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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 06 極寒封鎖秘密基地調査せよ!
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第二十一話

 出迎えに来てくれた三鬼士長が運転するミニバンでアメリカ空軍横田基地から板橋まで移動したAI‐10たちと石野二曹は、岡本ビルで待ち受けていた畑中二尉に対し口頭でデブリーフィングを行った。重要でない部分をカットして適宜編集済みのダイアリー・データも各自提出する。これらは後日畑中二尉と三鬼士長が分析し、得られたデータがAI‐10の警備用プログラム改良の参考資料となる。

 スカディは、自身の判断でヴァージルとマックスを逃がしてやったことを、畑中二尉に報告しなかった。当然のことながら、ダイアリー・データ内の当該箇所も削除してから提出する。AI‐10は、元々軽く無害な嘘であれば吐けるプログラムを搭載している。お世辞や励ましの言葉、楽観的な未来予測などは、厳密に言えば『嘘』であるからだ。

 警備用プログラムにおいては、この機能には制限が掛けられていたが、それとは別に『状況によって他者に偽装情報を与える』『状況によって重要な情報を隠蔽する』という機能が付け加えられていた。戦術、戦略双方において、偽装と秘匿は極めて重要なファクターであるからだ。これ無くして、軍用ロボットは務まらない。

 もちろん、これら機能は本来ならば濫用すべきものではない。だが、シオたちは今までの『特異な』経験から、場合によっては自己の利益のために『味方』に対し、真実を伝えない、あるいは婉曲な表現に止める、といった形での『嘘を吐く』というやり方を学習していた。

「よーし、みんなご苦労だったー。今日はもう遅いから、泊まっていけー。明日長浜一佐に改めて報告してから、家に帰してやるぞー」

 壁の時計を見上げながら、ジャージ姿というラフな格好の畑中二尉が言う。隣では、三鬼士長があくびをかみ殺していた。もう、真夜中近いのだ。AI‐10たちは、デブリーフィングに使っていた会議室の机と椅子を片付けた。石野二曹は、三鬼士長がミニバンを運転して自宅まで送り届けることになる。畑中二尉は、簡易ベッドを運び込んである隣室で泊まっていくことにしたようだ。寝酒とつまみを買いに、いそいそとラビットマートへと降りていった。

「しかし、ヒルダとブランドンは結局何者だったのでしょうか」

 AI‐10にとっての寝支度……床にシートを敷き、壁に寄りかかって座るという省電力モードでも安全な安定した姿勢……を取りながら、スカディが誰にともなく訊いた。

「ジョーきゅんが調べてくれれば、何かわかるやろ」

 同じような姿勢を取った雛菊が、言う。

「どこかの外国が関与していなければ、よろしいのですがぁ~」

 ベルがそう言った。もしあの二人が某国の工作員、などということになれば、事態は確実に紛糾する。

「あたいたちがぐだぐだ考えてもしょうがないのです! ここは地球温暖化防止の観点からいっても、素直に『寝る』べきなのです!」

 シオはそう主張した。

「正論だな。みんな、おやすみ」

 亞唯が言って、眼をつぶって……ロボットには必要の無い機能だが、家庭用ロボットの多くがこの『目を閉じる』機能を付与されている……省電力モードに入った。



「おはよう、諸君。任務、ご苦労だった。見事な活躍ぶりだった」

 翌朝現れた長浜一佐が、上機嫌でAI‐10たちを褒めた。

「非公式ではあるが、合衆国陸軍参謀総長名で感謝のメールも届いている。想定外の妨害にもめげず、よく任務を遂行してくれた。結果的には、空騒ぎに終わってしまったが、合衆国市民を守るためのキドニー・レイクでの活動も賞賛すべきものだ。よくやってくれた」

「大事に至らなくて、なによりですわ」

 リーダーとして、スカディが笑みをたたえつつ謙遜する。

「で、諸君らも気になっているヒルダ・ノウルズとブランドン・メラーズについてだが……」

 長浜一佐が言葉をいったん切り、パイプ椅子に座っている五体のAI‐10たちを見渡す。

「FBIが調査したところ、両名ともシーグリーン・ボートの正規職員であることが判明した」

「おっと! やはり環境保護団体というのは見せかけ! 実は世界征服を企む悪の秘密結社だったのですね!」

 シオは拳を振り上げて興奮を表しつつそう叫んだ。

「ブランドン・メラーズはサンフランシスコ支部のメンバー。ヒルダ・ノウルズはオーストラリアのアデレード支部のメンバーだ。FBIがサンフランシスコ、FBIの要請を受けたオーストラリア連邦警察がアデレード支部に乗り込んだ。その結果……」

