あたしの虚空に降る雨【穀雨】
雨に濡れるのは嫌いですが、雨じたいは嫌いでもない。
あたしの胸のなかにからっぽがある
おなかのなかのからっぽのほうは
カレーライスをおかわりしたから
だいぶ満たされたけど
胸のなかのからっぽのほうは そうもいかない
食べても 食べても 胸へはいかずに
おなかにばっかりたまるんだって言ったら
なんか おっぱいがちいさいことを
気にしてるみたいに聞こえるけど
いまは そういうはなしでもない
あたしはどうにかして 胸のなかのこのからっぽに
お花を咲かせたり くだものや お野菜を実らせたり
したいなって願ってるんだよ
とにかく
胸のなかのこのからっぽを なんとかしなくちゃ
こうなったら 手段を選ばずに
がらくたで埋め立ててやったらどうかと
あたしは考えたんだけど そんなことしなくったって
よぉく すみずみまで見渡してみたら
あたしの胸のなかのからっぽは
哀しい虚空がひろがるだけでもなくて
いちばん底にはうっすらと赤土が敷かれてるし
まばらだけど 種も蒔かれてれば 苔も植えられてた
それに気づいたから
あたしの胸のなかにひろがる哀しい虚空にも
あたしはちいさな太陽を浮かべることができたんだ
そこに灯った か弱い光は
あたしの胸のなかのからっぽの
いちばん底までどうにかとどいて
うっすら敷かれた赤土をあたためてくれるから
あとは 慈しむように赤土をしめらせてくれる雨が
あたしの胸のなかのからっぽに
降ってくれさえすればいい
そしたら お花が咲いて くだものや お野菜が実って
あたしの胸のなかもきっと
からっぽぢゃなくなるはずだし あたしはそう信じてる
あたしの虚空に降る雨 それを待ちながら
ちいさな太陽を浮かべることだけが
あたしにできることだとしたら
あたしはギリシャかローマの太陽神にだって
ベルギーの名探偵にだってなってやる
あたしの虚空に降る雨
あたしはちいさな太陽を浮かべて
それを待ちつづけている