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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 05 中国軍用ロボット技術情報回収せよ!
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第二十四話

「ただいまなのです!」

 シオはで玄関で出迎えてくれたミリンに、元気よく挨拶した。

「お帰りなさい、センパイ!」

 ミリンが嬉しそうに、出迎えの言葉を述べる。

「あたいが留守中、変わったことや困ったことは無かったでありますか?」

 ずかずかと上がり込みながら、シオは訊ねた。まだ午後も半ばなので、聡史は仕事に出かけていて留守である。

「はい、特にありませんでした」

 シオのあとについて歩みながら、ミリンが答える。

「それは良かったのであります!」

 シオは座布団の上にどっかりと腰を下ろした。ミリンが、正対して正座する。

「それでセンパイ、今回はどこに行かれましたの?」

「ここだけの話ですが、中国に行ってきたのです!」

 シオは声を潜めて答えた。

「まあ! パンダさんはいましたか?」

「残念ながら、パンダは見なかったのです! 代わりに、ワンコがいっぱい居ました!」

「まあ、ワンちゃんですか! 中国のワンちゃんといえば、やっぱりペキニーズとかチャウチャウですか?」

「いえ! ジャーマン・シェパードだったのです!」

「中国なのに、ジャーマン・シェパードだったのですか……?」

 ミリンが、不思議そうな顔で首を傾げる。

「そうなのであります! 躾がなっていないワンコだったので、お仕置きしてあげたのであります!」

 得意げに、シオは言った。

「ついでに、チーターもいたのです! こちらもさくっと退治してきました!」

「……中国なのに、チーターさんですか?」

 ミリンが、困惑の度を深める。



「んー。特に何もなかったなー」

 留守中何事もなかったか、というシオの質問に、聡史がそう答えた。

 いつも通りの夕食の席である。箸を使う聡史の右斜め前に、座布団に正座したシオ。左側に、いつでもご飯のお代わりに応じられるように、しゃもじを手に待機しているミリン。ちゃぶ台の上には、冷凍物の鳥のから揚げ、レタスとプチトマトと缶詰の豆のサラダ……これならば、包丁を使えなくても作れる……、パック入りのサトイモの煮物、漬物、インスタントの味噌汁、といった品々が並んでいる。

 点けっぱなしのテレビは、ニュース番組を映し出していた。大きな事件事故などもない平和な一日だったらしく、地方の時代祭りの映像などが流れている。背に旗竿を立てた鎧武者たちが、観光客の構えるカメラの前を練り歩いてゆく。

 映像が切り替わる。スーツ姿の恰幅のいい東洋人男性が、ひょろりと背の高いアフリカ系男性……こちらもスーツ姿だ……と握手している。

「東アフリカ、キファリア共和国のヨハン・ジェレエ大統領は、同国を訪問中の中国のユン交通運輸部長と会談し、計画中であった高速鉄道建設を正式決定すると表明しました。これは、東アフリカ初の高速鉄道建設計画となります」

 女性アナウンサーの声が、映像に被る。

「キファリア交通省の発表によれば、内陸部の首都ミティシタ市から海岸部の港湾都市バンダリカーサ市までの百八十キロメートルを結ぶ予定で、ルートはほぼ在来線と平行する模様です……」

 キファリアの簡略な地図が映し出され、白い丸で表されたミティシタとインド洋に臨むバンダリカーサの間に伸びた赤い線で、建設予定路線が表示される。

「金があるなあ、キファリアは。まあ、ほとんど中国が融資するんだろうが」

 ヒヨコマメとキドニービーンズを箸でつまみながら、聡史が言う。

「東アフリカは貧乏国家揃いなのでは?」

 シオはそう訊いた。

「基本的にはそうだな。観光で儲けているセーシェルと資源輸出で儲けているキファリアは別だが。以前から石炭と宝石を産出していたし、最近じゃ天然ガス輸出して儲けてる。隣接国への電力供給もやってるみたいだしな。ま、アフリカじゃ経済に関しては勝ち組だよ。……政治は独裁体制だけどな」

