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三人寄れば、シアワセ日和  作者: 水瓜汐芭


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2話 あかりの幸せ

 GW明けの登校初日は、空にふわふわの綿雲が浮かぶ、よく晴れた気持ちのいい天気だった。あかり、洋太、律の三人は、今日も今日とて変わらず肩を並べて登校した。


 廊下で洋太と律と別れたあかりは、自分のクラスへ入り、適当にクラスメイトに挨拶をしながら席についた。すると先に登校していた女子の一人が、「ねえ、ねえ」と興奮気味に駆け寄ってくる。


 まるい眼鏡をかけ、髪を肩で切り揃えた彼女は、クラスの中でもピカイチの情報通。そしてお喋りだ。ズケズケとものを言うし、どちらかというとあかりは苦手なタイプだった。それにあかりが魔女の一家の子だとコソコソ囁き合っていたうちの一人でもある。今日は朝からなにを言われるんだろうと、内心でうんざりする。ついさっきまで、すごく気分がよかったのに。


 そんなあかりの心情なんてかけらも気づかないクラスメイトは、内緒話でもするかのようにあかりにぐいと顔を近づけた。


「四組の高原くんと岩戸くん、それに照島さんってさ、三人とも幼なじみなんでしょう? ぶっちゃけさ、どっちのことが好きなの?」


「……は?」


 クラスメイトは「きゃっ、聞いちゃった」「少女漫画的でときめくぅ」「守ってやるとかそういうのあるの?」と興味津々に続け、勝手に次から次へと憶測で喋って、一人で身をくねらせて盛り上がっている。けれど、それとは対照的にあかりはどんどん冷静になった。すぅと冷たいものが体に満ちていく。


 ――なに? それ。


 胸に渦巻いたものが口から溢れていたらしい。クラスメイトはあかりの纏う雰囲気に気づかず嬉々として言葉を続ける。


「だぁって、毎朝仲良く一緒に登校して来るし、今日だってすごい距離近くて私びっくりしちゃって!」


 びっくりはこちらの台詞だ、とあかりは思った。

 なに? それ。


 どっちが好きとか、そんなのない。そんな尺度で、あかりはあの二人を測ったことがない。あかりと洋太と律。三人でいればそれだけで毎日がハッピーだ。明日も明後日も、その次の日も。


 むしが肌を這うような感覚というのを、はじめて実感したかもしれない。


 なにそれ、嫌だ。ほんとに嫌。

 そんな話は聞きたくない。


 ちょっとした好奇心で自分たちの仲を捻じ曲げられる気持ち悪さ。


 教室の窓ガラスがピシリと音を立てた。誰かが外から小石を投げていたずらしているんだろうか。いいや違う。あかりだ。これは、あかりがやってしまった。


 ため息が溢れないように鼻から深く息を吸って吐く。そして、なんでもないふりを装って、「どっちもただの友達だよ」と、へらっと笑った。けれど、内心はイライラして、悲しくもあって。


 ええ〜、と全然納得していない顔のクラスメイトだったけれど、予鈴のチャイムが鳴り渋々離れていった。


 あかりはくっと顔をあげた。目の奥がじんわりしてくる。

 空は相変わらずよく晴れている。いくつも浮かぶ綿雲が、透き通る青に影を作っても、それぐらいで雨は降らない。


 空さんはえらいね。ちょっとやそっとじゃ泣かないね。わたしは泣いちゃいそうだよ……絶対泣かないけど。





 心を無にし、やっと迎えた放課後。

 あかりはいつも通り昇降口を出て左手の自転車置き場の近くにある花壇の脇で、洋太と律を待っていた。スマホには『今から行く』のメッセージ。それを見ていると、ふいに、朝クラスメイトに言われた言葉を思い出した。


 ――ぶっちゃけさ、どっちのことが好きなの?


 あかりはきゅっと唇を引き結び、洋太と律を待たずに学校を出た。


 交差点で信号待ちをしていると、慌ただしい足音がした。それに気づいた頃には力任せに肩を引かれていた。振り返れば半眼で不服そうにあかりを見下ろしている洋太と、少しだけ頬を上気させた律がいた。走ったのかもしれない。


「なに先帰ろうとしてんだおまえは。信号で引っかかっててくれてよかったわ」

「うん。待ってるってメッセージが来たのに、いないから心配した」

「……ちょっとトイレとか、行ってるだけかもじゃん。心配しすぎだよ」

「実際行ってねえじゃん」

「……まぁ、そうだけど」


 信号が変わる。肩を掴んでいる洋太の手からパッと離れ、先に歩き出す。


「あかり、なにかあった?」


 背中にかかる律の声が、いつもあると思うのはダメってこと?


「なんもないよー」


 二人に隠し事をしたいわけじゃない。だけど、話して楽しくなるような内容ではないから。


「あーあー、不機嫌丸出しなくせにな」

「べ・つ・に! デリケートな問題なんですぅ」

「なんだそれ」


 洋太の呆れを含んだ声にムッとしながら、それでも知らんふりをし続ける。


「なんでもないったらない!」

「あーはいはい。左様で」


 なんでもないことはないと、バレている。けれど二人はそれ以上踏み込んではこない。ここまでにしておいてと線を引くと、その通りそこで待っていてくれる。


「しゃーねえ。アイスでも奢ってやっから」

「うん。ありがとう」

「いや律にじゃねえわ。自分で買え」

「え?」

「え、じゃねえわ! なにその当然でしょみたいな無垢な目!」


 いつの間にかあかりを追い越して先を歩き始める洋太と律。その後ろをあかりはついていく。


 昔ながらの駄菓子屋で、ソーダ味のアイスバーを買ってもらった。それを猫みたいに少しずつ舐めながら、先を歩く二人を眺める。


 洋太は洋太、律は律、わたしはわたし。それでいいじゃん。


「あかり! とぼとぼ歩いてっと転ぶぞ!」


 いつの間にか洋太と律と距離ができていた。


「大丈夫だ。いつ転んでもいいように絆創膏と消毒液は持ってる」

「転んだら痛えって話だろ、今のは!」


 強張っていた口元が思わず緩む。ふっ、と小さく吹き出して、やがてあははと声が弾んだ。


「もう、二人ともなんでわたしが転ぶ前提でいんの」


 ヘソを曲げているふりをして二人に駆け寄る。けれど、むずむずと湧き上がる嬉しさは隠せなかった。だって本当のことだろと言う洋太と、頷く律。


「あ、毛先が跳ねてる。よかったな洋太。タコだぞ」

「ったく、さっきまで機嫌悪かったくせにゲンキンなやつ……って、タコは余計だ、タコは!」


 今日感じた不快感とか、イラ立ちとか悲しさとか、そういうものは道端に捨てて行こう。帰ったらおばあちゃんのお店に寄って話を聞いてもらって、そのあとは部屋でのんびりしながら三人で遊ぶ。よし、元気出てきた!


「帰ったらマリオカートやろ!」

「下手くそなくせにか?」

「俺は本が読みたい」

「えー、律もやろうよ」


 今日はもう、これだけで満足だ。





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