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残光の箱庭  作者: 米田
2章
66/74

32

 ガラガラと物置の引き戸が開き、外の眩い光が差し込んでくる。


「お待たせ。そろそろあっちに移ってもらおうか。ここ暑くて、熱中症にでもなりそ――……」


 そこまで言って、アズマさんは黙った。中へ入って辺りをキョロキョロと見渡し、床に落ちた割れたガラスの欠片を見る。顔を上げて、割れた窓を見て後頭部をガシガシとかいた。


「あーあ……私ってこういうとこ雑なんだよね……」


 無線のようなものを取り出して、恐らくケイさんにだろう、連絡を取る。


「――逃げられた。手分けして探そう」


 そう言って扉を開け放したまま物置から出ていった。

 しばらく時間が経って、辺りから何の音もしないことを確認して、私とレイさんはシートから顔を出す。


「ば、バレなかった……良かった……」

「上って案外見ないからね。窓割れてたらそっちに注意も行くでしょ?丁寧に中探さないと思うよ」


 レイさんがそう淡々と話す。その通りだとしても、成功するまでは気が気じゃなかった。


 結局、2人で話し合った結果、逃げるにしても闇雲に外に出たところでどうしようもないという結論になった。

飛行場周辺の近くに民家は無いし、長い距離を歩かなければいけない。飛行場内で動く車両を見つけるというのも運任せだ。この暑さじゃ途中で死んでしまうかもしれない。であれば、車を奪還して逃げるしかない。2対2ではどうしても分が悪い。2人とも相手にしない、もしくは1人引き離す必要があった。

 窓ガラスを割り、外へ逃げたと思わせられれば、捜索のために1人は引き離せる。


 私たちは物置内にあった大きなラックの、最上段にあったガラクタを下段に移して2人分のスペースを確保し、他のものを包んであったシートに包まって身を隠した。

 シートの中はとても暑かった。顔を出して、汗を拭く。


 まずレイさんが降りた。幅も狭くて、最上段ともなると結構な高さで怖い。私も降りようとしたところで、レイさんから止められる。


「待って、私が外確認してくるからそこで隠れて待ってて」

「え?あ、はい、分かりました」


 それからレイさんはキョロキョロと戸の縁から外を確認して、外へ出て行った。私はレイさんが戻ってくるのをじっと待つ。物凄く長い時間待ったような気がしたけど、実際は10分くらいしか経っていなかった。レイさんが戻ってきて、私に外へ出るように促した。


「2人ともいませんでした?」

「いなかった。1人残すと思ってたけど……意外と間抜けだったね」


 レイさんが馬鹿にしたように肩をすくめた。

 促され、さっき降りた車の場所まで走る。元の位置にそのまま止まっていた。扉に手をかけて、大事なことを思い出す。


「あ、鍵……」

「大丈夫、あるよ」


 レイさんがゴソゴソと服の中から予備の鍵を取り出す。どこに入れてたんだろう。


「取り上げられてなかったんですね」

「裸にしてまで全部見ようとなんてしなかったからね。本人も言ってたけど、雑なんだよ」


 ガチャリと鍵を差し込んで、車に乗り込む。エンジンを入れて、ベルトもしないうちから、レイさんがアクセルを踏む。そりゃそうだ。いつこちらに来るかも分からない。さっさと逃げ出さないと。


「どこへ向かいますか?」

「とりあえず、私の実家かな……荒れてないといいんだけど」


 レイさんの実家?行きたすぎる。どんな造りなんだろう。本邸なら和風だったりするのかな。

 緊張感に欠けたことを考えていると、前方に影が見えた。次の瞬間、バリン、と音がしてフロントガラスにヒビが入る。


「うわ?!」

「伏せてて!!」


 私が伏せると同時に、レイさんが思いっきりハンドルを切る。コントロールを失った車が方向もめちゃくちゃに暴れる。方向感覚がおかしくなって、脳が混ぜられるような気分になる。吐き気を堪えて、視界を取り戻そうとする。車は、そのまま勢いが衰えて停止した。

