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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第十三話

「このような形でお会いすることを許していただき、お礼申し上げます」

 統合幕僚会議議長が、堅苦しく頭を下げる。

 執務机に座る首相が、むっつりとした顔でうなずいた。

「では昨晩の航空自衛隊入間基地襲撃事件に関して、ご報告申し上げます」

 統合幕僚長が語る事件の概要を、首相は聞き流した。おおよそは、秘書官経由ですでに耳に入っている。

「では、作戦……『スノーフレーク』は決行するのだね?」

「はい。もちろん、総理のご命令がいただければ、ですが。米国側も、決行を望んでいます」

「いいだろう。もちろん安全保障会議に諮るが、わたしとしては決行を支持したい」

「恐れ入ります。では、本題に入らせていただきます」

「本題?」

「入間基地へのブラックアウルの搬入、AM‐7の集結は極秘事項でした。統幕、陸幕、空幕内部でも、全容を知る者の数は限られています。しかしながら、REA側は公安の監視の目を掻い潜って短時間で陣容を整え、これを襲撃しました。何らかの情報漏洩があったとしか考えられません」

「妥当な推論だな」

「しかしながら敵工作員は、詳細な情報を得ていなかった模様です。ブラックアウルが組み立てられていた格納庫およびAM‐7が収容されていた格納庫に直進せずに、手近の格納庫を片端から調べているのです。あきらかに、不十分な情報に基づいて計画された襲撃作戦でした。逮捕した工作員に対する尋問はまだ初期段階ではありますが、得られた内容はこの推定を裏付けるものです」

「わかった。それで、情報を漏らしたのはどこだ? 現場か? 陸幕か?」

「漏洩源が統幕、陸幕、空幕であれば、さらに詳細な情報が工作員側にもたらされていたはずです。現場での漏洩は、まずありえません。関係者は基地を出ていませんし、通信手段もありませんので。ただ単に、ブラックアウルが入間基地に搬入され、AM‐7も集められたということだけを知り、なおかつ自由に通信を行えた人物の数は限られます」

 統合幕僚長が言葉を切り、首相を見つめた。

「……安全保障会議メンバーだと言うのか?」

「可能性は高いと思われます」

「君は……わかっているのかね、現職閣僚を疑うという事態の重大さを」

「もちろん承知しております。ですが、東京都民一千三百万人の命が掛かっております」

 統合幕僚長の重い言葉に、首相が沈黙した。

「……いいだろう。で、対策は?」

「僭越ながら、米国側と協議を行いました……」

 統合幕僚長が、細かい説明を始めた。



「……結果として、ブラックアウル三機のうち一機が全損、AM‐7も半数の五体が使えません」

「戦力半減じゃないか。これでは、作戦の成功はおぼつかないだろう」

 統合幕僚長の報告を聞き終えた経済産業大臣が、嘆息した。

「AM‐7は優秀ではなかったのかね? ゲリラごときにあっさりやられるとは、信じがたいが」

 総務大臣が、首をひねる。

「当時、すべてのAM‐7が電源を落とされ、整備中でした。当然、弾薬等は未搭載です。この状態では、反撃どころか退避すらできません」

 落ち着いた表情で、統合幕僚長が反駁した。

「では、作戦は中止かね? それとも延期するのかね」

「いえ。スノーフレーク作戦は決行したく存じます」

「十体でも成功率八割だったのだろう? 半分では、無理じゃないのかね?」

 外務大臣が、訊いた。

「ロボットを追加投入します」

「チノハマ重工の閃電か。でもあれは、重すぎるだろう。確か、二トン以上あったはずだ」

 国土交通大臣が、自衛隊兵器に詳しいところを見せる。

「おっしゃるとおりです。CHI‐14閃電は優秀なロボットですが、重すぎるうえに大きすぎて、ブラックアウルには搭載できません」

「じゃ、AM-5を載せるのか?」

「いえ。分隊支援用のAM‐5では能力不足です。AM‐7よりも軽量で、充分な火力を有していますが、自立行動能力に欠けます。本作戦に起用するのは、無理があります。そこで、民生用ロボットを起用します」

「民生用ロボット? 戦えるのかね?」

 懐疑的な表情で、財務大臣が問う。

「問題ありません。すでに、戦闘用プログラムも存在します」

「で、どの機種を使うのかね?」

 再び、財務大臣が訊いた。

「AM‐5およびAM‐7を製作したアサカ電子製の、AI‐10を使用します」

「AI‐10だって! ありゃ、ペットロボットだろう!」

 総務大臣が、驚きの声をあげる。

「AHOの子ロボ、とか言われている奴だな。息子が、一体持っているが……」

 外務大臣が、難しい顔で腕を組む。

「外見は確かに間が抜けていますが、AI‐10は基本的に優秀なロボットです」

 涼しい顔で、統合幕僚長が続けた。

「完全自立行動が可能で、稼働時間も長く、センサー類は充実しています。野外活動にも適応している。なにより、約五十キログラムと軽量です。むろん重装備は携行できないので、あくまで補助戦力としてしか使えませんが」

