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それから私は縮こまって時間が過ぎるのを待った。
何度かスマホを確認したけれど、あの一度のみ電波が入っただけで、今はずっと圏外だった。ナリタさんは2階をずっと徘徊しているようだった。タイミングを測ればもしかしてここから出れるかもしれない。リカコさんと合流するためにはここから出たほうがいいのかも。
私は深呼吸をして心臓を落ち着かせてから、扉のそばでしゃがんでそっと耳を澄ませる。ナリタさんが通り過ぎたのを確認してから、私は少しだけ扉を開けて確認する。ナリタさんが見えないことを目視でも確認してから廊下へ音を立てないように出た。
順番に各部屋を確認するが、誰もいない。ナリタさんと鉢合わせる危険性もあるし、リカコさんが部屋にいないならとりあえず2階にいる意味もないと思い、階段まで移動した。
「ーーーホノカ!!」
階段からリカコさんが少しだけ顔を出す。私はホッとしてリカコさんのところへ小走りで近寄った。
「よかった、無事だったのね!」
「無事だよ、大丈夫!」
私たちは再会の喜びを分かち合った後、一度一階まで降りて現状を確認することにした。ナリタさんは2階を歩いているので、一階では音を出さない限り気付かれることはないだろう。
リカコさんは私の腫れた足を手早く応急処置し、痛み止めまで飲ませてくれた。
「リカコさん、これからどうする?」
私の足をテーピングしてくれているリカコさんに問いかけた。
「……とりあえずあの人、体も大きいし、通常量じゃ効かないみたいだから最大量まで打ってみるわ。大丈夫、今度は大人しくなるはずよ」
「またカーテンで倒す?」
「ロープを持ってきたわ。これで転ばせましょう」
「大丈夫かな、警戒して避けないかな……」
「動きも単純そうだし、そういうことは意識してなさそうよ。大丈夫」
歩けそうかしら?とリカコさんが私に確認する。さっきよりも痛みが少ないし、固定されてて歩きやすい。
「わ!これなら大丈夫!走れるよ!ありがとう!」
「無理はしないで」
「うん!」
それから私たちは話し合った。まず、大柄のナリタさんを2階で大人しくさせたとして、2人で階段降りて下の階へ運ぶのは難しいだろうと。リカコさんがさっき外で確認したところ、屋上から避難用の滑り台が降りていたらしい。それで下まで降ろして、そこから2人で車椅子に乗せて車に乗せればいいのでは、と。
私はそれに賛成した。足も挫いている状況であまり無理はできない。そうなると、ナリタさんを屋上まで誘導する必要があった。
「私が囮になるわ。ホノカはその足じゃ無理でしょう?」
「リカコさんもナリタさんに吹き飛ばされましたよね?それは大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫よ。結構着込んでいたから、クッションになってて」
ちょっとホッとした。結構激しく叩きつけられたように見えたから。
「……私は屋上でロープ構えてればいいですか?」
「ええ、そうね。このロープ長いし、どこでも括り付けられると思うわ。私がさっきと同じように合図するから、そしたら引き上げて」
「分かりました」
作戦は決まったので、私たちは再度階段を登った。見つからないよう細心の注意を払ったが、ナリタさんはちょうどおらず、そのまま3階をスルーして屋上へ駆け上がった。
屋上へ続く扉を開けようとするが、ドアノブを回すと鍵がかかっていた。
「まあ、そうよね」
そう言ってリカコさんはボディバッグをゴソゴソ漁り、細い何かを取り出して鍵穴にいれた。
「リカコさんすごい、ピッキングもできるの?」
「……まあ、そうね。こんな世界だから……」
数分でかちりと音がして、扉が開いた。