 クソッとレイさんが悪態を付いて、ハンドルを叩く。


「撃たれた!パンクした!」

「だ、大丈夫ですか?!」

「大丈夫、ホノカちゃんは?!」

「大丈夫です!」


 ガンッと窓ガラスが叩かれる。視線を上げると、アズマさんが立っている。


「開けろ。出て来い」

「…………」


 レイさんが無言で車から降りる。私も降りようとして、アズマさんに髪の毛を鷲掴みにされて、車から引き摺り下ろされる。


「っ……」

「ちょっ……」

「頭の後ろで手を組んで、膝をつけ。動くなよ」


 アズマさんにそう言われ、レイさんはすぐ言う通りにする。


「はぁ、興奮するね。さっきまで生意気だった相手が、自分の言う通りに従う様って。そんなに大事かい?この子が」

「…………へえ、嬉しかったんだ?素人が動かす車に銃弾当てられたことが。はしゃいでるじゃん」


 レイさんがそう挑発するように言って、アズマさんは首を傾げる。そして私の髪の毛をグッと引っ張って、上を向かせる。


「いっ……」

「何か言ったかい?」

「…………」


 それを見てレイさんは押し黙る。アズマさんはスイッチが入ったように暴力的になっている。私たちが逃げるとは思わなかったんだろうか。2人まとめて飛行機に乗せてしまえるなら、そう抵抗もしないと思ったのかもしれない。逃げようとしたのがよっぽど不愉快だったのかも。人を支配したがるタイプの人だ、その可能性はある。


「ホノカ、君このままレイと逃げるつもりだったのかい?つれないじゃないか。私とは一緒に来てくれないのかい?あんなに話したじゃないか」


 アズマさんが私の耳元でそう呟く。この人と一緒にいても安心できることは一生ないということがはっきり分かった。私の不安を煽って、選択肢を絞ろうとする。ケイさんだって多分そういうことを繰り返されてるんじゃないだろうか。私はああはなりたくない。それに、怪我をしたとか、レイさんをここまで連れて来させたいとか、毒薬を飲ませられたとか、そういう縛りがないとこの人は平然と暴力を振るう。抑止力がなきゃこの人とは付き合えない。


「飛行機って乗ったことなくて怖いし、やっぱりやめておきます」

「ハハッ、私が操縦するし大丈夫だよ。それに事故で死ぬのも、ここで死ぬのも大して変わらないだろ」


 髪を引っ張る力が強くなり、アズマさんの体に引き寄せられる。ブチブチと髪の毛が抜ける音が聞こえた。


「それにさあ、君6人も殺しておいてそのまま日常に戻るつもりだったのかい?あの田舎のぬるい環境でぬくぬくと。そんな資格、君にあるかい?ハハッ可愛い顔してやること大胆だよね。私好みだ」

「…………は?」


 レイさんの口から声が漏れる。私の体はギクリと固まった。その反応を見て、アズマさんは嬉しそうに笑う。


「ハハッ、ほらレイは受け入れられないみたいだよ。可哀想に。結局こうなるんだよ。光の中にいる人間が、こちらにずっと寄り添えるわけないんだ。分かるだろう?」

「待って、ホノカちゃん、こいつにやらされたの?」

「あ…………」

「まさか!ホノカが自分で殺したのさ!部屋で寝てる6人の酸素を止めて、火をつけて!そうだよなぁ、ホノカ!」


 喉が詰まって、声が出にくくなる。その通りだ。6人も殺しておいて、レイさんの隣に居ようとするなんて烏滸がましい。殺した理由だって、私のエゴ以外の何でもない。ただ、何にも気持ちがない人に彼らの最後を看取って欲しくなかっただけだ。それだけ。別に、何も立派なものじゃない。もしかしたら、あと数分酸素を止めるのを遅らせていたら彼らが目覚める可能性はあったかもしれない。レイさんに見てもらえば、どうにかなったのかも。でも、可能性は低い。この人たちをこの世界で救ってください、なんてレイさんにあまりにプレッシャーじゃないだろうか。救えないとなったら?

