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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第十五話

「技本陸装研R部(技術研究本部、陸上装備研究所、ロボット技術研究部)の西脇二佐だ。よろしく、二曹」

 事務室で待っていた細面の中年幹部が、にこやかに言って手を差し出す。

「練馬駐屯地業務隊、石野二曹です」

 本能的に敬礼した石野二曹は、慌てて手を下ろすと、西脇二佐の手を握った。

「悪いが堅苦しいことが苦手でね。現場の経験がほとんどないもので。まあ、座ってくれ」

 西脇二佐が、椅子を勧める。石野二曹は、緊張しつつ腰を下ろした。技本のエリート研究員が、いったい何の用事なのだろうか?

「まずは、昨晩の襲撃事件の裏事情を解説しておこう」

 西脇二佐が、スノーフレーク作戦と、ブラックアウルやAM‐7の被害について簡単に説明する。

「……というわけで、ロボットの数が足りないんだ。そこで、臨時ロボット302分隊を起用したい」

「はあ?」

「君のところの十体を、スノーフレーク作戦に使いたいんだよ。決行は、今夜だ」

 西脇二佐が、相変わらずにこやかに言う。ようやくことの次第を悟った石野二曹は、あんぐりと口を開けた。

「いえ、でも、あの子たちはAI‐10ですよ? 高性能とは言え、AM‐7とは比べ物になりません」

「大きな役割は期待していないよ。AM‐7を戦車に例えれば、随伴歩兵みたいなものだ。補助戦力として、AM‐7をサポートしてくれれば事足りる」

「はあ。しかし、AI‐10ならば302分隊以外にも……」

「いやいや。昨晩の一件で、すでに彼女たちの過半数が、実戦を経験している。AI‐10の学習能力と、警備支援プログラムによって、その経験はすでに顕著な効果を生み出しているはずだ。現状では、302分隊がもっとも優れたAI‐10集団なのだよ。では、彼女たちを呼んできてくれたまえ」



「……というわけで、諸君らの力を借りたい」

 臨時ロボット302分隊の面々を前にして、西脇二佐が訓示と説明を終えた。

「積極的に日本を防衛できるのですね! 素晴らしいことであります!」

 いつもの水色のミニワンピース姿に戻ったシオは、興奮して拳を突き上げた。

「事情はわかったけど、うちらにそんな大役が務まりますやろか?」

 雛菊が、首を傾げる。

「主役はあくまでAM‐7だ。諸君らは、AM‐7を手伝ってやってくれ」

「そういうことでしたら、作戦に参加するのはやぶさかではありませんわ」

 スカディが、言う。

「夕方までにはこちらの準備も整う。それまで、石野君が面倒を見てくれる」

 西脇二佐が、石野二曹を手招いた。


 格納庫の一角で、シオらはREAが使用している兵器に関するレクチャーを受けた。

「これがREA陸軍が制式採用している突撃銃、AKMだ。使用弾薬7・62ミリ×39。箱弾倉三十発。重量約3・3キログラム。原型はもちろんロシアだが、REAは国産化して供給している」

 迷彩戦闘服姿の一尉が、三丁の実銃をロボットたちに渡す。

「大きすぎて、撃ちにくいですわね」

 AKMを抱えて、スカディが言った。手が小さいAI‐10では、ピストルグリップをしっかりと握りつつ引き金を引くという動作がやりにくいし、腕も短いので銃本体を上手に保持できない。