屋上は背の高いフェンスで囲まれていた。どれも錆びて変色している。一部は歪み、風が吹くたびにギィ、と音を立てている。ところどころ、蜘蛛の巣が張っていた。
古びた何かの設備が中央に陣取っていて、塗装は剥げてボロボロだった。
見上げると、冬で空気が綺麗なので満点の星空が広がっている。月明かりも手伝ってボロボロの施設をキラキラ明るく照らし、より屋上が寂しく見えた。
寒さも忘れ夜空を見上げていると、リカコさんがロープをとりあえず脆くはさなそうな設備の足に巻き付けようとする。
「私やりますよ。ロープ巻くの好きなんですよね」
「……それ、なんか変な趣味?」
「違いますよ!資材の運搬とか、狩りとかで使う場面が頻繁にあって、いろんなかっこいい結び方覚えたんですよ!」
手早くしっかりロープを結び、ほら!とリカコさんに見せる。リカコさんは私の手付きを見て、納得したように頷いた。
「……じゃあ私はあの人をここまで誘導してくるわ」
「気をつけてくださいね」
「大丈夫よ。あの人より私の方が足速いもの」
ヒラヒラと手を振って、リカコさんは階下へ降りていった。
リカコさんを見送って、私は合図を待った。屋内より外の方がやっぱりだいぶ寒い。寒風に吹かれて、震える。
私はスマホを取り出して、画面を見た。やっぱり電波は立っていない。屋上でも電波が入らないのに、何でさっきは入ったんだろう。溜息をついて、スマホをポケットへ戻した。
しばらく待ったけれど、リカコさんは戻ってこなかった。もしかしてトラブルがあって襲われたんじゃないか、そう思ってソワソワした。それから少し経って、リカコさんが困惑した表情を浮かべながら屋上へ戻ってきた。
「どうしました?」
「……さっきの薬が効いたのか分からないけれど……部屋の中央で何もしないで突っ立ってたわ」
「え?」
「確認したいし、ついてきてくれない?もしかしたらそのまま運べないかしら」
「分かりました」
私はリカコさんの後ろを着いていく。しばらく歩き、2階の1番広く何もない部屋の中央でナリタさんはただ立っていた。月明かりでとても明るい。鉄パイプは床に落ちている。
私が恐る恐る部屋の外で様子を窺っていると、リカコさんはスタスタと部屋の中へ入って行った。
「薬が効いたみたいね」
「こういう風になるものなんですか?」
「そうね。ぼんやりした状態になるわ。大体寝ちゃうんだけどねこの量なら」
ホッとした。随分効くのに時間がかかる薬なんだなあ。でも良かった。
とりあえず鉄パイプを部屋の端へ置いた。こんな物騒なもの、もう持たせられない。
「どうやって運びましょうか」
「……そうね、さっきのカーテンがあったわよね?あれで包んで端をロープで縛って引きずって運びましょう」
まあ、そうだよね。私たちじゃ、抱えたりはできないし、多少乱暴になっても仕方はないだろう。
「何かクッションになるものあるかなあ。他にもカーテンないか探してきましょうか?」
「肉布団を着ているから大丈夫でしょう。頭だけ保護しましょう。さっきのカーテンと、ここにあるカーテンで十分よ」
何だかひどいことを言っているな、と思ったけれど他に方法もないので同意した。
「これってどのくらいで起きますか?」
「……そうね、大体30分〜1時間くらいかしら?この状態になったのがいつからか分からないし……追加で打っちゃいましょうか」
そう言ってリカコさんはナリタさんに近づいて、カバンから注射を取り出した。キャップを外してナリタさんの袖を捲り上げ、上腕に打った。
打ち終わった瞬間、リカコさんが急に後ろへ吹っ飛んだ。
「え?!リカコさん?!」
私はリカコさんの元へしゃがんだ。鼻から血が出ている。ナリタさんの肘鉄を受けたようだ。うう、と苦しそうに呻く。
