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残光の箱庭  作者: 米田
2章
61/74

27

ブクマ・評価してくださった方、ありがとうございます。本当に読んでる人っているのかな…と不安になってたところだったのでとても嬉しいです。本当にありがとうございます。

「――ホノカちゃん、起きて。もうすぐ着くよ」


 レイさんの声が耳に届く。私は目を開いた。ボーッとした頭で、目の前を眺める。車が穏やかに揺れていて、段々目が覚めていく。


「おはよう。寝れたかい?」

「……はい。車の揺れ、心地良くて」

「それは良かった」

「すみません。運転してもらってるのに寝ちゃって」

「天使のような寝顔を見せてもらって、むしろ得をしたさ」


 私は窓の外へ視線をうつす。東京だからもっと都会的かと思ったのに、高いビルが密集していたりとか、そういうことはなかった。背の低いお店や住宅が並んでいて、思ったよりはのんびりしていた。ただそれは私が住んでいるのんびりとした田舎より隣との間隔が狭く感じた。


 昨日の地震の被害がどれほどのものか、と思っていたけれどやっぱり目に見える部分では地面の割れくらいで、建物が倒壊していたりなどの派手な被害は見られなかった。


「……なんだか、見た感じだと地震の被害はあんまり無さそうですねえ」

「どうかな。空を見てみるといい」

「そら?」


 私は窓に張り付いて、上を見上げた。遠くの建物の間から、黒い煙がもくもくと空高くのぼっている。


「うわ。火事ですか?」

「……基地の方向ですね。昨日の地震の後からずっと燃えてるんでしょうか」

「…………」


 アズマさんが黙った。おしゃべりなこの人が黙ってしまうなんて珍しい。ショックなのかな。

 昨日からずっと燃え続けて、今日まで消えてないってこと?それって、基地の中の人たちは大丈夫だったのかな。


「もし給油車が燃えてたらどうするんですか?」


 レイさんがアズマさんに質問する。アズマさんはくつくつと心底愉快そうに喉の奥で笑い、手で口を押さえる。


「おしまいだね!近辺の航空施設には燃料なんて無かったから、もっと遠くから探してくるしかないけれど、その前に感染してくたばるのがオチだろうね」

「…………」


 何がそんなに面白いのか分からないけれど、異様な雰囲気を感じて気圧される。アズマさんは助手席の方を向き、運転席の肩部分に肘をかけ、レイさんに話しかける。


「はー、このまま3人で暮らすかい?っていうか置いてもらえないかい?」

「前向いて両手で運転してください。あと、死んでもごめんです」

「あはっ、詰んだね!」

「東京で暮らしていくのはいかがですか。元のグループに戻るのもアリでは」

「最終手段だね、それは。まあ一先ずは見にいってみよう」


 そう言って、車を走らせる。どんどん黒煙が近くなってきて、いよいよ基地内で火事が起こってることが確定した。アズマさんは愉快そうに大笑いし、うるさいとレイさんに叱られて大人しくなった。


 基地から少し離れたところに車を止め、私たちは車を降りた。降りた瞬間から、鼻をつく臭いがする。何かが焼けたような、灯油の臭いに近いような。

 レイさんに無言でマスクを渡された。意味があるかは分からないけれど、無いよりはいいかと着ける。マスクを着けただけでとても暑い。

 アズマさんも手を出して、レイさんは渋々といった様子でマスクを一枚渡した。


「ここまで臭いが……」

「かなり大規模なようですね」

「…………でも、君たちにとってはチャンスじゃないかい?」

「え?」


 アズマさんは手で顔に日陰を作りながら、遠くを見つめている。


「これだけの規模の火災だ。そちらに人手を割かれ、病院内は手薄だろう」

「そっか、そうですよね」


 確かに、こんなに燃えてたらどんなに人手がたくさんあっても足りないよね。院内のシュウくんを連れていくには絶好のチャンスかもしれない。


「――あら?!アリサちゃん?!アリサちゃんじゃないの?!」


 唐突に、後ろから声が聞こえてきた。振り返ると、恰幅の良い、人の良さそうなご婦人が目をまん丸にして、手に持っていた荷物を置いてこちらに歩いてくる。


 アリサちゃん?私とレイさんはアズマさんの顔を見る。アズマさんは歩いてくるご婦人を走って迎えに行き、気遣わしげにその手を取った。


「ミシマさん、ご無事だったんですね。心配していたんですよ。戻ってみたら、あの煙ですから」

「心配だったのはこっちだよ!何も言わないで出て行っちゃうんだから!元気そうで良かったよ」


 ご婦人、ミシマさんは嬉しそうにアズマさんを見つめる。


「アリサちゃんがいなくなって、みんな落ち込んでたんだから。あなただけよ、私たちのこと気にかけてくれてた隊員さんは」

「ミシマさんがあまりにも魅力的だから、私が放って置けなかっただけですよ」

「もー、まーたそんなこと言って!後ろの子達は?ナンパしてきたの?」

「フフッそうですよ。2人とも可愛らしいでしょう?」

「可哀想に、この地震でしょう?沿岸部で津波でもあって住めなくなったの?」


 急にミシマさんに話を振られて、私とレイさんは目を合わせる。レイさんは顔がバレたくないのか、私が昨日返した帽子のツバを持って、深く帽子を被り直した。


「えっと……まあ、その、そんな感じです」

「アリサちゃんに助けてもらえて良かったわねえ。でも、こっちも今大変なのよ!あの地震のせいで燃料が漏れただか何だかで火が付いちゃって、ずっと燃えてるのよ!隊員の人たちは消火活動で出ずっぱりだし、変な匂いもすごくて、もうみんなで外出てきちゃったの。鎮火するまで、中入らない方がいいわよ。でもまあ、いつ鎮火するかも分からないけれど。ほら、あそこの公園の日陰でみんなで休んでるの。あなたたちも来る?あ、ちゃんと水分もあるわよ。暑いからね。そういえば知ってる?ケイくん、何だか怪我したみたいでしばらく見なかったわ。あんな綺麗な顔してるのに、顔怪我しちゃって。ハシモトさんが彼のファンでしょう?もうすごく心配してて……」