「二人がかりで撃つというのはどうでしょうかぁ~」

 ベルが、両手でピストルグリップをつかんだ。

「シオちゃん、前の方を支えてくださいぃ~」

「合点承知です!」

 シオは片膝を付くと、AKMのハンドガード部を右肩に載せた。神輿を担ぐかのように、それを両手でがっちりとホールドする。

「撃ち易そうだけど、照準しにくいね」

 亞唯が、そう評する。

「では次に、REA陸軍制式のRPKだ。AKMをベースにした、ヘビー・アサルトライフルだな。これも、REAは国産化している……」


「まずこれを装着してくれ」

 西脇二佐が、十体全員にROMカートリッジを渡す。

「本作戦に必要なデータが入っている。REA軍に関する情報、作戦地域の地図、現在までに入手できたヴォルホフ基地の詳細、ロシア語の基礎知識などだ」

 シオは、空きポートにROMカートリッジを差し込んだ。

「では、お仲間を紹介しよう。こちらへ来てくれ」

 西脇二佐が手招く。格納庫からぞろぞろと出た十体のAI‐10は、さながらカルガモの仔のように西脇二佐のあとについていった。

「すごい警備なのですぅ~」

 前方の格納庫を見て、ベルが驚く。

 一棟の格納庫の周囲は、車両と陸上自衛隊員でびっしりと囲まれていた。車両には軽装甲機動車、96式装輪装甲車の他に、高機動車に短射程対空ミサイルを搭載した93式近距離地対空誘導弾も混じっている。

 格納庫脇の通用口を警備していた迷彩作業服姿の陸上自衛隊員が、近付く西脇二佐を見てさっと敬礼し、扉を開けた。シオは、なんだか自分が偉くなったような気分で、そこを通り抜けて格納庫へと入った。

「警備支援ロボットですわね。でも、教範には記載がありませんわ」

 隅の方で蹲っている五体の中型多脚ロボットを見て、スカディが言う。

「まだ制式採用されていないからね。紹介しよう。AM‐7‐01、02、05、06、09の各体だ」

「うわー、大きいね」

 ライチが、驚嘆の声をあげる。

「マッシュルームみたいですぅ~」

 ベルが、嬉しそうに言う。

 AM‐7は、たしかにマッシュルームを連想させる形状だった。本体は直径百七十センチほどもあるドーム状で、下部に逆円錐台形の『柄』が付いている。六本の多関節脚はその柄から生えており、見る者に蜘蛛のような印象を与える。本体の正面には、グリップ状の先端部が付いた二本のマニピュレーター。その上部には、予備のセンサー類と、74式車載機関銃の銃身が突き出ている。主兵装である96式40ミリ自動擲弾銃は本体右側に、筒状の01式軽対戦車誘導弾は、縦に三つ並んで左側に外付けしてあった。頂部には、昇降式のセンサーマストが装備されている。今は低姿勢を取っているので、柄の部分は格納庫のコンクリート床に触れそうなくらい低い位置にあった。五体とも、やや雑な感じで暗い色調の緑系迷彩塗装が施されている。

 AI‐10たちは、それぞれ丁寧に挨拶した。だが、AM‐7たちの反応は鈍かった。

「みなさん、無愛想ですねぇ」

 めーが、不満顔で言う。

「高度な音声コミュニケーション機能は、未搭載なんだ。諸君らの言葉は理解しているし、意思の疎通に十分な能力は備えている。ま、無口なんだと思ってくれ」

 微笑みながら、西脇二佐が言った。

「無口キャラですか。シンクちゃんと、同じなのです!」

 シオはそう言った。シンクエンタが、無言のまま微笑む。

「諸君らは、02と行動を共にしてもらう。いわば、彼が分隊長だな」

 西脇二佐が、二番目に並んでいたAM‐7を平手でぽんぽんと叩いた。AM‐7‐02がわずかに身じろぎし、センサーマストを上昇させた。……挨拶のつもりなのだろうか。

「では、他の装備品も渡しておこう」

 西脇二佐が、さらに奥へとシオたちを導く。


 まず支給されたのは、ポケットがたくさん付いたベストだった。暗緑色で、前をベルクロで留めるようになっている。胸には、小さいが日の丸も入っていた。シオらはそれを嬉々として着込んだ。

「サイズもぴったりなのですぅ~」

 ベルが、嬉しそうにくるくると回る。

「本物の兵隊さんになったような気分です!」

 シオははしゃいだ。

「浴衣には、合わへんなぁ」

 雛菊が、困り顔で言う。太い飾り帯を締めているので干渉してしまい、着心地が悪そうだ。

「急造だから、たいした機能はないが……前ポケットには、機関拳銃の弾倉が六本入る。予備のポケットのひとつには、これが入っている」

 西脇二佐が、短い金属棒が二本突き出したプラスチック片を取り出す。

「それは、なんですの?」

 めーが、首を傾げる。

「充電用アダプターだ。REAはGOST7396規格のプラグを使っている。もし建物などで充電する機会があったら、このアダプターを使えば、安全に充電できる。持って行くといい。他のポケットは空だが……まあ、好きなものを入れてくれ。次に、これだ」

