【幕間】資料室でひそひそと(制作ノート)
一つ目の冒険は、ここで一区切りです。
二つ目の冒険までの間、番外編でお楽しみください。
(番外編は未読でも読める回も混ぜます)
九話が投稿されたあと。
とあるゲーム会社の資料管理室。
白木先輩と有村は、最近お気に入りになった web 小説
『ゲームチェンジャー』
のページをモニターに並べていた。
「第一部、面白かった~」
有村は、社内おなじみのジャージ+パーカー姿。
泊まり込み対応の“戦闘服”だけど、さすがにデザイン部のフロアでは着ていない。
資料管理室に入り浸るようになってからの“第2の制服”だ。
「…白木先輩。
でも、ちょっと違和感ありません?」
「どこが?」
「今は消してあるけど、前は作品紹介に『三部全12話予定』って
書いてあったじゃないですか」
くるくると椅子を回しながら、有村はモニターを指でつつく。
「九話で一回区切って、『ここから先は構成を練り直し中です』って作者コメントに書いてあるけど……」
「はじめは“1章12話で完結します!”って宣言してたんですよね?」
「まさか、このまま逃亡とか、打ち切りエンドとかじゃないっスよね?」
白木先輩は、ブルーライトカットのめがねを押し上げる。
「それは、たぶん無いと思う」
「なんで、そんな自信あるんですか?」
いたずらっぽく身を乗り出す有村。
白木先輩は、少しだけ言葉を選びながら続けた。
「この作品ってさ、“最初から12話で設計してた”痕跡がそこかしこに出てるの」
「設計、ですか?」
「うん。ざっくり言うと――
1~4話、5~8話、9~12っていう三つの“かたまり”に分けて考えてる感じ」
「三つの、かたまり?」
「物語の作り方で、“三幕構成”ってよく言うでしょ」
「名前だけ聞いたことあるかもです」
「すごく雑に言うとね、長い話を三つに切って、それぞれに小さい
“起承転結”の山を作ると読みやすくなる、って考え方」
「おお、シンプル」
「で、『ゲームチェンジャー』の場合は、その“三つの幕”をさらに
三つのレイヤーに分けて走らせてる」
「三つの…レイヤー?」
「“現代編”“夢編”“過去編”の三つ」
白木先輩は、モニターに映る目次を指でなぞる。
「現代編で主人公が仕事でつぶれそうなとき、夢編では勇者が迷ってて、過去編では開発者が現実に殴られてる。
場所も時間もバラバラなのに、感情の“ライン”だけはちゃんとシンクロしてるでしょ?」
有村は、ぽんと手を打った。
「じゃあ今って、“三つのレイヤー”に“三本のライン”が走ってる感じっスね?」
「そう、それ」
白木先輩は、そのたとえをそのまま拝借するように笑う。
「三つのレイヤーに、三本の感情ライン。それをずらしながら
重ねていくと、ときどき“カチッ”って重なる瞬間がある。
その瞬間に読者の感情をドンっと揺らす、って構造」
***
「なんか、最近なら『ゴールデンカムイ』とか『葬送のフリーレン』っぽいっていうか。過去と今のシンクロって」
有村が、ストローをいじりながら言う。
「別の時間をシンクロさせて一気にエモくする、みたいな」
「…いきなり核心を突くね」
「デザイン担当してますから、一応!」
白木先輩は、少しだけ姿勢を正した。
「フリーレンで言うとさ、アウラ戦のあの回、覚えてる?」
「百回くらい見ました!」
有村は食い気味に乗ってくる。
「フリーレンの弟子フェルンがアウラの幹部を満月をバックに“空を飛びながら”奇襲しかけるじゃないですか。
で、そのカットが80年前のアウラ戦前夜の魔物の脳内の“フリーレンの記憶”ときれいにシンクロして―
今と過去の月バックのシルエットが重なって、タイトル『葬送のフリーレン』まで一気に回収されるあの流れ!」
「有村さん、熱量がすごい」
「マジで神回!!」
白木先輩はそのテンションを受け止めつつ、静かに続けた。
「あのシーンって、“別の時間軸をシンクロさせる”お手本みたいな構造なんだよね。
今の弟子フェルンの行動と、過去の師匠フリーレンへの魔族側の記憶を通じて重ねて、一発で読者に
“この物語の芯はここです”って示してる」
「ですよね!!」
「ただ―
矛盾に気づかない?」
「はにゃ~?」
白木先輩は、めがねの位置を直しながら言う。
「あとから出てくる世界設定で、“人間が空を飛べるようになったのはここ40年くらい”って話が出るでしょ」
「あー…」
「80年前のフリーレンが月バックで普通に飛んでるのと、その
“ここ40年”は、設定だけ見るとちょっとズレてる」
「細かい!そんなの、あのエモさの前では誤差誤差!!」
「そう、それ!」
