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第三話 生き残った者達

 


 見覚えがあるようなないような、違和感というよりも既視感に近い感覚……

 しかし、心当たりは全くと言っていいほどない。


 私は聖女を目指していたこともあり、基本的に男の人と関わることがなかった。

 だから、こんな風に至近距離で男の人の顔を見たのは、お父様を除けば初めてのことである。



(綺麗なお顔……)



 男の人はもっと野性的な顔つきをしているイメージだったのだけど、この人は女性と見間違うくらいに中世的で整った顔をしていた。

 この前の悪魔討伐で護衛をしてくれた二人も美形ではあったが、私とは歳が離れていたせいか安心感の方が強く、今ほどドキドキはしなかったと思う。


 それに対しこの人は、落ち着いた雰囲気でありながらも少し幼さを残しており、あまり年齢差を感じさせない。

 年上だとは思うけど、多分10歳は離れてはいないんじゃないかと思う。



「その様子ですと、我々のことは覚えておられないようですね」


「え、えっと、その、すみませ――って、我々(・・)……?」



 今この男の人は、()ではなく我々(・・)と言った。

 それはつまり、この男の人だけでなく――



「はい。我々はかの戦場にてカティリーナ様に救われた、元アルストロメリア第八騎士団ですよ」


「っ!?」



 アルストロメリア第八騎士団という名前は知らないが、確かに私はついこの前、夜鬼の群れの襲撃で壊滅の危機にあった騎士団を救助している。

 あのときは必死だったので全員の顔を見る余裕なんてなかったけど、そう言われると段々と朧気だった記憶が鮮明になってくる。



「もしかして、あのときの……、団長さん? で、でも、その、髪が――」


「おお! 覚えていくれたとは、何たる光栄!」



 そう言って団長さんは私の手を包み込むように握り、顔を近づけてくる。



「~~~~っ!?」



 間近に迫ってきた美しいお顔や、手を包む大きな手の熱さ、ほのかに香る花の匂い……

 五感が複数刺激され、頭がクラクラする。


 そんな私の様子に見気付いたのか、団長さんは慌てて手を放し、素早く跪くような姿勢を取る。



「し、失礼いたしました! あまりの歓喜に、自分を制御できませんでした。この不始末は我が命を持って――」


「っ!? ちょ、ちょ、待ってください! す、少し、驚いただけですから!」



 一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく自刃しようとした団長さんを見て、遠のきかけていた意識が一気に引き戻される。

 そのお陰でなんとか制止することができたが、もし止めていなければ――色々な意味で心臓に悪い人だ……



「団長! 大聖女様は蘇生術(リザレクション)が使えるんですから、お手を煩わせるだけですよ!」


「っ! そう、ですね。しかしそうなると、私はどのようにして償えば……」


「つ、償いとか、別に要りませんから! とにかく剣を収めてください!」



 私としては本当に驚いただけで、恐怖や不快感があったワケではない。

 だから償うと言われても困るし、目の前で自刃などされたら一生モノの心の傷(トラウマ)になりかねない。


 団長さんは私の言葉を素直に聞き、剣を収めてくれる。

 しかし、その硬い表情からは罪悪感がにじみ出ているようであった。



「あの、本当に驚いただけで、怖いとか不快だとかは感じてませんから。……それに、蘇生術(リザレクション)でも救えない命はあります。お願いですから、命を粗末にするようなことはやめてください」


「……」



 団長さんは眉間にさらに皺をよせ、黙って深々と頭を下げた。




 大聖女とは、死者の蘇生を成し遂げた聖女に与えられる称号のようなものである。

 より厳密にいえば、外傷による戦死者を蘇らせることで正式に認められることとなっている。

 死者蘇生という奇跡を起こしたことで、より女神に近い存在と判定されるからだ。


 私は元々医療現場における蘇生術の成功経験があり、大聖女の候補とされていた。

 その最終確認の場として選ばれたのが、国内で発生した悪魔討伐の依頼である。

 悪魔討伐では必ずとい言っていいほど死傷者が発生するため、そこで蘇生術を成功させよ――という試練を与えられたのだ。

 死傷者が出るのが前提という点は少しモヤモヤとした気持ちにさせられたが、私が向かわねばただ被害が増えるだけなので、腹を括るしかなかった。


 ただ、試練は本来であれば戦場に出ることも内容に含まれているのだけど、私の場合は若かったことに加え教皇の娘という立場もあるため、かなり優遇された条件だったようである。

 護衛として付けられた二人も、この国の事実上の最高戦力とされる特殊な存在なのだとか。

 自衛目的である聖騎士とは異なり、組織に属さず自由に戦場に出ることを許されている貴族がこれに該当するらしい。

 ……まあ、それはあくまでも表向きの建前であり、実際は国に良いように使われているのだとバーナード様は言っていた。

 実際、私なんかの護衛に付けられているので説得力がある話である。



「……団長さんの騎士団員は、全員ここにいるのですか?」


「……はい」


「やはり、そうなのですね……」



 確認している余裕はなかったので正確な人数はわからないけど、あの場に倒れていた騎士達はもう少し多かったように思う。

 つまり、今ここにアルストロメリア第八騎士団全員が集まっているのであれば、助からなかった者も数多くいるということになる。


 あの日私は、多人数への蘇生術で全ての魔力を使い果たし気絶したため、その結果を確認できていなかった。

 後日結果を確認しようにも誰も教えてくれず、ただ私が大聖女として認められたということだけが告げられた。


 それは私の蘇生術が成功したことを意味するが、それでも全ての者が救えたとなどとは思っていない。

 ……しかし、それが今、確定してしまった。



(覚悟はしていたつもりだけど、結構くる(・・)なぁ……)




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関りのあるお話。↓
お転婆令嬢は誰かに攫ってもらいたい
― 新着の感想 ―
[一言] 大聖女ならではの苦悩ですね( ˘ω˘ )
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