『名前のない王と、失敗作の少女』
ご覧いただきありがとうございます。
この物語は、「最強の悪役」が「たった一つの愛」に振り回され、ボロボロになりながらも何かを掴もうとする物語です。
主人公は性格最悪、誰も信じない孤独な男です。
でも、彼がなぜそこまで怒っているのか、なぜ国を憎んでいるのか。
その「叫び」のような熱量を詰め込みました。
毎週(あるいは随時)更新していきます。
読んだ後に、少しでも胸が熱くなったり、目頭が熱くなったりしていただけたら、これ以上の喜びはありません。
それでは、第1話『計算外のバグ』、開幕です。
第一話:計算外のバグ
この国は、死んでいる。
聖アステリア王国。一見すれば華やかなこの国は、裏金という名の腐敗臭に満ち、強欲な貴族たちが弱者の血を啜って太るための巨大なゴミ溜めだ。
この「バグ」だらけの世界を修正する最短の数式は、ただ一つ。
すべてを灰にし、更地にすることだ。
王都の迎賓館。裏金で私腹を肥やす大臣、バルドの晩餐会は、最悪の音で幕を閉じた。
重厚な壁が、物理法則に従って粉々に砕け散ったのだ。
「な、なんだ!? 警備兵! 侵入者だ!」
埃の舞う中から現れたのは、一人の男。
武器も、魔法の杖も持っていない。ただ、その瞳には凍てつくような、しかし燃え盛るような異常な「怒り」が宿っていた。
「……計算終了。六〇秒で片付ける」
孤独王、と呼ばれた男は低く吐き捨てた。
襲いかかる能力者たちの動きは、彼の脳内では鈍いスローモーションに過ぎない。
「お前の風圧は時速120キロ、右に3度ズレている。その次に来る火球は、酸素を使いすぎて三秒後には立ち消える」
孤独王は一歩も無駄な動きをせず、火球の隙間を縫って踏み込む。
「神の頭脳」が弾き出した最適解――それは、魔法を使われる前に心臓を止めること。
ドン、と鈍い音が響き、能力者が白目を剥いて崩れ落ちた。
「化、化け物め……! 金か? 金が欲しいのか!? 望むだけやる、だから……!」
這いつくばって命乞いをする大臣を、孤独王は冷ややかに見下ろした。
その脳が、大臣の過去、隠し資産、今まで踏みにじってきた命の数を、瞬時に演算し、結論を出す。
「黙れ。お前の声を聞くたびに、俺の脳が汚れる。……お前が呼吸をするたびに、この国の酸素が浪費される計算だ。そのバグを、今すぐ俺が修正してやる」
迷いはなかった。
孤独王の拳が、大臣の顔面を床ごと粉砕する。
血飛沫が舞っても、彼の心は凪のままだった。この国に関わるすべてを消し去りたいという、純粋な憎悪だけが彼を突き動かしていた。
屋敷に火を放ち、去ろうとしたその時だ。
炎に包まれる廊下の片隅に、一人の少女が座っていた。
一五歳ほどだろうか。ボロボロの服を着た、無口な少女。
逃げる気配も、怯える様子もない。ただ、感情の欠落した瞳で、孤独王をじっと見つめている。
「……邪魔だ。消えろ、バグが」
孤独王は彼女の首に手をかけた。
名前も、存在理由も、生きる価値もない失敗作。殺すのに、一秒の計算もいらないはずだった。
「……おじさん。すごく、悲しい計算をしてるね」
少女の掠れた声に、孤独王の脳がフリーズした。
計算外だ。
ありえない。
なぜ、思考のノイズであるはずの言葉が、これほどまでに胸を刺す?
「…………黙れ」
殺そうとした手が、震えた。
孤独王は彼女の首から手を離すと、乱暴にその細い体を担ぎ上げた。
「計算が狂った。……貴様を殺すのは、この国を滅ぼした後だ」
完璧だった彼の計算式が、音を立てて崩れ始めた瞬間だった。




