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突撃!! AHOの子ロボ分隊!  作者: 高階 桂
Mission 01 東京核攻撃を阻止せよ!
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第十話

 四十分後、入間基地の正門を入った高機動車は、白ペンキが剥げかかっている古そうな木造建物の前で停車した。石野二曹に命じられ、シオらは一体ずつ自分の銃ケースを持つと、高機動車を降りた。出迎えてくれた航空自衛隊員の案内で、狭い一室に通される。

「入間基地警備小隊の川尻一曹だ」

 待ち受けていた青い制服を着込んだ航空自衛隊の一曹が、言った。

「まずはこれを見て記憶してくれ。当基地の全体図だ」

 一曹が、机の上に紙を広げる。シオらはそれをスチール撮影し、デジタルデータとしてメモリーの中に取り込んだ。

「諸君ら臨時ロボット302分隊の担当地域は、この滑走路南端付近だ。ここを、当面のあいだ1800から0600まで警備してもらいたい。正確な担当区域は、図で青い斜線が引かれてある箇所だ」

 一曹が、節くれだった指で紙の一部を指す。

「諸君らの北側を警備するのは、AM‐3の分遣隊だ。すでに、諸君らに関するデータはロードしてあるから安心してくれ。警備の要領は、陸上自衛隊教範の警衛の項を参照すること。不審者を発見したら警備小隊に報告。実弾を配布するが、発砲は自衛の場合であっても禁止。無線での警備小隊からの発砲許可、警備小隊員、警務隊員、および警備任務中の陸上自衛隊員による口頭での許可、あるいは302分隊長による命令がない限り、撃ってはならない。発砲以外の自衛行為は、制限なし。では、機関拳銃の装着を行え」

 シオらは銃ケースから機関拳銃を取り出すと、他のAI‐10と手助けし合いながら、右腕に装着した。ケーブルも繋ぐ。

 一曹が出してくれた箱から、9ミリ弾を箱弾倉に二十三発詰め込む。次いで一曹がシオらに渡してくれたのは、腕章だった。紺色の地に、白で『陸上自衛隊』と描いてある。全員が、それを付けた。ノースリーブの亞唯は、両面テープを借りて直接腕に貼り付ける。

「最後にこれだ。急だったから、こんなものしか用意できなかった」

 一曹が、人数分の帽子を取り出す。安っぽい黒のベースボールキャップだが、前面に大きく白地に赤の日の丸シールが貼り付けてある。

「頭に入らないのですぅ~」

 ベルが、帽子を頭に載せて困り顔をする。……AI‐10の頭部は、普通の人間よりも大きいのだ。

「載せているだけでいい。臨時とは言え警備支援ロボットだからな。国籍と所属を詳らかにしないと、戦争犯罪になってしまう。ほら、これを使え」

 一曹が、髪留めやピンが入った箱を差し出した。一同は、それらを使ってキャップを髪に留めた。夏萌だけは、ネコ耳が帽子と干渉するのか、不満顔だ。


 再び高機動車に乗り込んだ十体は、構内道路を走って滑走路南端に向かった。入間基地にある滑走路は一本だけで、長さ二千メートル。南端は真南ではなく、十度東に傾いている。

「担当区域の真ん中に、充電場所を設けておいた。ここだ」

 後部に同乗した一曹が、止めるように運転手に合図する。境界フェンスに隣接する照明灯から電源を取り、コンセントを四つ備えたボックスが設置されていた。

「では、ここから東側を一組、西側を二組の担当にしましょう。三体が、等間隔に並んで見張りを。二体が、担当区域を巡回。これでいいわね。とりあえず全員、歩き回って3Dマップを作成してちょうだい」

