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三人寄れば、シアワセ日和  作者: 水瓜汐芭


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5話 濃厚チョコレートパフェ

 無事に期末テストを終えた、あかり、洋太、律の三人は、お疲れさま会も兼ねて、以前からあかりが目をつけていたカフェへ訪れていた。


 テーブルには、まばゆいほどに美味しそうで、なんとも写真映えしそうな、選ばれしメニューたちが並んでいる。


 エアリーでふるふるなホイップクリームにあざやかな苺のソースがかかったパンケーキ。重いのか軽いのかわからない、芳醇なバターとレモンの香りが食欲をそそるダッチベイビー。背の高いグラスに入った、完熟バナナを一本丸ごとトッピングした濃厚チョコレートパフェ。


 あかりはスマホのカメラで、それらの写真を気が済むまで撮った。「まだ撮んのかよ」と悪態つく洋太には、シャッター音で返事をしておく。画角が違えば見え方も変わる。つまり美味しさが変わってしまう。写真の中では。


 心配しなくてもパフェのアイスが解ける前には終わりますってば!


「よし、おまたせ! 食べよ!」


 三者三様に手を合わせる。あかりはまず、パンケーキのお皿を自分の前に引き寄せた。


 そろそろとナイフを通すと、しゅっと音を立てて、ナイフが生地に沈み込んでいく。ひとくち食べると、口の中でシュワっと溶けるように生地が消えていった。


「さいっこう……」


 これぞ至福。究極のパンケーキ。大袈裟な称賛がぴったりなくらい、それはあかりを虜にする美味しさだった。


「大袈裟な奴だなあ」


 洋太はダッチベイビーに手をつけている。絶対に美味しい。


「ようはこれもパンケーキってことだろ。おんなじもん二個もいったか?」

「洋太はわかってない。見た目も生地も焼き方も違うし、つまり味も違う! それにスキレットがオシャレ。ちなみにスキレットっていうのは、このフライパンみたいなやつのことね」


 乙女心がわかっていない洋太にも、あかりは親切に教えてあげた。今のあかりは人に優しくなれる。なぜなら、胃と視界が幸せだからだ。


「楽しそうなところ水を差すようで悪いけど、俺、あまり食べられないと思う。見ただけですでにお腹いっぱいだ……」


 パフェにのっているバナナをちみちみ食べながら、律が言う。律は甘いものが苦手だ。


「大丈夫、大丈夫! 律の分もわたしがいっぱい食べるし、そのために一人ひとつとか決めないでみんなでシェアしようって選んだし! 問題ないない」

「おいあかり、そうやって食い意地はって食べすぎっと——」

「洋太。それ以上言ったらゼッコウだから」


 ばし、っと洋太の言葉を遮る。縦に伸びる成長盛りなのだから、ちょっと食べ過ぎるくらい問題ないはず。横に伸びる可能性もゼロではないという現実は、脳裏にチラついた瞬間に頭から追いやった。




 最初にギブアップと言ったのは律だった。そのあと、コーヒーとともに奮闘していた洋太もスプーンを置いた。あかりは最後まで残った濃厚なチョコパフェを口の中に詰める。チョコアイスやチョコプリンと層になっているホイップクリームが、もしゅもしゅと口の中で音を立てるのが気持ちいい。


 食べ終えて暇になった洋太はスマホでゲームを始めるし、律は小説を読んでいて、話し相手がいなくなったあかりは手持ち無沙汰になった。なんとはなしにメニューを開く。すると『追いホイップ』なるものが目に飛び込んできた。なんて素晴らしいトッピングがあるの! 


 あかりは追加注文のために店内に視線を巡らせる。するとなぜか斜め前の席の女の人と目が合った。一瞬どきっとしたけれど、相手がすぐに目を逸らしてくれたおかげで気まずさは少しで済んだ。けれど、なんとなく気になって、またちらりと斜め前に視線をやると、またばっちりと目が合う。


 え、なに……?


 なにか特別目立つことでもしてしまっただろうか。魔法は使ってないと思うし……うるさすぎたとか?

 記憶を辿っても、とくにこれだという原因が思い浮かばない。気のせいかな。そう思うことにして、目の前のパフェに集中する。


 ホイップは、やっぱやめとこう。


「あかり、どうかした?」


 あかりの挙動が気になったのか、律が本から顔をあげた。


「いや、うーん……。気のせいかも」

「なんだよ、煮えきらねえな」


 言えよと洋太にせっつかれ、あかりは斜め前を意識しながら、少し声のトーンを抑えた。


「いやさ、なんかさっきから斜め前の席の人とよく目が合うんだよね」

「知り合い?」

「ううん、知らない人」

「ほっとけよ。気になんだったらさっさと食って出よーぜ。このあと律が行きたいっつってた古本屋行くんだし」

「そうだね」


 とは言ったものの、一度気にし出したらなんとなく耳をそば立ててしまうものだ。


 ――彼……でも……どっち……。


 どうにもチューニングが合わず、なにを言っているのかわからない雑音が、ある拍子にいきなりクリアに聞こえる瞬間がある。


 自分にまつわる単語、潜在的に意識している単語が放たれた途端、一気に周波数が合う、みたいな。そのあとは雑音だった会話がまるで嘘みたいにすんなりと耳に入ってくる。魔法でもなんでもない。人間の不思議なところのひとつ。


