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『第2話:ノイズは眠らない』

第1話をご覧いただきありがとうございます。

「殺すべきだった。生かしておくメリットは0.01%もない」

圧倒的な合理主義者である孤独王が、初めて直面する「計算不能な事態」。

それは、救いを求める少女の叫びが、自分の脳に直接同期してしまうという異常事態でした。

今回、少女に「ぜろ」という名が与えられ、二人の奇妙な共犯関係が動き出します。

そして、早くも彼らを狙う国の刺客たち。

最強の演算が導き出す「残酷な回答」を、どうぞお楽しみください。

王都の喧騒から遠く離れた、打ち捨てられた地下施設。

 錆びた鉄の臭いと、湿ったコンクリートの冷気が支配するそこが、俺の「計算室(隠れ家)」だ。

 椅子に放り出した少女を背に、俺は血に汚れたコートを脱ぎ捨てた。

 背中越しに、彼女の静かな呼吸が聞こえる。それが、猛烈に不愉快だった。

(……殺すべきだった。生かしておくメリットは**0.01%もない。むしろ足手まといになる確率は99%**を超える。……脳が疲れているのか? 俺の演算は、いつからこんなゴミを拾うほど精度が落ちた?)

 俺の脳は、常に世界を数式で捉えている。

 この壁の崩壊確率は0.02%、次の雨が降るまでの時間は320分後。

 すべてにこたえがあるはずの世界で、目の前の少女だけが、計算式を狂わせる巨大な「項」として居座っていた。

「おい、バグ。いつまでそこにいる。消えろと言ったら、本当にこの世から消してやるぞ」

 苛立ちに任せ、座り込む彼女の細い肩を乱暴に掴み、強引にこちらを向かせようとした――その時だった。

「ッ……あ、が…………!?」

 視界が、真っ白に弾けた。

 触れた指先から、言葉にならない「情報」が津波のように俺の神経を逆流してくる。

『――助けて』

 それは声ですらなかった。

 彼女が生まれてから今日まで見てきた、膨大な「地獄」の記録。

 実験室の無機質なライト、自分を「失敗作」と呼ぶ大人たちの蔑んだ声、孤児院で踏みにじられた痛み。

 完全記憶フルメモリーを持つ彼女が、1秒たりとも忘れられずに積み上げてきた絶望のアーカイブが、俺の脳へ直接流し込まれる。

(……やめろ、入ってくるな! 思考が……纏まらない……!)

 あまりの熱量に脳が焼ける。

 だが、その濁流の奥底に、震えるような一筋の願いがあった。

 「救ってほしい」。

 自分という存在が間違いだと言われ続けた少女の、剥き出しの悲鳴。

 それが、俺の中に封じ込めていた「国への憎悪」と激しく共鳴し、火花を散らす。

「はぁ、はぁ……ッ!!」

 俺は弾かれたように手を離した。

 膝をつき、激しい眩暈めまいに耐える。脳がオーバーヒートを起こし、視界の隅に警告のようなノイズが走る。

「…………おじさんの、中……。痛いのが、いっぱい流れてくる」

 少女は怯えることもなく、ただ静かに俺の顔を見上げていた。

 その瞳には、俺と同じ「帰る場所のない孤独」が宿っている。

「……黙れ。貴様の過去など興味はない。俺の演算を邪魔するな」

 俺は立ち上がり、壁にびっしりと書き殴られた「国の崩壊計画」の数式に目を向けた。

 計算を再開し、自分を取り戻そうとする。だが。

「……そこ、3行目。計算が、違ってる。マイナスじゃなくて、プラス」

 少女の呟きに、俺の手が止まった。

 ありえない。俺の計算が間違うはずが――。

 ……書き殴った数式を確認する。一箇所、怒りに任せてチョークを走らせた部分。確かに、符号が間違っていた。

「……なぜわかった。貴様に何が見える」

「さっき、おじさんが壁を壊した時の力の向きと……この数字、合わない。私、一度見たものは、全部そのままここにあるから。おじさんの動き、綺麗だったから……覚えてる」

 一度見た物理現象をすべて記憶し、数式と照らし合わせる。

 ……皮肉なものだ。

 国が「器」として作り、捨てた失敗作は、俺の「神の頭脳」さえも補完し得る、唯一のピースだった。

「…………ゼロだ」

「……え?」

「名前がないなら、今ここで捨てろ。今日から貴様はゼロだ。空っぽで、何もない、俺の計算の一部になれ」

 俺は彼女を「道具」だと自分に言い聞かせた。そうしなければ、この胸のざわつきを説明できないから。

 だがその時、地下施設の入り口で、かすかな金属音が響いた。

 音の波形、間隔、踏み込みの深さ。

 計算するまでもない。国の特殊部隊だ。

「……5人。いや、外にさらに12。計算外に早いな。……バグの影響か」

 俺は口元を歪め、拳を鳴らす。

 隣に立つ少女――ゼロを見る。彼女は無口なまま、俺のコートの裾をぎゅっと掴んだ。

「零、そこで見ていろ。……これより先は、俺の命を削る『無意味』な時間だ」

 怒りが、静かに臨界点を超えていく。

 孤独王の脳内で、敵全員を「消去」するための残酷な最適解が、光速で弾き出された。

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