 石野二曹に命じられた十体は、うろうろと周囲を歩き回った。すでに八時近くで、あたりは暗かったが、光量増幅装置が使えるので3Dマップ作成に支障はない。

「できた? では、弾倉の挿入を許可します。何かあったら、即座に無線で警備小隊とわたしに連絡すること。いいわね。充電は、適宜行ってよろしい。では、配置について」

「了解なのです!」

 シオは石野二曹に向かって気合の入った敬礼をした。十体のAI‐10は、組ごとに分かれて打ち合わせを開始した。

「わたしくしと夏萌で巡回しましょう。シオは担当区域境界から五十メートル南。ベルが南東の角。シンクエンタが充電場所の東五十メートルの位置。よろしくて?」

 てきぱきと、スカディが命ずる。

「了解なのです、リーダー」

 シオはベルと一緒に、外周道路を走り出した。

「わたくしの位置は、ここなのですぅ~」

 南東の角で、ベルが立ち止まる。

「ではベルちゃん、がんばって防衛するのです!」

「お気をつけてぇ~」

 ベルが、ひらひらと左手を振った。

 シオは走り続けた。メモリー内の3Dマップを確認し、スカディに指示された位置で止まる。

「ここで見張るのです!」

 とりあえずシオは、光学的にあたりを観察した、背後には南北に細長い林があり、見通しが悪い。正面には、侵入防止センサー線付きのフェンス。その向こうは、畑だ。

「お茶畑が多いのですね」

 右手の方には、何十軒もの民家が密集していた。窓からは、白や黄色の明かりが漏れている。左前方には、学校らしい大きな建物も見えた。そのさらに向こう、四百メートルくらい離れたところを、明るいライトで闇を切り裂きながら電車がごとごとと通過してゆく。

「なんか、心細いのです」

 シオは困り顔をした。もちろん、ロボットであるから寂寥感など覚えようがない。しかし、メモリーの中にはより人間的な感情表現ができるようにと工夫されたプログラムがあった。『夜』『暗がり』『ひとり』『始めての場所』などのキーワードや外部状況から、シオは人間の感じる『不安感』に近い計算結果を得て、それを表情や独り言で表現したのだ。弱いところを見せて他者の同情や共感を得るのも、愛玩ロボの機能のひとつである。

 シオは南方へと視線を転じた。パッシブIRモードで見ると、ベルの存在がわかった。

「近くに仲間がいるというのは心強いのです!」

 今度は北方を見る。こちらには、のそのそと動き回っているAM‐3の姿があった。小さな六輪タイヤで移動する、旧式な自衛隊制式の警備支援ロボットである。搭載されている武器は、基本的には非致死性ゴム散弾を発射する自動銃だけだが、今は通常の金属散弾が装填されているはずだ。

「彼らもアサカ電子製のお仲間ですが、あんまり頭が良くない子たちなのであります」

 AM‐3も一応自立行動できるが、その機能は限定的であり、ごく原始的な学習機能しかない。AI‐10であれば、始めて連れてこられた場所でも、速やかに3Dマップを作成し、自由に動き回ることが可能だが、それはAM‐3には不可能な芸当だ。

 シオの体内クロノメーターで十五分ほど経過したところで、徒歩巡回中のスカディと夏萌が現れた。

「異常はありませんか?」

「ないのであります、リーダー!」

 シオは元気よく答えた。

「分隊長と亞唯と相談して、警備担当区域にコードを定めました。充電地点がA。シオ、あなたがいる地点がB。以降、時計回りにC、D、E、F、Gと呼称します。よろしいわね?」

「合点承知であります!」

 その夜は、何事もなく過ぎていった。シオは夜半過ぎに、見張りを夏萌と交代した。一時間ほど充電してから、ベルと一緒に巡回任務に就く。夜明け前に、シンクエンタと交代したシオはD地点で見張りを始めた。あたりが、徐々に白んでくる。

 と、シオのFM無線機が電波を受信した。音声交信だ。

「分隊長から302分隊各員へ。0542前後に、着陸機あり。注意せよ。以上交信終わり」

 石野二曹の声が、告げる。

 シオは体内クロノメーターをチェックした。午前五時二十二分だ。

 空はすっかり明るくなった。通常光学モードでも、充分にあたりを見通すことができる。広がる茶畑の上を、早起きの雀の群れが飛んでゆくのを、シオは眺めた。

 ぼーっというエンジン音を捉え、シオは南の空を振り仰いだ。空中の黒点を見つけ、電子的にズームする。

 ジェット機であった。濃いグレイに塗られた、四発の高翼機。映画で見たことがある機種だ。それが、高度を落としながらぐんぐんと近付いてくる。

「分隊長が言っていた着陸機なのですね。大きいのです!」

 シオの口が、ぽかんと開いた。『初めて見る』『大きい』などの条件に触発された、驚きの表情である。

 エンジン音が、やや甲高くなった。入間基地の滑走路幅よりも大きそうな主翼が、シオに覆いかぶさるように近付いてくる。音量の増加を感知したシオは、入力レベルを絞った。

 轟音とともに、ジェット機がシオの頭上を通過した。主車輪が、滑走路に接する。驚くほど短い滑走で停止したジェット機が、くるりと方向転換して駐機場の方へとしずしずと進んでゆく。胴体には、これも映画で見たことのあるアメリカ軍のマークが黒く描かれていた。

