりにするのは理解できるが、

こんな色気のないロボットに衣装を着せて喜ぶ奴がいるのか……。

 マラミス大佐は首を振った。やはり日本人の感性というのは、どうもよくわからない。

 気を取り直したマラミス大佐は、内線電話を取り上げた。

「ノポリ少佐。来てくれ」

 短く命じて、受話器を戻す。

 ノポリ少佐はすぐにやってきた。中肉中背で、どこにでもいそうな平凡な顔立ちのアザリ族の男だが、マラミス大佐お気に入りの部下の一人である。特殊任務も得意であり、ジャマル・アドナンとマテウス・タモエを殺害し、極秘書類のコピーをすべて回収したのも、彼と彼の腹心の部下による仕事だった。

「ひとつ仕事を頼みたい」

 マラミス大佐は、コンスタンサ・トロエ殺害をノポリ少佐に命じた。AI‐10のことをはじめ、付随する事項についても詳細に説明する。

「ロボットが難関ですね。こいつらがいなければ、今夜にでも自宅を襲って殺害可能ですが」

 マラミス大佐がディスプレイ上に表示した市街地図で目標の自宅住所を確かめながら、ノポリ少佐が言う。

「どうしたものかな。火災でも起こすか」

 思案顔で、マラミス大佐は言った。

「いえ、いい手があります。海を使いましょう」

 にやりと笑って、ノポリ少佐が提案した。

「海か。確かに、海に沈めてしまえば完璧だが……どうやっておびき出す?」

「トロエが選挙取材をしているのならば、ネーヴェ島におびき出すというのはどうでしょう。水上部隊に信頼できる友人がいます。そいつに、手伝ってもらいましょう。……多少、紙幣の匂いを嗅がせてやる必要がありますが。閣下のご友人ならば、トロエをおびき寄せる手もお持ちでしょう」

 ノポリ少佐には、『陰謀』について詳しい話はしていない。だが、優秀な部下らしく、『マチャン』の存在に関してはすでに気付いていた。そしてもちろん、そのことについていろいろ詮索し、上官の不評を買うような愚かな男ではない。

「なるほど。よろしい、その手で行こう。すぐに手配してくれ」



 シオとベルは暇を持て余していた。

 二時間ほど前に、コンスタンサを含む一行はハリアン・メイアルーア本社まで戻ってきた。さすがに五体のロボットをぞろぞろと引き連れて編集部に乗り込むわけにはいかないので、スカディだけが代表としてコンスタンサに密着し、残りの四体は手分けして本社ビルの出入り口で警戒にあたる、という手筈となった。

 そのようなわけで、ベルと共に裏口側に突っ立っているシオは、退屈していた。夕暮れ時の小さな駐車場はまったく動きがなく、裏口から出入りする人もほとんどいない。正規の警備員……AI‐10については、コンスタンサが身分の保証をしてくれた……も、暇そうにあくびを繰り返すばかりだ。

『スカディから全員へ。セニョリータ・トロエが裏口へ向かうわ。亞唯、雛菊は合流して。シオ、ベル。そちら異常はないかしら?』

 平穏を破るかのように、スカディから無線が入った。

『こちら亞唯。すぐに雛菊と一緒に移動する』

 すかさず、亞唯が返信する。

『こちらシオ。裏口、駐車場、フォーチュナー、いずれも異常無しなのであります!』

 シオは念のため視線をあちこちに走らせてから、そう報告した。

 ほどなく、亞唯と雛菊が裏通りに面した駐車場出入り口から現れた。一階までエレベーターで降りてきたコンスタンサとスカディも、合流する。

「全員集まったわね。では、セニョリータ・トロエ。どうぞ」

 駐車してあるフォーチュナーの脇まで皆を導いたスカディが、コンスタンサに振る。

「みなさん、明日の野党三党候補者の予定が、大幅に変更になりましたぁ」

 愛用の手帳にちらっと視線を走らせながら、コンスタンサが切り出した。

「三候補とも、終盤戦の追い込みでサン・ジュアン市内を回る予定だったのですが、急遽朝からネーヴェ島に渡り、そこで遊説を行うそうですぅ。一応、ネーヴェ独立党支持者を切り崩し、支持率を上げるためという説明がなされているのですが、いまごろのこのこ出掛けて行っても効果は薄いですし、選挙終盤の貴重な時間をネーヴェ島くんだりで浪費するのはおかしいですぅ」

