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7.民宿いごっ荘 第一夜

18時過ぎ、民宿いごっ荘に戻ると女将の美和子が迎えてくれた。

「クーちゃんおかえりなさい。川、随分ゆっくり見てきたのね。良いポイントは見つかった?」

「ただいま、鮎がいっぱい見えて嬉しかったわ。ポイントは難しそうなところばっかりやったけど、入ってみたいポイントは見つかりました。明日はそこに行ってみようと思う」

「そう?それは良かったわね。晩御飯の準備はまだ出来てないの先にお風呂でゆっくりしてきて」

「そうさせてもらいます。でも、部屋に荷物を置いてからね。部屋はどこになる?」

「あら、ごめんなさい。今日が一泊目ね。部屋はいつもの離れだから好きなように使っていいわよ」

美和子はそう言って鍵を差し出し「今日の宿泊はクーちゃんだけだから、どうぞごゆっくり」そう一言付け加えてくれた。


鍵を受け取ると空子は車から宿泊用の荷物と釣り竿の入ったケースを部屋に運んだ。

高価な鮎竿は車に入れっぱなしにするより、部屋に運んだ方が安心だ。

それに鮎師にとっての釣り竿は武士にとっての刀と同じで言わば鮎師の魂だ。

本当は魂と言うほど大袈裟なものではないが一緒に居ると嬉しい存在だ。


そうして部屋に荷物を置くとそのまま風呂に向かった。

いごっ荘の風呂は温泉ではないものの大きな窓があり浴槽から見える山の景色は街を生活圏とする空子には気持ちもきれいに洗い流せる癒しの空間だ。


本当は長距離のドライブと夏の日差しの下での川見で疲れていたので部屋でそのまま崩れ去りたい気分だったが

「喉も渇いていたし、部屋で冷たいお茶を飲みたいところやけど、我慢や風呂上がりのプシュッ!ってやつの方が楽しみや。ここは我慢のしどころや」


いごっ荘には、他では味わえない極上のディナーもある。

『風呂上りの火照った身体でいごっ荘の極上ディナーを肴にプシュッ!』

「想像しただけで最高やわ」

『今、ここでの冷たいお茶は飲んではいけない』

『今ここでお茶を飲んだら絶対に後悔する!プシュッといけるそのときになったら、今、お茶を飲んだことを絶対に後悔するのだ!』

普段の健康オタクの空子であれば、脱水症状に気を付けて喉が渇いたらすぐに水分補給を行うが

『旅行中くらい不健康を味わうのもいいよね』

乾いた喉を潤すことなく、そのまま風呂に向かった。


一応、脱衣場に入る前に風呂場を軽く覗いて誰もいないことを確認する。

脱衣所に入ると大きく両手を突き上げて一気に着ていたTシャツを脱いで脱衣籠の中に放り込んだ。

急いでシャワーを浴びて体を洗うと、髪は洗わずにまとめ上げ、湯船に勢いよく入り込んだ。

「ふ~っ」

窓から見える新緑が壮大で心が癒し熱すぎない湯の温度が身体と心の筋肉をほぐしていくのが心地いい。


暫く湯を堪能していたが、プシュッ!が美味しく頂ける頃合いを見計らい軽く髪を洗って風呂をでた。


風呂から出ると女将の美和子が空子を呼びに来たところで脱衣場を出たところでバッタリ会った。

「丁度、呼びに来たところだったの、夕食の支度が出来たので来てくださいね」

美和子はそれだけ伝えると戻って行った。


夕食の場所を聞きそびれたが『いつもの囲炉裏端よな?』いごっ荘名物の囲炉裏焼きが頭をよぎる。

『もう限界や』

お風呂セットを部屋に置いて髪は乾かしもせずに急いで囲炉裏端へ向かった。


空子が囲炉裏端に着くと奇麗に串の打たれたアメゴが5匹も並べられ炭火に充てられてる。

色も丁度いい焼き加減で何とも言えない焼き魚の香りが鼻をくすぐる。

空子が囲炉裏端に着くのを見るや、いごっ荘の大将、勇夫が口を開いた。

「丁度、今が食べごろちや」

自慢げに空子に勧めた。

「ほんま、ええサイズの魚で美味しそうやなあ。けど獲ってくるのは大変やったろうなぁ。すぐに食べたいんやけど、やっぱり、あれや、冷たいのを先に飲みたいわ」

それを、聞くと勇夫は『あ、いけね』って顔をして、カウンタの奥の冷蔵庫へ瓶ビールとグラスを取りに行った。

カウンタの奥に向かう勇夫を見送ると空子は囲炉裏端へ腰を下ろした。


戻ってきた勇夫の手には2本の大ビンと2つのグラスが握られている。

どうやら片方は勇夫自身の分という事らしい。

「一緒に飲んでもええよね」

そう言いながら勇夫は空子の横に腰を下ろして、グラスを空子に差し出した。

空子は「ありがとう」といってグラスを受け取るとキンキンに冷えている。嬉しい心使いだ。

勇夫はビール瓶の王冠を栓抜きで抜くと「プシュッ!」っという心地よい音を立てビンの口を空子へ向けた。

空子も自然にグラスを両手で出してビールを注いでもらう。

とくとくとくと音を立てて流れ出るビールが泡と液体の絶妙のバランスで注がれ実に美味しそうだ。

空子も勇夫に注ごうと思ったが、勇夫すでに自分の分は手酌で注いでいた。

「ほいじゃ、お疲れ様やった。乾杯」

勇夫は言うと、空子のグラスに合わせると「キーン!」というきれい音色が消えるよりも早く二人はグラスに口をつけた。


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