 西脇二佐が配ったのは、サスペンダー付きの細い布ベルトだった。布製のケースが大小ふたつ、くっついている。

「これは、なんですか?」

 夏萌が、ケースの中を覗きこみながら訊く。

「爆薬入れだ。C4を五ポンドほど、携行してもらう。小さい方が、導爆線と電気信管、それに時限信管入れだ。使い方は、ROMに入っている」

「爆薬。わたくしたちに使いこなせますでしょうか?」

「なに言ってるんだい。爆破はロマンだよ」

 懐疑的なスカディを見て、亞唯が笑う。

「それと、これも使ってくれ」

 西脇二佐の合図を受け、控えていた士長が全員に細かい緑系迷彩柄の布を配った。真ん中に穴が開いている。

「ポンチョですわ」

 めーが嬉しそうに言って、頭から被った。首のところに通っている紐を引き、身体にフィットさせる。

「これはええで。エリたんの紅袴も、これなら目立たへんわ」

 雛菊が、笑う。

 シオも被ってみた。薄手だが、防水加工はなされているようだ。前の部分が割れているので、腕を動かす分には支障はない。

「なんだか、てるてる坊主みたいなのですぅ~」

 ポンチョを着込んだ皆を見て、ベルがそう感想を述べる。

「西脇二佐、他に武器はもらえないのですか?」

 亞唯が、訊いた。

「もちろん予備のバッテリーは与えるよ。携行する武器は機関拳銃と爆薬だけだが……」

「ROMの資料を検索した限りでは、敵は多いです。この程度の装備では、心もとないです」

 亞唯が主張する。

「たしかに、こんな装備で大丈夫か、とか訊かれそうだね」

 ライチが言う。

「だが、諸君らの体格では重火器は扱えないだろう」

「手榴弾が欲しいです。あと、予備弾倉ももう少し。備えあれば、憂いなしです」

 亞唯が喰い下がる。

「ま、いいだろう。欲しいものがあれば、言いたまえ。出撃までには、揃えておこう」

「ありがとうございます、二佐」

 亞唯が、ぺこりと頭を下げた。



 入間基地滑走路を離陸滑走する航空自衛隊U‐4……ベストセラー双発ビジネスジェット機ガルフストリームⅣと基本的には同一である……の尾部には、ワイヤーが取り付けられていた。

 弛ませてあったワイヤーが伸び切り、ブラックアウルが滑走を開始する。FRP製の機体は、すぐにふわりと浮き上がった。滑走路上に投棄した離陸用車輪を、トラックで乗りつけた整備班が回収する。

 続いて二番機が滑走を開始する。こちらもブラックアウルを曳航しつつ、無事に離陸した。

 二機のU‐4が、ゆっくりと高度を稼いでゆく。百メートルのワイヤーに引っ張られ、ブラックアウルも高度を上げていった。すでに太陽は西方の秩父の山々に触れんばかりの低い位置にある。ずんぐりとした胴体に不釣合いな長大な主翼、そして特徴的なV字尾翼を持つ漆黒のグライダーは、赤黒い光を浴びながら、優美な双発ジェット機に引かれて北方を目指した。

「飛行機に乗ったのは、初めてなのです!」

 はしゃぎ気味に、シオは言った。

 十体のAI‐10は、人間用のバゲットシートに腰掛けていた。AM‐7を載せるためにいったん取り外されていたものを、急遽付け直したものだ。シートが取り払われた操縦席には、AM‐7/個体番号02がいて、外部カメラ映像や外部センサーの情報を光ファイバーケーブルを介して直接AIに取り入れながら、操舵を行っている。

 すでに、AI‐10たちは戦闘準備を整えていた。機関拳銃を腕に装着し、弾倉も挿入されている。ポケットには予備弾倉八本。ベルトには、爆薬のセット。亞唯の主張で配られた破片手榴弾……アメリカ製M26と同型のもの……二発は、専用コンテナーに入れてベルトにぶら下げてある。各AI‐10の足元には、予備のバッテリーが入ったバックパックが置いてあった。AM‐7も、背部に予備のバッテリーが入った大きな箱をふたつ取り付けている。

