表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 07 南海島国民主選挙妨害防止せよ!
148/465

第三話

「話を続けるぞー。それなりに平穏なポルトガル植民地として存続してきたメイアルーアだが、二十世紀半ばに大激変が襲ったー。言うまでもなく、太平洋戦争勃発だー」

 畑中二尉が、説明を続ける。

「ポルトガルが第二次世界大戦で連合国寄りの中立政策を保ったのは知ってるなー。カリスマ独裁者サラザールは両陣営のあいだでうまく立ち回って、戦火を免れたうえに、連合国に色々便宜を図った……まあ、この動き自体はどう言い訳しても中立違反なんだが……おかげで大戦終結後の連合国による欧州支配体制の中でも分不相応ともいえる地位を確立した勝ち組だなー。おっと、話がずれたなー。太平洋戦争勃発に伴い、メイアルーアはオーストラリアとオランダ軍により、保証占領が行われたー。戦略的に、重要な位置にあるからなー。東に向けて防備を固めれば、フィリピン‐メイアルーア‐ニューギニアというラインでインドネシア全体を守れるし、逆に言えばインドネシア方面から太平洋に進出することを阻止できる位置だー。だが、日本軍がジャワ海に攻め込んだあたりで、占領軍はあっさりと撤退ー。メイアルーアは、ジャワ東部の他の島嶼群とともに、日本軍の占領下に置かれることとなったー。で、島の新しい支配者となった日本海軍だが、この島を重要視しなかったんだなー。当時は飛行場がなかったし、港も軍港として使うにはいささか小さいー。強引に軍港化しても、補給できるものが水と米しかないんじゃ、仕方ないからなー。頑張って飛行場を作れば、それなりに役立っただろうが、その余力が日本軍には無かったし、付近にダバオ、メナド、テルナーテ、ソロンといった基地があったからなー。無理はしなかったんだろー。そういうわけで、ごく少数の守備隊がサン・ジュアンに置かれただけだったー。ちなみに、この守備隊は連合軍によって終戦まで無視されたー。いわゆる、放置プレイにされた基地のひとつだなー。この手の放置プレイに晒された基地の中には、補給が途絶えて地獄を見た処も多いが、ここは終戦まで天国だったそうだー。住民はおとなしかったし、食料も充分自給できたから、補給を絶たれてもなに不自由しなかったそうだー。現地の女性と子供をつくってしまい、そのまま定住してしまった猛者もいるらしいー。ま、あれやこれやあって日本が負け、ふたたびポルトガル植民地となったわけだが、第二次世界大戦終結後周辺諸国で植民地解放闘争が開始されるー。メイアルーアでもこのブームに乗って、独立を目指すグループが名乗りを挙げたー。これが、メイアルーア民主党だー。幸い穏健な活動に終始したので、他のポルトガル植民地であるアンゴラやモザンビーク、ギニアビサウみたいな血生臭いことにはならなかったー。そうこうしているうちに、ポルトガル本国で有名なカーネーション革命が起こったー。1974年のことだー」

「かーねーしょん☆かくめい! ギャルゲかエロゲのタイトルみたいやな」

 雛菊が、下品な突っ込みを入れる。

「植民地戦争による経済疲弊。サラザールが頭部強打で意識不明の重体、のちに死亡。後継者も失政続きで打開策はない。そんな混乱した情勢に不満を抱く国民の意を汲んだ軍が、革命と称し決起したわけだー。このとき、軍を支持する市民有志が兵士たちにカーネーションを手渡し、貰った兵士たちがシンボル的に銃口にカーネーションを差したことから、こう呼ばれているのだー。まー、その後クーデターがあったり、共産党が権力を握りそうになったりいざこざがあったが、最終的には穏健な中道左派の社会党が政権を運営することとなり、ポルトガルはようやく落ち着きを取り戻したのだー。で、カーネーション革命直後から革命政府は植民地の放棄を表明したので、メイアルーアでも独立機運が高まることとなったー。ポルトガル人はさっさと逃げ帰り、平和裏にメイアルーア民主党に権力を移譲したー。1975年の末に、正式にメイアルーア共和国が独立を宣言するー。ちなみに、日本は独立と同時に承認してるぞー。で、この新生メイアルーア共和国だが、市民革命的に成立した政権の常として、社会主義政権だったんだなー。一応中立主義を標榜したが、路線としては容共だー」