「二人とも生きてたんだろ? SGBは名前を使われただけじゃないのか?」

 亞唯が先回りして言う。長浜一佐が、薄く笑った。

「そのとおりだ。二人とも別人で、もちろん生存していた。アラスカには行った事もないそうだ。年齢を含む外見は、アラスカで死んだ二人に酷似していたようだ」

「やはりSGBは利用されただけなのですね。でもそうしますと、ヴァージル・ハイアットとマックス・イェーリングの証言と矛盾しますわね」

 難しい顔をして、スカディが悩む。長浜一佐がうなずいた。

「ロンドン支部で会合を行った、という点と、マリア・クララ・ウェストファーレンが本物だった、という点だな。このあたりを含め、FBIが調査継続中だそうだ。本当に、SGBが絡んでいないのか……」

「一佐殿。他にヒルダとブランドンに関して判ったことはないんか?」

 雛菊が、訊いた。

「偽ヒルダに関しては、ロシア側が確認してくれたそうだ。ジーナ・ニコラエヴナ・スネシュコワ。元ロシア保健省職員。ニコライ・スネシュコフの娘。ロシア側が保管していた指紋が一致した。ブランドンに関しては、不明だ。CIAとFBIのデータベースに資料なし。指紋と掌紋、顔写真を各国情報機関、ICPO、主要国警察に送ったが、該当者は見つかっていない」

「正体不明。所属も不明。目的も不明。怪し過ぎるのです!」

 シオは息巻いた。

「偽ヒルダがロシアから失踪したのが四年前。そのこともあり、FBIもCIAも、今回の一件にロシアが絡んでいるとは見ていない。失踪以来、彼女が表舞台に現れた形跡は無い。四年間、ヒルダがどこで何をしていたのか、まったく不明だ。おそらくは、ブランドンも所属する何らかの組織にいたのだろう。そして、その組織が今回の企てを行った。そのように米国側は推定しているようだ」

「組織。何者でしょうか?」

 スカディが、眉根を寄せて顔をしかめる。

「資金力は豊富そうだな。傭兵たちへの支払いも良かったし、経費もかなり使っている。FBIが使われたクレジットカードを追ったが、ジャージー・アイランドにある銀行の偽名口座に辿り付いただけに終わった。傭兵たちに支給された武器はシリアルが削り取られていたので、追跡は無理だったが、残っていたAC58にはロットナンバーが残っており、そこから出所を辿ることができた。……二尉?」

 そこまで喋った長浜一佐が、控えていた畑中二尉に振った。畑中二尉……今朝はちゃんとビジネススーツに着替えている……が、うなずいて前に出る。

「では説明するぞー。AC58を製作しているのは、フランスの国営企業ネクスターだー。GIATが中核で、航空機とミサイル、電子機器と艦艇以外のフランス防衛産業をまとめた会社だー。ルクレール戦車からFAMAS突撃銃といった小火器まで、色々作って世界中に輸出しているー。で、今回のAC58ライフル・グレネードはカメルーン共和国政府からの正規発注品として千二百発が船積みされ、マルセイユからドゥアラに向かったー。だが、ドゥアラ港には陸揚げされず、ガボン共和国政府に転売する、という名目で、MTCという貿易会社に書類上売却された。その後、船はガボンに向かったが、リーブルヴィルに入港した時にはすでにAC58が入ったコンテナは消えていたー。まー、よくある話だなー」

「怪しすぎる会社ですねぇ~」

 ベルが、突っ込む。

「アルファベット三文字の組織や企業は、たいてい怪しい連中やで」

 雛菊が、不穏当な発言をする。

「MTCはモルジブ共和国に登記されているペーパーカンパニーだー。CIAが跡を辿ったところ、バーレーンに登記のある貿易会社に関係していることがわかったー。ギュル・トレードという企業だー」

