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11.民宿いごっ荘 第三夜

空子はいごっ荘に着くや、オトリ缶を勇夫に任せて風呂へと急いだ。

一日を通しての鮎釣りは汗やら川の水やらそれらがまじりあって化学反応した液体やら、何が何だかわからないほど気持ちが悪い。

昨日の釣りは、シーズン初釣行という事もあり満足感が余韻となって気持ち悪さを感じている余裕もなかったが今日はどうにも気持ちが悪い。

「早く、すべてを洗い流したいー」

玄関に入ると、奥に居た美和子に声を掛ける

「風呂入れる?」

「もちろん、早く流してきなさいな。旦那の勇夫もそうだけど夏場の川で釣りしてきた人の臭いは、それはそれはかぐわしいものよ」

「それは、すまんねぇ。それじゃ、臭いも念入りに洗い流してくるわ。あ、そうや、忘れんうちに聞いとくわ。今日川原で出合った。若い兄ちゃんなんだけど明日泊まる部屋あるかな?たぶんレンタルテント泊でも大丈夫そうやったけど」

「梅雨時の平日に来るお客なんてクーちゃんくらいなものよ。部屋でもテントでも料金払ってくれれば大丈夫よ。でも、いっそクーちゃんの部屋に一緒に泊めてあげたら?それなら寝具代だけで良いわよ。あ、寝具も一緒で良いかしらね?」

美和子は意味ありげに笑っている。

美和子の言葉にちょっと頬が赤らむのを感じながら

「そんなんとちゃうわ、ちょっと行きがかり上で聞いてるだけやから」

「はいはい、早くお風呂に入ってらっしゃい。臭い女は嫌われるわよ」

「だから、そんなんとちゃう!」

返事を待たずに空子はその場を去って風呂場へと向かう。

その背中に美和子は言葉を投げた

「今日の夕飯は炉端じゃなくてカフェに来て頂だい」

「了解!」

空子も振り返らずに言葉を返し風呂場へ向かうのであった。


風呂場に入ると、脱衣場ではなく風呂の洗い場に入ってタイツを脱ぐ。

一応砂は落としてきてはいるが出来るだけそーっと脱いで用意してあるバケツの中に入れさせてもらう。


上半身に着ていた鮎シャツも一切合切をまずはバケツの中に放り込むと、衣類よりも自分の方が優先度が先だ。とばかりにシャワーのコックを捻って、強めの水流をいきなり頭からかぶった。

シャワーのホースの中に残っていた冷たい水を頭から浴びてしまい、一瞬ヒヤッとしたが釣り上がりで火照った身体にはそれはそれで気持ちが良い。暫くすると暖かくなり丁度の温度のお湯を頭から浴びることができた。

