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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 06 極寒封鎖秘密基地調査せよ!
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第十八話

「掴まってろ!」

 フォークナーが怒鳴りつつ、操縦桿を微調整し機首をわずかに上げた。

 DHC‐6のスキーが、ふわりと雪原に接地する。驚くほど滑らかに脚部が雪面を滑り出し、後方にわずかな雪煙を引き摺りつつ、機体が安定した着陸滑走を行う。速度がぐんぐんと落ち、DHC‐6は無事にキドニー・レイク南岸に着陸を果たした。

「全員降機! 装備を忘れずに!」

 スカディが、命ずる。

「わしはどうすればいい?」

 フォークナーが、聞く。

「エンジン始動のまま待機していてちょうだい。二十分以内に、片が付くはずですから」

 スカディが言って、自分のSIG 540を取り上げた。

 DHC‐6を降りた一同は、疎な隊形を保ったまま雪を蹴立ててキドニー・レイク集落の南端を目指した。シオは体内クロノメーターで残り時間を確かめた。アダム到着予想時間まで、あと五分は残っている。

 粗雑なものではあったが、すでに作戦は立ててあった。アダムがまっしぐらに診療所を目指すと仮定して、集落の南端の建物を盾にして布陣、迎撃を行うのだ。西側は湖で通過するのは困難だし、集落の東側も樹林地帯である。東西どちらとも大きく迂回することは可能だが、それには時間が掛かるので、アダムは好まないだろう、という読みであった。推測が外れた場合は、診療所周辺にまで後退して迎撃することになるが、その場合診療所内に居る住人三人に被害が及ぶおそれがある。したがって、診療所の直接防衛は文字通りの最終手段となる。

「不謹慎かもしれないけど、移動の途中でミズ・アンソンが亡くなっていると、都合がいいんだけどね!」

 走りながら、ジョーが言った。

「そうですねぇ~。亡くなっていれば、診療所へ運ぶ理由が無くなりますですぅ~」

 ベルが、同意する。

「そんな偶然は期待できないわね。さすがに」

 冷静に、スカディが突っ込む。

 AI‐10六体と人間二人からなる奇妙な混成チームは、集落の南端にたどり着くと、さっそく展開布陣した。すでに、兵器の分配は済ませてある。スカディ、亞唯、雛菊、ジョー、ヴァージル、マックスがそれぞれSIG 540突撃銃を持ち、ヴァージル、マックス、それに亞唯が二発、その他の三体が一発のAC58対戦車ライフル・グレネードを支給されている。シオとベルはM240汎用機関銃チームで、サブウェポンとしてP225自動拳銃を持っていた。この他に、全員がHG85手榴弾を一発ずつ所持している。

「ここがいいのです!」

 シオは喜んだ。集落の南端に建っていたのは普通の民家だったが、積雪対策で床面が高く作られており、道路に面した玄関ポーチも高い位置にあって、路面まで階段状になっていたのだ。コンクリート製の丈夫なものなので、雪を少し掘って隠れる場所を作れば、立派な防壁となってくれる。

 シオはさっそく吹き溜まっていた雪を少し掻き出して、自分とベルの入る余地を作った。スカディがその隣に伏せ、階段から顔を覗かせるようにしながらSIG 540を構える。もちろん、すでにAC58は装着済みだ。道路の反対側では、同じような玄関ポーチを盾にして、ヴァージルとマックスが配置に着いていた。アダムが向かう可能性が低い湖側にはジョー、可能性が高い樹林側には亞唯と雛菊が配され、民家の壁に半ば張り付くような形で身を潜めている。

「シオちゃん、これを使うのですぅ~」

 ベルが、民家の裏に積み上げてあった、細目の枝を束ねた薪束を三つ抱えて持ってきた。住人によって雪が払われている玄関ポーチの上に並べ、M240を据え付ける。下がコンクリートのままでは固すぎて、射撃時に銃身が跳ね上がってしまうので、それを緩和するためである。

 長く待つ必要はなかった。全員が射撃準備を整え終わった十数秒後、スカディが無線と音声……ヴァージルとマックスは当然のことながら無線機を内蔵していない……で全員に告げる。

「レグルス24から連絡。アダム接近中。ここから南南西二千メートル」



 アダムはすでに待ち伏せを予期していた。

 DHC‐6が低空で通り過ぎるのを視認したアダムは、その機に彼の阻止を目的とした何らかの武装部隊が搭乗している可能性は高いと判断した。上空は定期航空路ではないし、このタイミングでクロフォード基地方面からチャーター機が飛来する可能性は低い。

 赤外センサーを駆使しながらキドニー・レイクに接近したアダムは、集落の南端で複数の赤外線源が不自然な形で静止していることを確認した。可視光線による光学観測では、人間などがいる様子は捉えることができない。つまりは、隠れているのだ。……ほぼ確実に、待ち伏せ攻撃を意図しているのであろう。

