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僕の映画、ダメですか?  作者: 双鶴


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3/7

遠峰くん、僕の映画、ダメですか?

三浦泰和は、スマホを見ながら震えていた。

SNSのタイムラインには、見覚えのあるタイトルが並んでいた。

自分の映画だ。だが、そこに添えられた言葉は——


「泣けるって聞いたけど、泣けなかった」

「感動より、監督の舞台挨拶の方が面白かった」

「ポップコーンの塩味の方が泣けた」


三浦は、スマホをそっと伏せた。

隣で遠峰クンが、冷静に報告する。


「監督、SNSで“泣けない映画ランキング”が更新されました」

「…何位?」

「1位です。ゾンビ映画が2位に落ちました」

「ゾンビに勝ったの…?」


三浦は、ソファに沈み込んだ。

明美さんが、新聞を読みながら言った。


「あなた、評論家に“日本中が涙する”って言われてたわよね」

「うん…言われてた…」

「でも今、“日本中が困惑してる”って書かれてるわよ」


三浦は、枕を抱きしめた。

「遠峰クン…僕の映画、ダメですか…?」


遠峰クンは、タブレットを見たまま答えた。


「映画はダメでも、監督はもっとダメです」

「…それ、ちょっと言い過ぎじゃない?」

「では、映画は“まあまあ”で、監督は“かなりダメ”です」

「…優しさって、どこに売ってるの?」


その日、三浦は配給会社の担当者と打ち合わせがあった。

会議室に入ると、担当者が言った。


「監督、舞台挨拶を増やしましょう。映画より監督がウケてます」

「…それって、僕が“映画より面白い”ってこと?」

「はい。監督の泣き顔が、観客に刺さってます」


三浦は、遠峰クンに目配せした。

「遠峰クン、僕、もう“泣ける映画”って言いたくない…」

「では、“泣いてる監督の映画”にしましょうか」

「…それ、キャッチコピーにするの?」


明美さんが、コーヒーを飲みながら言った。


「あなた、次回作は“泣き言集”でいいんじゃない?」

「…それ、文学賞狙えるかな…?」


三浦は、会議室の窓から空を見上げた。

雲ひとつない晴天だった。

泣ける映画を撮ったはずなのに、泣いてるのは自分だけ。

でも——少しだけ、笑えてきた。


「遠峰クン、僕、次の舞台挨拶…笑顔で行くよ」

「それはいいですね。泣き顔より、耐え顔の方がウケます」


三浦は、立ち上がった。

泣き言を武器に変える準備が、少しずつ整ってきた。


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