小説 蟻
蟻
小学校の時、友達に蟻と呼ばれている子がいた。だから僕はよく彼の所に蟻を捕まえては持って行っていた。昼休み彼は自分の机で本を読んでたりしたけど、よく友達から取り上げられてたりもした。その時も彼はクラス中の男子から蟻と呼ばれていた。僕は昼休みは外で遊ぶんだけど、校舎に戻る間に蟻がいると、捕まえて彼の所に持って行ってあげた。僕が教室に戻っていった時には彼は何も机の上に広げず、椅子に座っている。僕は彼の机まで行って、捕まえてきた蟻を彼の机の上に逃がしたりした。それだけじゃつまらないから、たまには蟻の分解とかを彼の机の上でやった。ジタバタした蟻の姿を見るのは楽しかった。
それで、ある日。給食の時間だったんだけど、僕は早く食べ終わって、手持ちぶさたに自分の机にいたんだけど、床に一匹の蟻が這っているのを見つけた。あ、その日の献立はシチューだったよ。僕はすかさず捕まえて、彼の机に持って行った。彼は給食を食べていた。机はグループでくっつけて給食を食べるから、僕は彼の机の横にしゃがんで、彼の机の上に蟻を放した。それで、さっきそこにいたんだ、って蟻のいた場所を指差して、彼に言った。僕はしゃがんでいるから、蟻は目の前なんだけど、歩いてるのを見ていてもつまらなかったから、僕は蟻を解体した。まず足をもいで、二本もいでから後ろのぷっくらした部分をつぶして、触角を抜いたら特に面白味もなくなったから、頭を胴体から切り離して、床に払って捨てた。
その時くらいに彼が立ちあがった。お盆も持っていないから、なんだろって思って僕も立ち上がったら、お腹になんかすごい痛みがきた。彼が僕のお腹にパンチしたんだ。それで、僕は痛くて痛くて、お腹を押さえていたら、彼は勢いをつけて僕を突き飛ばした。僕は床に横倒れになった。お腹を押さえながらも、顔を上に向けて彼を見たら、怒った顔をしていて、片を上下に動かして、息も荒いようだった。
そこに先生が入ってきて、喧嘩みたいなのはとまった。先生は彼をなだめて、僕を起こして、教室から連れ出した。それで階段の踊り場で話を聞いた。彼は涙を流して、ひっくひっく言って、うつむいていたけど、僕はさっぱりだった。なんで彼が怒ったのかもわからないし、なんでこうなったのかもわからなかった。
先生は僕と彼に事情を聴いた。彼は泣いていたから僕が代わりにさっき起きた事の顛末を話した。先生は僕を叱った。なんでそういうことするのって言われたけど、なんでって言われても困った。だって、彼にいつもしてたからしただけだったから、理由なんてなかった。僕はさっぱり分からなくなってきた。なんで叱られたか分からなかった。それから何度か同じことを聴かれたけど、答えられなくて、しまいには涙が出てきた。それで、先生は、とにかくあやまりなさいといったので、僕は彼に泣きながら謝った。彼はもう落ち着きだしていて、うなずいた。
その日の帰り。僕は給食の時の事で気分は良くなかった。校舎をでて校門まで歩いていくと、途中で彼が立ち止まっていた。何か嫌そうな顔で、地面を見ている。僕は近寄って行って、なにしてるの?って聞いた。彼は答えずに足元を見ていた。
蟻の行列があった。彼は蟻を見ていたのだ。
僕は嬉しくなって、蟻の行列だね、と彼の顔を見て言った。
彼は答えなかった。それに嫌そうな顔のままだった。だから僕は聞いた。
「蟻好きじゃないの?」
彼は何も反応しなかった。
「蟻、嫌いなの?」
彼はうなずいた。僕は合点いった。
そっか、彼は蟻が嫌いだったんだ。