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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 07 南海島国民主選挙妨害防止せよ!
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第十五話

「CIAは中国軍内部に複数の情報源を持っているわ。その中の、人民解放海軍内の情報提供者から、十二枚の図面のコピーが密かに送られて来たのが発端よ」

 メガンが、語り始めた。

「図面は、海軍基地の設計図面の一部だった。潜水艦用対爆バースや、SAMサイトまである本格的なものよ。秘匿名称としての番号が付与されていたのと、『外国』という注記から、中国国外、おそらくは中国の友好国における新設基地の設計図面らしい、というのが分析した連中の判断だった。当然ながら、CIAの地理データベースを使って、場所探しが行われたけど、図面に記載されていた断片的な地形情報だけでは、特定には至らなかった。まあ、中国の対外関係とシーパワーを考慮すれば、ミャンマー、パキスタン、キファリア、タンザニアといった国家のどこか、というのが、最終報告書のまとめだったわ」

「だろうな。インド洋か西太平洋のどこか、というのが現実的だよな」

 亞唯が、控えめに口を挟む。

「その数か月後、今度は空軍内の情報提供者から、空軍基地の設計図面が送られてきた。それに、先ほどの海軍基地の設計図面と同じ秘匿名称番号が記されていたの。書式も共通していて、明らかに同一のプロジェクトによって作成された図面だった。海軍基地の方は、天然の湾に新設されるものだったけど、空軍基地の方は既存の空港を改修するプランだったわ。だからこちらの方は、場所の特定は容易だった。滑走路の長さと幅、方向。空港施設の位置と形状。その他から、この場所はメイアルーア国際空港だと比定できたわ。この情報をもとに、海軍基地の方も場所探しが行われ、すぐに特定できた。国際空港から十マイルと離れていない湾が、その場所だった」

「はぁ? 人民解放軍が、メイアルーアに軍事基地を建設しようと企んでいる、というのでありますか?」

 シオは首を傾げつつそう訊いた。

「あり得ないやろー。青鳩親米政権が、許可出すわけないでー」

 雛菊が、呆れたように言う。メガンが、うなずいた。

「そう。CIAもそう考えて、この図面はある種の実験的な試案か、仮想設計演習による無害なものだと判断したわ。よくあるでしょう。関係のない外国の地勢を使って図上演習をしたり、仮想国家を想定して地政学的な研究を行ったりすることが。この件はこれで終わり、図面のコピーは報告書と共にファイルされ、CIAのメインサーバーの奥深くに格納された。ところがつい最近、メイアルーアで一人の新聞記者が殺される、という事件が起きたの。名は、ジャマル・アドナン」

「それ、わたしの上司だった人です!」

 コンスタンサが、大きな声を上げる。メガンが、驚きに目を見開いた。

「あなたがジャマル・アドナンの元部下とは。ますます都合がいいわね。……CIAの捜査では、彼はある極秘文書を手に入れたため、口封じに殺されたと思われるわ。同じ日に、メイアルーア民主社会党の幹部運動員、マテウス・タモエも殺害されているから、おそらくは文書の出どころはそこだったのでしょうね」

「新聞記者を殺すほどの極秘情報。並大抵のものではありませんね」

 深刻な表情で、スカディが言う。

「残念なことに、ジャマル・アドナンが受け取ったオリジナルは失われているわ。殺害される直前に自宅が荒らされ、持ち去られているの。彼は何枚かコピーを取ったみたいだけど、ハリアン・メイアルーア社内の金庫に収めた分を含め、すべてが無くなっているようね。ただし、彼はこの文書に関して調査するために、何名かの知り合いにメールを送って、文書の内容を断片的にだけれども伝えているわ。これを総合した結果、マテウス・タモエがもたらした文書は、メイアルーア次期大統領選挙における野党陣営の不正に関するものだった、と判明したの」

