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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 06 極寒封鎖秘密基地調査せよ!
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第四話

「よーしお前らー。例によってブリーフィングを始めるぞー」

 石野二曹に付き添われてペリー大佐が退出すると、畑中二尉がAHOの子たちの前に立った。三鬼士長も机上のノートパソコンを百八十度回転させ、ディスプレイがシオらに見えるように調節する。

「今回の任務は、アメリカ合衆国、アラスカ州だー。一応、アラスカについて説明しとくぞー。よく知られているように、ここは元々ロシア帝国の領土だったー。しかしロシアは財政難のために、これを合衆国に売却したー。まあ、アラスカの経営があまり儲かっていなかったこともあるがなー。シベリア経営で手一杯だし、遠方過ぎて持て余し気味だったことも確かだー。ロシアから話を持ちかける形で、1867年に取引が成立したー。ちなみに、1867年といえば日本では大政奉還があった年だなー。売却価格は、七百二十万ドル。まあ、現在の日本円に直すと数百億円といった感覚だろー。格安だが、当時は毛皮くらいしか産物が無かったからなー。一平方キロメートル当たり約四ドル七十四セント。坪単価に直すと0.001567セントという安さだー」

「わたくしのお小遣いでも大地主になれますねぇ~」

 ベルが、嬉しそうに言った。

「とにかく、広大な州だー。総面積は百七十万平方キロメートルを超えるー。もちろん合衆国最大の州だー。日本の約四倍半もあるぞー。州都は、南東部の海岸沿いに細長く伸びている部分にあるジュノー。勘違いしている人も多いが、アンカレッジじゃないぞー。人口は七十万ちょっと。一平方マイルに一人、という寂しさだー。これでも増えたんだぞー。十九世紀の末に金鉱が発見され、移住者が増えたー。ゴールドラッシュが落ち着くと、また減ってしまったが、戦後開発が進むと人口もまた増え出したー。1959年には、準州から州に昇格したー。六十年代の末には油田が見つかり、これが経済大躍進の原動力となったー。いまじゃ、全米有数の富裕州だー。寒いのと物価が高いことを我慢すれば、住み易い州といえるなー。ま、寒さは半端ないぞー」

 三鬼士長が長い腕を伸ばしてノートパソコンのキーボードを叩き、ディスプレイに気候データを表示する。

「クロフォード基地があるあたりは、今現在、気温はだいたいマイナス二十度前後だー。一般に思われているほど、降雪量はないー。北日本の日本海側あたりに比べると、ずっと少ないぞー。降水量に直すと、寒い時期は月平均十数センチ程度だー。だが、寒いから解けないので、ずーっと雪に覆われている形となるー。樹木限界線の北限に近い、いわゆるタイガだなー。単一樹木による疎林と、平原がまだらに連なっているあいだに、川と湖があるといったところだー。夏場は美しいところだろうなー。当然農業にも放牧にも適さないから、誰も住んでいないわけだがー。で、お前らがまず行くのが、ここだー」

 畑中二尉の指が、ノートパソコンのディスプレイに映し出されているアラスカ全図の本土南部、アンカレッジ市あたりを指した。

「ここにあるのがジョイント・ベース、エルメンドルフ‐リチャードソンだー。ここはエルメンドルフ空軍基地と陸軍基地であるフォート・リチャードソンが一緒になった複合基地だー。まずここに米軍機で行って、米陸軍のお偉いさんに挨拶して装備を受け取ってから、ここに飛ぶー」

 畑中二尉の指が、今度はアンカレッジの北方、アラスカ本土中央やや東寄りにあるフェアバンクス市付近に移る。

「フォート・ウェインライト。言うまでもなく陸軍基地だなー。ここが進発点となるー。クロフォード基地は、このあたりだー」

 フェアバンクス市から、四百三十キロメートルほど西北西に離れた地点を、畑中二尉が指した。

「何にもなさそうなとこやな」

 雛菊が、言う。

「本当に何にも無いぞー。川と湖、樹林しかないー。今の時期、それらもみんな雪に埋もれているー。一番近い人家まで約四十キロメートル。北東に、キドニー・レイクという集落があるだけだー。イメージとしては、埼玉県のど真ん中に基地があって、他には何もない、といった感じだなー。荒川を越えたらようやくコンビニ一軒発見、というところだなー。基地に関する詳しい情報は、あとでジョーきゅんから聞いてくれー。出発は明日だー。今日はこれから西脇二佐にお前らを預けて、寒冷地仕様にしてもらうー」