ハッと顔を上げてナリタさんの方を見ると、ナリタさんは私を殴ろうと腕を振りかぶっていた。
「うっ」
私は間一髪でかわし、ナリタさんの背後へ回り込む。
ナリタさんは殴ろうとした勢いそのまま後ろを振り向いて、両手で私の首を掴んだ。
「うぐっ?!」
咄嗟に腕を挟んだけど、そのまま壁に押し付けられ全身を打った。後頭部を打った衝撃でクラクラする。そのままガンガンと壁に体を押し付けられ、段々体に力が入らなくなってきた。私が脱力した瞬間、ナリタさんは歯を見せて獰猛に笑い、両手で首を絞め始めた。
「ホノカ!やめて!あなた、離して!」
リカコさんが立ち上がってナリタさんの腕を剥がそうとするが、びくともしない。
リカコさんは慌てて懐から取り出したスプレーを取り出そうとするが、横っ腹にナリタさんが蹴りを入れた。リカコさんの体が軽く吹っ飛ぶ。声を出したいが、出せるはずもない。
首から上の血が堰き止められて、行き場をなくした血液が暴れる。このまま頭が破裂してしまうような感覚になった。首を絞められるって、太い血管も塞がるってことだからそんな感覚がするのかな。苦しさを誤魔化すようにそんなことを考える。
リカコさんはフラフラと立ち上がり、背中から何やら取り出した。拳銃だ。そんなものまで持ち歩いていたんだ。
少し離れた位置から構えてナリタさんを狙う。
助けてくれるんだ、良かった!
私がそう思ったのも束の間、リカコさんはそのまま微動だにしない。そしてそのままガタガタ震えて、構えた腕を下げて床にへたり込んだ。
「撃てない……撃てないわよ……あなた……どうして……?わ、私は悪くないわ……」
そんなことを泣きながらぶつぶつ呟き始めた。
あ、やっぱり私って見捨てられるんだ。
その時スッと心の中の何もかもが冷めていくのを感じた。酸素を求めてもがく腕の動きも止めた。パタリと腕を下ろして、されるがままになる。ナリタさんの指が首に食い込んでいくのを感じる。朦朧とした頭の中で私の記憶の箱が弾けた音がする。
思い、出した。
前も同じことがあった。
そうだ、あの燃え尽きた新棟で、私は襲われた。
レイさんの弟に上に乗られ、首を絞められたんだ。怖くて怖くて仕方がなくて、あんな思いをするような怖い世界なら忘れてしまおうと思って、全部忘れることにしたんだった。
あれはキッカケに過ぎなくて、ウイルスが流行った世界の全部が私は受け入れられなかった。ウイルスを媒介するからと言って殺された動物たち、残していくのはかわいそうだからと言って田中さんに殺された大量の猫の遺体、その中心で首を吊る田中さん、連れて行ってと懇願しているのに私をゴミみたいに捨てていく家族、物資で醜く争う近所の人たち。
馬鹿みたい。忘れたってこのザマだ。辛いことから逃げて、全部他人に押し付けて守られようとして。無邪気な子供になったつもりで、痛い女。自分の不幸だけに酔って、他人の不幸には目を瞑って。
他人の機嫌を損ねないように相手が望む言葉を選んで、嫌われないように、見捨てられないように振る舞って。
結局どこまで行っても惨めで、馬鹿で役立たずで、誰にも選ばれない。
ありふれた不幸でここまで自分を悲劇のヒロインにして。
可哀想で、自己中で、何もできない。
そんな自分、大嫌い。
もう、さっさと終わりにしたい。
段々意識が遠のいてきた。私はそのまま特に抵抗せず、意識を手放そうとした。
バン!!!という破裂音が突然響いた。
唐突に首に加わっていた力が抜けた。急に血流が戻って、空気が肺に入る感覚がした。喉が焼けつく。盛大に咳き込み、そのまま力が入らないので横に倒れた。床に倒れる前に、私の体は抱き止められた。
そのままゆっくり床に座らせられ、顔を両手で包まれる。腫れた顔にひんやりとした冷たさが心地いい。
「ホノカちゃん?!意識はある?!呼吸は?!できてる?!」