「CIAはどの時点で気付いたんだい? そのジャマルが、通報したのかい?」

 亞唯が、訊く。

「ジャマルの知り合いの一人が、CIAの協力者だったの。メールを受け取った彼が、地元のCIAに連絡したのよ」

「で、野党陣営の不正とは?」

 先を促すように、スカディが訊く。

「選挙戦開始後に、実質的に野党候補を一本化し、与党候補に勝利するというプランよ」

「それは、選挙違反になるのではないでしょうか?」

 シオは首をひねった。

「もちろん、選挙違反に問われない範疇で為される一本化よ。選挙開始以降の立候補辞退は選挙違反だけど、選挙活動の放棄は違反ではない。当選を諦めた候補者やその陣営が、特定候補への支持を表明したり、支持者に対し投票を指示することは選挙違反だけど、選挙活動の一環として連帯感の表明や政策への高評価を行ったりすることは構わない。おそらく三日以内に、野党候補のうち二人は事実上選挙活動を取りやめるはずよ。すでに、兆候は表れているわ。PPDM(緑馬)はPDSM(黄鹿)とPLDM(桃猿)によるマレー系自治州設置を歓迎すると表明しているし、PDSMとPLDMはお互いを褒め合い始めている」

「わが社の最新の調査では、支持率はバシーリオ・スウ経済産業大臣が三十九パーセント。ナジブ・アルシャッド党首が二十二パーセント。エルネスト・セパグ党首が十九パーセント。アントニオ・ワルア党首が十三パーセント。ジョアン・レンサマ代表が一パーセント。未定が六パーセント。単純計算しても、野党三党合計で五十四パーセント。もちろんすべての支持者が『統一候補』に投票することはないでしょうが、それでも与党候補に充分に勝てる票数を集められますね」

 メモも見ずに、コンスタンサがすらすらと世論調査の数字を並べたてる。

「まてよ。それなら、選挙前に野党統一候補を立てても良かったんじゃないか?」

 亞唯が、疑義を呈する。

「それは無理ですね」

 コンスタンサが、首を振った。

「今回与党は楽勝するとみて、選挙前活動の手を抜いています。それでも、三十九パーセントもの支持率があるのです。もし選挙前に野党統一候補が立てられたなら、与党は本気で選挙対策をしたでしょう。補助金のばら撒き、減税、福祉予算増額、マレー系への自治権付与、大規模な公共事業……。支持率上昇のための手立ては、無数にありますわ」

「彼女の言うとおりね。選挙開始後の一本化は、なかなか優れた手なのよ。これで話がようやく、中国の軍事基地建設計画に戻るわ。PDSMもPLDMもPPDMも、現政権に比べればはるかに親中よ。PDSMは社会民主主義を標榜する容共だし、PLDMのワルアは香港における中国本土との取引で成功して成り上がっている人物なの」

「つまり、あの図面は試案でも演習でもなく、人民解放海軍と空軍の具体的なプランだった可能性が出てきた、ということですわね」

 確かめるように、スカディが訊く。メガンがうなずいた。

「そうCIAも判断したわ」

「では、これは背後に中国がいる陰謀なのでありますね!」

「そう思っていたのだけれどね」

 メガンが首を振り、シオの断定を否定する。

「肝心の中国側が、この件に関してまったく動いていないのよ」

「アリシア・ウーがいたぜ」

 亞唯が、そう指摘する。

「彼女はわたしも見たわ。だけど、監視しているだけね。まったく動いていない。彼女の属する総参謀部第二部、解放軍総政治部、国家安全部、共産党中央統一戦線工作部、いずれも動きは皆無。少なくとも、今回の件に北京が直接関わっていないことは、確かね」

「よくわからないのであります!」

 シオは正直にそう言った。

「まあ、それは置いておきましょう。これが、CIAの爆弾テロにどうつながるのですか?」

 スカディが、訊く。

「野党側の計画を知ったCIAは、ホワイトハウスの許可を得たうえでメイアルーア政府内の協力者に接触し、この情報を伝えたわ。親米政権の維持は、もちろん合衆国の国益に繋がるし、ここに人民解放軍基地が建設されるのは絶対に阻止しなければならない。西太平洋の地図を思い浮かべてちょうだい。合衆国と東南アジアの遮断。オーストラリアと日本の遮断。さらに、フィリピンの『背中』を衝ける位置。SSBN(弾道ミサイル潜水艦)の補給基地にすれば、核戦略にも大いに寄与することになる」

