第二話 近衛騎士団
半ば強制的に身だしなみを整えられ、引きずられるように連れてこられた中庭。
そこには、清潔感のある騎士服に身を包んだ二十人近いの男の人たちが整列していた。
正直信じたくない気持ちが強いけど、彼らが私の親衛騎士となる人達なのだろう……
(うぅ……、やっぱり私には荷が重いよぅ……)
この国には、あくまでも自衛を目的とした戦力として聖騎士団が存在する。
そして、それとは別に国王――教皇を守る近衛騎士団という騎士団も存在する。
しかし、近衛騎士団は元々聖騎士団に所属していた中でも特に優秀とされた者の中から選出された所謂精鋭部隊であり、実質的には聖騎士団の一部と言えなくもない。
……しかし親衛騎士団は、名前こそ似ているが近衛騎士団とは成り立ちが異なっている。
親衛騎士団は聖女国家ステラにおける新たなる聖女ビジネスの一つである、偶像崇拝に付随して生まれた、信者とは似て非なる概念――熱狂者から派生した民営組織なのだ。
ただ、聖女――偶像を外敵や脅威から守護するために結成された組織であるため、護衛対象が変わっただけでその本質的には近衛騎士団とあまり変わらない気もする。
偶像崇拝は女神を信仰する宗教として問題があるのでは? という声も聞くが、聖女は女神の化身であるという教義であるため例外的に認められているらしい。
親衛騎士団は民営組織であるため、正式に叙任され騎士身分を与えられた者でなくとも入団可能であり、求められる資格は優れた戦闘力と偶像への愛のみなのだそうだ。
それだけ聞くと簡単に入団できるように思えたのだけど、実際は過酷な試験と厳正な審査を通過する必要があるらしく、文字通りの選ばれし者だけが入団できるのだとか……
つまり、それを信じるのであれば、今集まっている二十人近い騎士達は皆、選りすぐりの精鋭ということになる。
私としては、まずそれが信じられない。
(どうしてこんなに集まってるの!? 私、何かした!?)
ただ騎士になりたいのであれば、普通はまず聖騎士を目指すものだ。
聖騎士になれる者もほんの一握りだと言われているが、この国唯一の国家戦力であるためその規模は大きく、従騎士になるだけであればそれ程狭き門でもないらしい。
だから、親衛騎士を目指すうえで最も重要な要素となるのが偶像への愛なのだが、私にそれが向けられる理由が全く理解できない……
そもそも偶像崇拝自体が近年生まれたの考え方であり、その対象とされている聖女自体まだ大した人数がいないと言われている。
それもあって新人の聖女には熱狂者が付きにくく、近衛騎士団が結成されることはほとんどないらしい。
私の場合、最年少で大聖女になったという話題性から熱狂者が付きやすい――というのは、まあ理解できなくもないのだけど、それにしたって初期の段階でこんな人数が集まるは流石に異常な気がする。
数年前から聖女として活躍しており、その美しい容姿から人気の高いソフィーティア先輩ですらも、初めて集まった近衛騎士は十人にも満たなかったのだそうだ。
いくら大聖女とはいえ、華やかさもないお子様体型の私にソフィーティア先輩以上の魅力があるワケがない。
なのにこんな人数が集まるなんて……、とてもではないが信じられなかった。
(ひょっとして、何かとてつもない陰謀に巻き込まれてしまったとか……?)
血が繋がっていないとはいえ、一応私は教皇の娘であり、親子揃っての大聖女という稀有な例でもある。
それに至った経緯や秘密を探るため、他国の間者や悪徳業者が紛れ込んでいるという可能性もあるかもしれない。
(私、そんなのわからないよ……)
私が大聖女になれたのは、偉大なるお母様の存在と、親身になっていつも支えてくれたスザンナのおかげだ。
自分でしたことといえばただ純粋な努力だけなので、私を調べたところで何もわかるワケがない。
もしそんな理由で集まったのであれば本当に無駄なので、可能であればこのまま帰っていただきたい……
私はもう一度だけ「許して」と懇願するようにスザンナの顔を見たが、逆に笑顔で背中を押されてしまう。
スザンナが私を好いてくれていることに疑う余地はないけど、この瞬間だけは薄情者と心の中で叫んでしまった……
「おっと」
私が鈍臭くつんのめったところを、先頭に立っていた男の人が素早く支えてくれる。
危うく転びそうになったという焦りに加え、初めてお父様以外の男の人に触れられたことで、心臓が飛び出そうなほど高鳴る。
「~~~~っ!? あ、あ、そ、その、ありがとう、ございま、す……」
「いえ、お礼を言うのは私の方です」
「え?」
一体どういう意味だと思い、私のことを支えてくれた男の人顔を見る。
その美しい顔立ちに思わず息を吞むも、同時に何か違和感のようなものが頭を過った。
(あれ? この人、どこかで……)