「75年といえば、ベトナム戦争終結の年だろ。東南アジアで容共政権なんて、よく維持できたな」

 呆れ顔で、亞唯が突っ込む。

「亞唯の言うとおりだなー。長続きしなかったー。75年には、カンボジアであの悪名高いポルポトが政権を掌握し、ラオスでも革命政権が樹立されているー。こんな状況下で、小国とはいえ東南アジアに容共政権ができるのをアメリカさんが座視しているわけがないからなー。翌76年夏には早くも軍事クーデターが発生し、メイアルーア民主党政権は潰され、親米軍事政権が誕生するー。外国の関与はなかった、とされているが、裏でアメリカ合衆国が糸を引いていた可能性は大だー。当時の大統領は、共和党のジェラルド・フォード。だが、彼を支えていた連中がまた曲者揃いだー。副大統領がバリバリの反共主義者のネルソン・ロックフェラー。あの、ロックフェラー一族のひとりだなー。国務長官が、おなじみヘンリー・キッシンジャー。国防長官が、後のイラク戦争の立役者のひとり、ドナルド・ラムズフェルド。大統領首席補佐官が、同じく後の湾岸戦争時の国防長官で、のちにブッシュ・ジュニアの副大統領となったネオコンの雄、ディック・チェイニー」

「オールスターメンバーですわね」

 スカディが、嘆息気味に言う。

「この面子なら、小国の政権をひっくり返すくらい躊躇なくやりそうだな」

 亞唯が、同調する。

「まーそんなこんなで、軍政が二年ほど続いたが、その後は軍の支持を得た政党、メイアルーア国民同盟が保守親米反共政権を立てて、国家運営に当たることになるー。メイアルーアは、小国の割には豊かだったんだなー。金蔓は、二つあったー。ひとつは、クローヴを初めとする香辛料の輸出。もうひとつは、リン鉱石の輸出だー」

「燐光石! RPGのアイテムですね!」

 シオはここぞとばかりにボケた。……畑中二尉の長話に、ちょっと退屈を覚え始めたていたのは内緒である。

「いわゆるグアノ、という奴だなー。メイアルーア共和国で二番目に大きな島、ネーヴェ島は、このグアノの宝庫なのだー。簡単に説明すると、グアノというのは海鳥の糞や死骸、食い残しの魚類、卵の殻などが大量に堆積し、化石化したものだー。主にリン酸肥料の原料として輸出できるー。グアノに関しては、世界のほとんどですでに取り尽されているが、ここネーヴェ島では開発が遅かったので、いまだに生産が続いているんだなー。推定では、あと十五年くらいは持つらしい。話をもとに戻すと、親米となったメイアルーアは、八十年代半ばからアメリカの経済支援を受けて経済改革に乗り出すー。まず着手したのが、観光立国化だー。日本、オーストラリア、香港、台湾といったところから観光客を呼び込んで、儲けようという企みだなー。アメリカ資本を導入し、ホテル建設、ビーチの整備、さらに国際空港の滑走路延伸などを精力的に進めたー。なんと、ジャンボジェットが離着陸できるように四千メートル級滑走路までも造ってしまったのだー。実際、成田までエア・メイアルーアがボーイング767を運航していたこともあったんだぞー。ま、人気が無くてすぐに運航停止になったがなー」

「マーケティングの失敗ですねぇ~」

 ベルが、嬉しそうに言う。

「確かになー。美しいところだが、ハワイやグアム、サイパンに比べて何もアドバンテージが無いからなー。加えて、軍事政権というイメージの悪さ。そんなこんなで、観光立国化は失敗。さらに、冷戦終結でアメリカさんの財布の紐も固くなってしまったー。いろいろ模索していたが、結局ASEANに加盟して地道にやっていこう、と決めたらしいー。しかし、ASEAN側は非民主的政権であることを理由に、正式加盟を渋ったー」