「メイアルーア国際空港の滑走路は四千メートルだ。戦略爆撃機の運用も可能だな」

 亞唯が、唸る。

「そうね。だけど、この情報はラニアガ大統領を含むメイアルーア政府上層部に伝えられることはなかった」

「なんでやねん?」

 雛菊が、突っ込み口調で訊く。

「証拠不十分だからよ。断片的な情報を繋ぎ合わせて、推理しただけだもの。この程度の情報で野党候補を告発したりすれば、国民の眼には政府与党による濡れ衣にしか見えないでしょうね。与党の権威は失墜し、来るべき大統領選挙は与党の記録的大敗北になるわ」

「……そうなりますね」

 コンスタンサが、うなずいた。

「野党三党による共同謀議の確たる証拠をつかむには、時間が掛かる。しかし、大統領選挙投票日はすでに決まっている。選挙が実施されれば、野党統一候補が勝って親中政権となり、合衆国の国益を損なうどころか、西太平洋および東南アジアに対する安全保障政策の抜本的見直しを迫られることになる。政府与党が選挙延期を決めれば、露骨な選挙妨害と有権者に受け取られ、与党政権は終わる。八方塞がりだわ」

 メガンが、大げさに肩をすくめてみせる。

「だから選挙を中止させるために、爆弾テロを行ったのでありますか?」

 シオは首を傾げつつ訊いた。いくらCIAと言えども、ずいぶんと乱暴なやり方に思える。

「いいえ。違うわ」

メガンが、被りを振った。

「真の目的は、政府に非常事態宣言を出させることよ」

「地震や津波などの大規模な災害、内乱、戦争、制御不能なレベルの疫病の蔓延などに直面した場合に出される奴やね」

 雛菊が、ブリーフィングで聞いた畑中二尉の言葉を引用した。

「そう。非常事態宣言が出れば、合法的かつ有権者の反発を得ることもなく、大統領選挙を無期延期にできるわ。一番いいのは、偶然地震か津波に襲われてくれることだけど、そう都合よくはいかない。そこで、大統領選挙妨害を口実に連続爆弾テロを行ったわけ。充分に深刻な事態になれば、非常事態宣言が行われると期待してね」

「なるほど! だから、死傷者が出ないように気を遣ったのですね!」

 シオは納得した。

「いささか強引すぎる手法だけど、準備に時間が掛けられなかったし、今現在東部アジア方面のCIAは人手不足だから、精妙な作戦が行えないのよ」

 渋い表情で、メガンが言った。

「詳しくは言えないしわたしも知らないんだけど、中国本土の沿岸部で大規模な作戦が展開中なの。それに、人手が割かれていてね。だから、こちらにはミスター・ベーみたいな員数外の要員や、経験不足の若手しか回されていないの。ポルトガル語やインドネシア語をまともに喋れる者はほとんどいないし。幸い、資金とパキスタン製の無標識のRDXだけは山ほど支給してもらったけどね」

 メガンが、ミスター・ベーがいるはずの隣室へちらりと視線を走らせながら言う。ちなみに、ベルはまだ戻ってきていない。……おそらくミスター・ベーと意気投合し、色々教えを乞うているのだろう。

「そう言えば、前に主要候補四人を中傷する怪文書を街中で拾いましたけれど……それも出どころはCIAだったのですか?」

 スカディが、訊く。

「そうよ。有効的な手段ではないけれど、まあ爆弾テロの前座ね。大衆の不安を煽り立ててから、実力行使に出る方が、効果が出るから」

 メガンが、認めた。

「なあ、これだけ爆弾騒ぎを起こしたんだから、有権者に対する言い訳は充分だろう。このあたりでラニアガ大統領にちょっと耳打ちして、非常事態宣言を出させるというわけにはいかないのかい?」

 亞唯が、訊いた。

「それも考慮したんだけど、捜査を進める過程で、政権上層部に今回の陰謀に関与している人物がいる可能性が高まったの。非常事態宣言を出す権限があるのは大統領だけど、閣議と国防会議の承認が必要なの。CIAないし合衆国の関与が有権者に疑われただけで、ラニアガ大統領が失脚するおそれがある。だからその手は、危険すぎるのよ。……で、これからのことなんだけど」