白木先輩はうなずく。
「アニメやマンガは、作画と演出と音楽のパワーで“エモのごり押し”ができる。
多少の設定のほころびは、視聴体験の熱量に飲み込まれちゃうことが多いの」
「映像の暴力……」
「でもね、有村さん」
「はい?」
「『ゲームチェンジャー』は―
小説なのよ」
有村は、
一拍置いてから
「あ」
と声を漏らした。
「文字だけで、三つのレイヤーをきれいにシンクロさせようとするとね。
フリーレン級のエモさを狙いながら、設定の辻褄もかなりシビアに合わせ続けないといけない」
「ごり押しできない…」
「そう。アニメなら
“演出で押し切れるズレ”も、小説だと“全部頭の中で検算される”から」
***
「そこへきて、ですよ?」
有村が、ペットボトルを机に置いて身を乗り出す。
「そんな繊細な三レイヤー構成をやりながら、長期連載まで狙うって、正気じゃないんじゃないでか、この作者」
「…まあ、“調子には乗ってる”と思う」
「やっぱそうなんだ!」
白木先輩は、わざとらしく咳払いをしてから続けた。
「でも、長く続けたくなる気持ちは分かるよ。コメントやブックマークをもらううちに、“このキャラもっと描きたい”とか“ここで終わらせるの、惜しいな”とか」
「分かります。私ももっと出番ほしいですし」
「自分で言うんだ」
「で!」
有村は勢いよく手を挙げる。
「白木先輩、聞いて驚かないでくださいね。長期連載したくなった作者が絶対やるべき“最強のアイデア”があります」
「…とりあえず聞くだけ聞くね」
「それは―」
バンッと机を叩いて、有村が叫ぶ。
「トーナメントだ!」
しん、と資料室が静まり返る。
白木先輩のめがねが、スッ……とずれた。
「……有村さん」
「え、ダメっスか?ほら、人気作品ってみんなトーナメントするじゃないですか。闘技大会とか、バトルロイヤルとか。
キャラいっぱい出せるし、脳筋読者も取り込めるし、アニメになったら作画班が死ぬやつ!」
「発想が小学生なんだけど言ってることは妙に業界目線なのやめて」
「トーナメント編!
ゲームチェンジャー杯開幕!
優勝はもちろん私!」
「有村さん。あなた本編でも
十分うるさいからこれ以上暴れなくていい」
***
白木先輩は、苦笑しながら話を戻す。
「この話のキーはね、“三つのレイヤーで別々の事件が起きているけど、感情のラインがシンクロしている”ってところなの」
「現代編・夢編・過去編で、それぞれ“違う事件”が進んでるけど、読者が感じるモヤモヤとかカタルシスはじわっと重なってくる、みたいな?」
「そう、それ」
「フリーレンの“今のフェルンと昔のフリーレンが重なる”みたいなやつを、三つのレイヤーぶんやってる感じですね」
「イメージとしては近いと思う」
「でも、それめちゃくちゃプロットの整合性に工数かかりません?」
「かかる」
白木先輩は、ため息まじりにうなずいた。
「事実、作者さんはこっそり過去話をちょくちょく改稿してる。
一話の夢のシーンは最初の版より
簡略化されてるし、私の呼び名も、“白木”→“白木さん”→“白木先輩”って三人称がコロコロ変わってる」
有村が、いきなり頭を抱える。
「そういえば私も…もっと清楚でおとなしい“最強ヒロイン”だった記憶が!」
「それは最初から無い」
「そんな即答で否定します!?」
「むしろ有村さんのキャラは、最初期から一ミリもブレてない。うるさい・元気・自分大好き、の三本柱で」
「褒められてる気がしない!」
***
「でも、作者さん、それでもまだ
“いけるかも”って思ってる節ありますよね?」
有村が、じっと画面を見ながら言う。
「あると思う」
白木先輩は、少しだけ声を落とした。
「ある人から言われたんだって」
「ある人?」
「『男の成長ストーリーは、結局ぜんぶ梶原一騎だ』って」
「……誰ですか、その“いらんことを言ったある人”」
「作者のお父さん、らしい」
有村は、
盛大にずっこけた。
「身内ーーー!!」
白木先輩は、くすっと笑ってから説明を足す。
「梶原一騎先生ってね、昔のスポ根マンガのシナリオを書いてた人。
『巨人の星』とか『あしたのジョー』とか、いまの少年マンガの“成長もの”の骨組みをほとんど作っちゃった人」
「名前だけ聞いたことあります。つまり“男の成長”テンプレの元祖みたいな?」
「そう。ざっくり言うと、
・弱い主人公が
・師匠やライバルが
ときには味方になり
ときには壁になり
・精神的にもやさぐれて
・出会いと別れを繰り返し
・ボロボロになって
・それでも立ち上がる
この“芯の流れ”をめちゃくちゃ
