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三国志演義異聞~星の叛乱~  作者: 東風になりきれない春
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風天子の仕事

身の丈九尺を超える豪傑が、どうっと地面に倒れた。

芙蓉華仙は周囲の敵兵を朱槍で散らしながら、華雄を討ち取った関羽を振り返った。

「お見事です!」

「うむ。首を取り、兄に見せてやろう」


周りにいた兵士たちは将が敗れたのを見てると敗走しだした。

地面にうずくまり、まだ生きている仲間を踏みつけながら我先に逃げていく。

「追いますか?」

「いいや、この先は張飛がいたはずだ。奴にも戦功をあげる機会をやらんとな」

「わかりました。では私もお供いたします」

「ああ、助かったぞ芙蓉。兄にもよく言っておこう」


関羽が見事に予定調和どおり華雄を倒したことで、ゆがみも減るだろう。

芙蓉は劉備への報告よりも、そちらのほうが嬉しかった。

しかしおおっぴらに口には出来ないので、微笑んでうなずくに留める。

「では戻ろうか」

「はい、関羽様」




蜀軍の駐屯地に戻った芙蓉は、休む間もなく再び前線へと走り出した。

呉軍の前に呂布が現れたという報告が、伝令兵からなされたのだ。

華雄なきあと、呂布さえ下せばこの戦いは勝利したも同然である。

仙界の指示では呂布が生存しても死亡しても、彼の武将としての命はここで尽きるため状況次第で対応してかまわないとされていた。


蜀軍でまだ前線に残っていた張飛と合流して、関羽と劉備、張飛と芙蓉の4人で追い詰めていく。

赤兎馬にまたがった偉丈夫は強かった。

4人を相手にしてもまだ倒れずに戦っている。


芙蓉は感心しながら呂布を見た。

そのとき一陣の突風が戦場を駆け抜けた。

―――呂布の命運を分ける一瞬の隙。

張飛の矛が呂布の咽喉を正確に貫いた。


芙蓉は呂布が赤兎馬から落馬して討ち取られる様子を見ながら、先ほどの風を思い出して顔をしかめた。

一瞬だったが赤い髪の男が韋駄天のように駆け抜けたのだ。

あまりの速さに普通の人間たちには突風だと認識されたようだが。

うつほ・・・?」


残像しかとらえられなかったが、それはあの規格外の妖怪に見えた。




睡蓮華仙が胸に大穴を開けて血だまりに沈んでいた。

その眼は暗くにごり、すでに魂は黄泉路を辿っている。

彼女の周りに呉の武将たちが集まって、大騒ぎしているのを遥か上空から見物している人物がふたりいた。

「まさか僕の仕事をとられるとは思わなかったよ」

「悪いなあ」


風天子と虚は空中に浮かびながら会話する。

風天子は風を操る道術で、虚は世界の知識から風を操る術を導き出して、そこにたたずんでいる。

睡蓮が呂布の登場に釘づけになった瞬間、風天子が手をあげるより先に虚が素手で睡蓮の胸をえぐり心臓を取り出したのだ。

絶命した睡蓮を放って、虚は上空でやり場をなくした力を霧散させた風天子のもとへ、文字通り飛んできた。

「意外だよ。君は人殺しはしないと思ってた」

「俺こそ意外だ。仙人様は人殺ししないと思ってたぜ」

「僕は例外だよ」

「俺だって例外だ」


ふとふたりで黙り込む。

風天子はこの男が害をなさないと仙界が判断したからこそ、今まで放置していた。

それが覆されたとなると、対応を変える必要があるかもしれない。

「理由を聞いてもいいかい?」


今まで誰ひとり殺さなかった例外の妖怪。

睡蓮だけを殺した虚。

虚はうなずいて口を開いた。

「芙蓉に聞かなかったか?俺は世界の感情から生まれたって」

「聞いてるよ。仙界で情報の共有もされている」

「ほお。ま、いいや。それでだ。ゆがみを生んで世界を不快にさせてるバカはどいつだって探してたら、こんなとこにいやがったってわけだ」


虚は空中であぐらをかくと、睡蓮の血にまみれた右手を風天子に見せた。

「世界が不快に感じることは、俺が不快に感じることだ。人間がどれだけ殺し合おうが、世界はどうも思わないが、ゆがみを生む存在は忌む。ま、要は世界も俺もあの女が嫌いだから殺したってことだな」

「嫌いだから・・・ね。じゃあ他に嫌いな人が出てくる可能性もあるわけだ?」

「そいつが世界を不快にさせるならな」


風天子は虚の言葉に考え込んだ。

彼の言葉どおりなら、ゆがみを生む存在だけを殺すと思っていい。

ゆがみを正そうとする自分たちに被害はないだろう。

「わかった。上の人たちには一応報告しておくけど、悪いようには言わないでおくよ」

「そりゃ助かる」

「別に貸しが嫌なだけだよ。僕の仕事を偶然とはいえ肩代わりしたんだ。代わりに取り計らうことで貸し借りなし!・・・借りって嫌いなんだよね」


言い終わると、風天子はさらに上空へ舞い上がった。

虚は追いかけることなく見送る。

「じゃあね、例外の同士。芙蓉への言い訳考えておいたほうがいいよ。あ、どうせなら言い訳失敗してくれたほうがいいな。芙蓉のこと慰められるし、役得だよね」

「は?いや、ちょっと待て」


虚の声が聞こえていないはずはないのに、風天子は楽しげな笑みを浮かべて飛び去って行った。

「言い訳って・・・なんのことだよ、おい」


あとには呼び止めようとあげた手を、所在なげにぶらぶらと揺らす妖怪だけが残った。


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