 アダムは接近しながら、レーザー測遠器兼照準器で集落南端の建物との距離を測った。千四百七十二メートル。

 この距離で攻撃を仕掛けてこないということは、敵は対戦車ミサイルや機関砲などは装備していないのだろう。光学センサーでも、目立つ重火器を見つけることはできない。とすると、敵の武器はせいぜい対戦車ロケットに汎用機関銃、グレネードランチャー、およびそれ以下の火力の各種兵器、という程度であろう。地雷などの敷設を行う時間も無かったに違いない。

 アダムは強行突破を選択した。じっくり時間を掛ければ、敵の戦力が増えるおそれが強い。それに、目的地はもう眼と鼻の先なのだ。ミズ・アンソンの最後の願いは、絶対に達成されねばならない。

 アダムは進路の蛇行を開始した。距離一千で、スモーク・グレネードを前方に向け斉射する。



 待ち受けるシオたちの全面に、一斉に灰白色の花が乱れ咲いた。

 軍用煙幕であることを瞬時に見抜いたAI‐10たちは、即座にパッシブ赤外線モードを併用して接近するアダムを視認しようとした。しかし、煙の中にアダムの姿は無かった。

「IR対抗煙幕ね」

 苦々しげに、スカディがつぶやく。

 通常の煙幕であれば、赤外線は透過する。だが、可視光線を遮ることができる、煙よりも大きな粒子を混ぜ込んだり、燃焼などによって周囲の空気を加熱してしまうタイプの煙幕は、その背後や内部の赤外放射源を覆い隠すことができるのだ。

『こちら亞唯。かすかだけど、放射源が捉えられている。秒速十メートルほどで、突っ込んでくるよ』

 亞唯から、AI‐10全員に通信が入った。光学系全般が強化されている亞唯は、他のAHOの子たちよりも性能のいい赤外線センサーを搭載しているのだ。

 煙幕は、シオたちの前方五十メートルほどの処まで展張されていた。弱い風に乗って、それが徐々に手前の方に漂ってくる。

『亞唯。撃てるかしら?』

 スカディが、訊く。

『煙幕から出てくる直前まで引きつけて撃つよ。みんな、あたしに倣ってくれ』

 亞唯が、そう返した。

 スカディが、音声で状況をヴァージルとマックスに伝える。

『目標はほぼ道路の正面。距離三百。なお接近中』

 亞唯が、状況を無線で実況中継する。

『そろそろいくよ。二百、百五十……』

「見えたのです!」

 シオのパッシブ赤外センサーでも、煙の中から接近しつつある赤外線源を捉えることができた。シオは構えていたM240の照準をそこに合わせた。だが、発砲はしない。下手に撃つと他の者のライフルグレネード攻撃を妨害するおそれがある。

『発射!』

 亞唯がAC58を放った。ほぼ直射に近い低めの弾道で、細長い弾体が飛翔する。対戦車グレネードの初速は、秒速七十から八十メートル程度である。現代の戦場においては、じれったいほどの低速といえようか。

 数瞬遅れて、スカディが撃った。左右から雛菊とジョーの放ったグレネードも、跡を追うように飛翔する。可視光線による視覚に頼っているヴァージルとマックスの発射が、一番最後となった。

 亞唯の放った弾体が、炸裂した。スカディ、雛菊、ジョーの撃った弾体も、命中する。ヴァージルとマックスからの弾体も、狙った位置に吸い込まれ、爆発した。

「やったか?」

 シオは身を乗り出して確認しようとした。

「シオちゃん、そのセリフは失敗フラグなのですぅ~」

 ベルが、突っ込む。

 灰白色の煙が、薄れ出した。地面に濃い灰色のクレーターが出来ているのが、煙越しに見えてくる。

 と、いきなり煙の中から『本物の』アダムが躍り出てきた。高速で、集落の方へと突っ込んでくる。

 いち早く反応したのはシオであった。M240の銃口を向け、射撃を開始する。

 アダムが走りつつ応射した。玄関ポーチに機銃弾が降り注ぎ、抉られたコンクリートの小片が乱れ飛ぶ。射すくめられたシオとベルとスカディは、思わず身を縮めた。



「生きていやがったか!」

 マックスは、驚きつつもAC58の再装填を続けた。

 ヴァージルは、いち早く再装填を済ませていた。用心深い彼は、初弾発射直後から再装填を行っていたのだ。

 ヴァージルが、AC58を装着したSIG 540を突っ込んでくるアダムに向ける。距離は、三十メートルも無い。

 危険に気付いたアダムが、M240をこちらに向けた。ヴァージルが照準を定める寸前に、発砲を開始する。

 乱射されたうちの一発が、ヴァージルの右肩に命中した。ほんの一瞬遅れて発射されたライフルグレネードは、その衝撃でわずかに狙いを狂わされた。アダムの左側面すれすれを掠めるようにして、雪原へと飛び去ってゆく。