うっすら目を開けると、レイさんが今まで見たことがないような焦った表情を浮かべていた。
「れ、」
レイさん、と呼びかけようとして喉が傷ついているのか鋭い痛みが走り咳き込んだ。
「喋らなくていい!息吸えてるね?!」
私はゆっくり頷いた、レイさんは少しホッとした表情を浮かべ、そのまま私の体が倒れないよう、壁にゆっくり預けた。
「ガアッ……グッ……」
「あ、あなた、嫌、嫌よ……」
ナリタさんが床に蹲っている。元々引きずっていた逆の足から、夥しい血が流れていた。レイさんが多分撃ったんだろう。立ちあがろうともがくが、力が入らず転ぶという動作を繰り返していた。
リカコさんがナリタさんに寄り添い、止血しようとしていた。
レイさんがスタスタと歩いてナリタさんの側へ近寄った。リカコさんがすかさず叫び声を上げた。
「近寄るな!!!!!何するつもり!!!!!」
レイさんは舌打ちをしてリカコさんの肩の辺りを思い切り蹴り飛ばした。
リカコさんは床へ転がった。
「邪魔。黙って」
そう言ってナイフを取り出し、ナリタさんの太ももの辺りの服へ切り込みを入れ、そこから何かを注射した。
打たれた瞬間、ナリタさん体がビクッと跳ね、そのまま力が抜けて床に落ちた。……荒い呼吸の音がするので、眠ったのだろう。
襲われる心配がなくなったので、ホッとした。
リカコさんは起き上がってナリタさんに縋る。泣きながら、止血を再開しようとしていた。
レイさんはその様子を冷めた目で一瞥した。
「止血するんですか?意味ないけど。夜明けまでに死にますよ」
あっさりそう宣告し、それを聞いたリカコさんの手から包帯が落ちた。
喋りたいけど、声を出せない。まだ回復にしばらく時間がかかりそう。
リカコさんは光を失った瞳でレイさんを見上げる。
「え……は……なん……?」
レイさんは無表情で背中からノートを取り出してリカコさんの方へ投げた。
「読みましたよ。ナリタさんが読めないようにドイツ語にしたんですか?読まれたらまずい内容でしたもんね」
レイさんは私へ近づき、しゃがんで傷の確認を始める。目や頬、首、丁寧に一つ一つ確かめていく。私は動く力もないので、されるがままだった。
「ナリタさんに打ってたんでしょう?本人には隠れて。エートンのワクチン。研究所に入って、私を糾弾したあの日、目的はワクチンの窃盗だったんですね?よく見つけましたね」
「…………」
「私の話、最初から聞く気もないし信じる気もなかったんでしょう。血清を打っても安心できなかったんですよね。……エートンのワクチンは神経を傷つける副作用があって、稀に人を襲うようになる巷では"ゾンビ化”と呼ばれた症状が出るんです。その症状が出た人はその日中に死にます」
「う、嘘よ…………」
「まあ別に信じなくてもいいんですけど。どうでもいいので」
やけに軽いトーンだ。レイさんにしては珍しい。リカコさんに対して本気で呆れているし、軽蔑もしているのだろう。彼女は人の意見を聞かない、聞き入れない。それでこの結果だ。もうカバーする気持ちにも一切ならないのだろう。
「多分、一回や二回じゃないんですよね?打った回数。答えてください」
「…………4回よ」
リカコさんの掠れたか細い声が聞こえた。
レイさんはそれを聞いて呆れたように笑った。
「多分ナリタさんからエートンのワクチンについて説明も聞いてますよねえ?本人が打ちたくないって話も。それでも打たせたかったんでしょう?だって自分の信じる正義とは違うから。良かったですね。あなたの正義とやらを通せて」
「…………」
レイさんは私の腕や背中もチェックし始めた。ごめんね、と言って、服もめくってお腹も見られる。最後に私の足を確認して、解けそうなテーピングを手早く手直ししてくれた。
「歩けそう?大丈夫?」
私は頷く。呼吸もだいぶ落ち着いてきた。
