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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 06 極寒封鎖秘密基地調査せよ!
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第十六話

 キドニー・レイク。現在の人口(一時滞在者を含む)三百十二人。

 もしこれがごくありきたりの……例えばワイオミングかアイダホあたりの田舎の集落であったなら、住民全員とペットすべてを乗せてもまだ十分にお釣りが来る程度の車両がすぐに集まっただろう。

 だが、ここはアラスカの北部である。道路と呼べるものは、集落の中にしかないのだ。当然、車は数えるほどしかないし、仮に充分にあったとしても走って逃げられる道がそもそもない。スノーモービルはあったが、もちろん集落の全員が乗れるほどの台数はない。

 というわけで、州政府からの勧告で避難を開始した人々の移動手段は、徒歩であった。幸い天候は良く、風も強くない。しかし、寒さには慣れっこになっているとは言え、屋外で夜を過ごしたりすれば凍死者が出るおそれはあり、充分に着込んだ人々は不安げに顔を見交わしながら連れ立って近郊の原野を目指し歩んだ。



 フェアバンクス市南東に位置するアイルソン空軍基地に常駐している354戦闘航空団が装備しているのは、F‐16CG(ブロック40/42)であった。いわゆる、ナイト・ファルコン仕様機である。

 訓練目的で飛行準備を進めていた二機が、突如命令変更を受けてアダムの捜索と阻止を命じられる。射撃訓練用に各機二百発の二十ミリ機関砲弾は搭載していたが、翼端のランチャーに搭載しているAIM‐120空対空ミサイルは、青帯が巻かれたダミーである。離陸が急がれたので、時間の掛かる対地攻撃装備の搭載は見送られた。対空兵装を持たない陸軍のロボットくらいなら、M61バルカン砲で楽々と片付けられるはずだ。……上官から慌しいブリーフィングを受けたパイロット二人は、そう思っていた。

 基地司令からの作戦飛行命令が出されてから十五分。F‐16戦闘機のペアは、アフターバーナーの炎で滑走路を炙りつつ、離陸した。



「キドニー・レイクから連絡です。住民三百九人が集落外に避難中。完了は三十分後の予定」

 女性准尉が、報告する。

 エフィンジャー准将が、時計を見た。アダム到着予想の十五分前には、避難が完了する。とりあえず、一安心である。

「三百九名? あとの三人は?」

 マクレナン少佐が、訊く。

「昨日スノーモービルの自損事故があって、三十代の父親と七歳のその息子が重傷を負って診療所に入院しているそうです。現状では命に別状はないが、動かすのは危険なので避難を見送ったとの事です。診療所のドクターも、付き添って避難を行わないそうです」

 准尉が説明する。

「なんと間が悪い!」

 エフィンジャー准将が、苛立たしげに両手を打ち合わせた。

「防疫資材は無いのかね?」

 マクレナン少佐が、訊いた。准尉が、首を振った。

「わたしは似たような辺境の村の出身ですが、この手の診療所に多くを求めるのは酷ですよ。マスクと手袋、消毒薬くらいしかないでしょう。エイズ感染なら防げるでしょうが……」

 准尉の声が、残念そうな響きを帯びてフェードアウトする。

「どうだ、ジュリー?」

 エフィンジャー准将が、先ほどから無線でアダムと接触しようと骨折っているライトフット中佐に呼びかける。

「駄目です。まったく反応がない。意図的に回線を閉じているのでしょう」

 ライトフット中佐が、首を振ってマイクを置いた。

「エルメンドルフAFBから連絡です。トラヴィスAFB所属のKC‐10が、単機で同基地の北西百二十マイルを西に向け飛行中とのことです。要請があれば、現場に向かわせるそうですが」

 空軍との連絡を取っていた軍曹が、そう報告した。

「アイルソンとエルメンドルフから当面飛ばせる機はないのだな?」

 エフィンジャー准将が、確認する。

「はい。アイルソンでF‐16四機が対地攻撃装備で準備中ですが、離陸は早くても四十分後の予定です。それ以外に、使える機体はありません」

 軍曹が、早口で答える。

「監視任務には使えるでしょう」

 マクレナン少佐が、そう進言した。エフィンジャー准将が、うなずく。

「よろしい。この際使える資産はすべて投入しよう。エルメンドルフに連絡。KC‐10をアダムの捜索に向かわせてくれ」



 アダムは、雪原を苦労して歩んでいた。

 背部には、保温担架が載っている。なるべく揺らさないように気をつけているので、歩みはライトフット中佐が予想したものより若干遅かった。オプションの不整地歩行用装備……『アトラス』と言う俗称が付けられている積雪地用……を脚部に装着しているにも関わらず、時速三十キロメートル以下である。