シャンプーを多めに手に取り、勢いよく頭を洗い、ボディソープで念入りに体を洗う。

『風呂上りに美和子から臭いとか言われたらたまったもんやないからなぁ』

いつもの倍くらいの時間をかけて体をこすると、もう一度シャワーを浴びて泡を洗い流し、湯船に浸かると一日の疲れが吹き飛ぶような心地よさだ。

そのまま目を閉じて眠ってしまいたくなるが必死にこらえて早めに上がることにする。

しかし、その時になってある重大な事態に気が付いた。

下着がない。

いや、着替えがない。

『しまったー。そとから直接風呂に来てしもうたんや。どないしよう?』

バスタオルやタオルは宿の物が脱衣所に準備されているが・・・

『まあ、ええか。とにかくバスタオルを巻いて部屋へ急ごう。大将は多分食事の準備をしている時間だろう。他の客はおらんと言ってたしなぁ』

空子をバスタオルをきっちりと胸に巻いて、脱衣所から扉を少し開けて外をうかがう。

『よし、誰もいない。部屋の鍵も持った。いざ!』

空子は意を決して速足で外に出ると急いで部屋へ向かう。

『よっしゃ、そこを曲がればすぐに部屋やー!』

と廊下の角を曲がったところで美和子に鉢合わせてしまった。

美和子はそれを見ると

「あら?そんな恰好でうろついて明日の予行演習かしら?」

そういうと吹き出しながら横を歩き去って行った。


空子は顔を真っ赤にしながら部屋の鍵を開けると部屋の中に飛び込み

「恥ー。。。」

顔を両手で押さえながら敷いてあった布団に潜り込んで、顔の熱が引くまで突っ伏した。

『この布団を敷いてくれていたんやなぁ』

民宿の女将の行動など、考えてみたら想定で来ただろうに・・・

『兎に角、服を着よう』

布団から起き上がると、カバンの中から下着を取り出して身にまとった。

『いくら旅先だからって、気を抜きすぎやわなぁ。。。もう少しちゃんとせな。風呂場のバケツに置いてある昼間の装備は、ちょっとだけでも身支度を整えてから片付けに行こう』

空子は下着姿のまま鏡を見ると、ドライヤを取り出して塗れた髪を乾かし、化粧まではしないものの化粧水で肌を潤した。


すっぴんのままだが恥ずかしくない程度の手入れをすると、お風呂場にもどってバケツごと外に持ち出して外の水道で軽く水通して物干しにかけて置いた。


時間は19時少し前

『もうそろそろ晩御飯の時間かな』

昨日の夜に干した昨日の装備を今日の装備を入れてきたバケツに放り込みながら考えた。

『今日はカフェの方って言ってたなぁ。何が出てくるか楽しみだ。少し早い気もするが行ってビールでも飲みながら待たせてもらおう』

昨日の装備の入ったバケツを軒下の端に寄せるとその足でカフェへ向かう。

カフェへ入ると窓際のテーブルの上には小鉢に入った煮物や漬物、サラダなどが並んでいる。

「あれ?クーちゃん今日は早いね。悪いけどメインの料理はまだ出来てのうてな。その辺のを肴に始めるかい?」

「はい、先にビールでも頂こうとやってきちゃったんやわぁ」

「そうかい?生ジョッキでええか?」

「もちろん、ええが!」

カフェには生ビールサーバが置いてあり生ビールを飲むことができる。

炉端に居ても生ビールを頼むことは出来るが、わざわざ運んでもらうのは何となく気が引ける。それにキンキンに冷えた瓶ビールをキンキンに冷えたコップに注いで飲むのも美味いものだ。