 こんな気持ち、私だけが背負えばいい。レイさんはもう充分、キツイ思いをしてきた。私だけでいい。


「ああ、でもレイ、君も同じようなものか?君の会社から漏洩したウイルスでこんな状況になったんだもんな?じゃあホノカを受け入れられないなんて、潔癖なことを言う資格もないね!」

「こいつ、ペラペラと……」

「…………」

「ホノカちゃん、こんなやつの言うこと聞かなくていいよ。こんな世界で生きてたら、前と同じ倫理観じゃ生きていけない。何が正解だなんて、その時で違うんだから」

「でも……」

「忘れた?私、ナリタさんを殺してるよ?それ以外にも、ホノカちゃんが知らないだけでたくさん」

「それは、でも違うじゃないですか……」

「何が違うの?同じだよ。なんか、いいかげんやめない?アズマと一緒になって、私を違う人間みたいに扱うの。そんな特別な人間じゃないよ」

「…………」

「レイの言ってることなんて聞かなくていいさ。そんな風に綺麗に割り切れないだろう?君は将来、レイといるのが今よりもっと苦痛になるよ。私の下に付いた方が楽だよ?ホノカ」


 私が言葉に詰まっていると、アズマさんの腰の辺りからトランシーバーの音がザザッと鳴りだす。


『――アズマ様、やられました』

「んー?」


 アズマさんは両手が塞がっている。私の髪を掴んでる逆の手で銃を握っているので、腰のトランシーバーを取れない。


「あーホノカ、私の腰からそれ取って顔の前に出してくれないかい?」

「え……」

「ほら、早く」


 銃口で頭を小突かれる。私は手探りでアズマさんの腰を触り、取り出して顔の前に出す。


「私が喋る間、送信って書いてるボタンを押して。――何だい?今忙しいんだけど」

『火を放たれてます。機体はもう無理です。予備の機体はありますが、燃料が足りません。残りを入れても、2人が乗れるギリギリの人数でしょう』

「…………」


 アズマさんは後ろを振り返る。機体の方に視線を向けてしばらく眺めてから、レイさんの方を見た。


 そういえば、アズマさんからもらったライターがそのままポケットに入っていたので、レイさんに渡したんだった。あの物置内にあったものと合わせれば、火炎瓶を作れそう、なんてレイさんはにこやかに笑って冗談ぽく言っていた。……冗談じゃなかったんだ。


 レイさんは薄く笑みを浮かべている。


「……君かい?1人見張りを置いておくべきだったねぇ」

「どうするの?2人しか乗れないってよ。今やってること意味ないんじゃない?」


 レイさんがそう言うと、アズマさんは笑みを消してトランシーバーに向かって喋り出す。


「荷物を下ろしても無理かい?」

『最小限にしてその計算です。どうされますか?』

「…………」

『……まさか、僕を置いていくなんて言いませんよね?また置いていくつもりですか?』

「いや、君はいてもらわないと困るよ」


 アズマさんがそう言うと、向こう側で嬉しそうな吐息を漏らす声が聞こえる。そして、わがままを言う主人を優しく諭すような声音で続きを話し始めた。


『アズマ様、意地になってませんか?もういいでしょう。その女、探して連れてこいとは言われてますが、できれば、という話ではありませんでしたか?そもそも生死不明という話から、生存してることや潜伏場所まで知れたのですから、もう充分でしょう』

「…………」


 そう言われ、長い沈黙の後、アズマさんは長い溜息を吐いた。


「……分かった。すぐ戻る」

『待ってますよ』


 それで通信は途切れた。少しの間、沈黙が流れる。

 

