4.民宿いごっ荘 女将、美和子
時刻は昼の12時を回ったところだ。
ワインディング走行で上がった空子のテンションはまだ下がり切らない。
気分も上々のまま、いつもお世話になっているお宿の【民宿いごっ荘】に到着した。
駐車場には3台ほどお客さんのものと思われる車が停まっている。
車のナンバープレートは3台とも高知ナンバーで、おそらく地元の人がランチを目当てに来ているのだろう。
民宿いごっ荘には併設するカフェがある。
カフェにはナポリタンやピザトーストなどの昭和を思わせる純喫茶的なメニューもあるが、ランチの日替わり定食が人気だ。
空子は車を降りると荷物を持たずにカフェの扉を開いた。
扉には昔ながらの鈴が取り付いていて、扉の動作に合わせて「カランカラン!」と心地良い音が鳴った。
「いらっしゃいませ」
扉を開いて中に入ると右手のカウンタから女将さんの声が聞こえる。
「いま、ちょっと手が離せないから好きな席に座っといてー」
こちらを見ずに忙しそうに手を動かく女将さんの姿が見えた。
「ありがとうございます。座らせてもらいます」
空子は一番手前のテーブルの椅子に腰を下ろして待つことにした。
3分くらいした後にカウンタの中から、他のお客さんの注文したランチを乗せたお盆を両手に持って女将の美和子が現れた。
こっちを見るとニコリとほほ笑んで、「ちょっと待ってね」口の動きだけで語りかけてきたので、空子も「了解」と口の動きだけで返して見せた。
そのまま見送ると奥のテーブルに座る、仕事中の営業マンっぽい男性二人組のところにランチを届けて「ごゆっくりどうぞ」と言っているのが聞こえてきた。
美和子は空になったお盆を盛って向き直ると空子の元にやってきた。。
「あら、クーちゃんお久しぶり、元気してた?思ったよりも全然お早い到着ね。ランチ食べる?」
美和子のもてなし意を込めたの言葉に空子は軽く微笑むと
「お久しぶりです。またお世話になりに来ました。もっと時間を掛けてこようと思ったのですが、美和子さんの顔を見たかったのでついついアクセルを踏んでしまったみたいです。ランチは食べたいのですが、朝作ったサンドイッチがあるのですみません」
「そう?それじゃ、コーヒー淹れてあげるね、サンドイッチここに持ってきて食べなさいな」
そういうと美和子はカウンタの奥へ行って手動のコーヒーミルにコーヒー豆を入れているのが見えた。
言葉に甘え、愛車のCASTに戻るとサンドイッチの入ったバッグを手に取りもう一度カフェへ戻る。
カウンタの奥からコーヒーを淹れるいい香りが漂い始めている。
せっかくなので窓辺のテーブルの席に座りサンドイッチを包んだラップを取り出す。
コーヒーが出来るのを待ってから食べようか、すぐに食べ始めようか迷っていると美和子がカウンタの中から出てきて
「それだけ?そんなんじゃ体力つかないよ。これも食べて」
そう言ってランチのサラダを差し出した。
「このトマトとキュウリはうちのハウスで採れたばかりの完熟だから美味しいしビタミンたっぷよ」
空子は目の前に出されたサラダを見て申し訳ない気持ちになったが、ツヤツヤのトマトがあまりにもみずみずしく誘われるようにいただくことにした。
「いただきます」
それを聞いた美和子は満足げに
「コーヒーはもう少し待ってね、うちのはサイフォンだからちょっと時間がかかるのよね」
そういうと再びカウンタの奥に入って行った。