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痺れる恋心〜感電に至る病〜②

「ショート……シンドローム………?」


聞き馴染みの無い言葉を前に少女は首を傾げる。親も子と同じようによく分かっていないようだ。(一般人にマイナーな病名を知っておけと言う方が無理があるが)


「ショートシンドロームは比較的メジャーな難病です。具体的には……」


詩音が淡々と説明に移ろうとするがそれを付和音色の母親が止める。


「すみません実は私、そもそも難病というものがよく分かってなくて…数年前にテレビで新しい病気が次々と発見されたというのは聞いたのですが、難しい話はよく分からなくて……娘は治るのでしょうか。」


難病科なんてものが医師界隈に創設されるくらいには重大な難病であるが、やはりまだ一般人の認知率は低いようだ。


「せ、先生が…病院じゃなくて学校の先生が言ってたんだけど、去年から教科書に難病についてのことが書かれてるって…保健の教科書の隅っこの小さいとこだけど…ちょっとだけ習って…でも私もよく分かってなくて……」


「では、難病について説明致しましょうか…」

「先輩!俺にやらせてください!」


いきなり病院とは思えない大声で手を挙げた若い新人が1人。一刻も早く仕事に慣れるためという上司からすればやる気のあって素晴らしい行動であるが、患者からすれば先程から一言も発さずこちらを見ていた医師が急に叫び出すものだから2人は少し体を仰け反らせた。


「即妙院君、医師は患者を怖がらせる職ではありませんよ。気をつけなさい。


…まあ彼がやりたいようですので、彼の説明を聞いてみてください。間違いがあれば私が訂正します。」


新人の育成の場として選ばれた今回の患者を憐れみながらも、詩音は浅葱を少しだけ信じて直接クライアント(患者)の不利益にはならない説明程度なら任せることに決めた。


「はい!頑張ります!まず、難病の大元の原因となるのは《心》です。」


いきなり根性論のようなことを言い出すこの男に親子は困惑する。


「えっと……つまり精神病ということでしょうか?それは娘の感電と関係あるんですか?」

「ああいや!そうじゃなくて!いやそうなんですけどその進化系というか……いやそうでもなくて…」


「即妙院君、《心》についても難病と同じく最近解明されたことです。分かりやすく説明してあげてください。」


どうやら心の問題というのはこの体育が得意そうな男の根性論ではなく科学的根拠に基づいた話らしい。そして先輩から告げられた「'分かりやすく'説明する」という言葉を聞いた新人はその度合いを間違えて相手が小さい子供であるかのように説明を続ける。


「すいません!ええっと、《心》の存在は7年前、メンタルのお医者さん(精神科医)心臓のお医者さん(循環器内科)脳のお医者さん(脳神経外科医)、あと元素のことを調べる人(物理学者)が一緒に研究して明らかにしました。」


今までのテストで30点以下しか取ったことの無さそうな破天荒な様子とは打って変わって己が医者であることを証明するかのように落ち着いた様子で知識を伝えていく。


「心というのは、ずばり!心臓の左上のことです!」

「左心房ですね。」

「はい!研究前はそこはただ肺で酸素を交換した血を受け取るための器官としか思われてませんでしたが、研究後それはある物を作り出す能力があると分かりました。」


「それは一体……」



「《ディスコンプレッサー(解放に至る化学物質)》です!」



病名に引き続きまたも聞きなれない言葉に首を傾げる。


「とにかくその未知の物質を作り出す能力があるそこ(左心房)はただの心臓の1部として捉えるべきじゃないて偉い人たちは考えて、特別にそこを《心》と名付けました。」


「そのディスコンプレッサー?っていうのは一体どういう物なんでしょうか?」


「はい!作り出されたディスコンプレッサー、以降DCと呼びますね。DCは心臓の左下(左心室)に行き、血と一緒に全身へ送り出されます。多少作り出されたDCは特に悪さはしないのですが、それが多く生産されると脳に溜まって(蓄積して)しまいます。」


「それが多く生産される原因というのは?」


「心へのダメージ、ここでいう心はよく言う気持ち的な意味での心と考えていいです。心は心無い言葉(聴覚刺激)暴力(痛覚刺激)など様々なものからダメージを受けます。そのダメージが物理的に(左心房)にもダメージを与えます。すると機能がおかしくなってDCがたくさん作られます。」


「そして即妙院君、脳にDCが溜まるとどうなりますか?」


「はい!溜まったDCは脳の機能を一部おかしく(阻害)します。特に理性を司る部分が曖昧になり突飛な行動にでる人も多くいますね。」

「付和音色さん、あなた|コミュニケーション障害《CD》を患っていますね?それも軽度ではありますが難病の一種です。一般的にコミュ障の原因は胎児の時に心に衝撃を受けることで言語中枢が阻害されることですね。胎児のうちは心に直接物理的な衝撃が加わりやすいので最近は特に妊娠についての情報が強化されてますね。」


美少女が複雑そうに顔を歪める。様々な新事実が波のように耳を通して脳に流し込まれた上に、(これが本命だろうが)自分がコミュ障であることを指摘され何やら言葉では表しきれない、まさに複雑な(complex)気持ちになったようだ。