「帰っていい?」


 レイさんがそのままの姿勢で淡々とそう言う。そう言うと、腹からアズマさんは笑う。ひとしきり笑った後、口を開く。


「フフッ……帰すと思うかい?乗る予定だった機体まで燃やされて?連れて行けないなら、別に何したって自由だろ?」

「…………!」

「あーあ、ホノカさえ乗せられればレイは絶対付いて来ると思ってたんだけどねぇ。まさか機体の方やりにくるとはね。詰めが甘かった。徹夜が響いたかな?」


 そんなことを言いながらアズマさんは銃口を私の頭から、レイさんへ突き付ける。全く動じることなく、レイさんは顔を歪ませて馬鹿にしたように笑った。


「ダサ。むしゃくしゃして私を撃つわけ?さっさと戻ってご自慢の部下くんにでも慰めてもらえば?」

「あはっ、ほんと君って攻撃的だよね?普通この場面で煽るかい?」

「言ってるでしょ?大嫌いだって、あんたのこと」


 アズマさんはレイさんの元へ私を引き摺りながら近付いて、思い切り腹に蹴りを入れた。レイさんの体が後ろへ倒れる。


「レイさん!!」


 そのまま倒れたレイさんの顔面を踏み付ける。


「どうしようか?でもさすがに殺したら怒られそうだ」

「アズマさん、何でそんなに怒ってるの?」

「言っただろ?機体壊されて、連れて行けるはずのレイも連れて行けなくなったんだ」

「でも、私たちもアズマさんに無理矢理ここに連れて来られて怒ってますよ?来る気なかったんですから。反撃されるのは当たり前でしょ?嫌なことされてるんだし。自分ばっかり被害者みたいに言うのは子供っぽいですよ?」


 そう言うと、アズマさんは驚いた顔で私の顔を覗き込む。


「意地になってるって、その通りじゃないですか。ケイさんはアズマさんと長く一緒にいただけありますね。よく分かってる」

「フフッ……フフフフフフフフフフ…………」


 何故か笑い出して止まらない、不気味なアズマさんを私は見つめる。


「そうだ、よく考えたら2人で静かに暮らしていたところに無理に私が入れてもらったんだ。怪我も治してもらった恩も、まだ返してないねぇ……」


 そう言って、銃をしまいだす。私はホッとして一瞬力が抜けた。次の瞬間、アズマさんは懐からナイフを取り出した。


「だから、ホノカ、許してあげる。私は心が海のように広いから。……さあ、どっちにする?」

「何が、ですか?」

「君かレイ、どっちを刺すか選ばせてあげるよ。サービスだ。そうだ、君が選んで君の手で刺すと良い」

「えっ……」

「場所も、どこだっていい。四肢なら大きい血管避ければ生き残れるかもね。脇腹だって運が良ければ。ああ、でも車もパンクしてて、まともな施設もないから失血で死ぬか?」


 アズマさんは私の手にナイフを握らせてから、掴んでいた髪の毛をパッと手を離す。引っ張られていた頭皮が元の位置に戻ってきて、ジンジンと傷んだ。アズマさんはすぐに銃を取り出す。今度はしゃがんで、地面に転がったままのレイさんの頭に銃口を突き付ける。


「やらないなら撃つよ?レイを」

「待って、ホノカちゃん、私に渡して。自分で刺すから」

「ダメだ。ホノカがやらないと」


 起きあがろうとするレイさんの頭を、アズマさんは銃口で押さえつける。口元が歪んで笑みを滲ませている。楽しそうだな。

 自分の手元にあるナイフを見つめる。刃渡は何センチくらいだろう。私の手のひらよりも大きく感じる。こんなもので刺したら、最悪死んでしまうかも。浅く刺したところで、アズマさんは納得しないだろう。痛みを想像するだけで、手が震えてきた。

 絶対レイさんを刺したくない。かと言って自分に刺すのも嫌だ。そんなこと、できない。


 アズマさんは私たちをどこまでも痛めつける。きっと、私たちどちらかが傷つくまで終わらない。私が刺せないと分かれば、レイさんの頭を撃ち抜くだろう。殺すのが目的じゃなくて、私たちが狼狽えて怒ったり、恐怖したり、そして精神的にも肉体的にも傷付く瞬間を見て、楽しみたいだけなんだ。