レイさんは私を引っ張り上げて、立たせてくれる。よろつく私のために、肩を貸してくれた。
「じゃあ私たちはこれで。さよなら」
あっさりリカコさんに向かってそう言うので、私はレイさんの顔を見る。リカコさんも何も言わない。私は焦ってレイさんを止める。
掠れてあまり声は出なさそうだけれど、先ほどよりは痛みも引いたので声を出した。
「待って、ナリタさんは今どうなってるんですか?」
小さな声しか出なかった。レイさんは淡々と答えてくれる。
「今は薬で眠ってもらってるよ。後数十分で起きて、また暴れ回るだろうね。死ぬまで」
「……もうどうしようもないの?」
じわ、と涙が出そうになる。ナリタさんは、とても優しかった。穏やかで面白くて、でもちょっと抜け目ないところがあって。いつだって周りのことを見ていた。お腹を揺らして笑うあの姿を思い出すと、辛い。
私が泣きそうになるのを見ると、レイさんはさっきまでの軽く、何も受け入れないような態度からいつものような雰囲気に代わり、落ち着いたトーンで私に言う。
「……私だってナリタさんを助けたいよ。でも、もう手遅れで、どうしようもない。通常は1ヶ月に1回、それを3回、つまり3ヶ月で死に至ると言われてる注射を短期間で4回も打ったんだよ?……ごめんね」
レイさんが謝ることじゃない。私は首を振った。そのまま涙が止まらなくて、レイさんの肩に顔を埋める。レイさんは私の背中を優しく撫でてくれた。
「リカコさん、どうするの……?」
私はリカコさんへ問いかけた。リカコさんは項垂れたまま動かない。
「…………」
「薬切れたら、ナリタさん暴れちゃうってよ……?このままここにずっといるの……?」
「…………」
「リカコさん……」
リカコさんは床に転がった拳銃を拾った。まだ弾が入っているのを確認して、私へ差し出す。
「……え?」
私の顔は見ず、俯いたままリカコさんがポツポツと語る。
「……あの人は、穏やかで、優しい人だった。人を襲う真似なんて、もうさせたくない……。だから……」
訳がわからなかった。何で私が?
「……。リカコさんの、旦那さんだよ……?私が、撃つの?」
コクリ、とリカコさんが頷く。どきん、と心臓が鳴った。狩猟で動物にトドメを刺すことはあっても、人にはしたことがない。銃だって、撃ったことがない。
ぐらぐらする。でも、これも今まで全てから逃げ続けてきた罰か、と思い銃を受け取った。見た目以上にズシリと重い。
これを撃つの?私が、ナリタさんの命を、奪うの?
私が躊躇していると、レイさんが私の手の指先から一本ずつ外していくように、優しく私の手から引き抜いた。
「……いいよ、ホノカちゃん。やる必要、ない」
レイさんが私を片手に抱き、拳銃の確認を器用に片手でする。
「耳、塞げる?」
「え、でも、レイさん」
「大丈夫」
ギュッと強く抱きしめられた。
私は言われた通りに耳を塞ぐ。涙で視界が歪んだ。
「……ズルい女。自分の夫すら自分でどうにかしようとする気もないわけ?」
「…………」
レイさんはスッとナリタさんへ銃を構えた。
「ナリタさん、ありがとうございました。……さようなら」
乾いた音が2回、連続して響く。撃ち込まれる度にビクビクとナリタさんの体が跳ね、そして最後には全身からぐったり力が抜けた。血が段々ナリタさんの体の周りに溜まる。
撃ち尽くしたのか、レイさんは拳銃を床に投げ捨てた。
私から離れて、ナリタさんの側へしゃがみ、瞳孔や脈を確認する。
リカコさんは呆然として動かない。私は涙を拭いて、ナリタさんの元へ駆け寄った。
「……ナリタさんを埋葬します。リカコさんも勿論手伝ってください」
「…………」
無言でリカコさんは頷いた。
そうして私たちは悲しみに浸る間もなく、すぐに埋葬の準備に取り掛かった。




