転生者の独り言
―――ある少女の最期の声―――
胸の中央を熱い何かが突き刺さった・・・と思ったときには、世界は暗転していた。
気が付けば魂魄が肉体を離れ、急速にどこかへ引っ張られていく。
うそ、うそ、うそ。
最後にちょっとだけ見えたけど、あの死体が私だなんて信じない!
どうして?
皆が幸せになるように行動したのに。
どうして?
皆が幸せになったら帰れるんじゃないの?
だって、これは私の物語。私の作ったゲームで、夢で、作り物で!
なのに・・・どうして?
ハッピーエンドになったら帰れるのがお約束でしょ?
寝坊しながら起きたらお兄ちゃんに叱られるの。
でもママが笑いながら朝ごはん出してくれるの。
パパが出かける前に頭をなでてくれるの。
どうして目が覚めないの?
どうして?
あれが現実だったら・・・私は・・・人を・・・ころし・・・死んで・・・ああぁぁぁあ・・・。
―――少女の声は途切れた―――
睡蓮華仙と呼ばれる少女だった魂魄は世界の核に溶けて消えた。
次の生を受けるまでにすべての記憶を洗い流し、輪廻をめぐる準備をするのだ。
虚は世界とつながった感覚を丹念になぞって、そのことを確認するとにんまりと笑った。
すっかり空中散歩が気に入った彼は戦乱が終わったあと、ほとんど地上におりずに生活している。
あのあと、芙蓉華仙と望貴人、そして風天子も参加して三国を対立させた。
そして呉が滅び、蜀が魏に下り、魏が内側から滅び、さらに西晋という国ができるまでに50年以上の月日が流れた。
今でもときどき彼らには会っているが、自由気ままに風にながされる日々だ。
相変わらず風天子は芙蓉にちょっかいをかけ、望貴人は酒を吞んでいるので、彼らもまた自由に生きているのだろう。
「こういう生活も悪くねえな。前のときは会社のためって、めちゃくちゃ働いてたからなあ・・・俺」
空中で鳥とすれ違いながら、虚はからからと笑った。
「あの女の子はかわいそうだったなあ。俺が殺したんだけどさあ。転生者はもっとうまく立ち回らないとな!」
ただでさえ世界の異物なのだ。
世界に弾かれ、うとまれるような行動は避けなければならない。
そして世界に気に入られるような行動ができればベストだ。
「これからもよろしくやってこうぜ、世界サマ!」
もうひとりの転生者、虚は今日も天空を漂う。
実は虚も転生者でした、というオチ。
転生ネタの小説も読んだことのある彼は、生まれてすぐに自分が討伐対象であることを世界経由の知識で自覚します。
主人公補正もない、頼れる人もいない。
テンプレどおりに進まない現実をくつがえすため、世界の望む選択肢を取りつづけました。
それが睡蓮の殺害につながるというわけですね。
なんて、ここで説明してる時点でダメな気がする作者でした。