一方、詩音は心と向き合う医師であるというのに患者の心の機微などという些細なことは気にもとめず話を止める気配は感じられない。


「今まで精神病と呼ばれていたものはほぼ全て軽度の難病によるものです。ですが、これを知ったところで軽度のものは治療をするに副作用が大きすぎます。なので従来のカウンセリングと抗精神病薬を用いて治すことになっていますね。」


「軽度の…ということはつまり?」


母親が暗闇に希望を見出すように問いかける。


「はい、先程の検査ではっきり紋様が浮かぶような難病は専用の治療法があります。ご安心ください。もちろん、カウンセリングなどの基礎治療を受けて頂きますが。」


娘が不治の病では無かったことを知り胸を撫で下ろす。だが娘はまだ疑問が残っているとばかりにもじもじして胸の前で開いた手の5本指を付けたり離したりしている。


「音色ちゃん、どうかしたの?」

「ああ!いや…えっと……別にそんな…」

「何か言いたいことでもあるんじゃないの?」

「それならば話してください。」


鋭い声で患者に対話を求める。「患者を怖がらせるな」と注意していたとは思えない圧のある態度だが彼(女)はこのやり方で今まで何人もの難病患者を診てきたというのだから驚いたものだ。


「あのお……脳の機能が阻害されたからといって…それがなんで私の感電に繋がるんですか?」

「あ!確かにそれは僕も知らないです!難病は超常現象を起こすことがあるって聞きますけどメカニズムは説明されたことが無いです。」


どうやら医学部で基本的な医療知識を学び、難病医として認定された後の講義、研修でもそれは聞かされなかったようだ。


「これはあなた達が知らないというよりは全人類が知らないという方が正しい気がしますね。


……ですが、今現在検証されている説があります。」



《STAP細胞》

刺激惹起性多能性獲得(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞。通称STAP細胞。

その存在は否定されているが、既に分化(未分化の細胞が特定の機能を持った細胞および組織になること)した細胞に刺激を与えてやることによってもう一度分化させることができるという。


「DCは体の一部、もしくは体内に吸収したものをSTAP細胞のような他の物質に変化できる状態にさせる。しかも、体細胞と言わずあらゆる物質へと……そう言われています。

その説がもし正しいとするならば、あなたの体内で大量生産されたDCがあなたの体内を電気、もとい電子に作り替えたということです。


もしくは細胞を構成する原子から電子だけ抜き取った可能性も……」


患者からはさっぱりであるが一応そういう事態が起こるとだけ理解した。浅葱はこの話を興奮気味でメモをとって聞いている。


「とにかく、娘は治療すれば大丈夫なんですね?また感電を起こす可能性はありますか?」

「はい、治せます。そして再び感電が起こる可能性ですが、こちらは本人次第といったところでしょうか。」


された質問にだけ無感情に応答するアンドロイドのような医師は少し含みを持たせた言い方をする。少女が何か自分が重大な責任を負わされた感覚がして表情がこわばる。


「それでは本題に戻りましょうか。あなたの症状とその原因についてです。このショートシンドロームは世界各国で既に報告されています。原因としてはごく単純、瞬間的な心への強い衝撃。特にその強い衝撃の8割を占めているのが


《失恋》です。」


少女の体が一瞬跳ねる。まるでAEDを使用した時のような動きで医師側は感電を起こしてしまったかと一瞬血の気が引いたが、聞いた話では感電の瞬間轟音が鳴り響いたということを思い出しほっとする。


少女はその時の悲しみを思い出したのか固く口を結んで俯いた。


「つまり、そのような精神的ショックを受ければあなたは再び感電することとなります。そして1度症状が出てしまったので、これからは軽いショックでもそれが起こる可能性があります。酷い例では失恋の相手の顔を思い出すだけで意識を失ったとの報告がされています。」


今はまだ大丈夫なようだが話を聞いて少女は酷く不安になってしまった。もとよりコミュ障を患って対人関係に難ありなのだ。自分の気持ちだってうまくコントロール出来ない。それなのに本当にそのショックを受けずに居られるのだろうか……


「ということで再び症状が出ないようにするためにも根本的な治療をさせて頂きます。ここからは治療法の説明となります。お母様は受付で待機をお願いします。」


人とのコミュニケーションが苦手な娘を1人で置いていく、しかも初対面の大の大人2人と話させるということに不安を感じながら渋々「音色ちゃん、後でね」とまるで待ち合わせをする女友達のようにこの場を去った。


「それでは、これから難病治療のための道具、オーダーメイドのあなた専用ガジェットを作ることとなります。」


何やら病院の雰囲気にそぐわない男子が大興奮しそうな言葉が飛び出してくる。


「完成するのはおよそ一週間後となります。それまであなたは感電を起こさないよう生活をしてください。」

今回の話は世界観説明のために長くなります。すみません。また、いっちょ前に科学知識をひけらかしていますが確実に間違いが発生します。別の世界線の科学の話だと思って読んでいただければ幸いです。

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