 す、すごい。おしゃべりが止まらない。前私の家に住んでいた、田中さんを彷彿とする喋りだ。でも、良いことが聞けた。消化活動で人が出払っているのであれば、やっぱり今侵入するしかない。


 アズマさんが笑みを絶やさないまま、ミシマさんの話をやんわりと遮る。


「ミシマさん、私がここへ来たことは内緒にしていただけますか?」

「あら、どうして?みんな待ってるわよあなたのこと」

「オオハシさんに怒られてしまいますから。まだ黙っててください。こっそり戻りたいので」


 アズマさんはシーッと顔に人差し指を立ててそう言う。ミシマさんも口に手を当て、あーあの人ね、と言いながら、うんうん頷いた。


「では私たちはこれで」

「分かったわ。また後でね、アリサちゃん」


 そう言うミシマさんにニッコリ笑ってアズマさんは手を振った。私はペコリと頭を下げて、ミシマさんを背にする。


「……アリサちゃん?」

「私のファーストネームさ」

「えー、可愛い、アリサさん」

「フフ、ありがとう」

「…………」

「ヒカリは随分顔を隠したいみたいだね。どうしてだい?」

「日焼けしたくないので」


 そんなテキトーな理由でいいの?!ハラハラしつつ、2人のやりとりを見守る。


「ああ……君、肌透き通りそうなくらい白いからねえ……」


 納得するんだ?まあ、レイさんがアズマさんをまともに相手してないのを分かってるから、深く突っ込まないだけかもしれない。


 私たちはフェンス沿いを歩き、とりあえず火災の状況を確認することになった。正門の前は見張りがいるらしいので、裏から回る。


 近付くとさらに臭いが強くなる。喉が焼けつくような臭いで、咳が出る。炎の柱が見える距離までくると、フェンス越しでも熱を感じられて思わず顔を顰めた。


「これは無理ですね。この中は探せません」


 マスクの上からハンカチで口を押さえて、レイさんは厳しい顔でそう言う。


「……どうします?アズマさん」

「さあね。…………」


 炎の中を、口元を押さえて真剣な表情で見つめている。何かを探すようにキョロキョロと目を動かしているけれど、この様子じゃ何も見えない。炎が長い舌で全てを舐めるように、空へと柱を立てていた。


 すぐに私たちはそこを離れることにした。煙が流れてこない、風上の木陰になっているところに集まった。

 蝉の声が響く。心無しか、田舎のセミより鳴き声が小さい気がした。


「あの炎って消せるんですかね……?」


 私が聞くと、レイさんは首を静かに横に振る。


「この状況じゃ難しいんじゃないかな。自然に鎮火するのを待つしか無いと思う。これ以上延焼しないようにするくらいだろうね、できることは」

「そっか……」

「まだ給油車が燃えたとは確定できない状況だから、鎮火を待っても良いかもしれない」

「…………鎮火してしまったら、この混乱も落ち着いてしまうのでは無いかい?」


 アズマさんが腕を組んで木に寄りかかる。考えるように、トントンと指で肘を叩いていた。


「あの炎の奥を探しに行くってことですか?無謀だと思いますけれど」

「火の勢いを抑えれば良いんだろう?何か手が無いか考えよう」


 レイさんは眉を顰め、アズマさんを見る。

 あんなものすごい火事の火の勢いを抑える方法なんてあるかな。やっぱり燃え尽くすまで待つのが無難な気がする。


 そういえば森の中に置いてきたあの4人はこの状況は知っているのだろうか。車が壊れてしまったけれど、帰ってこれたのかな。


「……あの4人もこれで海外脱出を諦めるんでしょうか」

「まあ、燃料も機体も無いことには……」


 私がそう言うと、アズマさんはハッとしたように顔を上げた。


「そうか、ならまだ分からないね」

「どういうことですか?」

「燃料の消失は彼らにとっても死活問題だ。どこかに隠しているかもしれないだろう?」

「え?車も破損してたから、こっちには戻ってきてないかもしれませんよ?」


 あんな辺鄙な場所で車を壊してしまって、詰んだにも等しいのでは。代車を探すのも、こんな世界じゃ一苦労だろう。

 アズマさんは首を振って私の疑問に答えた。


「いや、地震が起こる前からってことさ。私は燃料を奪ってそのまま逃げようとしていたけれど、失敗してしまったからね。事前に機体も燃料も準備していていた方が無難だと考えたかもしれない」

「……それに、アズマさんが一度燃料を奪うのに失敗してるから、相手側も隠すか何かしているかもしれませんね。再度奪われないように」


 レイさんがそう付け加えた。そうかも。一度狙われたなら、普通は同じところには置かないよね。無理して炎の中を探す必要はない。

 

 アズマさんは寄り掛かった体勢からきちんと起き上がって真っ直ぐ立つ。


「なら、事情を知ってそうな子を捕まえて話を聞くのが早い」

「目星付いてるんですか?」

「燃料管理担当がいるのさ」

「なるほど」

「……まず病院の方へ先に行きましょう。情報収集も兼ねて」


 レイさんがそう言うと、アズマさんは頷いた。私たちは再度中へ侵入する意思を固め、移動した。

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