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ヒロインのエピソード~アカネのフォーチュンクッキーの巻

アカネの入社前のエピソードとクウマとのであいです。

「アカネって本当にかわいいよね。

なんか、乃木坂って言うより

AKBって感じのかわいさ。」


友人、先輩。

これまで百回と言われたその言葉。


私は、

「そっすか?

ありがとうございま~す」


いつも、その言葉で返す。


有村ありむら あかね

私は確かにかわいい。

自分でも自覚している。

スタイルは157cm。

ちょうどいい。

そして明るく元気よく。


でも量産型っぽく

見えるのも知っている。

便利だ。

少なくとも、私の生活では。


事実、食事はおごってもらえるし、

重い荷物も持たなくていい。

たぶん神様が、

私を楽に生きさせるために

くれた“ギフト”なんだと思う。


小さい頃から絵が好きだ。

絵を書いているときは

自分と向き合える。

言葉のいらない会話ができる。


絵を描くとき、

だいたいイヤホンをしてる。

私の中で

いちばんしっくりくるのは、

ヨルシカみたいな音。

ちゃんとメロディは掴んでるのに、

ギターだけ、

少しだけずれてくる。

歌詞も、言い切らない。

その曖昧さが好きだ。


AKBは—

たぶん、私の中では違う。

歌も歌詞も完成していて、

私が入る余白がない。

不完全なのは、

アイドルの側だけだ。


私は、羽海野チカ先生の世界観が好きだ。

はじめは

『三月のライオン』を

好きになって、

『ハチミツとクローバー』で、

もうダメだった。

美大の青春群像劇。

才能と努力の尊さ。

刺さる。

自分には、

たぶん美術学科しかなかった。


そして、美術学科のある

国立T大学に入学した。


でも現実は、私の表面を見て、

声をかける、あげくの果てには

告白してくる男子たち。

やっぱ理想って

ないんだなって思いつつ、

その“ギフト”を捨てられない私。

アンビバレントな

輪郭の薄い日常を漂っていた。


ピンクの女の子らしい服

制作の時はパーカー

そして、美術学科の特権

白衣を着ると

「量産型オタサーの姫」

アカネ様が誕生する。


そして、いつものスパイラル。

どこか逃げ道を求め、

ゲームサークルに入ることにした。

濃厚な美術学科内と違う逃げ場。

いろんな学科の学生が集う場所。


ゲームを通してオンライン。

たまに集まってわいわいと。

結構ちょうどいい日常を、

私は送ってた。


そんなある日も告白された。

めんどくさい。


私は

「ありがとう。

でも今はないかな...」


と、差し支えのない

いつもの返事をする。


その後ウワサが広まったあとの

女子の方がコワいんだよな。


クワバラクワバラ


大体、

このパターンは慣れている。

防御力に全ぶりすればいいのだ。


そんなある日、私は部室に入る。

誰もいない。いや一人いる。


蛍光灯のジーって音と、

PCのファンが回る低い唸りが、

部室の静けさを強調していた。


部室の端っこでいつも

ゲームを夢中でしている、

同級生へいたずら心で

声をかけてみる。


こういう奴って

どんなリアクションするんだろう。


「あんた、いつもゲーム

ばかりしているよね。

たしか同級生よね?

名前なんだっけ?」


姫スマイルで話しかけてみる。

(どうせ、

いつもの感じでしょ?)


「俺は、ソラマだよ。

ゲーム部でゲームやるの

当たり前じゃん。」


奴は素っ気なく答える。


「ソラマ?変な名前。

どういう字書くの?」


「青空の『空』に、

真剣の『真』。空真」


「そうなんだ!

なら、クウマだね。

私は.....」


「しってるよ。

有村だろ?有名人だよ。」


ぶっきらぼうに、ヤツは答えた。


「ゲーム、楽しい?」


「めちゃくちゃ。

駆け引き、バトル、達成感。

どれをとっても最高!

オマエ、ゲーム部だろ?

今更それ聞く?」


「私気分転換で

ゲーム部はいったんだよね。

いや、美術学科って

個性的に見られるけど、

同質性が意外に高いんだ。」


不思議といつもは言わない

本音をはいてしまった。

危ない、危ない。


「そうなんだ。

ならゲームはいいぜ。

本気でも、気分転換でも

いつでも始められる。

最強のコンテンツだ。

欠点は、夢中になりすぎて

単位、落としそうになる

ことぐらいかな。」


私は、リアルに吹き出してしまった。

なんか少し心がほどけるような気持ち。


「なら、教えて。」


「大歓迎!」


「あんまり器用じゃないんだから。

ていねいにね!」


「それが、

教わるヤツのいう言葉?

こうやって持つ。」


コントローラーを持つ私の手を

そっと私の後ろから

クウマは画面を見たまま

手を添える。


そのやりとりが不思議と、

不快でなかった。


いつものパターンは

来るかもしれない。

でもクウマはなんか違うと

感じることが出来た。


「クウマ、

私、初心者なんだからね。」


「俺は容赦しない。厳しくいく。」


恋じゃなく、男と女でもなく、

ゲームを通じてなんか溶けてる

不思議な感覚だ。

夢中で私は没頭した。

どれくらい時間がたったか覚えていない。

カタカタと、コントローラーの

音だけが静かに鳴り響いていた。


「ところで、ねー、クウマ!

3D酔いがすごいんだけど。」


私も笑う

クウマもぶっきらぼうに笑う。


「そのゲーミングチェアー

あるだろ?ロックはずして

くるくる回ってみ?

最強の回復薬。」


「逆に酔ったら処刑するよ。」


クウマは笑いながら

ロックをはずし


「処刑されないから。」


私は子供のように

くるくる回る。


「...... そっか。ありがと」


久しぶり。

こんなに笑顔になれたのは。


量産型は、嫌いじゃない。

AKBも、嫌いじゃない。


でも、特別好きというわけでもない。


ただ――

それで私は、少し生きやすい。


だから私は、

今日も笑って、うまくやる。


でも私は思う。


私の人生の

「フォーチュンクッキー」には、

何が入っているんだろう。


まだ始まったばかり。

でも――

きっとそこには、

私が“選んだ答え”が入ってる。

・12/30(火)20:00過ぎ:ショート白木先輩のバリキャリ時代の挫折

あと、年始は1/2から3日連続笑っていただきます!


お楽しみにください!

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