「寒冷地仕様? エアコンの強化とか?」

 亞唯が珍しく真っ先にボケる。

「スノータイヤに履き替えるんやな」

 雛菊が、乗った。

「スキー装着もいいですわね」

 スカディが、言う。

「『かんじき』最強なのです! あれさえ有れば深雪もへっちゃらなのです!」

 シオは以前に見たテレビ番組で得た知識を元にそう主張した。

「たぶん、雪目対策のサングラス支給ではないでしょうかぁ~」

 ベルが、言った。

「グリースをシリコン系に変更するだけだー。潤滑性が低下するが実用に支障はないだろー。あと、念のためにこれを支給するー。持っていけー」

 畑中二尉の合図を受けて、三鬼士長が足元のポリエチレン袋を手に立ち上がった。『ラビットマート』のロゴ入り袋から箱を取り出し、ひとつずつAI‐10たちに配る。

 シオは渡された紙箱をしげしげと眺めた。椰子の木が生えている砂浜と、燦々と輝いている太陽。海で飛び跳ねているイルカ。これらが、コミカルな絵柄で描かれている。上の方には、ピンク色の文字で『トロピカイロ』とある。

「使い捨てカイロですわね」

 スカディが、言う。

「業界では使いきりカイロ、と言うそうだー。使い捨て、では体裁が悪いんだろうなー。寒すぎて機能に支障が生じそうだったら、その部分にぺたんと張っておけー。手軽だが充分に効き目があるぞー」

 畑中二尉が、説明する。

 シオは箱をひっくり返した。『貼るタイプ 三十枚入り』と記してある。

「これをぺたぺたと貼って、作戦行動するのか。冴えない画だねえ」

 ジョーが、肩をすくめた。

「故障ばかりしている引退間近の相撲取りみたいやな」

 雛菊が、笑う。

「通常の防寒着も支給するから、安心しろー。もちろん、迷彩効果を考えた白だー。あと、防寒対策済みの予備バッテリーも支給するー。念のため、お前らの体内発電機用にガソリンも予備を含めて支給しとくぞー」

「現地の電力事情は、どうなのですかぁ~」

 ベルが、質問した。

「ディーゼル発電システムが、全ての電力を賄っているー。それに加え、予備の小型ディーゼル発電機もあるそうだー」

「燃料の備蓄がたっぷりあることが、問題のひとつなんだよ」

 畑中二尉の言葉を引き取るような形で、ジョーが説明を始める。

「天候悪化などで孤立した場合に備えて、クロフォード基地には大量の軽油が備蓄されているんだ。さらに、補給に来るヘリコプターが給油を必要とした場合に備え、ジェット燃料もかなりの量が確保されている。現在、赤外放射からの分析では、一部しか発電機は稼働していないようだね。この調子でいけば、あと一年くらいは燃料は持つだろうね。電力の供給がなくなれば、さすがのアダムもお手上げなんだろうけど」

「では、電気は心配ないのですね!」

 シオは安堵した。電動ロボットにとっては、電力の供給は文字通り生命線である。

「武器はなにを支給してくれるんだい?」

 亞唯が、訊く。

「基本的には丸腰だー」

「爆薬も無しなのですかぁ~」

 畑中二尉の返答に、ベルが情けない顔をする。

「おいおい。Mk8八体相手に戦うつもりかね? いくら諸君でも、荷が勝ちすぎると思うぞ」

 長浜一佐が、苦笑いする。

「絶対に勝てないよ! マレットMk8FSが四体、ATが二体、ADが二体、それにHR‐2000が八体、加えて偵察に行った四体もおそらくアダムの指揮下にあると推定さているんだよ! 詳しいスペックは、みんな知ってるだろう?」

 呆れ顔で、ジョーが言う。メジャーな軍用ロボットなので、それらのスペックはみなシオたちのメモリー内に入っている。Mk8FSは通常の地上戦闘火力支援タイプで、武装はMk47/40ミリグレネードランチャーとM134『ミニガン』、ATは対戦車タイプでジャベリンATMとM240汎用機関銃、ATは防空用タイプでアベンジャー・システム搭載。HR‐2000はM240とライオット・ガンで武装している。……たしかに、AHOの子たちでは重武装して挑んだとしても敵わない相手だろう。

「下手に武装していっても、蹴散らされるだけだ。今までの例からして、無抵抗、非武装で行けばアダムは攻撃してこないだろう。内部に入り込み、調査して報告する。アメリカ側が最優先で求めているのは、情報だからな。諸君は臨機応変の行動が得意だろう。その能力を、最大限に発揮して欲しい」

