4話 洋太の幸せ
あー帰りてえ。今すぐ帰りてえ……。
期末テストもそろそろだという時期に、となり町までクラスの友達四人と遊びに来た洋太は、合流わずか一時間足らずで家に帰りたくて堪らなくなった。
「映画でも見ようぜー。なに見たい?」
「バッ、ズババッ、シュッ、みたいなやつどうよ」
「んだよそれぇ」
「ウケる」
ウケねえよ。ゲラゲラと笑う、そのなにが面白いんだと疑問を覚えるような、中身のない会話を繰り広げる友達三人。とりあえずその場のノリでバカ笑いして騒いで、テンション合わせとけばオールオッケー! みたいな空気。
合わなすぎて疲れるわー。
「洋太は?」
俺に振るな俺に。そう思いながらも、当たり障りなく会話を繋げる。
「んー、俺もシュバ! シュババ! みたいなノリのやつかなー」
バカ笑いとテンションを模倣した愛想笑いですり抜ける。
結局映画を観るのはやめになった。当たり前だ。あんな会話で決まるわけがない。
はたから見たら十分洋太も『うるせぇガキ』『うぜぇガキ』にカテゴライズされる。わかっていてつるんでいるのだからなにも弁明ができない。
でもまぁ、もうこのメンバーで遊ぶのはないな。
そう見切りはつけている。今後は当たり障りなく断ることになるだろう。
今頃あかりと律、勉強してっかな……。
週末は三人でテスト勉強をしようと、あかりから提案があったが、先約が“こっち“だった。今頃は二人でやっているはずだ。
それほどテストに危機感を感じていなかったから今日の遊びにオッケーを出したが、これなら大人しく勉強していた方が得だった。
一年のうちから勉強する必要なんてなくね? という友達たちは、テスト勉強に焦ってないと答えた洋太に対して、おそらく同族の匂いを嗅ぎつけたのだろう。
一緒にされたくねー、というのが正直な気持ちだった。
たんに洋太は、クラスのトップをとってやろうとか、学年順位十位以内を目指すとか、そういう高い目標は持っていないというだけだ。赤点が頭にちらつくような学力でもないし、日頃まったく勉強をしないわけでもない。こう見えて将来のことはきっちり考えている方でもある。
とはいえ自業自得ではある。律ほど真面目ではないし、見かけはチャラチャラしたお調子者にしか映らない。しかしそれだけで測れないのが人間ってやつで。
適当に友達の会話に相槌を打ちながら意識は別のところに向く。
うお、この古本屋、味あんな……。律、絶対好きだろ。あ、ここのカフェあかりが行きたいって言ってたとこじゃん。期末終わったら三人で行くか。
上の空で友達の輪の後ろを歩いていると、カラオケに行って締めるかという話になっていた。腕時計を見ると十六時を少しまわったところだ。
……そろそろいっか。
「わりぃ! なんか母親に夕飯の買出し頼まれたわ」
そう言って顔の前で手のひらを合わせ、申し訳なさそうな顔をつくる。「ええー、良い子ちゃんかよー」「母ちゃんには逆らえませんってかぁ?」などという馬鹿げた嗤い声を聞き流して別れた。
「うーぜえー」
気分の悪さを打ち払うように大股でズンズン歩く。自宅最寄りの駅に着き、目についたコンビニで適当にお菓子と炭酸飲料を買った。
いっつもおやつ食わせてもらってばっかだからな。
いつもの礼と、勉強を頑張っているだろう二人へのささやかな差し入れだ。
少々買い込みすぎて重量のあるコンビニ袋を下げながら、あかりの部屋のドアをノックする。しかし返事がない。集中しているのだろうかと思い、返事を待たずドアを開ける。
「よー捗ってるか?」
そこには肩透かしをくらったような光景があった。あかりも律も、机に突っ伏して気持ちよさそうに眠っている。
さっきまでの気分の悪さを忘れるくらい、それはそれはゆるい光景で、平和だった。
思わず口元が緩む。洋太はそうだ、と熟睡している二人をカメラに収めた。あとでいじってやろうなんて考えながら、撮った写真を眺め、ふと思った。
いつまでこうやって三人でいられんだろう、と。
期限など訪れず、いつまでも自分を包み隠さずにいられるこの二人といたい。でもきっと、こんな関係はもう長くは続かないと洋太は思っている。
それぞれ視野が広がって、それぞれ心身ともに成長していって、いろんなことがこれまでと違ってきて。
なんだかなー。このままでもいいじゃんって、つい思っちまうよな。
それでもいつかはやってくるだろう。こちらの意思とは関係なく。けれど確実に意思を孕んで。
コンビニ袋が立てる音で、二人はむくりと起きた。
「あれ……。洋太早かったね」
「まーな。ほれ、差し入れ」
大きなあくびを照らいなく披露してくれたあかりはまだ眠そうだ。
「……どしたの急に。槍でも降るの?」
「降らねえわ!」
寝起きでまだ意識がはっきりしない様子の律は、ぼうっと一点を見つめている。
「律、ちょっとは覚醒したか?」
「……うん……うん?」
「わ、これ新商品じゃん。食べたかったやつだ〜」
それでもやっぱり、できるだけこういう日々が続けばいいのにと、洋太は自由な二人を見て思った。