「ふん。となると、これは罠だな」

 亞唯が、断言した。

「『うっかり喋っちゃった』作戦成功やな」

 雛菊が、喜ぶ。

「ネーヴェ島には陸軍の駐屯は無し。水上部隊の分遣隊はいるけれど、海難救助のための小艇のみ。国家憲兵隊は支局と若干の人員を置いているだけ。警察局も全島を管轄とする警察署があるだけ。……なにか仕掛けるには、好都合な場所だわ」

 スカディが、すでに調べた事柄を並べ立てる。

「海上でなにか仕掛けてくる可能性もありますねぇ~」

 ベルが、指摘した。

「どうするのでありますか、リーダー?」

 シオは訊いた。陰謀を企んでいる連中は、三候補がネーヴェ島に向かえばコンスタンサも……そしてAHOの子たちも付いてくる、と予想してこの罠を仕掛けてきたのだろう。この挑戦に乗るのか、あるいはあえて無視するのか。

「乗るしかないだろ。もともと、そんな作戦だったんだから」

 亞唯が、言う。

「せやな。でも、相手は大統領候補三人の予定をあっさりと変えられるほどの影響力を持っている奴らや。きっと、えぐい手を使ってくるで」

 雛菊が、そう指摘する。スカディが、うなずいた。

「その通りね。現状では火力不足だわ。拳銃一丁では、とてもセニョリータ・トロエを守り切れませんわ」

「メガンさんに頼んで武器を調達してもらいましょうぅ~。ついでに、RDXも分けてもらうのですぅ~」

 嬉しそうに、ベルが提案する。

「そうね。セニョリータ・トロエ。ネーヴェ島への交通手段は?」

「フェリーが一日二回往復していますぅ。三候補も朝の便に乗って島に行き、午後の便で帰ってくる予定のようですぅ。その他の手段としては、自分の船で行くか船をチャーターするしかありませんですぅ」

 スカディの問いに、コンスタンサがてきぱきと説明する。

「さすがに火器を抱えたままではフェリーに載せてもらえんやろ」

 雛菊が、難しい顔をした。

「そうですわね。それに、丸腰でも乗船拒否されそうですし」

 スカディも、難しい顔になる。

 テロ対策として、ロボットは旅客用民間航空機への搭乗には制限が加えられている。通常乗客の手荷物検査などが行われない交通機関の場合、これら制限は一切ないが、大統領候補が三人も乗船し、しかも軍用爆薬を駆使するテロリスト……正体はCIAだったが……が活動中の状況では、AI‐10たちの乗船が差し止められる可能性は高い。

「友人に、お父さんが漁船のオーナー船長をやっている娘がいますぅ。頼めば、船を出してくれるとおもいますよぉ」

 コンスタンサが、文字通り助け舟を出してくれた。

「助かりますわ。チャーター料金は、CIAに出してもらいましょう」

 スカディが、安堵の表情を見せる。

 AI‐10たちとコンスタンサは、今後の行動を打ち合わせた。銃器に詳しい亞唯と爆発物に詳しいベルが、アルと連絡を取り、明日の行動内容を伝えて援護を依頼すると共に、武器を受け取り、今夜はそこで待機する。スカディ、シオ、雛菊はコンスタンサの護衛を続ける。明日朝港へ行き、そこで両者が合流。大統領候補たちが乗るフェリーに先んじてネーヴェ島に乗り込み、罠の早期発見に努める……。

「終わりましたぁ。明日朝八時半に出港してくれるそうですぅ」

 念のため盗聴されやすいスマホではなく、守衛室の電話を借りて友人宅に掛けたコンスタンサが、漁船チャーター完了を報告する。

「こっちもOKだ。人数分用意してくれるってさ」

 わざわざ正面出入り口ロビーまで行って公衆電話でアルと連絡を取った亞唯が、戻ってきて言う。

「では、参りましょうか。セニョリータ・トロエ。下着類はいつもどこで購入されますか?」

 いきなりスカディに妙な質問を投げ掛けられ、コンスタンサが困惑した表情で固まった。

「べ、別に贔屓のお店とかはありませんけれどぉ」

「ならば、ホテルのブティックで揃えても問題ありませんわね」

「ホテルのブティック?」

 コンスタンサの困惑の表情が、深まる。スカディが、ごく軽くため息をついた。

「セニョリータ・トロエ。まず間違いなく、ご自宅は見張られていますわ。事態が落ち着くまで、帰宅はできないものと心得てください。しばらくは、ホテル・クリスタルわたくしたちの部屋に泊まっていただきます。あそこなら、警察局が選挙監視団警護のために常駐していますから、まず安心ですわ」

