デートを見せびらかし、自分の方が上だと自慢する親友。セレンティーヌは愛しい王子様と幸せを掴みます。
セレンティーヌ・アルデウス伯爵令嬢、彼女は気が弱くて嫌と言えない令嬢だ。
髪も黒髪で、それ程、美人ではなく、王立学園でも目立たない生徒だった。
「ハイド様ぁ。あ~んして。」
「まったく、アリアは甘えん坊なんだから。」
はしたなく王立学園のテラス席でイチャイチャしているのは、セレンティーヌの親友のアリア・レックス伯爵令嬢とその婚約者のハイド・クリフトフ伯爵令息である。
セレンティーヌとアリアは母親同士が仲が良く、幼い頃から見知った仲だった。
金髪で派手な顔立ちのアリアは、17歳ながらハイドと言う黒髪碧眼の美男の婚約者がいて、所構わずイチャイチャしまくっている。
そして、まだ婚約者もいない地味令嬢セレンティーヌの目の前で、見せつけるようにアリアはハイドとイチャイチャするのだ。
王立学園にいる時だけでなく、休日、アリアに買い物に誘われて行ってみれば、ハイドが共にいて、セレンティーヌの目の前で二人は手を繋ぎ、見せつけるようにイチャイチャとするのである。
悔しいけれども仕方がない。自分には婚約者もいないのだ。アリアは小さい時からの親友だし、家同士の付き合いもある。自分さえ我慢すればよいのだ。
セレンティーヌはそう心に思って、イチャイチャする二人の前で、ニコニコしながら、お昼ご飯を今日も食べるのであった。
アリアはセレンティーヌに、
「この間、ハイド様に指輪を買って貰ったのよ。ほら…美しいルビーの指輪。」
見せびらかすアリアにセレンティーヌは、
「まぁそうなの。でも、学園に指輪をしてきてはいけないわ。失くしたら大変でしょう?」
「だって、見せたかったんですもの。ハイド様に。」
ハイドはニコニコしながら、
「美しいアリアにその指輪は似合っているよ。」
「嬉しいっ。ハイド様。」
ハイドに抱き着くアリア。
ああ…羨ましい。私も婚約者が欲しい。そして指輪を買って貰いたい。
ルビーの指輪、高いんだろうな…
この憂鬱なお昼休みが早く終わればいい。
毎日毎日セレンティーヌはそう思うのであったが…
とある日、学園に来てみれば、アリアにセレンティーヌは詰め寄られた。
「貴方でしょう。うちの門に手紙を入れたのは。」
「何の事かしら…」
「毎日、イチャイチャして、死んでしまえ。って書いてあったわ。」
「知らないわ。そのような手紙。」
「嘘おっしゃい。貴方しかいないわ。そんな手紙書くのは、羨ましかったのね?そりゃそうよね。地味な貴方と違って私は素敵な婚約者がいて、幸せなんですもの。うふふふふ。嫌がらせの一つもしたくなるわよね。いいわ。お父様に言い付けてやるから。」
「だから、私ではないわ。」
「いいえ、貴方よ。本当に親友だなんて思っていたけれども、違ったわね。」
アリアはフンと背を向けて、心配そうに見ていたハイドと共に行ってしまった。
だから、私ではないのに…どうして疑うの?
そりゃ目の前でイチャイチャされたら、頭に来てはいたけれども、
かといって手紙を書いて門に投げ込んだりしないわ。
アリアは他の生徒にも言い触らしたみたいで、その日からクラスの生徒達のセレンティーヌを見る目は冷たくなった。
元々、おとなしい性格なので、アリア以外に友達もいないセレンティーヌ。
一人寂しく中庭でお弁当を食べるようなった。
寂しいけれども、アリアとハイドのイチャイチャを目の前で見せられるよりはどんなに気が楽か…
お弁当を食べ終わると、学園の庭に咲く花をスケッチする事にした。
時は春…色とりどりの華やかな花が花壇に咲いてとても美しい。
ふと、背後から声をかけられた。
「綺麗な色使いだね。君は絵を描くのが好きなのか?」
振り向くと、金の髪にエメラルド色の瞳の男性が覗き込んでいた。
彼は第18王子のミルド王子である。
「ミルド王子様っ…し、失礼をっ…」
「いや、全然失礼ではないよ。隣に座っていいかな。」
「ど、どうぞ。」
ミルド王子はセレンティーヌの隣に座って、
「僕も絵を描くのが好きなんだ。それでね。王立学園内で絵を描くのが好きな人達が集まって色々な所へスケッチしに行っているんだよ。放課後も時々、皆で集まってスケッチして絵を学んで。君もどう?」
「そのような活動の場があるのですね。でも…私は…」
「君はセレンティーヌ嬢だよね。噂は聞いたけど、アリア嬢の屋敷へ悪意の手紙を投げ込んだとか。君がやったんじゃないだろう?」
セレンティーヌは首を振る。
「私は絶対にやっていません。」
「それなら、是非、スケッチ部へ。一緒に絵の勉強をしよう。」
嬉しかった。第18王子ミルドに誘われた事が。
彼は王家の18番目の王子、自分より歳が一つ上だ。
美しい顔立ちの彼だが、婚約者はまだいない。なんせ18番目の王子だ。
そして彼の母は平民の下働きのメイドだった。
