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『第4話:不合理なパンの味』

第3話、たくさんの応援ありがとうございます!

「……私、失敗作だから。エネルギー、もったいない」

激しい戦闘を終え、休息の場に辿り着いた二人。

自分の存在を「効率」だけで否定しようとするぜろに対し、孤独王は彼らしい、あまりに不器用で身勝手な「計算式」を突きつけます。

最強の男が教える、固くて、冷たくて、……そして世界で一番「あまい」パンの味。

二人の止まっていた時間が、静かに動き出す第4話。

ぜひ、最後までお楽しみください。

 戦闘は62秒で終了した。

 予定より2秒オーバーだ。原因は明確だった。背後に、守るべき「バグ」が居座っていたからに他ならない。

「……チッ。効率が悪すぎる」

 俺は床に転がる男たちの銃器を無造作に踏み砕き、壁に立てかけていた袋を掴んだ。中には、逃走用に用意していた保存食のパンが入っている。隠れ家は既に割れた。ここを放棄し、次の拠点へ移動しなければならない。

「おい、零。行くぞ」

 呼びかけると、俺のコートの裾を掴んでいた指が、びくりと跳ねた。

 零は顔を上げないまま、震える声で呟いた。

「……おじさん。私、いらない」

「あ?」

「……私、失敗作だから。エネルギー、もったいない。おじさんが全部食べて。……その方が、勝てる確率、上がるでしょ?」

 零は、自分の空腹よりも「効率」を優先しようとしていた。国に植え付けられた『道具としての思考』が、彼女の喉を塞いでいる。

 俺は無言で彼女の前にしゃがみ込み、固い黒パンを真っ二つに割った。

「黙れ。食え。これは命令だ」

 差し出されたパンを、零は拒むように両手を後ろに隠した。

「……いらない。少しだけでいい。おじさんの分が減るの、嫌だもん」

「……計算しろ、零。貴様が低血糖で倒れれば、俺が貴様を担いで移動するハメになる。その場合、俺の移動速度は35%低下し、敵に捕捉される確率は2.8倍に跳ね上がる。……それこそ『もったいない』とは思わないのか?」

 俺の屁理屈に、零は言葉を詰まらせた。

 大きな瞳を揺らし、おずおずと、壊れ物を扱うような手つきでパンを受け取る。

「……わかった。……計算、合わせなきゃ、だよね」

 零は小さな口で、申し訳なさそうにパンをかじった。

 

「……あまい」

「……バカか。それはただの麦の味だ。甘みを感じる成分は**0.1%**も含まれていない」

「ううん、あまいよ。……おじさんが、一生懸命、食べさせてくれようとしたから。……私、こんなの、初めて」

 心臓が、変なリズムで跳ねた。

 俺の心拍数が、一瞬で120を超えたのを自覚する。

 病気か? いや、毒物混入の可能性は**0%**だ。ならばこれは何だ。

 俺の「神の頭脳」が、必死にこの現象に名前をつけようと演算を繰り返す。

 だが、いくら計算しても、導き出される解は「不明」のままだ。

「……不快だ。不合理な味など、俺には理解できない」

 俺は背を向け、窓の外の腐った街を見下ろした。

 だが、窓ガラスに映る零は、少しだけ、本当に少しだけ、口角を上げていた。

 この「バグ」を拾ってから、俺の世界は壊れ続けている。

 なのに、どうしてだろう。

 この計算できない不快感が、それほど悪くないと思ってしまう自分が、一番の「誤差」だった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

「あまいよ、おじさん」

計算外の言葉に、心拍数を跳ね上がらせる孤独王。

世界一の天才でも、少女の純粋な感謝を処理するアルゴリズムは持っていなかったようです。

一方、二人の休息をあざ笑うかのように、王都の闇が再び蠢き始めます。

次回、第5話。

孤独王の前に現れるのは、敵か、それとも――。

「……第5話:計算外の祈り」

面白かった、孤独王の動揺がもっと見たい!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】や【星評価】で応援してください。

孤独王の心拍数とともに、執筆スピードが加速します!

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