 頭部左右には、一本ずつグラスファイバー製の円筒が取り付けられていた。これもオプション装備の、デコイ・システムである。

 と、アダムの集音マイクが航空機のエンジン音を捉えた。アダムは雪の中に静止し、特定した周波数を増幅し分析した。……ターボファン・エンジンの音だ。

 さらに分析を進める。音響特性が、F‐16搭載のF100と一致する。音源は、二機。低空で接近中だ。

 アダムは、分析結果から単なる訓練飛行ではない、と判断した。二機の間隔が、開き過ぎていることに気付いたのだ。通常の訓練飛行ならば、もっとタイトな編隊を組むのが常識である。単機で飛行している機がたまたま同一方向に飛んでいるのならば、もっと離れて飛ぶはず。戦技訓練中であればこのようなルーズなフォーメーションを取ることもあるだろうが、その場合は低空を維持することなく、すぐに戦術的に有利な高度へと上昇するはずだ。

 対地目標を捜索している隊形。そうアダムは結論付けた。つまりは、自分を探しているのだと。

 ……最後の任務は絶対に完遂しなければならない。

 遅滞なく、アダムはデコイのひとつを作動させた。圧搾空気で円筒からぽんと飛び出した物体が、見る間に膨らんでアダムとよく似た形状のバルーンとなる。バルーンは、下部に付いている小さな電動ローターで雪面に浮きつつ、時速四十キロメートルほどの速度でアダムから遠ざかり始めた。

 それを見送りながら、アダムは近くの疎林の中に分け入った。ボディを半ば雪の中に沈め、赤外放射を押さえに掛かる。



「いたぞ。一時の方向、二千」

 パラス・エレメント……アイルソンAFBから急遽離陸したF‐16二機……の指揮を執る先導機操縦のミック・シャープ大尉は、二番機を操縦するディック・ホッパー中尉にそう呼びかけた。

 二機のF‐16は、雪面を移動している目標のロボットの上をあっという間に通過した。雪原に溶け込みやすい白系の迷彩塗装を施しているので、動いていなければ目視では見つけられなかったかもしれない。まあそれでも、搭載しているAN/AQQ14ターゲティング・ポッドを使えば、赤外放射を捉えて見つけ出すことが出来ただろうが。

 シャープ大尉は、目標視認をアイルソンに報告しつつ、機を旋回に入れて速度を落とした。高度も、徐々に下げてゆく。機関砲で正確な地上掃射を行うには、低空を低速で飛ぶ必要がある。

「パラス・エレメント。目標を破壊せよ。なお、目標は詳細不明だがデコイ・システムを搭載している。注意されたし」

 ブラックシープ……アイルソンの飛行管制から、簡潔な指示が返って来る。

 受領通知を送ったシャープ大尉は、パラス2に援護位置に留まるように命じた。リードを執るのはパラス1だし、対地攻撃もシャープ大尉のほうが上手い。

 兵装マスタースイッチ確認。ガンモード確認。セイフティ確認。よし。

 シャープ大尉の目が、雪面を移動する目標を捉えた。レティクルを、そこに合わせる。F‐16に搭載されているM61A1ガトリング機関砲……いわゆるバルカン砲の有効射程は千メートル以下である。射撃のチャンスは、まさに一瞬だ。

 いまだ。

 シャープ大尉の指が、一秒足らずのあいだトリガーを押した。

 約八十発のM56A3焼夷榴弾が、機体左側の銃口から吐き出された。空対空射撃用の砲弾であり、装甲貫通力は低いが、目標の装甲がMBT並みでない限り、易々と破壊できるだけの力はある。

 着弾の直前、目標が急変針した。

 雪面の一部が、雪煙に覆われる。その上を轟音を残して飛び抜けながら、シャープ大尉は攻撃が失敗に終わったことを悟った。このロボット、思ったよりも賢いらしい。

 シャープ大尉は、残弾を確認した。M61A1は、その機構上射撃停止までに時間が掛かり、その間供給された砲弾は未発射のまま弾倉へと戻されてしまう。そしてもちろん、飛行中にそれを再使用することはできない。

 攻撃できるのは、あと一回だけだ。

 シャープ大尉はさらに機速を落とした。目標の動きを先読みしようと、眼を凝らす。と、目標が急に速度を落とした。灰色の煙を、放出し始める。……煙幕だ。

 勘で狙いをつけたシャープ大尉は、機関砲を放った。すぐに全弾が撃ち尽くされる。

「外れだ、ミック」

 パラス2から、通信が入る。シャープ大尉は高度を上げながら機体を傾け、目標の様子を確認した。収まりつつある雪煙の側に、健在な目標がちらりと見えた。

 ……くそっ。

「パラス2、攻撃しろ。1は援護する」

 ……頼むぞ、ディック。



 パラス2の一回目の攻撃は、外れた。

 アダムは思案していた。このままでは、動きが取れない。キドニー・レイクへ向かおうとすれば、戦闘機に発見され、攻撃されてしまうだろう。幸い、二機のF‐16以外に『敵』は見当たらない。ここは、やられたふりをしてお引取り願うのが上策だろう。