それに冷えた瓶ビールをコップに注いで飲むという工程はなんとも粋だと感じる。

生ビールは生ビールで味は美味いしその豪快さもいい。

ビールはその場に応じた楽しみ方があると思っている。

「それじゃ、どうぞ」

勇夫はビールジョッキを空子の前に置いて促した。

「テーブルの上の小鉢は食べてもええけんど、二人分やきね。あとで旗じいが来るのやろう?」

「ああ、来る言うてたなぁ」

そんな話をしていると丁度カフェの扉が開いて旗野が入ってきた。

「おお、やっておるのう」

そういうと右手に持った一升瓶を掲げて見せた。

「お客さん、持ち込みは困ります」

勇夫は旗野に向かって笑いながら諫める。

「硬い事はいうな、どうせ、お前さんも飲むんじゃろうが」

困ったなぁ。そんな素振りを見せながらも勇夫は旗野のために空のグラスを準備すると空子の向かいの席に置いた。

旗野は空子の前の席へ腰を下ろそうと右手に持っていた一升瓶をテーブルの上に置き、左手に握られていた2本の棒を丁重に壁に立てかけた。

「それ?」

空子が尋ねると

「慌てるな、わしも一杯くらい飲ませてくれ、こいつの事は後でじっくり聞かせてやるわい」

そういうと一升瓶の蓋を開け手酌でグラスへ注ぐと乾杯も言わずに一気に煽った。

「美味いのう。やっぱり土佐の酒が一番じゃ」

テーブルの上に置かれた一升瓶には【酔鯨】と書かれている。

「高知のお酒なん?」

「おう、そうじゃ、高知の酒じゃ。高知の肴には高知の肴があうでのう」

言いながら茄子の揚げびたしにを箸にとると大きな口を開けて一口に口の中に放り込んだ。

旗野が目を細めて咀嚼すると、口いっぱいに広がる旨味の汁が見ていた空子の口の中にまで広がるような気がした。

「うむ、やっぱり高知の茄子は美味いのう。カツオのダシも最高じゃ。鰹節も高知で水揚げした最高のカツオじゃからのう」

「揚げびたしのだし汁の味で高知産って分かるんか?」

「いや、知らんが、ここで出てくるものが高知産でない訳なかろう。じゃが、美味い。美味ければ良かろう」

『酒飲みの戯言か』

そんな風に思いながらも空子も揚げびたしに箸を伸ばし、かぶりつくと、茄子の旨味とカツオの旨味が口いっぱいに広がって、旗野が言う意味も頷ける。

「お褒めにあずかり光栄ですわ。こちらも褒めてください。土佐のカツオですわ」

大皿にはカツオの刺身とタタキが豪快に盛られている。

「もうすぐ天ぷらも揚がります。そしたら私たちもご一緒して良いかしら?」

「もちろんです。一緒に飲みましょう!」

「これだけの肴を目の前にしても、出てくる言葉は【食べましょう】じゃのうて、【飲みましょう】なのじゃなぁ。やっぱり、呑兵衛は土佐に惹かれてくるのかのう?」

「そうですねぇ。旗じいもその口でしたわねぇ」

「旗じいは、高知の出身やなかったんか?」

「そうじゃ、わしゃ、もともと関東の人間じゃ、高知が気に入って長居しておる。わしは永遠の旅人じゃぜな」

「永遠ってもう老い先みぞいろ?」

天ぷらも持ってきた勇夫が話に加わる。

「何を言うか、わしは、まだ、60になったばかりじゃ、皆がじいじい言うもんだから歳よりも上に思われるがあと40年は生きるでな」

「はいはい、あと40年もここに居られたら大変だわ。手が掛かるようになる前には、また、旅に出て行ってくださいね」

美和子の意地悪な言葉に旗野は押し黙った。

「それじゃ、私たちも混ぜてもらって、カンパーイ」

楽しい宴が始まる。


カツオの刺身もタタキも鮮度抜群で最高に美味しい。

「あら、クーちゃんにんにくは使わないの?やっぱりカツオにはにんにくが美味しいわよ」

「え、でも、やっぱり臭いとか気になるので」

「そうよねぇ、明日も若い男子と会うんだものね」

「いや、そんなんとは違いますよ。旗じいだって一緒だし」

「なんじゃ?わしは邪魔かのう?」

「そんなことないです。巧司だって旗じいの写真の手ほどきを受けに来るんやし」

「あら?巧司君っていうの?もう、さっそく呼び捨てなのね?」

「だから、そんなんじゃないです」

「はい」

美和子はペットボトルの緑茶を差し出して

「まあ、カツオ食べるときはお酒じゃなくてこっち飲むと良いわよ。それとにんにくもすりおろしとスライスがあるからスライスの方にして、にんにくの臭い成分は細胞が壊れるときに出るから、スライスの方が臭いが少ないのよ。それにこのスライスは真ん中の芽に近い部分は使ってないから、臭い自体が少ないわ。それでも気になるならこれね。ニンニクチップス。そのスライスをカリカリに揚げてあるのよ」

そういうと美和子はカツオのタタキにチップスを乗せて食べ始めてお茶を飲んで見せると

「ちょっとこっちに顔を出して」

空子が顔を寄せると、「はあーっ」と息を吹きかけた。

「ほんまや、緑茶を飲んだだけなのに、にんにく臭くない」

「にんにくは食べたら出来るだけ早く緑茶を飲むといいのよ。遅くても30分以内ね。そうしないと臭いが体内に吸収されちゃって汗と一緒に出てきちゃうからね。そしたらホントに臭い女の出来上がりだからね。気を付けて」

