さらば あたしの青春よ【立夏】
青春ってことば、あまり使いません。
翼よりもたくさんの足枷があって
光よりもたくさんの物陰があった
それがあたしの美しき青春
指よりもたくさんの深爪があって
血痕よりたくさんの痣があった
それがあたしの愛しき青春
手すりよりたくさんの踊り場があって
月よりたくさんのクレーターがあった
それがあたしの悲しき青春
永遠よりたくさんの刹那があって
つじつまよりたくさんのくいちがいがあった
それがあたしの忌まわしき青春
そんなあたしの青春が いま
滞在延長もなく 過ぎ去ろうとしている
青ざめて 色あせて
終わったコンテンツに成り果てようとしている
だけど あたしは嘆いたりしないし
べつに ひきとめもしない
青き春の去ったあとには 朱き夏がやってくるからだ
足りなくて 欠けるばかりの未熟な春とくらべたら
色づいて燃えるような 灼熱の夏のほうにこそ
得られるものはあるはずなのに ひとはなぜ
朱夏よりも青春に想いを馳せ
その憧憬をそそぐのだろう
これから訪れる 白き秋や玄き冬をのりこえるには
青き春の実りだけでは足りないことなんて
わからないわけでもないだろうに
だから あたしの青春よ
過ぎ去るなら 過ぎ去ればいい
青ざめて 色あせて
終わったコンテンツに成り果ててしまえ
あたしは青き春に別れを告げて 朱き夏に生きる
だからといって
けっしておろそかにしてたわけでもない
青春 朱夏 白秋 玄冬
よっつの季節の そのひとつでしかないだけだ
さらば あたしの青春よ
そしてふたつめの季節
夏があたしにやってくる