「……結構いい面の皮ですわね。ASEANも」

 皮肉な口調で、スカディが冷笑する。

「タイの現政権なんて……げふんげふん」

 亞唯が、わざとらしく咳でごまかす。

「まーそんな感じで、選挙監視団を受け入れて大統領選挙を行い、民主化をアピール。続く議会選挙も成功させて、ASEANに正式加盟しようという目論見だー。まあ、日本としてはこの動きは歓迎すべきだなー。というわけで、お前らがんばれー」

「合点承知なのです! 清く正しく明るい選挙を見守ってくるのであります!」

 シオは拳を突き上げて高らかに宣言した。

「……何気に趣旨が変わっているのですぅ~」

 ベルが、控えめに突っ込む。

「よーし。では現在のメイアルーア共和国の政治状況について解説するぞー。元首は大統領、議会は一院制だー。かなり大統領の権限が強い、発展途上国によくある体制だなー。大統領は任期五年、再選は一回のみ。行政の実務を行う首相の任命権を持っているぞー。現大統領は、二期目のマヌエル・ラニアガ。元々首相だったが、八年前に大統領が急死したので、憲法の規定に従い大統領に就任したー。次の選挙にも、圧勝しているぞー。与党メイアルーア国民同盟、略称PANMと軍部の全面支持を受けているー」

 畑中二尉が、手を伸ばすとテーブルからメモを取り上げた。

「では今回の大統領選挙の解説に移るぞー。立候補したのは五人。まず、与党メイアルーア国民同盟、略称PANM公認候補、バジーリオ・スウ経済産業大臣。現職ラニアガ大統領が後継指名した人物だー。経済テクノクラート出身で、現政権の親米保守路線の継承を主張しているー。軍部の受けもいいぞー。続いて野党第一党、メイアルーア民主社会党、略称PDSM公認候補、エルネスト・セパグ党首。この党は、独立時のメイアルーア民主党の流れを汲む老舗だー。やや左傾の社会民主主義政党で、与党の対抗勢力として根強い人気があるー。外交政策としては、親インドネシア路線を取っているぞー。次がメイアルーア人民民主党。略称PPDM。公認候補はナジブ・アルシャッド党首。ここは西部に多く居住しているマレー系……ジャワ人やスンダ人の利益代表だー。一応、穏健派だなー。そしてつい数年前にできた新しい政党、メイアルーア自由民主党、略称PLDM。大統領候補は実業家のアントニオ・ワルア党首。民族主義で、インドネシア経済圏からの脱却を唱えているー。最後に泡沫政党、ネーヴェ独立党、略称PIN。ジョアン・レンサマ代表。ここは二番目に大きな島、ネーヴェ島の独立を目指している党だー。島の人口は約一万五千人。支持者は当然島民しかいないから、どうあがいても当選は無理だなー」

「人口一万五千人で独立国家を目指すとは、いい度胸なのです!」

 シオは感心してそう口走った。

「グアノの独占が目的かしら?」

 スカディが、そう推測する。

「おそらくそうだろうなー。採掘は、国有のメイアルーア リン鉱石会社が行っているので、利益はほとんどが国庫に流れ込む仕組みだー。ネーヴェ島民は、島の財産が一方的に吸い上げられていると感じているようだなー。枯渇までにはまだ間があるから、独立して利益を島で独占してしまえば、しばらくは豊かに暮らせるはずだー。そんな思惑だろー」

「島民の意思統一が図られているんなら、いっそ勝手に独立宣言したらええんちゃうか?」

 雛菊が、言う。

「無理だなー。メイアルーア政府が、金蔓を手放すわけがないー。速攻で防衛軍を送り込んで、制圧するだろー。メイアルーア防衛軍はささやかなものだが、小さな島一個の占領くらいなら軽くこなせる程度の力はあるー」

「しかし政党名が似たり寄ったりでややこしいですわね。国民同盟に民主社会党、人民民主党に自由民主党、独立党。略称がPANM、PDSM、PPDM、PLDM、PIN。読者の皆様も混乱しているはずですわ」