 アズマさんって、毒みたい。じわじわ気付かないうちに体中に回って、私を今苦しめている。何だかもう、疲れてしまった。考えるのも、しんどい。

 レイさんのことも、シュウくん達のことも、私はずっと考え続けなきゃいけないんだろうか。


 私は深呼吸してから、ナイフを手放した。足元の地面にそのまま落ちる。


「おやおや。緊張したのかい?拾ってホノカ」

「アズマさん、私にナイフを刺す度胸があると思いますか?」


 そう言いながら、自分の胸元に手を入れる。警戒したアズマさんがすぐに銃口をこちらに向けたけれど、気にせず隠していた袋を取り出した。袋の中身は見えないように、手で隠す。


「待って、それ……」

「それなんだい?」

「さっきレイさんが落とした薬です。こっそりもらっちゃいました」


 小さな袋から、中身の薬剤を取り出す。


「やめて、待って、何するの?!」

「あははははは!ホノカ、本気かい?」

「どの薬を飲んだか分からなければいいですよね?」


 私がそう言うと、アズマさんは馬鹿にしたように口元を歪めて笑う。


「ナイフなら私のように生き延びる可能性もあるのに、わざわざ薬で確実に死にたがるのかい?」

「6人殺したんですよ?死ぬのが妥当じゃないですか?」

「ハハッそうだね。やっぱり君って、頭おかしいね!」

「飲まないで!ダメ!やめて!」

「ふーん……」


 アズマさんは目を細めて何かを考えるように黙る。


「……君のことだ。すぐに嘔吐しても、解毒薬を飲まなきゃ意味のないようにしてあるんだろうね」


 レイさんはアズマさんを鋭い視線で睨む。その通りなんだろう。その表情を見て、アズマさんは一際輝く笑顔で私を見た。


「いいよ、ホノカ。ナイフで刺すより面白そうだから!」


 私は2人に向かってニコリと微笑んで、口に含んでごくりと飲み込んだ。飲んだことを示すため、手の平と口の中をアズマさんに見せる。レイさんの叫び声が聞こえた。アズマさんは楽しそうに声を出して笑っていた。涙まで出ていて、目元を拭う。


「ほら!見なよ!レイ!君があーんなに大事にしていたホノカが、あっさり死のうとしてるよ!なあ!どんな気持ちなんだい?」

「てめえ……!!!」

「こんなに面白いこと、無いだろう!アハハ!いろいろとやってみるもんだね!」


 レイさんが立ちあがろうとするけれど、アズマさんはそれを許さない。起き上がらないようにまた顔を足で踏んだ。踏みつけながら、手首の時計で時間を確認する。


「さすがに死ぬまでは待てないね。残念。せいぜい2人で最後の話にでも花を咲かせてくれ」


 そう言ってアズマさんはレイさんから離れて地面のナイフをしまい、銃口を下ろした。その瞬間にレイさんは弾けたように私の側へ近寄った。


「待って、待って、何飲んだの?何色だった?!形は?!」

「…………」

「答えて、ホノカちゃん!早く!」

「じゃあね。楽しかったよ」


 そう言ってアズマさんは銃口をこちらに向けながらヒラヒラと手を振った。すぐに意味は無さそうだと判断して、銃を下ろしてこちらに背を向けて早足で去っていく。

 小さくなっていく背中を見て、私はやっとアズマさんから解放されたんだと思うとホッとした。気が抜けると、気のせいかどんどん気持ち悪くなってくる。視界が回って、吐き気が込み上げてきた。冷や汗が止まらない。立ち続けられなくなって、その場に座り込む。


「あれ、2時間って……」

「効能は全部バラバラ!何錠飲んだ?!2錠?!とりあえず吐いて、お願い!」

「う……」

「指突っ込むよ?!口開けて!」


 段々、レイさんの声が遠のいていく。手が震えてきて、もう息をするのも苦しくなってきた。心臓が痛いほどドキドキして、体中が熱くて、視界がチカチカする。


「レイさんの、せいじゃない、ごめんなさい」


 それだけ声に出した後、グルグルと視界が回転し出して、もう意識を保っているのが難しかった。これから死ぬのか、と思うと恐怖が湧いてきたけれど、その先を考える前にブツッと意識が途切れた。

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