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20.東へ

自宅についてから2時間次の旅の準備は出来た。

スーツケースを転がしながら玄関を出ると駅に向かって歩き出す。

駅まではスーツケースを押しながらでも歩ける距離だ。

13:23分の新幹線に乗れば乗り換えなしで品川まで3時間5分ほどで辿り着ける。

品川駅から聖帝十字病院まではタクシーで20分程度だから午後の診療にギリギリ間に合うな。

駅に到着するとみどりの窓口に向かって切符を購入しようとするが窓口は列が出来ている。

『苦手やけど仕方ないな』

自動券売機は空いているところがあったので券売機でタッチパネルを操作を始める。

「あー、分かりにくい!」

思わず声にしてしまったら近くに居た駅員が寄ってきて親切に操作をしてくれる。

「はい、次の13:23に乗って品川まで行きたいんやけど間に合うよな?できれば指定席がええんやけど」

「大丈夫ですよ。支払いはクレジットで良いですか?」

「ああ、これで頼むわ」

クレジットカードを手渡すと親切な駅員は全てオペレーションをしてくれる。

「生憎混んでいて通路側の席は取れません。2列席の窓側でいかがでしょうか?」

「それでええ」

「それではクレジットの暗証番号をお願いします」

空子は駅員の言われるままに暗証番号を押すと無事に切符を購入することが出来た。

「まだ、5分あるので普通に歩いても間に合いますよ。ホームは23番線です」

「ありがとう、毎日乗るホームやから間違わんで行けるわ」

空子は速足でホームに向かうと丁度到着した新幹線に乗り込むことが出来た。


幸い席は2列とも空いている様子だ。通路側はいっぱいって言っていたから、おそらく新神戸か新大阪辺りで隣の席にも誰か乗ってくると思うけどそれまでは自由に過ごせる。

列車が走り出すと空子はデッキに行って電話を始める。

先ずは自分の勤めるクリニックに電話を掛けると事務の女の子が電話に出てくれた。

「青野やけど院長先生にちょっとつないでくれるか?」

時刻は午後の診療に入る前なので繋がるはずだ。

2分ほど受話器から音楽が聞こえていたがやがて院長先生の声が聞こえてきた。

「もしもし、青野です。申し訳ないのですが諸事情から休暇を4日間延長してもらいたいのですが」

「うーん。ちょっと待って、他の看護師に休暇を変われるか聞いてみるから」

『たとえ変わってくれる人がいなくても今回ばかりは強行させてもらうしかないんやけどなぁ』

「赤井君がいつも融通利かせてもらってるから変わってもいいそうだ」

「ありがとうございます。楓にもお礼を言っといてください」

「分かったよ言っておくよ、でも、この4日の貸は5日にして返してもらうと言っとるぞ」

「え!?まったくちゃっかりと・・・」

院長先生は笑っている様子だ。

「それじゃ、急な申し出ですみませんがよろしくお願いします」


電話を切ると一先ずはホッとして

「とりあえず休みは確保できたな」

次はネット検索で聖帝十字病院の電話番号を調べそのまま電話を掛けた。

こちらも午前の診療と午後の診療の間の時間だと思われるので、大病院にしては比較的早く電話を受けてもらえた。

「もしもし、私は神戸で看護師をしている青野 空子という者ですが血液内科専門医の魚念(うおねん)先生へ繋いで頂きたいのですが、、、はい、神戸の看護師の青野 空子と言えば通じると思います」

電話に出るまで暫く掛かったが繋げてもらうことが出来た。どうやら自分の事を覚えていてくれたらしい。

「もしもし、魚念です」

「あたしや、青野 空子や久しぶりやな」

「青野さんって、あの、クー先輩であってますか?」

「そうや、クー先輩や」

「お久しぶりですその節は大変お世話になりました。何年振りですかね?どうして自分がここの病院に居るって分かったのですか?」

「一応、業界紙には目を通してるからな。専門医としての活躍がたまに載っているやろ?」

「それでわかったんですか?お恥ずかしいです。ところで何の御用ですか?」

「実はなあ。。。そちらの病院の白血病患者で宇宙の宙って書いて宙子さんって患者さんがおるやろ?」

「あー、宇野 宙子さんですか?」

「あー、そうや、宇野 宙子さん。ちょっとした知り合いなんやけど、その宙子さんの容体を教えてもらいたいんや」

「それが原因不明なのですが昨日から突然意識を失いまして、いや、意識を失ったというより記憶を失った感じですかね?意識はあるようなのですが、起きているんだか寝ているんだかわからないような状態でして、一応、精神科医にも見てもらったのですが、今のところ原因が分かっていません」

「そっか、それであんな電話だったんやな。。。それで身体の容態はどうなんや?」

「それは今のところ明日明後日にどうにかなるってことはないですが治療法についてはまだ検討しているところです」

「もし、骨髄移植のドナーが見つかった場合は?」

「ドナーの適合率にもよりますが、かなり高い確率で完治できると思います」

「そっか、実はそのために来たんや、いや、今は向かっている最中なんやけど。HLAの型をしらべてもらいたいんや」

「分かりました。なんか訳ありですね?」

「そうや、訳ありや」

「それで病院には何時くらいに来れますか」

「16時半くらいに品川に着くから17時くらいには付けると思う」

「分かりました。17時半に他の診療の最後に診療予約という形で入れておきますので総合受付で17時半に血液内科受診予約と伝えてください。機械受付ではダメですよ」

「わかった。恩に着るわ」


電話を切るとまだ神戸にもつかない。

『落ち着かんけど3時間じっとしとこう』

3時間も座っているとウトウトすることもあるがやはり宙子は現れない。

『今の意識状態と何か関係があるんやろうか?』


16時半に品川に到着すると中央改札から駅を出てタクシー乗り場でタクシーの乗り込み行先を告げる。

都内の道は慢性的に混んでいるがさすがに1時間はかからずに病院に到着することが出来た。

言われた通りに総合受付で17時半に血液内科受診予約と伝えると「青野 空子さんで間違いないですか?保険証と念のため身分証明書をお預かりします」というので言われた通りに健康保険証と運転免許証を見せると、医療法人の健康保険証の方が信頼度は高いようですぐに受付票を出してくれた。。