 アダムは囮の動きをわざと鈍くした。突っ込んできたF‐16が機関砲を発射し、デコイが雪煙の中に消える。



「でかしたぞ、ディック!」

 シャープ大尉は僚機を褒めちぎった。自分で仕留められなかったのは残念だが、エレメントとしては任務を果たしたのだ。

「ブラックシープ、こちらパラス・エレメント。目標の破壊を確認した。帰投する」

「パラス・エレメント。破壊は確実か? デコイではないのか?」

 ブラックシープが、そう問い掛けてくる。

「確実に破壊した。残骸も見えている」

 雪原に生じた灰色をした楕円形の浅く広い穴……巨人が汚い足で歩いた跡のようだ……を見ながら、シャープ大尉は答えた。単なるデコイならば、あれほどはっきりとした残骸は残さないだろう。……実は、デコイに仕込まれていた特殊な塗料が爆散によって撒き散らされ、まるで大量の残骸が生じているかのように見えているだけなのだが。

「いずれにしろ、兵装を使い果たした。帰投する」

 シャープ大尉はそう宣言し、愛機の高度を上げ始めた。



 F‐16二機が去ってゆくのを確認したアダムは、隠れ場所から出るとキドニー・レイクへの『旅』を再開した。しかし、いくらも行かないうちに集音マイクがふたたびジェットエンジンの音を捉えてしまう。

 音響特性から、アダムは目標を大型の多発機、と判定した。

 となれば、民間機の可能性が高い。仮に軍用機であったとしても、輸送機や空中給油機といった非武装の機体だろう。姿を見られたくはないが、今は時間が惜しい。キドニー・レイクにたどり着くのが遅くなれば、それだけ多くの敵を呼び寄せることになる。

 アダムは歩みを止めなかった。



「こちらレグルス24。当該空域に到達。指示通り対地目標捜索に入る。以上」

 アメリカ空軍第6空中給油飛行隊に属するKC‐10……三発の大型旅客機DC‐10の貨物型をベースに開発された大型空中給油機……のエア・コマンダーであるノーマ・セラーズ少佐は、双眼鏡を取り上げるとコックピットの窓から外を覗いた。逆側を、航空機関士のマイルズが同じようにして捜索する。

「あった。ブラックシープが言っていた残骸だわ」

 セラーズ少佐は、いったん双眼鏡から眼を離すと、残骸のおおよその位置を指で指し示した。操縦しているファインズ大尉が、機体を微調整して残骸の側を通るようにする。

 灰色に塗られた巨大なKC‐10は、やや機体を傾けて残骸の斜め上方を駆け抜けた。空中給油用のJP‐8をほぼ満載……約二百キロリットル、ドラム缶換算で約一千本、重量にすると、実に百六十トンとなる……しているので、その動きはいささか鈍い。

「マーム! 十一時の方向に、何かいます!」

 マイルズが、大声でわめいた。セラーズ少佐は、すかさず双眼鏡を取り上げ、十一時の方角にレンズを向けた。

 雪原の上で、何かがうごめいている。

 ぐんぐんと、KC‐10が接近してゆく。セラーズ少佐のレンズの中で、その物体が膨れてゆく。

 軍用ロボットだ。間違いない。

「ブラックシープ。こちらレグルス24。目標を視認した。位置は……」



「なんてことだ。F‐16は失敗したのか……」

 エフィンジャー准将が、色を失った。

「デコイに引っ掛かったのでしょう」

 ライトフット中佐が、エフィンジャー准将と目線を合わせないようにして言う。

 唯一の朗報は、キドニー・レイクの住民避難が順調に行われていることである。あと十五分ほどで、診療所に残った三人……ドクターと、重傷の父子……以外は、全員が安全圏に逃れることができる。

「残念ですが、残った三人が感染しないように祈るしか手はなさそうですね」

 マクレナン少佐が、悔しそうに言う。

「KC‐10の現在位置、クロフォード基地の位置からすると……アダムの速度は時速二十五キロ程度ですね」

 ライトフット中佐が、地図からそう読み取る。

「あと三十分ほどで、アダムはキドニー・レイクに到達します」

「マイ・タイもアイルソンのF‐16フライトも間に合わないか」

 エフィンジャー准将が、壁の時計を見た。F‐16の離陸が順調に進んでもその到着はアダムよりも十数分後になるし、ウィンストン少佐のCH‐47に至っては二十数分後となる。……アダムの阻止は不可能だ。

「中佐。キドニー・レイクでのアダムの行動を予測してくれ」

「我々の予想が正しければ、アダムは真っ直ぐに診療所を目指すでしょう。そこでドクターにミズ・アンソンの治療を強要するはずです。ドクターが治療不可を告げれば、おそらく他のドクターを探すことでしょう。論理的に思考すれば、より大きな都市の大きな病院を探す、ということになります。幸い、近くに他の集落はありません。アダムはより高速な交通手段を探して飛行場に赴くのではないでしょうか」

 ライトフット中佐が、地図に眼を落としたまま答えた。

「キドニー・レイクに今現在航空機は居ないのだな?」

 エフィンジャー准将が、女性准尉に訊く。

「はい。一機も居ないとの連絡が入っています」

「念のため、レグルス24に確認してもらえ」

 エフィンジャー准将が、命ずる。


 第十六話をお届けします。

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