「は、はあぁ」

 気圧されたように、コンスタンサがうなずいた。



 コンスタンサの運転するフォーチュナーでアルに指定された公園の近くまで送ってもらった亞唯とベルは、仲間たちと別れてSUVを降りた。歩きながら尾行のないことを確認し、公園に入る。

 打ち合わせた時間になり、亞唯とベルはなおも尾行や監視の有無に注意しながら、公園の東側出口へと向かった。路上駐車していた紺色のコンパクトカーのダッシュボードを覗き込む。そこには、今日の日付の『ディアリオ・メイアルーア』が五面を表にして折りたたんで置いてあった。……アルと打ち合わせた合図だ。

亞唯とベルは無施錠の後部ドアを開けると、車……ダイハツのアイラだ……に乗り込んだ。運転席は無人だったが、アルの部下はすぐに戻ってきた。……車の外で監視していたらしい。

 アルの部下の運転で、一行は以前にもお邪魔したCIAのセーフハウスに向かった。出迎えてくれたメガンが、さっそく奥の一室に案内してくれる。

「悪いわね。こんなものしか無くて」

 テーブルの上に載せられた銃器を披露しながら、メガンが謝る。

 見事なまでに旧式なアメリカ製銃器ばかりであった。30口径弾を使用するM1カービンが三丁。45ACPを使うM3A1短機関銃が三丁。同じ弾薬を使うM1911A1自動拳銃が二丁。……すべて第二次世界大戦で使用されたモデルである。

「カービンにグリースガンにガバメント。……初代ゴジラでも迎撃するつもりかい?」

 亞唯が半笑いでM3A1を取り上げて調べ始めた。コッキングハンドルを引いて、薬室を覗き込む。

「作戦前にマニラ支局が揃えてくれた物よ。フィリピン陸軍の保有品の中から、程度のいい物を都合してくれたわ。アメリカ製だけど、シリアルは削ってあるし、古いから足がつくことはないわ」

 メガンが、説明する。

「東南アジアならどこにでもありそうな銃ですから、CIAの関与はばれないでしょうねぇ~」

 M1カービンをひねくり回しながら、ベルが言った。

「とりあえず予備弾倉と弾薬はたっぷりあるから、好きなだけ持って行ってちょうだい。弾薬の方はアームスコーの新品だから、安心して」

 椅子の上にある木箱を示しながら、メガンが言う。

「わたくし、RDXも分けてもらいたいのですがぁ~」

 ベルが、メガンとアルを拝むようにして頼み込む。

「もちろんいいわよ。ミスター・ベー?」

 メガンが、開きっぱなしの扉の向こうに声を掛ける。

 すぐに、ミスター・ベーが布袋を持って現れた。どさりとテーブルの上に置き、中から紙箱を取り出す。

「RDX……というかコンポジションAだな。ひとつ一ポンド(約四百五十グラム)だ」

 紙箱の中から茶色い防水紙製の長さ二十センチほどの円筒を取り上げながら、ミスター・ベーが説明する。

「素晴らしいですぅ~。信管や導爆薬線もいただきたいのですがぁ~」

 にこにこと微笑みながら、ベルは頼んだ。

「ところで、バックアップ態勢の方は、どうなってるんだい?」

 チェックに満足がいったのか、M3A1をテーブルに戻しながら、亞唯が訊く。

「前に見せたIDを使って、大統領候補と一緒のフェリーでわたしとアルがネーヴェ島に渡るわ。新しく携帯の番号を教えておくから、何かあったらすぐに連絡をちょうだい。駆けつけるから」

「アメリカ軍の支援の方は、どうなったのですかぁ~」

 ミスター・ベーが持ってきてくれた信管を調べながら、ベルが訊く。

「ハワイからの艦艇は明日中に到着するわ。日本からのは、明後日。こっちはすごいわよ。LHD(強襲揚陸艦)ボノム・リシャール。臨時で海兵二個中隊を乗せているわ」

「……むしろ、CIAの準軍事要員十名の方がありがたいんだけどね」

 亞唯が苦笑する。海兵隊など呼んだら、合衆国の介入を世界中に喧伝するようなものである。

 亞唯とベルは、用意してもらった小部屋に貰った装備を持ち込んだ。亞唯が銃器を一丁ずつ調べ、ベルは爆薬を小分けし、布袋に詰める。そのあと、二体で弾倉に弾込めを行った。銃弾はぴかぴかの新品だったが、弾倉の方はかなり古いもので、押し上げスプリングが結構弱っていたので、M1用の十五発箱弾倉は一発減らして十四発、M3A1用の三十発箱弾倉は二発減らして二十八発を込めるだけにしておく。

 準備を終えた亞唯とベルは充電を開始した。


 第十七話をお届けします。

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