「でた。スカぴょんのメタ発言や」

 スカディの意見に、雛菊がすかさず突っ込みを入れる。

「実はあたしも混乱してるぞー。幸い、各党は動物のシンボルマークとシンボルカラーを採用しているー。発展途上国としては識字率は高いが、それでも高齢者には文盲が多いからなー。与党PANMが、鳩でシンボルカラーは青。ちなみにメイアルーアには中国系はほとんどいないから、鳩は食材とは看做されていないぞー。野党第一党PDSMがカンチルと呼ばれる豆鹿で、黄色。マレー系政党PPDMが馬で、緑。どっちもムスリムが好むものだなー。新党PLDMが、猿でピンク。東南アジアや南アジアでは、猿は好まれている動物だぞー。ネーヴェ島のPINが、アホウドリで白」

「与党の青鳩。野党の黄鹿。マレー系の緑馬。新党の桃猿。島の白信天翁。これなら覚えやすいな」

 亞唯が、感心したように言う。

「それで、どの方が新大統領に当選しそうなのですかぁ~」

 ベルが、訊いた。

「新聞各紙が世論調査を行った結果を総合すると、青鳩が三十八パーセント程度の票を固めたようだー。黄鹿が二十パーセント。緑馬が十九パーセント。桃猿が十二パーセント。白信天翁が一パーセント。未定が十パーセント。投票は一回だけで、最多得票者が当選する仕組みだから、このままいけば与党候補バジーリオ・スウの圧勝だなー」

「野党も頑張っていますわね。野党統一候補とか、出せないのでしょうか?」

 スカディが、訊く。

「まず無理だなー。政策が違いすぎるー。例えば、黄鹿はインドネシアとの経済統合を唱えているが、桃猿は逆にインドネシア経済圏からの脱却を主張しているー。緑馬はマレー系の自治拡大を求め、与党はもちろん他の野党からも煙たがられているー」

「となると、選挙妨害を行っているのが、いずれかの野党ないしその支持者、という推理が成り立つのです!」

 シオは勢い込んでそう言った。

「理屈の上ではそうですけれども、単なる選挙妨害が、いずれかの野党の利益に繋がるのでしょうか?」

 スカディが、深刻な面持ちで疑念を表明する。

「そのあたりがよく判らんのだなー。選挙妨害を行っても、メイアルーア政府の面子を潰す程度の効果しかないはずだー。多少は青鳩の票を減らす効果はあると思うがなー」

 大げさに首をひねりつつ、畑中二尉が答える。

「なるほどぉ~。とすると、謎のテロ組織の目的は、選挙と直接関係ないかもしれないのですねぇ~」

 ベルが、言う。

「二尉殿。もし選挙妨害が激化して、まともな選挙が行えない事態になったら、どうなるんだい? 選挙が中止になったりするのかい?」

 亞唯が、そう質問した。

「メイアルーアの法律では、大統領による非常事態宣言がなされない限り、選挙は予定通り行われることになっているー。仮に宣言があったとしても、中止ではなく延期となるー。選挙妨害が深刻なもので、まともに選挙が行えない事態になったら、超法規的に延期を選択せざるを得ないだろうなー」

「非常事態宣言というと、どんな時に出されるんや?」

 雛菊が、訊いた。

「地震や津波などの大規模な災害、内乱、戦争、制御不能なレベルの疫病の蔓延などに直面した場合だなー。小さな国だから、大地震や大津波に襲われたら、全土が壊滅的打撃を受ける可能性が大だー。日本は自然災害の多い国だが、ある程度国土が大きいから助かってるなー。地震も津波も台風も、被害は地方レベルで収まるから他の地方が被災地に手を差し伸べることができるー。病気で寝込んだ時に家族に看病してもらうようなもんだなー」

「そう言えば、二尉殿は未婚でお独りで暮らしていらっしゃいましたね」

 スカディが、さりげない口調で言う。

「そうだー。風邪ひいた時とか大変だぞー。……って何を言わせるんだー」

 畑中二尉が、自虐的に苦笑した。


 第三話をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