総合受付を済ませると、そのまま血液内科の受付へ行って受付票を渡す。

既にほかの患者さんは居ないようですぐに診察室へ通された。

診察室に入ると椅子には魚念医師が座ってこちらを見ている。

「お久しぶりです。10年ぶりくらいになりますか?変わりませんね?」

「久しぶりやなぁ、そっちはだいぶ丸くなって、しかもなんやその髭は?それじゃまるでナマズみたいやぞ」

「魚念ですからね。鯰でいいんですよ。これくらいの出で立ちの方が患者に安心感を与えられるみたいです。たまに小児科に駆り出されると、【ひげ先生】って言って結構なついててくれるんですよ」

「そうか、活躍していて何よりや。研修医時代からは想像がつかん活躍ぶりや」

「あの頃、クー先輩にはだいぶ怒鳴られましたからね」

「そうやったか?優しく指導していたつもりやけどなぁ。ほいでも募る話はあとや。検査を頼むわ」

「はい、それですが、やはりドナー登録をしてもらう事になります」

「そうやな、しゃーない」

「お嫌でしょうけどね、「あの頃から、ドナーはドナーとなる健康な人にまで危険な可能性がある。健康な人を危険にさらすような医療は医療やない」そう言ってましたものね」

「それでも、信念曲げてでもあたしにとって宙子さんは助けなあかん人なんや」

「分かりました。それではこの書類にサインをお願いします。軽い診察の後、採血になります」

「わかった」

空子はサインをすると診察を受けて採血に応じた。


「ここの設備なら結果は明日の夕方には出ると思いますのでこの時間にもう一度来られますか?」

「大丈夫や」

「ところで今日はお泊りですか?宿泊先がまだ決まっていないようでしたら病院の提携ホテルがありますのでそちらに泊まってはいかがでしょうか?」

「そりゃ、助かるわ。是非頼む」

「了解です。それと、今晩一杯いきませんか?もう、採血も済んでますし、万が一移植手術になったとしても、どんなに急いでも明後日ですから、今日は少しくらい飲んでも大丈夫です」

「そっか、昔話もしたいしな、その話はありがたく受けさせてもらうわ」

「それでは、仕事が終わったらホテルに迎えに行きますね今日は19時半くらいに行けると思います」

「了解や」


空子は魚念が手配してくれたホテルにチェックシンして部屋に入ったがやることもない。

が、外に出る気にもならずにぼーっとしていた。

たまにSNSをチェックすると明日からの週末に浮かれるネット仲間の記事が微笑ましい。

『あたしも今回の休暇の前はこんな感じで浮かれてたんやろうな』

コメントを残す気にまでははならないが「いいね」を付けて歩く。

「そういえば自分のブログは3日間ほど記事のアップが止まっているし、アップがないと心配してくれる友達もいるからな」

空子は窓から見える景色を写真にとると「今日はこんなところに居ます」とだけ書いて都会の夕暮れの写真んをブログや他のSNSに投稿した。


「えー!高知で釣りしてたんじゃないの?」とか「東京に来てるの?いらっしゃい」とか「都会の夕暮れキレイ」とか反応はまちまちだけどコメントを入れてくれるのを見るとひとりじゃない気がして嬉しい。


そうこうしていると部屋に備え付けの電話が鳴った。

電話に出てみるとフロントからで「お客様が見えています」とのことだった。

Tシャツにパンツルックのラフな格好だが「ドレスコードの店に行くわけじゃあるまい」エアコン対策のカーディガンだけ羽織るとそのままフロントへ降りて行った。


フロントには魚念がやはりラフな格好で迎えに来ていて、外にはタクシーが待たせてあるというので素直に乗り込むと魚念の行きつけという大衆割烹のお店へ連れて行ってくれた。

流石にガブガブと大酒を飲むわけにはいかないがビールを頼んで料理を楽しむと昔ばなしに花が咲いた。

話は今朝まで居た高知の旅の話になり、宇野 宙子との関係についての話もした。

「それじゃ、宙子さんとは会ったこともないんですか?」

「そうやなあ、直接はあったことも話したこともないな」

「それだけでドナーの確認に東京まで来たんですか?」

魚念は空子がドナーの申し出をしてくれた時に、空子と宙子の関係性に医師としては少し期待していたのだが落胆している様子だった。

「期待させていたかもしれんが、実際には赤の他人や。でも、どうしても気なってな」

「いいえ、クー先輩らしいと思います。それにほんの少しでも母数が増えれば、増えた分だけドナーが見つかる確率は上がりますから」

・・・


「すまんなあ、ごちそうになってしまって」

「いいえ、あの頃の僕は医者と言っても研修医で大したお金も持っておらず、クー先輩にはいろいろ奢ってもらいましたから。今日は恩返しができてうれしいです」

「明日の夕方は今日と同じ時間に行けばええか?」

「はい、それまでには確認が取れていると思います」

「わかった、それじゃ、その時間に行くわ」


店を出ると魚念は家が別方向という事で、空子は一人で迎えのタクシーに乗り込むと滞在先のホテルに帰っていった。



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