サバイバー:能力者として
改めて悪魔と対面する
「さて…」
秘心。土壇場の戦闘で閃いた技……相手の感情の強さを炎の強弱として、感情を炎の色相として視覚化できる。暖色なら怒りや闘志、寒色なら冷静さや残酷さ。具体的に分からなくてもいい。これがあれば水中に潜っても、奴の居場所くらいわかるはずだ。
「っ…思ったより移動が速いな」
想像以上に潜水の悪魔は水の中を移動するのが速い。水面を縫うように移動し、あっという間に俺の秘心の範囲から消え別の場所に移る。
「……クソ、追えねぇ」
「気を抜くな、後ろだ!」
背後から水が跳ねる音。俺は反射で横に飛んだ。潜水悪魔が後ろから飛び出してきた。まさか、秘心が途切れた瞬間を狙ってるとはな
「コイツ本当に利口だな……サンキューな」
「いや……こちらこそだ。お陰でコイツの対処法を思いついた。弔、こっちに来い」
「わかった」
俺たちは互いに身を寄せ合う。危なかった。あんな速さで潜られると、秘心でも正確に追えない。だが翼は冷静だ。俺が息を整える間も、頭の中で思考を巡らせ対処法を考えているのがわかる。
「……弔、背中合わせになれ。」
「おう、にしても何で背中合わせに?」
「多分だが、あの悪魔は背後から襲う性質がある。奇襲で隙をつくタイプだろう」
確かに、真正面から攻撃を喰らった覚えはない。どれも背後だからの攻撃だ。そこまで見ていたとは
「……それと1つ、検証をしたい。」
「何だ?俺に手伝えるか?」
「そうだな…俺の考えではアイツは潜水中は音が聞こえないと踏んで見ている。」
「音が聞こえない?」
そう言うと翼は小石を三つ拾い、石を順番に投げる。そして四つ目を水溜りに置く。
「アイツは俺をあまり攻撃しない。動くお前をよく攻撃する。弔が水溜りを踏んだ時、その時は特に反応して近くにある死角の水溜りから攻撃を仕掛けているように見えた。つまり、俺の考えなら……」
暫くすると、潜水の悪魔が無意識に翼の投げた石を噛み砕いた。動きのクセが出た瞬間だった。
「やっぱりか、弔!」
「言われずとも!」
翼の声と同時に、俺は駆け出した。飛感撃を放つために全力で踏み込む。悪魔に拳が命中し吹っ飛ばす。
「……よっしゃ!」
だが油断は禁物。奴はまだ生きている。遠くの水面に潜み、観察している。音も聞こえない。翼の目で確認できた事実だ。慎重にならざるを得ない。
「流石に同じ手は使えないか……やつも警戒心を高めている。」
「確かに…遠くで見てるな」
「だが確信した。アイツは水の中に潜っている最中は音で地上を判断している。なら……」
何を思ったのか翼は水溜りの上を歩き出した。
「何してんだ翼!やられるぞ!」
「これでいい。お前は観察しろ。俺がおびき寄せる」
翼は本気だ。普通なら歩けない場所だが、奴を挑発するために自ら危険を犯している。水上を歩く翼の姿を、奴はじっと見つめる。
「弔、秘心で見続けろ。作戦がある。悪魔が来たら合図を送ってくれ。そしたらコッチに全力で走って攻撃しろ」
「分かった」
秘心発動。色として奴の感情を読み取る。冷たい青、混じる赤……警戒と殺意だ。位置もわかる。もう逃げられない。翼が止まり、水面を観察させる。足で水の上を叩き挑発している。
「……潜ったぞ!」
「了解」
ここまでは作戦通り。後は奴がどう襲ってくるかだ。
「恐らく、弔の秘心と飛感撃に細心の注意を払っている。俺のことも注意深く見ているだろうが、お前よりは弱いと思っているだろう。その隙を付く」
翼は未だに水の上にいたまま挑発を続けている。能力がないと言うのに、どうしてそこまで悪魔に対抗できるのだろうか。と思ってしまう。賢いってのはそれだけで利点だ。
暫くして、翼が足を止めた。側から見れば完全無防備な状態。俺の方を真剣な眼差しで見ている。秘心に集中しろ、との事なのだろう。
悪魔の距離は……およそ50m程。警戒心から見るに、もう数十秒ぐらいだろうか。45m…40m…35m…
「ッ!」
刹那、潜水の悪魔のスピードが急速になった。
「翼!」
「あぁ」
翼が俺の方に走る。その瞬間潜水の悪魔が翼の背後へ飛び出る。
「一歩遅かったな。上級悪魔」
走る翼には届かず地面へ直撃する。完全無防備なのが翼から悪魔へと反転する。形成逆転だ。
「今だ弔!」
「喰らえや悪魔!全身全霊『飛感撃』!」
全力で拳を握り、感情を爆ぜさせる。奴の胸に拳が炸裂する。鳴り響く轟音、そして衝撃と共に水が飛び散り、悪魔は地面に叩きつけられた。
「……決まったな」
息を切らしながら振り返る。翼は少し笑い、頷く。俺も思わず笑った。秘心、そして飛感撃。二つの力で、奴を仕留めた。
水面は再び静かになる。もう二度と立ち上がる事はなく、消滅した。
「……終わったな」
軽く手を握る。感情を色として見て捉える。秘心はまだ不完全だけど、次の戦いではもっと正確に使えるはずだ。
「ありがとな翼。今回のMVPはお前だ」
「あくまで俺は考えを提示しただけだ。お前いてこそ出来た作戦だった。」
「オイオイマジに言ってる?お前の考えで秘心を考え付けたんだし、あの悪魔を倒せたんだ。もっと自分を誇れよ。お前は凄い奴なんだから」
「……あんまりそうは思わないんだがな。」
にしても本当に疲れた……身体が動かん。ドッと疲れがなだれ込んでくる。初日に能力持った悪魔と戦うなんざ聞いてないわ。あ、そうだ。
「なぁ翼、ふとした疑問なんだが」
「何だ?」
「何であそこまで自ら危険を犯して悪魔に立ち向かえるんだ?能力もないってのに、俺より勇敢じゃねぇか。何がそんなに突き動かすんだ?」
「そうだな…まず前提として俺は自分の行動が危険だったとは思わない。いけると確信した上で行動しているからな。それに…まぁ色々あるがお前がいるからかな」
「俺?」
「弔、お前がいると何とかなる気がするんだ。いつだってそうだ。お前がいれば何とかなる。そう思い込んでるからかな」
「何だよ照れくさいこと言うなよ」
「っはは…事実なんだがな」
かくして、突発的に始まった上級悪魔との戦いは幕を閉じた。