 ――彼氏彼女じゃないとしたら、あの子たち兄弟かな。


 ――友達すっ飛ばして? だとしても似てなくない? どっちかと女の子が付き合ってて、もう一人の子はなんらかの理由でデートに同行してる友達、とか? ちょっと無理あるか。


 ――仮に友達同士だとしても、男子と食べ物つつき合うのってなんか抵抗なくない? 私無理かも。ああ、でもたしか、あのくらいの年齢って、あえてそういうことしてたっけ。しないと意識しすぎって思われる空気感があったような……。


 ――見てる分には微笑ましい光景ちゃあ光景だけどね。


 なんで。


 それが、あかりが一番最初に思ったことだった。なんで高校に入ってから、こういうへんてこな曲解を耳にすることが増えたんだろう。


 聞きたくない。

 不快感が、パフェを楽しむ手を止めてしまう。


 食べ物って、みんなでシェアして食べちゃダメなの? お菓子を広げてみんなで食べるのとなにが違うの? 仲の良い友達だよ? なにがダメ? 男女が一緒だからダメ? 彼氏彼女ならいいってこと? そんな決まりある? 


「あかり、気にするな」


 どうやら律の耳にも女の人たちの会話が聞こえたらしい。座っている位置からすれば、律や洋太の方が近い。


「そーだぞ。……でもま、あの人らが言ってることもわからんではないけど」


 ボソッと付け加えられたその言葉。見えないなにかが、ぴしりと音をたてた。


「……は? 洋太までなに言ってんの? ダメなの?」

「ダメとかじゃねえけど、あの人らがそういうの気にするのも当然なんじゃねって思うだけ」

「それがわからないんだけど」

「……あーもうだから、俺らは男でおまえは女なわけ!」

「それがなに」

「だから、いろいろあんだろうけど、例えば俺たちの距離は普通じゃねえ、人目とか恥じらいはねえのって話なんじゃね?」


 なに、それ。

 味方の中に敵が潜んでいた、ってこういうこと?


「……律は? 律もそう思うの? わたしの部屋で勉強したり、遊んだり、そういうのおかしいって思ってたの? でもわたしがなにも気にしないから合わせてくれてた?」

「いや、俺は……」


 煮え切らない律の態度。それが答えのような気がした。いつもなら律らしい独特の慰め方をしてくれるのに。


「早まるなって。別にそんなことは言ってねえだろ」

「一緒じゃん。わたしだけずっと三人一緒なら楽しいって浮かれすぎてたんだ。ごめんね」


 そりゃそうか。中学よりも、クラスも知り合う人の人数も増えている。世界は広がっている。友達の多い洋太。律は一人でも読書をして楽しめる。あかりだけ、『三人』にこだわっていたんだ。


「おい、あかり――」


 ひとつ自虐的に捉えると、あとからあとから思い出すこと全てに後悔のシルシがつきそうだった。

 テーブルには三人で食べ進めたチョコレートパフェが残っている。ごめんね、ちゃんと全部食べられなくて。


 あかりは立ち上がり、一言「帰る」と告げた。


 引き止める洋太と律の声が思いの外切羽詰まったものでおかしかった。別に引き留める理由なくない?


 帰る、いや待て、の押し問答は、あかりたちの席から少しづつ広がっていき、近くの席のお客さんが何事かとチラチラ気にし始めたのが気配でわかった。


「待てって。いったん落ち着け」

「うん。話が必要だと思う」

「帰る」


 そればかり繰り返すと、洋太が小さく舌打ちした。


「……ああもう、めんどくせえな」


 そう言った洋太を、あかりはギンと睨む。次の瞬間、ほとんど無意識にあかりは頭の中で強く念じた。


 ――――。


 一瞬の閃光のあと、「ええぇぇ――!?」という洋太と律の悲鳴が店内中に響き渡った。

 斜め前の席を通り過ぎるとき、また女の人と目が合った。女の人は罰が悪そうにしていた。


 三人一緒ならそれだけでハッピーだ。

 そう思っていた。


 でも今は、自信がない。





おしらせ

1話を投稿した際、あらすじのところに「全6話」と記載していたのですが、

「全7話」の誤りです、すみません。


残り2話、お楽しみいただけますように。

 

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