 画面には、中国製の高速鉄道車両が映っていた。資料映像の文字が隅の方に出ている。

「CRH380Aだな」

 聡史が、そう識別する。

「なかなかかっこいい列車なのです!」

 シオはそう言った。なかなか垢抜けた感じで、中国工業製品によく見られる野暮ったさがない。

「当たり前だ。このCHR380AはCHR2がベースとなっている。そのCHR2のベースになったのが、新幹線のE2系だからな」

 聡史が、笑った。

「おおっ! パクられたのですね!」

「いやいや、正規の輸出&ライセンス生産だよ。まあ、技術をパクられるのが見え見えなんで、危ぶんだり批判したりする声は当初からあったがな」

「お詳しいんですね」

 感心したように、ミリンが口を挟む。

「マスターは実は鉄オタの気があるのです!」

 シオは声を若干落としてミリンにそう告げた。

「まてまて。他人よりも鉄道が好きなだけだぞ。それに、JR以外も好きだからな。本物の鉄オタの皆さんは、JRにあらずんば鉄道にあらず、という人が大半だからな」

 半笑いで、聡史が言い訳する。

「そうなのでありますか?」

「……ちょっと極端だが、私鉄や海外の鉄道に興味がない、という鉄オタは多いと思うぞ。それほともかく……大丈夫かねえ、中国の高速鉄道は」

 味噌汁の碗を持ち上げながら、聡史が言った。

「CHR1がカナダ資本でドイツに本社があるボンバルディア系。CHR2がJR東日本と川崎重工。CHR3がドイツのシーメンス。CHR5がフランスのアルストム。国もメーカーもばらばらだ。技術のつまみ喰い、といわれても仕方がない」

「色々な国の技術を学んでいるところではないのでしょうか?」

 ミリンが、首を傾げつつ言う。

「自動車や航空機なら、まだ理解できるがな。高速鉄道は、列車だけで動くもんじゃない。専用線路や運行ノウハウも含めた、パッケージ化されたシステムなんだ。闇雲に外国の車両を買い込んで模倣しても、意味は薄いよ」

 テレビの画面は別のニュースに切り替わっていた。ラテンアメリカらしい風景の大都市の路上を、デモ隊が練り歩いている。アナウンサーの説明によれば、アマゾンの熱帯雨林開発に反対するデモらしい。

 画像が切り替わり、マイクを片手にデモ隊をアジっている若い女性が映し出された。背が高く、赤味がかった金髪にラテン系らしい浅黒い肌というエキゾチックな組み合わせの美人だ。シオには見覚えがあった……というよりは、世界的に有名な女性である。過激な環境保護NGO『シーグリーン・ボート』の広報部長を務める、マリア・クララ・ウェストファーレンである。

「『アオミドロ』か。ようやるよ」

 食事を続けながら、聡史が鼻を鳴らす。『アオミドロ』は、日本のネット上などで自然発生した、『シーグリーン・ボート』の侮蔑的な愛称である。環境保護活動だけでなく、反工業化、反グローバリズムなどを掲げて過激な活動を続け、一部ではエコ・テロリスト呼ばわりされているSGB……『シーグリーン・ボート』の正式な略称……の攻撃対象には当然工業国にして経済大国である日本も入っており、大抵の日本人はSGBを胡散臭く思っているのが現状である。

「わたしもSGBは嫌いですわ」

 ミリンが、めずらしくはっきりと否定的な意見を表明する。

「もちろんあたいも嫌いなのです! あたいたちヒューマノイド・ロボットの敵なのです!」

 シオも同調した。キリスト教原理主義的傾向のあるSGBは、ヒューマノイド・ロボットに対しても『神への冒涜』に繋がるおそれあり、として反対の立場を取っているのだ。

「何でもかんでも反対だからな、奴らは。反戦、反軍、反原発、反開発、反狩猟、反化学肥料、反遺伝子操作、反堕胎……。まあ、反対運動には人を惹きつける不思議な魅力があることは事実だが」

 聡史が、達観したように言う。

「SGBなんて結局中二病患者の集まりなのです!」

 シオはそう断言した。

「流されない俺カッケー、とか思ってるに違いないのです!」

「基本はそうなんだろうな。だが、SGBとなると小国の国家予算規模の活動資金持ちで、世界中に数十万人規模の活動家とその数倍の賛同者がいるからなー。無視できる存在じゃない」

 聡史が言う。例によって、この手のNGOには著名人の賛同者も多く、支持や献金を公表している人物の中にはハリウッドスターや世界的に有名なミュージシャン、芸術家、映画監督などもいるし、ノーベル賞受賞者までいる。日本でも、支持を表明している学者やジャーナリストも何人かいる。……なぜか思想的に左傾している人物ばかりであるが。

「よし、ごちそうさま。ミリン、ビールを一本くれ」

 箸を置いた聡史が、ミリンに頼む。

「待つのです! ここはあたいの出番なのです!」

 シオは立ち上がろうとしたミリンを手で制すると、素早く冷蔵庫に向かった。指先のセンサーで充分に冷えていることを確認した缶ビールを取り出し、ちゃぶ台の上に置く。

「マスター! たまにはあたいに開けさせて欲しいのです!」

「ん、いいよ」

 シオは缶ビールのプルタブを引き開けた。

「どうぞ!」

「ほい」

 受け取った聡史が、ひと口目を美味そうに飲み下す。

「あらあら、おつまみがありませんわね。何か用意しましょうか?」

 ミリンが慌てたように言って、腰を浮かした。

「いいよ。食べたばっかりで何も入りそうにないし。久しぶりに揃ったお前たちの顔でもつまみにしながら、飲むよ」

 嬉しそうに聡史が言って、二口目を流し込んだ。


 第二十四話をお届けします。これでMission05完結です。次回からMission06開始となります。ネタは生物兵器の予定です。

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