「そうなんやな、なんだか勉強になるなぁ」

そんなことはお構いなしにとなりのオッサンどもはおろしにんにくをガッツリと盛ってカツオの刺身だのタタキだのを美味しそうに食べている。

『明日、この二人に近づくときは近づくときは息止めとこ』


「くーちゃん、熱いうちに天ぷらも食べて」

勇夫が促した。

天ぷらは背開きにした魚と茄子とインゲン、オクラ、シソ夏野菜が並んでいる。

魚は鮎のようだ

空子は鮎の天ぷらは大好きで自分でも作る。

鮎を箸で取ると

「鮎は下味ついちゅーき、そのまま食べてみて、薄い様なら、塩、醤油、天つゆ好きなのつけて」

横からの勇夫の声に素直に従いそのまま食べてみる。

まだ、熱い。

ハフハフ言いながら齧るとほんのり塩味がする。

そして、身がしまっていて風味も強い。

「美味ー。大将これ?」

「そりゃ一夜干しにした後に天ぷらにしちゅーき、身がしもうて風味も凝縮されちゅーがぜよ」

「そうなんやなぁ。今まで背開きにして、そのまま天ぷらにしていたけどこれは味が締って美味しいなぁ。そのまま天ぷらにしても身がフワフワで美味しいけどなぁ。同じ天ぷらで同じ食材でも随分変わるもんやなぁ」


美味しい料理を食べてアルコールも回ってきたところで

「それ、その棒、あたしに貸してもらえる虹色の竿やろ?」

「そうじゃのう」

「はよ、見せてーな」

空子は旗野に手を差し出した。

「そうじゃな、でも、その前に話しておかんといかん事があるのじゃ、使うかどうかは話を聞いてから決めるとよかろう」

空子は頭をかしげながらも

「とりあえず、わかった。話してぇな」


旗野は少し神妙な顔つきをすると話を始めた。

「こいつはなぁ、所謂、妖竿じゃ」

「これまで、こいつを持ったものは、皆、非業の死を遂げておる」

「こいつを作ったのは、名工、野嶋(のじま 末永(すえながという竿つくりの名人じゃ。もともとは和竿の業物を作っていたんじゃがのう。いくら業物とは竹ではどうしても現在のカーボンロッドには及ばん点が多いのじゃ、そこで野嶋はS社に頼んでカーボン素材を分けてもらうことにした。S社も当時は高弾性カーボンの扱いに悩んでいた時期で、野嶋の竿作りが何かのヒントになればとOKをだした。ただ、S社も企業じゃからのう。素材を提供する代わりに、このカーボンで竿を作るノウハウは包み隠さずフィードバックするように求めたのじゃ。野嶋はこの条件を飲んで素材を手に入れることが出来た」

「その素材で野嶋が自らの手で作り上げたのがこの竿でのう。出来上がったとき自分の名前である末永をもじって、末永まで永く使える竿という意味で「UN LIMIT」と名付けたのじゃ」

「もっとも、この竿を知る人間はUN LIMITなんて呼ばずに「末永」と呼ぶがのう」

「それで出来上がったこの竿をS社が精密に採寸して量産可能な製法に落とし込んで発売されたのが今の虹色の竿じゃ。この末永も虹色をしておるじゃろ?色もそのまま採用されたのじゃ、だが、S社の竿と見比べるとこの竿の方が奥深い色合いをしておる。名工と言うのはどこまでも人の上を行くものじゃなぁ」

「さて、その後の野嶋なのじゃが、もっと、上を目指してテスト釣行を繰り返しておるときに雷に打たれてしもうたのじゃ」

「それで、野嶋は亡くなってしまったのじゃがな。不思議なことにこの竿は元竿が折れただけでなぁ」

「普通は雷が落ちたら先端から折れるように思うのじゃがなぁ?不思議なものじゃなぁ?そういう物なのかのう?兎に角、ようわからんのじゃが、元竿が真っ二つに折れてしもうてなぁ。しかも野嶋の右手には折れたグリップがしっかりと握られていたそうじゃ、あまりにしっかり握られていたのでグリップは遺族が一緒に火葬してやったという事じゃ」