 アダムが、ヴァージルとマックスのすぐ脇を通過して、集落の中へと走り込んだ。

「ヴァージル!」

 マックスは、SIG 540を放り出すと、自分の突撃銃を取り落としたヴァージルの身体を抱き支えた。肩から噴き出した鮮血が、白い防寒衣をじわりと染めてゆく。



「失敗したようね」

 双眼鏡で戦況を見つめながら、ノーマ・セラーズ少佐はつぶやいた。

 アダムは薄い防衛線を易々と突破し、集落の中へと入り込んだようだ。

「……歯がゆいですな」

 同じように双眼鏡で見つめながら、マイルズがそう口走る。

 KC‐10はさすがに古くなったとは言え、空中給油機としての性能はまだ一線級であり、その給油用燃料搭載量は最新型のKC‐46(ボーイング767の空中給油機バージョン)よりも上である。しかし、武装はない。一応、非常用に小火器は積み込んでいるが、乗員四名ではアダムに挑んでも蹴散らされてしまうだけだし、第一着陸が出来ない。安全に着陸するには、キドニー・レイク飛行場の滑走路三本分の長さが必要であろう。強行着陸などすれば、爆発炎上して湖の方のキドニー・レイクを少しばかり暖めることになるのは必至である。



「くそっ!」

 毒づきながら、亞唯は雛菊を引き連れ、民家の裏手を走った。錆びついたドラム缶を迂回し、雪に半ば埋もれている低い木柵を飛び越え、隣戸の脇からメインストリートへと飛び出す。

 一発目は、どうやら囮に撃ち込んでしまったようだ。今度は、外すわけにはいかない。

 アダムはすでにそこを通り過ぎ、背中を見せて遠ざかってゆくところであった。亞唯は膝を付くとSIG 540を構えた。素早く照準を合わせ、引き金を引く。

 二発目……つまりは最後のAC58が、アダムの後を追うように飛翔する。

 だが、アダムは敏捷であった。亞唯が発射したライフルグレネードを視認し、器用に進路を変更してこれを躱す。外れたAC58は、向かい側の民家の壁に当たってむなしく炸裂した。

「あかん。失敗や」

 亞唯の隣で見守っていた雛菊が、首を振る。

 アダムはなおも高速でキドニー・レイクのメインストリート……と言っても『ストリート』はこれ一本しか無いのだが……を北に向かって走ってゆく。もはや、阻止する手段はAHOの子たちには残されていなかった。目的地である診療所までは、あと二十メートルもない。三人の住人……主であるドクターと、重傷の父子がなすすべなく待ち受けている診療所まで。

 亞唯と雛菊は、立ち尽くしたままその様子を見守った。

 アダムが診療所に近付き……速度すら落とさずにその脇を素通りした。

「……アダむん、道を間違えたんか?」

 雛菊が、首を傾げる。

 アダムはなおも高速を維持しつつ、メインストリートを北上している。

「迷うような集落じゃないだろ。……間違ったのはこっちだ。アダムの目的地は、診療所じゃなかったんだ」

 珍しく唖然とした口調で、亞唯が言う。



「シオ、ベル。みんなとアダムを追って。アダムの目的地は、どうやら飛行場らしいわ」

 スカディが、命ずる。

「行きますよ、ベルちゃん!」

 シオはM240を肩に担ぎ上げた。

「はいぃ~。ですが、どうやったらアダムさんを阻止できるのか、判らないのですがぁ~」

 弾薬箱を持ちながら、ベルが言う。

 スカディは小走りに道を横切ってヴァージルとマックスに近寄った。マックスが、ヴァージルの防寒衣を切り裂いて、バトル・ドレッシングをあてがい、包帯を巻いている。

「大丈夫だ。弾は抜けている。骨も外れてくれた。出血も、死ぬようなレベルじゃない。痛いだけだ」

 心配げなスカディの表情に気付いたヴァージルが、顔をしかめながら言う。

「無茶したものね。一歩間違えれば、死んでいたでしょうに」

 スカディの言葉を聞いて、ヴァージルが表情を緩めた。

「よし。これでいい」

 治療を終えたマックスが、自分のSIG 540を取り上げた。

「アダムはどこ行った?」

 衣服を整えながら、ヴァージルが訊く。

「診療所には行きませんでしたわ。飛行場を目指しているのでは?」

「どうかな。あいつに飛行機の操縦ができるとは思えんが」

 スカディの言葉に、ヴァージルが首を振る。

「ハイジャックする気だろ」

 マックスが、言う。

「ともかく、追っかけよう」

 ヴァージルが、意外にしっかりとした様子で立ち上がった。手助けしようとしたマックスを制して、歩み出す。


 第十八話をお届けします。

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