 メガンが、ポケットから二枚のIDカードを取り出した。テーブルの上に、無造作に置く。

 『カリフォルニア・トリビューン』アメリカの大手新聞社のIDだった。貼付された顔写真は、メガンとアルのもの。名前は、いずれも偽名が記されている。

「このままでは非常事態宣言が出されそうにないので、第二段階の作戦を考えたの。CIAの捜査によれば、野党三党のうち、二党はどうやら利用されているだけと思われるわ。おそらく、何らかの政治的利益供与と引き換えに、選挙戦から降りる密約がある。陰謀の中心にいるのは、PDSM(黄鹿)、PLDM(桃猿)、PPDM(緑馬)いずれかの大統領候補とその取り巻きだと考えられる。そこで、直接揺さぶりを掛けて反応をみるつもりだったの」

「なるほど。新聞記者に化けて、陰謀の一端を知っているとほのめかすわけか」

 亞唯が、IDの一枚を取り上げながら言った。

「危なくないんか? コンスたんの上司を消したのも、連中の仕業やろ?」

 もう一枚を手にしながら、雛菊が訊く。メガンが、笑った。

「それは承知の上よ。むしろ、歓迎ね。動かぬ証拠を得られるわけだから。もちろん、バックアップは充分に手当てした上で、行動するつもりだけど」

「人手不足だったのではありませんか?」

 シオはそう訊いた。

「CIAはね。この件は、ホワイトハウスもペンタゴンも憂慮しているの。だから、要請すれば合衆国軍の全面的支援を受けられるのよ。すでにハワイと日本から艦艇がこちらへ向かっているし、偵察衛星もかなり自由に動かせるわ。その気になれば、巡航ミサイルの一発や二発、撃ってもらえるはずよ。もちろん、上司の許可が必要だけどね。……そこで」

 メガンが言葉を切り、姿勢を正す。

「あなたたちにも手伝って欲しいの」

「やっぱりそう来ましたか。メイアルーアに中国の軍事基地ができるのは、日本にとっても憂慮すべき事態ですから、お手伝いしたいのは山々ですが……」

 スカディが、歯切れ悪く言う。

「大丈夫。ホワイトハウスから頼まれれば、ナガハマ大佐もいやとは言えないでしょう」

 メガンが、微笑む。

「一応こんなものを作って、わたしとアルで揺さぶりを掛けるつもりだったけど、いささか自信が無かったのよ」

 亞唯と雛菊の手からIDカードを回収しながら、メガンが言った。

「準備に時間を掛けられなかったから、ぼろを出す可能性もある。CIAの関与が発覚すれば、現政権への大きな打撃になるわ。……あなたなら、そのおそれはないわよね?」

 メガンの長い指が、コンスタンサをびしっと指した。

「え。わたしがやるんですか?」

 コンスタンサの眼が、点になる。

「ハリアン・メイアルーアの記者。しかも、ジャマル・アドナンの元部下。ジャマルから不正選挙に関する情報を知らされ、密かに探っていたことにすれば、カバーストーリーも完璧だわ。AI‐10は助手ということにして、護衛として使う。周囲を探られ、黒幕連中が慌てて何らかのリアクションを起こしてくれれば、好都合だわ」

 メガンが、断定口調で言う。

「状況は理解しました。長浜一佐の命令が出れば、わたくしたちも協力させていただきますわ。問題は……」

 言葉を切ったスカディが、硬直しているコンスタンサを見やる。

「なあ、お嬢さん。ジャマルの敵討ちをしたくはないか?」

 アルが、優し気な声音で問いかけた。

「そ、そうでした! ジャマルを殺害した連中が野放しになっているのは、許せません!」

 『敵討ち』という単語に反応したのか、コンスタンサがいきなりいきり立った。

「では決まりね。早速明日から動いてもらうわ。わたしは上司に連絡して、ナガハマ大佐に話を通してもらう。詳しい連絡方法その他は、アルと打ち合わせてちょうだい」

 メガンが、立ち上がった。AI‐10たちも、椅子から腰を上げた。

「そうだ。これ、返しとくよ」

 亞唯が、気絶させたマニラ支局のCIA局員から分捕ったベレッタPx4を、アルに差し出す。

「ちょうどいい。取っといてくれ。お嬢さんの警護に一丁くらい必要だろう」

 アルがそう言って、亞唯の手を押し戻す。

「そうかい。なら、借りとくよ」

 亞唯が嬉しそうに言って、Px4をポーチの中に落とし込んだ。


 第十五話をお届けします。

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