 長浜一佐が、励ますように言う。

「親玉のアダムだけ隙を見て制圧すればいいんじゃないか?」

 亞唯が、そう提案する。

「それができれば苦労はしないよ」

 ジョーが、苦笑いを浮かべた。

「HALT1は軽武装だけど、その他の自衛用装備は呆れるくらい充実しているんだ。高価値目標だからね。各種ジャミング装置、ECCM(対ECM)装備、赤外線欺瞞システム、トラック・ブレーカー。オプションで、デコイ・システムも付けられる。逃げ隠れするのは、得意なんだよ。もちろん、アダムの今回の振る舞いは分析研究しなければならないから、破壊してもらっては困るしね」

「なるほど。正面から堂々と交渉するしかないわけですのね。では、通信手段は何を与えられますの?」

 スカディが、訊いた。

「衛星電話を持たせる。たぶん、アダムに没収されるだろうがな。バックアップ手段として、アメリカ陸軍がクロフォード基地の近辺に衛星回線を使用した無線機を設置してくれる。周波を諸君らのFM無線機に合わせてくれるから、これを利用してフォート・リチャードソンはもちろん、こことも連絡が可能だ。まあ、いずれにしてもアダムは封鎖態勢を理由に外部との連絡を禁じるだろうが。緊急時にしか使えないな」

「回収手段はどうなるのですかぁ~?」

 ベルが訊く。シオも、それが気になるところであった。なにしろ、孤立した軍事基地である。しっかりとした離脱の手段がないのは不安である。

「フォート・ウェインライトにCH‐47が二十分待機に置かれる。二時間以内には回収できるはずだ。最悪の場合は、空軍に支援してもらうことも可能だろう。近くに空軍基地があるからな」

 長浜一佐が答えた。フェアバンクス市の南東近郊には、航空自衛隊も参加するレッドフラッグ・アラスカ演習……以前はコープ・ノースと呼ばれていた……が行われることで有名なアイルソン空軍基地がある。

「生存者がいるかも知れないし、ジョーカー計画に絡んでアダムも回収したい。クロフォード基地をナパームで焼き尽くしてなかったことにする、というわけにはいかないんだ。みんな、頼むよ」

 ジョーが、説得口調で言う。

「今回は、諸君らは完全に米陸軍の指揮下で行動してもらう。石野二曹がフォート・ウェインライトまでは同行するが、もちろん指揮は執らない。情勢が許せば、随時ここと連絡を取ることはできるが、こちらとしては助言くらいしかできない。そのあたりをよく認識しておいてくれ。ジョー。その分君に負担が掛かると思うが、頼んだぞ」

 立ち上がった長浜一佐が、ジョーの肩を叩いた。

「任せてください、大佐」

 ジョーが、ない胸を張る。

「スカディ。あとは任せるぞ」

「最善を尽くしますわ、一佐殿」

 スカディが、厳かに言って優雅に一礼した。



「シオちゃん、どこへ行くのですかぁ~」

 エレベーターに乗り込みながら、ベルが訊いた。

「ラビットマートでお買い物をするのであります!」

 シオは低い位置にある身障者用のボタンで一階を押した。ちなみに、石野二曹から『外出』の許可はちゃんともらってある。

 エレベーターが一階に着くと、二体はさっそくラビットマートの店内に入った。午後早い時間帯なので店内は空いていた。ロボットのお遣いなど、今時珍しくもなんともないので、雑誌コーナーで立ち読みしていた学生風の青年も、弁当コーナーで商品を選んでいた作業服姿の男性も、シオとベルに一瞥もくれなかった。

 シオは店内カゴを持つと、入口側の生活用品コーナーに向かった。フックに掛かっていた『釘セット』を取り、カゴの中に入れる。

「修理でもするのですかぁ~」

 ベルが、不思議そうに首を傾げる。

 次いでシオは生鮮食品が置かれている冷蔵ケースに向かった。バナナをひと房取り、これもカゴに入れる。

 レジカウンターに向かったシオは、茶髪の若い女性店員に会計を頼んだ。私物のポーチから小銭入れを取り出し、聡史からもらったお小遣いを使って会計を済ませる。もらったレシートは、丁寧に折り畳んで小銭入れの中に押し込んだ。

「バナナと釘ですかぁ~。なんとなく、シオちゃんがやりたいことが判ってきましたぁ~」

 コンビニを出ながら、ベルが嬉しそうに言った。

「そうなのです! 以前にテレビで見たのです! マイナス二十度ならば、バナナで釘が打てるはずなのです! 一回やってみたかったのです!」

 シオはコンビニ袋を誇らしげに掲げながら言い放った。


 第四話をお届けします。

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