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第1条:消えたあのコを追え。

『君に紹介しておこう。カットリーヌ・刃佐美はさみだ。彼女はフランスと日本のハーフでね、イアナを探す為に海外のコネを広げている時に知り合ったんだ。揶的やまと、君には彼女の用心棒を頼むとしよう。吉報を待っているよ』


 私は、権座令州成也ごんざれすなりやの言葉を反芻した。


 そういう訳で、カットリーヌは今拷問の真っ最中だ。拷問されているのは二人の少女、黒馬美兎くろばみんと剣咲安寧けんざきあんね。二人とも平菱ひらびしイアナの友人であり、数年前に彼女の逃亡を手引きしたメンバーだ。当然真っ先に当たってみたのだが、一貫して「知らない」と言われてしまっていた。私と同じ星花せいか女子学園の生徒であることを利用してさりげなく聞いてみても、フルフェイスヘルメットで身分を隠して強引に襲ってみても、それは変わらなかった。彼女らの間にどんな友情があるかは知らないが、どうも口が堅いようだ。

 ……と、事前に伝えておいたのにも関わらず。カットリーヌは、今回の拷問を強行した。


「さあ、命が惜しければ言いなさい。平菱ひらびしイアナはどこにいるの? 教えてくれたら……楽に殺してあげる」


 木製の台の上に載せた剣咲安寧けんざきあんねの右腕にまたがり、カットリーヌは笑みを添えて脅迫する。


「……」

「……あら、そう」

「あああああああああっ!」


 またがった体勢のまま、カットリーヌが剣咲安寧けんざきあんねの右腕に深々とハサミを突き刺す。もう何度目だろうか、その腕には無数の刺し傷が出来上がっている。


「くっ、ううううぅ~!」


 両目に大粒の涙を浮かべながら、剣咲安寧けんざきあんねは苦悶の声を漏らす。視線を伸ばすは……彼女の右隣で同じように拘束されている黒馬美兎くろばみんと。違う点といえば、右手首を金具で台に固定されているところと、先の拷問によって気絶しているところだろうか。その顔には赤みが無くなり、もうじき失血死することが素人目にもうかがえる。


「もう手遅れなんじゃないかしら? 黙りこくっていてもム・ダ・よ。どうせ、あなたもこの子と同じになるのよ? 何をしたって、結果は変わらない。ほぉら、早く言いなさいよ。平菱ひらびしイアナは……どこ?」

「……あんたらなんかに、教えない」

「じゃあもういいわ。他をあたってみるから」


 拷問が終わるのは、一瞬だった。


 カットリーヌが腕に突き刺していたハサミを勢いよく引き抜き、逆手で剣咲安寧けんざきあんねの横首にその刃を突き込むと、まるで電池が切れたライトのように彼女の意識は消えていった。


「……さぁ~てここからは、芸術の時間よぉ~!」


 廃工場に響き渡る、嬉しそうなカットリーヌの声。

 これは権座令州成也ごんざれすなりやから聞いた話だが、カットリーヌはハサミを愛用する殺人鬼らしい。フランスでオイタが過ぎたため、古巣である日本に国外逃亡してきた……とのこと。彼女は毎回若い女性を狙い、剪定するかのように余計な指を切り落としたり死体を枝や草葉で装飾して盆栽のように彩るのがコロシのあとの楽しみなんだとか。まったく、良い趣味をしている。興味は無いが。殺人が目的の彼女と、目的の為に動く私とではウマが合う気はしない。


 黒馬くろば剣咲けんざきとは何度か会話した仲ではあったが、こうなった以上は仕方がない。彼女達はそういう運命だったのだ。大人しくカットリーヌの趣味嗜好のためにその身を捧げてもらうとしよう。行き先だけは本当に知らないのか、知っているのを隠しているのか。本当のことは分からないが、いずれにせよ口を割らない彼女らが(わる)……。


 ……思考が掻き消された。

 すぐに正気を取り戻す。


 爆音。


 カットリーヌも私と同じだったようで、ハサミを振りかぶった体勢のまま、私と一緒に廃工場の出入り口の方を見やる。


 腕を突き出した状態で息を切らしたように肩を揺らし呼吸する一人の少女が、そこにいた。

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