「訊いたことないな」

 亞唯が、首を振る。

「登記簿に記載されている連中は、みな無名だー。だが、実質的に会社を支配している奴は有名人だー。お前らでも聞いたことがあるだろー。ケナン・エルテムという男だー」

 にやにやしながら、畑中二尉が告げる。

「有名な死の商人、ですわね」

 厳しい表情で、スカディが言った。

「なんと! 奴ならテロリストにでも平気で兵器を売りつけるのです! ヒルダとブランドンが属していた組織に売っても不思議は無いのです!」

 シオはそう指摘した。

「問題は、今回の一件にケナン・エルテムが絡んでいるのかいないのか、だな」

 亞唯が、深刻そうな口ぶりで言った。

「単に武器を売っただけならいいけど、奴が黒幕だった、なんて話になるとえらいことになる」

「亞唯の言うとおりだなー。ケナン・エルテムの商品カタログに例のペルー出血熱ウイルスが載る、なんてことになったら、ただでは済まんからなー」

 畑中二尉が、うなずく。

「よく判りませんが、アメリカがエルテムさんに圧力を掛けてご商売を畳ませるわけには行かないのでしょうかぁ~」

 ベルが、素朴な疑問を出す。

「それは難しいんだなー。気前のいい奴で、あっちこっちに賄賂を配りまくってるから友人が多い。それと、売却先に見境は無いが、商人としてはまともで、口は固いし納期は守るし品質保証もするしアフターサービスもいいから、結構多くのアジアやアフリカの発展途上国政府から重宝がられているんだなー。こいつを排除すれば、独裁国家やテロリストは困るだろうが、同時にいくつかの親米国家も大きな損害を蒙るんだなー。たとえば、基本的に親米だが現状では人権問題で合衆国から武器禁輸措置を喰らっている国家が、米系装備を維持するための補修部品やメンテナンス用品、弾薬などをエルテムから購入し、それを合衆国が黙認している、なんて例が結構あるー」

「なるほど。議会やマスコミや世論向けに人権重視の姿勢を見せたいが、同時に親米政権も維持させたい合衆国政府が取りうる苦肉の策というわけですわね」

 スカディが、納得してうなずく。

「ご苦労、二尉。CIAとFBIが引き続き捜査を行っているが、おそらく芳しい成果は挙げられないだろう。世界中の主要テロ組織、反米国家などにも、今回の作戦に関与した兆候はまったく見られないそうだ。既知の組織ではない、と考えるのが妥当だな。まあ、そのあたりは米国に任せておこう。諸君、ご苦労だった。今日はこれで解散としよう。ベル、君は残りたまえ。いい報せがある」

 そう告げた長浜一佐が、ベルを手招いた。

「なんでしょうかぁ~」

「以前から要望のあった改造案、西脇二佐の設計が完了した。さっそく改造に掛かりたまえ」

「ありがとうございますぅ~」

 ベルが満面の笑みで頭をぴょこんと下げる。

「改造案? 初耳ですわね」

 スカディが、小首を傾げた。

「わたくし、爆弾製造ないし改造用に、工具を持ち歩いておりますが、その数には限りがあるのですぅ~。それに、AI‐10は器用なロボットではありますが、やはり精細な作業には時間が掛かるのですぅ~。そこで、いっそのこと工具類を体内に組み込めないか、との要望を出してみたのですぅ~」

 嬉しそうに、ベルが説明する。

「そいつはいいな。ベルの爆弾は、いろいろ役立ってくれたし」

 亞唯が、喜ぶ。

「ただし、問題がひとつある。要望のあった機能を、すべて盛り込むのは無理だそうだ。そこで、西脇二佐からの提案だが、ベルに組み込むのは爆弾製造に必須の精密作業用工具に止め、別の一体にカッター類や汎用ドリルを組み込む、という形にしたいそうだ。そうすれば、君の要求した機能はほぼ網羅できる」

 ベルを見据えて、長浜一佐が説明する。

「なるほどぉ~。どなたかに協力してもらうわけですねぇ~」

「というわけだ。シオ、雛菊。いまだ改造余地のあるのは君たちだけだ。どちらか、改造を受けてもらいたいのだが」

 長浜一佐が、シオと雛菊を指差しながら言う。

「改造でありますか! シオちゃんの助手になるわけですね! それなら、あたいが適任なのです! 志願するのであります!」

 シオは勢いよく挙手して願い出た。

「うむ。雛菊、いいかね?」

 うなずいた長浜一佐が、雛菊に確かめる。

「ええよ、一佐殿。うちは改造してもらうんなら、もっと格好いいほうがええから。今回はシオ吉にゆずるわ」

 雛菊が、快く辞退する。

「シオちゃん、ありがとうなのですぅ~」

 ベルが、シオの手を取って感謝する。

「よし。ではベルとシオ以外は解散だ。三鬼士長、皆を家まで送ってやってくれ。二尉、君はベルとシオを開成工場まで連れて行き、西脇二佐に引き渡してくれ。では、解散」

 長浜一佐が宣言した。


 第二十一話をお届けします。

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