飾れ初陣:分からないなら真似ればいい
『落体』。俺が初めて付けたこの技は至って単純。感情を身体に落とす。自身の気持ちや感情を力に変える。一生使うだろうなぁこの技。みんな初めての何かは大切にするもんだろ?
そう思いながら拳を握る。パトロールの空気は、最初はただの散歩みたいなもんだと思ってたけど、すぐにその考えは彼方へと飛んだ。
「来るよ!」
入瑠の声に反応するより早く、路地の奥からドスン、と重い足音。その悪魔は人間に似ているが頭でっかちで、体は岩みたいにごつごつした悪魔。
「……なんで初陣で二体同時に出てくるかなぁ」
「文句言ってる場合か?」
「それもそうだな」
俺は呼吸を整えた。心臓が速く打ち始めるのを感じる。落体の準備は整ってる。
「よし……行くぞ!」
悪魔が吠えながら突進してくる。その衝撃で地面にヒビが走る。踏み込み感情を落とす。怒りでも恐怖でもいい。とにかく感情変換をして「勝つ」気持ちを拳に込めて…殴る。
「ガラァ!!」
拳と岩腕がぶつかり、重い音が響いた。やっぱ硬ぇな。互角か、悪魔2体と交戦を繰り広げるが少し押され気味だ。
「大丈夫なのか?」
「ちょっと助けよっかな」
入瑠が駆け寄ろうとするが、もう一体の悪魔が横から腕を振り下ろす。
「おわっと」
入瑠は咄嗟に腕を振り抜いた。機械の手がブーストする。渦を巻いた拳……ドルフィストが最も容易く悪魔を弾き飛ばす。
「ふぅ…多分あの1体気絶したからソイツは頑張ってね!」
「お、おう」
……すげぇなぁ。見入ってしまう。瞬発的な破壊力。あんなふうに自分の力を形にできるのも、技あってこそなのだろうか?
ただ…このまま殴るだけじゃジリ貧だ。岩のような体躯、倒すのならそれこそ入瑠のような大技が必要だ。俺もあんな技があればいいんだが…分からん。そも能力者の戦いに興味があったわけで能力そのものを深く考えたことがないからだ。
何か…何かあればなぁ…
「お前も何かないのか?切り札的なの」
何だお前はエスパーか?エスパーなのか?
「今ちょうどその事を考えてたんだがそんなものはない!ってか分からん!と言うか忙しい!」
俺の考えてる事を読んだかのように聞いてくる翼。ないものはないんだよなぁ…。まぁいい。そう思いつつ拳を握り直す。感情を身体に落とす、それが落体。ならば攻撃するなら?感情を拳に込める?そんな簡単な話じゃない。握り締めればいつもより力は増幅するがな…
「どうしたものか…」
そう悩んでいると翼が口を開いた
「分からないなら真似すればいいんじゃないのか?入瑠と同じ感じでやって見たらどうだ?」
何故そのアイデアが出てこなかったのか。柔軟な発想をしなくても出てくる。子供ですら考えられる。やはり俺は天道弔でアイツは弋翼なのか?
ともかく、そんな考えは捨てて、言われた通り模倣を実践する。ドルフィストを想像する。推進力と破壊力で粉砕するイメージだ。腕にブースターが備わっている感覚…
飛躍する感情を……そのまま飛ばせばいい。感情のまま攻撃に転じればいいだけだ。
「……行ける!」
俺は悪魔の胸に踏み込み、叫んだ。
「ぶっ飛べ感情!『飛感撃』ッ!」
飛躍感情剥き出しの全力攻撃。その感情が一気に爆ぜる。拳から空気が弾け飛ぶみたいに衝撃が走り、目の前の悪魔の胸を貫いた。鈍い音と共に、岩が砕けて吹っ飛ぶ。
「……やった」
思わず息が漏れた。
「…ん?」
油断した瞬間、背後に殺気。気絶していた筈のもう一体の悪魔が大振りの拳を振り下ろす
「やっべ…」
「ッ…『ドル…フィスト』!」
入瑠は咄嗟に駆けつけ腕を振る。機械の手がブーストする。渦を巻いた拳……ドルフィストが悪魔を弾き飛ばす。
ズシャァン、と悪魔が壁に叩きつけられ、崩れ落ちる。俺は膝をつき、肩で息をする。
「……あっぶねぇ……」
「まだまだだね、テント」
入瑠はにこっと笑う。だけどその瞳は真剣だった。
「……ほんと、まだまだだなぁ…」
「ただ、あの悪魔なんかいつもの中級悪魔より強かったから仕方なかったかもね〜」
軽く慰めてくれたが、そう言うしかなかった。
戦いは終わった。二体の中級悪魔は完全に動かなくなっている。疲れたなぁ
「これ最初の戦闘ってマジ?パトロールってキツいな」
「んーや、今日はここまででいいよ。先帰ってて。疲れたでしょ?これから慣れればいいからさ!」
「マジで?」
「うん!」
「なら俺もそうしようかな」
そう言われたので俺と翼は帰路についた。
風が少し冷たい。
気が抜けたのか、さっきの戦いの疲労が一気に押し寄せてくる。この感じなら全然やっていけそうだな。
「疲れたなぁ…入瑠の凄さを理解したよ」
「ま、発現して2日だしこれからだろ」
「そうだな」
いやー疲れた疲れた。能力を使った後だとなんか凄い疲れるんだよなぁ…使用中は何ともないんだがな
「……止まれ」
「え?」
翼が小さく声を掛けた。
「なんかあったか?」
「そこの水溜り…不自然に動いた」
「水溜り?」
「歩いてる途中、ふと違和感を覚えた。足元の水溜り……そこから、確かにじわりと冷たい気配がした。」
翼が指差した水溜りを凝視しているが特に反応はない。幻覚とかじゃないのか?とも思ったが…
「…んん?」
ポチャン、ポチャン、ポチャン……と。四方八方の水溜りが不自然に波を打つ。波紋が流れる。
次の瞬間、水溜りが盛り上がり、人影のようなものがぬるりと立ち上がる。気配が濃くなる。息が詰まる。
「普段より小型の悪魔…そして水に潜る能力…恐らく上級悪魔だ」
「……ヤバいな」
「多分、俺たちじゃ太刀打ちできない。どうする?弔」
悪魔の瞳が赤く光った。