「はるばるアメリカから飛んできたのでしょうか。ご苦労なことなのです!」



 夜間警備任務を無事に終えたシオたち臨時ロボット302分隊は、陸上自衛隊の正規隊員に任務の引継ぎを済ませると、機関拳銃から弾倉を引き抜いた。迎えに来た石野二曹が運転する高機動車に乗り込む。

「格納庫のひとつが、ロボット専用の待機場所になっています。そこで、夜の任務まで待機していて。メンテナンスも、そのあいだにお願いね。修理や部品交換が必要な場合は、早めに申し出ること」

 石野二曹が、指示を出す。

 高機動車を降りたシオらは、機関拳銃を外し、銃ケースに戻した。弾倉から実包も取り出し、きっちり数を数えてから返納する。弾倉のスプリングも、チェックする。

 格納庫の中には、六十体ほどのロボットがいた。半数は、AI‐10だ。残りは、様々な自立作業ロボットと、高性能な介護ロボットで占められている。

「お仲間がたくさんいて嬉しいのですぅ~」

 ベルが、はしゃぐ。

「まずは、仕事を済ませてしまいましょう。機能に不具合のあるひとはいるかしら?」

 スカディが、訊ねた。

「絶好調なのであります!」

「不具合は、ありませんですぅ~」

「調子いいよ」

「……問題ない」

「任務遂行に支障はないよ」

「問題ないでぇ」

「ありませんわ」

「快調だよ!」

「ございません」

 九体が、いずれも否定した。

 家庭用であるがゆえに、AI‐10のようなロボットはきわめて故障を起こしにくいように考慮されている。セルフチェック機能で不具合を予測することも可能だし、年に一回はメーカー側で定期検査(別名入院)が行われ、その際に磨耗し易い可動部品の多くが交換される。その他の部品も定期的な交換が推奨されており、通常稼動で故障を起こす確率は低い。

「では、各自充電と自由行動ということで、よろしいかしら?」

「自由行動ねえ。外へ出ちゃあかんのでしょ?」

 雛菊が、不満げに言う。

「テレビが見たいのであります! 暇つぶしには、最高なのです!」

 シオは右拳を突き上げた。マスターが仕事に行っているあいだは、ほとんどの時間テレビを見て過ごしているのが、シオの日常である。

「わたくしも情報の収集をしたいですわ。教範によれば、基地内でのインターネット接続は自粛すべきようですし」

 スカディも、シオに同調する。

「テレビチューナーなら、わたしが持っていますが」

 エリアーヌが、切り出した。

「すごい。エリちゃんのマスターは、お金持ちなのです!」

 シオはそう言った。AI‐10には、購入時に多くのオプションを付けることが可能であり、テレビチューナーもそのひとつとなっている。ちなみに、シオは聡史の懐具合の事情から、ほとんどオプションを持っていない。

「わたしのマスターは、普通のサラリーマンですが」

 エリアーヌが、冷静に言い返す。

「でも、ディスプレイがないとみんなで見れないよ」

 ライチが、言う。

「せやな。ライちんの言うとおりや」

 雛菊が、うなずく。

「分隊長に相談してみようか。こんなことで無線使うな、と怒られそうだけど」

 亞唯が言って、石野二曹を呼び出し始めた。

「何とかしてみるって」

 しばらくして通信を終えた亞唯が、安堵の表情で言った。


 石野二曹が官舎から『調達』してきた古いテレビに、エリアーヌがケーブルを繋ぐ。

 今日も、在京キー局はひとつを除いて報道特別番組一色であった。

 日本とREAの直接的交戦は、幸いなことにいまだ行われていないようだった。未確認情報では、日本海を哨戒していた海上自衛隊護衛艦が異常接近する潜水艦を捉え、これに対し艦載ヘリコプターが発音弾を投下するという事態が生じたようだが、潜水艦が遁走したので大事には至らなかったらしい。

 エリアーヌが、適宜チャンネルを切り替えて行く。十体のAI‐10は飽かず画面を注視し続けた。


第十話をお届けします。

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