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三人寄れば、シアワセ日和  作者: 水瓜汐芭


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6話 魔法で解決できないこと

「ええぇぇ――!?」


 大声を轟かせる洋太と律とは反対に、シンと静まり返るカフェの店内。新たな客の来店を知らせるドアベルの音がやけに大きく響き、それが合図でもあった。


「いてててて、おいそっち行くな! 引っ張るなって皮膚がめくれる!」

「ご、ごめん。動揺して……」


 洋太と律は雪崩打ちながら店の外に出た。もうあかりの姿はない。


「お、お客様! お会計がまだお済みではないです!」

「あああ、今それどころじゃ――」

「洋太、中へ。無銭飲食はだめだ」

「わーかってるっつの! あでででで、だっから、引っ張るなって!」


 カフェのガラス扉に姿が映る。磁石みたいに、洋太の右半身と律の左半身が引き合っていた。頬に至っては布もなにも介していないので、ちょっとでも互いが違う方向へ顔を向けると、かなり痛い。

 こんな状態になったのは、おそらくもなにもない。


「……あかりの奴っ!」


 あわや無銭飲食の惨事を逃れ、洋太と律は奇異の視線を一身に受けながら地元まで戻ってきた。二人三脚よろしく呼吸を合わせ、まどか屋へ向かう。どうせヘソを曲げたあかりが行く先は自宅ではなくあかりのおばあちゃんの店だ。


 今ほど自分たちが住んでいる地域の地形――入り組んだ坂道と階段が多いことを憎らしく思ったことはない、と肩を落とした二人だった。


 *


 仕事中のおばあちゃんやお客さんの迷惑になるなんて考えもできす、あかりは大粒の涙を流し、しゃくり上げながらまどか屋へ飛び込んだ。


「おやおやおや……どうしたんだい?」


 おばあちゃんも、お客さんも、気遣わし気に声をかけてくれたけれど、あかりは泣くだけで精一杯。どうしたんだいという問いに応えたいのに、喋ろうとすると後から後から涙がやってくる。


 とりあえず家にいなさいと言われ、大人しく従った。しばらくすると、店番をお母さんに託したおばあちゃんが薬茶を持ってやってきた。


「これを飲んで落ち着きなさいな」


 ちびりと飲んだ薬茶は変わらずにやさしい味がした。変わらないものにホッとしたら、またほろほろと涙が頬を転がり落ちた。


「たくさんお泣き。その涙はあかりちゃんを成長させてくれるからね」


 子守唄みたいに心地の良いおばあちゃんの声が、ひきつれそうな心に沁みる。


 ひとしきり泣いて、泣いて。ようやく落ち着いてきた頃、あかりはカフェでの出来事、それから学校でクラスメイトに言われた言葉。そして、それらを高校生になってからよく耳にするのだということを、ゆっくり整理しながらおばあちゃんに話した。


「おばあちゃんも、おかしいって思う? 三人でいたい。三人でいるのが楽しいのに、ダメなのかな。たとえば……彼氏とか彼女とか、そういうのがないと、わたしは二人と遊んだり、一緒になにかを食べたりしたらダメ? ヘンって、思われる?」

「あかりはどう思うの?」

「わかんない……。三人一緒ならそれだけで毎日ハッピーだって。それでいいじゃんって、そう思ってた。……嫌だよ、男女ってだけで、二人と遠くなるのは」


 あかりはきゅっとブラウスの胸のあたりを握った。カフェを出てから、ずっとここがスカスカするのだ。


 そういえば、前にも似た感覚になったことがあったな、と思った。


 そうだ。洋太と律が、二人肩を並べてあかりの家から帰るのを見送ったときと似ている。なぜか、ここから先はあかりは立ち入れない。そんなふうに言われているみたいだった。


「わたしが男の子に生まれてたら、ずっとこの先も二人と仲良しのままでいられるってことなのかな。どっちが好きなのとか言われないよね」


 でもね、とあかりは思う。


「わたしね、おばあちゃんと同じ魔女に生まれてよかったって思ってるんだよ」


 照島の、あかりの一家で力が現れるのは女だけだから。


「三人で一緒いたいって、ずっとべったりしてたいってことじゃないよ?」


 でも、ハグもだめ……ってことなんだろう。洋太と律に体をぶつけてじゃれることも、おそらく。


 ――俺らは男でおまえは女なわけ。

 ――人目とか恥じらいはねえのって話なんじゃね?


 カフェで洋太に言われた言葉が、ぐるぐると頭の中を巡る。


「世間知らず、なのかな……わたし」


 おばあちゃんは、ただ聞いているだけで、あかりを肯定も否定もしない。


「ねぇ、あかりちゃん。薬草にはいくつもの種類、効能があって、まじないを込めながら毎日欠かさず水をやることで初めて育つ。知ってるよね?」

「うん」

「あかりちゃんは将来お店を継ぐって言ってくれてるね。でもそのためにはまず、薬草を育てられないと始まらない。そして良い薬草を育てるには、あかりちゃん自身がいろんな感情を知っていなきゃならないんだよ」


 そうか。だからいつもおばあちゃんは”まだ早いわね”って言うのだ。あかりが、まだまだ人として、未熟だから。


「嬉しいことも悲しいことも、今はまだわからないことも、あかりちゃんが感じたこと、考えたことすべてがあなたに力をくれる。魔法の力は人のために。人から得たものを、人に還元するの。奉仕精神じゃない。私たちに限らず、人はそうやって生きているんだからね」


 あの子たちがあかりちゃんといて嫌そうに見えたことがあったかい?


 すべてを見通しているような微笑みを向けられ、あかりは息をのむ。


 ――あかりにしょんぼりしてほしくないだけ。俺も、律も。

 ――俺たちはそばにいる。


 そんなことない。そんなことなかった。だからあかりは、二人といるとハッピーになれるし、一緒にいたいって思うのだ。


「それが一つ、答えでも良いんじゃないかい? あかりちゃんが与えたものをあの子たちが受け取って、それによって生まれたものがまたあかりちゃんにも還ってきている。その逆も然り。良い関係じゃないか」


 おばあちゃんは笑みを深くする。一生敵わない、あかりの尊敬する大好きな魔女。


「――あかり!!」


 そのとき、玄関で切迫した幼なじみたちの声が響いた。






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