「さて、残ったこっちの竿じゃが、ある金持ちが手に入れると、野嶋と双璧と言われた竿作りの名人、大輪のところへ修理を依頼したのじゃ」

「大輪は当初難色を示したが、野嶋の竿への興味からかいつしか修理を始めたそうじゃ」

「そして、こっちの短いのがもともとの折れた元竿にグリップの加工をして大輪が作った袴じゃ」

旗野は布袋に入ったままの袴を持って見せた。

「そして、こっちの長い方が大輪が末永に合わせて作った元竿じゃ」

「大輪の作った元竿は、野嶋の作った長さと同じ9mになるように調整されておる」

「9mの状態で使えば、この竿は野嶋と大輪、名工二人の合作という事になるな」

「オリジナルにグリップ加工を行った袴をつけると8.2mの短竿になって、こちらは野嶋が作ったオリジナルの血が濃くなるわけじゃな」

「じゃが、これを修理した大輪はこの仕事を最後に竿作りを辞めてしまったのじゃ、理由はわからん。が。これより優れた竿は作れないという事を後に語っていたそうじゃ。そして、大輪の見解では「おそらく竿の完成度としては9mの状態よりも8.2mになった今の姿の方が野嶋が思い描いた完成体に近いのではないか?」「野嶋が目指した最終形態も、8.2mなのではないか?」というわけじゃ」

「素人には分からん事じゃが天才は天才を知るという事なのかもしれんのう」

「まあ、ここまでの話がこの竿の生い立ちみたいなものなのじゃがな」

「その後、この竿を手にしたもの6人の内5人が釣りをしているときに命を落としておる。死因はまちまちじゃが、溺れたり、心臓発作だったり、雷に打たれたりという事じゃ」

「そして、亡くなった全員がオリジナルの8.2mで使用している時に亡くなっておるそうじゃ」

「そして、わしはこの竿を持つ6人目というわけじゃ。わしはまだ8.2mでは使っては居らんがのう」

「その話を聞いて、嬢ちゃんはまだこの竿を使いたいかのう?」


空子は少し神妙な面持ちで考えていたが、やがて、口を開いた。

「あたしはそんなオカルトは信じないわ。旗じいだって信じてないから使っているんでしょ?」

「そうじゃなぁ、わしの場合は、そんなオカルトは信じておらんと言うより、その程度のオカルトには負けやせん。ってことかのう?」

「わしの背負っている呪いはそんな軽いもんではない・・・」

旗野は言いかけて口を閉じた。

「大丈夫や、貸して、要するに8.2mで使わなければいいんでしょ?そしたら、その袴は川には持って行かなければいいんでしょ」

「それが、この袴と9mの元竿は離せんのじゃ、離したら離したで災いが起こるのじゃ。交通事故とかなぁ」

「わかった、川原まで行って車に乗せておくのは有りなんよな?それでええ。どうしても使ってみたい」

空子は自分自身がどうしてここまでこの竿に固執するのか分からなかったが、兎に角使って見たくて仕方がない。

旗野のが釣りをする立ち振る舞いが目に焼き付いて離れないせいなのか?それとも?


「良いじゃろう、ただし貸すのはこっちにいる間だけじゃぞ、そして使うのはわしが見ているときだけじゃ。それが条件じゃ」

「わかった、それでええわ。明日早速使わせてなぁ」

「明日は、巧司も見ていてくれるし大丈夫じゃろ」


宴はその後も続いたが、旗野の一升瓶が空になったところでお開きになった。

旗野はまだ飲むと息巻いていたが美和子に窘められると素直に従ってタクシーを呼んで帰って行った。


空子は部屋に戻ると日課のSNSチェックとブログの更新をする。

今日の釣果は25匹と巧司に撮ってもらった釣り姿の写真と晩御飯の数々をアップした。

妖竿を借りることになった話もブログのネタとしては面白くて書きたい衝動があったが、書いたら娘たちが心配するだろうと書かないことにした。


それにしても明日の釣りが楽しみだ、妖竿と言われるほどの名竿も楽しみだ、旗じいに釣りも教えてもらうのも楽しみだ、巧司に写真を撮ってもらうのも楽しみだ。楽しみがいっぱい溢れてくる。

興奮して寝れなくなるかと思ったが、目をつむるといつの間にか深い眠りについていた。


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