「亞唯ちゃん、それは何なのです?」

 エリアーヌが、亞唯の足元にある大きな黒い布袋を指差した。

「予備の手榴弾だよ」

 亞唯が、ごそごそと袋の中を探った。殺虫剤か何かのスプレー缶を思わせる形状の物や、通常の物よりずんぐりとした手榴弾を、次々と取り出して見せる。

「これが、発煙手榴弾。これが、照明手榴弾。こっちが、焼夷手榴弾」

「REAでグレネード・ショップでも始めるつもりなのですかぁ~」

 ベルが、突っ込んだ。

「備えあれば憂いなし、だよ」

 亞唯が言い返す。


 日本海上空高度一万メートル、REAの海岸線まで四百キロの地点で、二機のブラックアウルは曳航ワイヤーから切り離された。

 時速二百キロ以下という、航空機としてはゆっくりとした速度で、ステルス・グライダーは冷たい高空の夜気を切り裂きながら、滑降しつつREA本土を目指した。

 三沢基地を離陸し、REAの領海外二百七十キロという危険な位置で、アメリカ空軍戦闘機に護衛されて旋回するE‐3AWACS(空中警戒指揮管制機)から、暗号バースト通信でREA空軍機に関する情報は刻々と送られてきている。ステルス機と言えども、航空機に近接されれば夜間でも視認されてしまう。それを防ぐために、CAP(戦闘空中哨戒)しているREA空軍機を避ける必要があった。

「退屈なのです」

 シオはつぶやいた。飛行機といっても、窓があって下界の景色が見られるわけではない。電力節約のために動き回ることもできない。

「情報が欲しいですわね」

 一番前の席に座っていたスカディが、自分のケーブルをコックピットの計器盤に繋いだ。

「AWACSからの情報を伝えるわ。0‐2‐0と3‐4‐5にFバンドの地上設置型捜索レーダー。中国製のJY‐14ね。0‐1‐5にMiG‐25PD四機編隊。距離十八マイル。東進中。2‐9‐5の海上にFバンドの捜索レーダー。ロシア製MR‐302。コニ級コルベットね」

「いっぱい待ち構えているのです!」

 シオは困り顔をした。

「でも、ステルスだから心配ないのですぅ~」

 ベルが、安心させるように言う。

 その後も、スカディが随時情報をみんなに中継してくれた。ブラックアウルがREA領空に近付くにつれ、捜索レーダーの角度が刻々と変わってゆく。新たにMiG‐29戦闘機の四機編隊が哨戒を開始し、MiG‐25戦闘機が基地へと戻ってゆく。

「最終侵入前に、上昇する」

 AM‐7が無愛想な合成音声で告げた。きわめて男性的な、野太い声だ。

 機首を上げたブラックオウルは、機体後部に装着されている二基のブースターロケットに点火した。機速が上がり、高度も急速に上昇する。赤外放射量が爆発的に増大し、REAの海岸からでも視認できるほどの可視光も発生することにより、一時的にステルス性が損なわれる。しかし、付近に敵性航空機は存在しないことが判っているので、短時間であれば低観測性の放棄は許容範囲内のリスクである。

 燃焼を終えたロケットが投棄され、機体が水平に戻る頃には、その高度は三万二千フィートに達していた。無動力に戻り、再びステルス性を獲得した機体が、滑空状態に移行する。

「海岸を越えた」

 ほどなくして、AM‐7がそう通告した。

「AM‐7さん、あとどのくらいで着陸ですか?」

 シオは訊いた。

「コースによる」

「AM‐7さんじゃ、他のAM‐7と区別が付きませんね」

 エリアーヌが、言った。

「02さんでいいんじゃないの?」

 こう言うのは、ライチ。

「分隊長、だと石野二曹と区別がつかないし」

 亞唯が、言う。

「02さんだから、お兄さんと呼ぶのはいかがでしょうかぁ~」

 ベルが、提案した。

「それがいいですわね。ぴったりな呼び名だと思いますわ」

 スカディが、賛成した。

「となると、あたいたちは全員妹ですか!」

 シオは突っ込みを入れた。

「十一人兄妹ですねぇ~。大家族ですぅ~」

 ベルが、からからと笑う。


第十五話をお届けします。

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