分かりやすくした人これの基本組み合わせ登場人物やテーマがもしかわったとしても、物語は回せるの」
「それをベースにして…?」
「作者さん、多分こう考えたんじゃないかな」
白木先輩は、指で三本の線を描くように空をなぞる。
「土台の“成長プロット”は梶原一騎先生的なベーシックでいく。そこに三つのレイヤーを重ねて、感情のラインをシンクロさせれば―」
「―ずっとまわせる“物語の永久機関”になる!」
有村が、目を輝かせて補完する。
「そういうこと」
「やば。それ、ハマったら永遠に3つのレイヤーで物語をぐるぐる回せるやつじゃないですか」
「構造としてはね。ただし、中で走ってる作者本人が一番消耗するタイプの永久機関だけど」
「ブラック企業型永久機関…」
「でも、“成長プロット”をベースに据えたおかげで、どんなに三レイヤーで遊んでも“成長へのテーマ”はぶれにくくなる」
「読者にとってそこが一本芯になるわけですね」
「うん。だからこの梶原一騎先生ラインは、たぶん今後ずっとこの作品の“エンジン”になると思う」
***
「だからこそ、九話のあとで一回止まったんだと思う」
白木先輩は、モニターのスクロールを止める。
「正直に言うと―作者ひとりでフルサイズの長編をこの構造で完走するのは、たぶん現時点だと無理」
「ばっさり!」
「だから、そこでいったん区切って、
・第二章の三つのレイヤーを
別シートで全部書き出して
整理し直す、かなり先の物語から作り上げそれを起点に10話以降を完成させる。
ただ
・本編で書ききれなかった
キャラのエピソードを
“短編”で補う
っていうモードに切り替えようとしてるんじゃないかな」
「スピンオフ千本ノック期間だ!」
「そうそう。でも本気で書かないと作品が死ぬ。
短編はそんなに甘い世界じゃない。」
***
「短編いいですね~」
有村は、急に目を輝かせる。
「白木先輩の話や私の話、私の話や私の話し」
「自分の出番の話になると急にやる気出るよね(この子ほんとうに
自分大好きだな...)」
「出ます!」
白木先輩は、肩をすくめて笑う。
「構造にこだわりすぎると、“個人のエピソード”を置き去りにしがちだからね。
9話までで第一章の“骨組み”は見せきったから、ここでいったん息継ぎを入れて、
・第二章の三レイヤーを整える
・キャラ短編で
本編でできなかったキャラの深堀をショートエピソードで書き読者さんに本編を思いだしほっこりしてもらう。
っていうのは、作者さんなりに誠実なやり方だと思う。
ほんとうに、読者の皆さんの応援喜んでたもの。」
「なんか、先輩作者さんにやさしすぎません?なんかあるのでは?」
「明日のクリスマスは私、実は主演なんだよね~!」
「作者ほんとセンスないすね。」
「どういうこと。有村さん!!」
――――
「なるほど。本編は一瞬お休みだけど、作品自体は止まってない感じですね」
「うん。“ゲームオーバー”じゃなくて“ステージセレクト画面にった”くらいの感覚」
***
白木先輩は、少しだけ画面から目を離し、読者の皆さんに向かって話すように締めくくる。
「というわけで―
三つのレイヤーに三本のラインを走らせるってことは、
どんどん物語がエモくなっていくって事なんです。でも、もっと読みやすくなる!」
有村が、カメラごっこで手を振る。
「だから作者くんも、いまちょっとだけ“セーブポイントで装備整え中”ってことで!」
***
「―というわけで」
白木先輩は、
モニターの向こうを見つめるようにピースサインを作る。
有村も、慌てて同じポーズをしてカメラごっこ。
二人は声をそろえる。
「ここまで読んでくれたみんな、ありがとー!」
「『ゲームチェンジャー』は、まだゲームオーバーになりません!」
「三つのレイヤーと三本のライン、これからも、生あたたかく見守ってやってください!」
有村が抜け駆けする。
「私のショートエピソード楽しみにしてね!」
白木先輩のメガネがずり落ち動画の画面がフェイドアウトした。
推敲に時間がかかり投稿一時間ほど遅れました。
すいません。
二人の掛け合いどうでしたか?
今度の予定をはなしてくれました。
フリーレンのくだりは作者の趣味です。映像と文章って全然ちかいますよね!
メタな視点すいません。
今後の予定
12/25(木クリスマス)夜:ヒロインのスピンオフ
12/26(金)夜:過去編が10倍わかる回(※物語としてやります)
あと、アカネのスピンオフも予定決まり次第書いていきます!
本編で書ききれなかった登場人物を、本編は読んでなくても成立するよう頑張ってます!
お楽しみに!