「それにしても、あんな家事兼愛玩ロボットが使い物になるとは思えんが」

「実は、AI‐10の優秀さは図らずも入間基地襲撃事件で証明されています」

 なおも懐疑的な総務大臣に向かい、統合幕僚長が説明する。

「マスコミ向けには伏せられていますが、侵入した工作員との戦闘でもっとも活躍したのが、実はAI‐10だったのです。工作員の逮捕も、すべてAI‐10によるものでした」

「ペットロボットに任せるなど、狂気の沙汰だ。わたしは、賛成できない」

 総務大臣が、そう言い放って首相を見る。首相が総務大臣の視線を避けるように頭をめぐらせて、経済産業大臣と防衛大臣に向けて目配せをした。

「……よろしいのですか、総理」

 防衛大臣が、問う。

「仕方あるまい。諸君、実はAI‐10は、最初から警備転用を考慮して開発された機種なのだ。開発には、防衛省も深く関わっている」

 総務大臣らに向け、首相が説明を始める。

「きっかけとなったのは、アメリカの動きだ。まだ表面化はしていないが、彼らは軍事転用が可能な民生用自立ロボットを国内で普及させようという計画を推し進めている」

「なんでまたそんなことを?」

 国土交通大臣が、怪訝そうな表情を見せる。

「今後、軍隊で使われるロボットの性能はさらに向上し、その数も増大するだろう。しかし、その開発費、調達費、維持費はいずれも大きく、アメリカのような大国でも国防予算を圧迫しかねない。そこで、平時に調達する高性能な軍用ロボットは少数に押さえ、有事の際には必要に応じて民間から自立ロボットを徴用し、低性能軍用ロボットとして活用する。そのようなプランだ」

「ロボットの徴兵制、というわけか」

 総務大臣が、納得した表情を見せる。

「市民を徴兵し、使える兵士に仕立て上げるにはかなりの時間と費用がかかりますが、ロボットならば軍用プログラムを与えるだけで済みますからね」

 防衛大臣が、補足した。

「これは、平和国家であり、防衛予算不足に悩み、なおかつロボット大国であるわが国にとって、模倣すべきよいプランだ。そこでいわば導入実験として、防衛省の協力と経済産業省の後押しにより、アサカ電子で開発されたのが、AI‐10なのだ。今回の一連の流れで、AI‐10の優秀さは証明できたと思う」

 首相が、そう締めくくって総務大臣らを見た。

「そのような経緯があるのでしたら、AI‐10を信用するしかないですな」

 国土交通大臣が言って、なおも難しい顔の外務大臣を見やった。外務大臣が表情を和らげ、仕方がないといった風情で小さく肩をすくめる。

「では、作戦の具体的なプランを訊こうか?」

 首相が、統合幕僚長を促す。

「米国の調査で、REAの二百キロトン級小型核弾頭が搬入されたのは、ヴォルホフ基地であることが判明しました。そこへ、ブラックアウル二機で、残存するAM‐7五体に加えAI‐10十体を送り込みます。降着地点は、こちらの地図をご覧下さい」

 統合幕僚長が、手元のリモコンを操作する。壁に掛けられた大型プラズマディスプレイに、映像が入った。衛星写真だ。

「この木々がまばらに生えている岩山の地下が、ヴォルホフ基地本体です。周囲にある馬蹄状の土盛りの集まりが、対空砲座です」

 指示棒を動かしながら、統合幕僚長が説明する。

「写真を広域のものに切り替えます。降着は、発見されないように十数キロ離れた箇所で行います。第一候補は、ヴォルホフ基地の北西十四キロ、ウビンスコエという村の北二キロ半ほどのところに位置する平地。第二候補は、ヴォルホフ基地の北北東十三キロ半、キジリスカヤという小村の南東二キロの森の際です。どちらも、ヴォルホフ基地までのあいだに顕著な地形的障害物がありません」

「遠すぎないかね?」

 首を傾げて、財務大臣が問う。

「降着を目撃されるわけには行きませんから。降着後、徒歩で基地を目指し、機を見て突入、核弾頭を確保、無力化します」

「無力化と言うと?」

 国土交通大臣が、訊く。

「弾頭部を解体します。爆縮型核弾頭の場合、解体してプルトニウム・ブロックを取り出し、変形させてしまえば、時間のかかる再成型を行わない限り核爆弾としては使い物にならなくなります。より正確に言うならば、起爆させてもごく一部のプルトニウムしか連鎖反応を起こさない、きわめて不完全かつ小規模な核爆発しか起こさない弾頭になります」

「ロボットにそんな作業ができるのかね?」

 総務大臣が、懸念を表明する。

「AM‐7のマニピュレーターに、プラズマ溶断機を取り付けます。ですから、十分可能です。もし、解体する余裕がなければ、爆破処理ということになります。いうまでもなくプルトニウムは放射性物質であり、危険物ですが、地下施設内での爆破であれば、民間人への被害は僅少でしょう。幸い、ヴォルホフ基地周辺は民間人立ち入り禁止区域であり、半径五キロ以内に人家はありません」

「それで、この作戦で、成功率はどの程度だと見積もっているのかね?」

 厳かに、首相が訊いた。

「七割と見積もっています」

「成功率一割減か」

 財務大臣が、つぶやくように言う。

「わたしは当作戦を決行させるつもりだ。反対の者は?」

 首相が、安全保障会議メンバーを眺め渡した。全員が、沈黙を守った。


第十三話をお届けします。

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