王宮の廊下で床を磨いているメイドを見た国王陛下が、強引に部屋へ連れ込んで、男女の関係を持ったのだ。
そして、出来たのがミルドだった。
国王は手が早く、何人もの女性の間に子がいるのだ。現在王子だけでも25人。王女は30人である。
王家としてはメイドとの間に生まれた第18王子ミルドまで婚約者を探す手が回らないのであった。
放課後、ミルド王子に誘われてスケッチ部へ顔を出せば、5人の男女が花瓶の花をスケッチしていた。
ミルド王子が部員にセレンティーヌを紹介する。
「セレンティーヌ・アルデウス伯爵令嬢だ。」
5人の部員は、口々に自己紹介をした。
皆、おとなしそうな男女であるが、クラスが違うのか知らない人ばかりである。
その日は、皆と一緒に花瓶の花をスケッチして過ごした。
ミルド王子は身体が弱く、運動は苦手のようで、
「もっと身体が強ければな。剣技の授業は見学で…もっと僕が強くて優秀だったら、婚約者も見つかるんだろうか。」
昼休み、セレンティーヌが花壇の花をスケッチしていたら、隣に座ったミルド王子がぼそりと呟いた。
セレンティーヌはそんなミルド王子に、
「ミルド様は美しいではありませんか。私なんて地味だから…いまだに婚約者もおりませんわ。」
「でも、君はとても優しい絵を描くじゃないか。心も優しい女性に決まっている。」
「それならば、ミルド様だって、色使いが淡くて、私、ミルド様の絵、好きですわ。」
ドキドキする。ミルド王子の事を初めて異性として意識した瞬間だった。
でも、身分が違う…相手は王子なのだ。
ミルド王子はセレンティーヌの手を握り締めて、
「どうか、僕の婚約者になって貰えないだろうか。母が平民で、頼りない第18王子だけれども…」
「あの…私…両親に相談しないとなりませんわ。」
「そうだな…それに僕は、後ろ盾も欲しいんだ。君の所は伯爵家。金銭的に潤っていると聞いている。ああ、そんな事を言ったら軽蔑されるかな…」
「お気持ち解ります。確かに、お金は大事ですわ。」
「それならば、王家から正式にアルデウス伯爵家へ婚約を申し込むよ。ああ、成立したら嬉しいな。僕はもっと身体を鍛えて、弱い王子から強い王子になる。しっかりしないとね。」
「わ、私も…もっとしっかりしないと…」
幸せだった。やっと婚約者が出来るのだ。
数日後、王家から申し込みがあって、無事にセレンティーヌはミルド王子と婚約を結ぶことが出来た。
その事を知ったのか、王立学園の教室でアリアが、セレンティーヌの前に来て、
「生意気よ。あんたみたいな地味な女が、王子と婚約ですって?まぁ、第18王子なんてクズみたいなものだけれどね。」
「それは不敬にあたりますわ。」
「いいじゃない。本当の事を言ったまでよ。ああ、今度、夜会デビューするの。ハイド様と一緒に。私は美しいから、社交界の華になるでしょうね。」
アリアはルビーの指輪を見せつけるように、ホホホと笑う。
社交界デビュー。自分も王宮の夜会に出てみたい。
地味な自分でも、ドレスを着て着飾って、ミルド王子にエスコートして貰いたい。
スケッチ部の部員達が、セレンティーヌに向かって、
「王宮の夜会、セレンティーヌも出席したら?」
「ミルド様。セレンティーヌをエスコートしてあげて下さいよ。」
「そうですよ。」
皆がミルド王子に王宮の夜会への出席を勧めてくれる。
ミルド王子は、
「お金とか無くて、君にドレスを贈る事も出来ない。」
「大丈夫ですわ。両親に用意して貰います。」
「僕はいずれ、君の所へ婿入りする事になるだろう。一生懸命働くから。働いて君の事を幸せにするから。」
「有難うございます。ミルド様。」
ミルド王子は貧乏である。王家から、お金は管理されていて、母が王宮のメイド出身なので、自由に使えるお金が少ないのだ。
その事を良く知っているから、セレンティーヌはミルド王子と共に頑張りたい。
そう強く思えるのであった。
そして、夜会。
アリアはハイドにエスコートされて、真紅のドレスを着て、ゴテゴテと装飾品をつけまくり、派手に着飾っていた。
セレンティーヌは、薄く化粧を施し、黒髪をアップに上げ、深緑のドレスを着て、ミルド王子にエスコートされて入場した。
アリアとハイドは他の貴族達にチヤホヤされて。
セレンティーヌとミルド王子は地味で目立たなかったけれども、スケッチ部の仲間達も出席していて。皆で、一角を占領し、夜会を楽しく過ごした。
その時である。
アリアの金切り声が聞えて来た。
「私のルビーの指輪が無いわ。きっとセレンティーヌが盗んだのよ。」
セレンティーヌは驚いた。
アリアに近づいてもいない。
それなのに、何で自分のせいにするのか。
ミルド王子がセレンティーヌの肩に手を優しく置いて、頷き、
アリアに向かってはっきりと、
「何か証拠はあるのか?証拠が無いのに、我が婚約者を犯人呼ばわりするとはどういうつもりだ?」
アリアは鬼のような形相で、
「セレンティーヌは昔から私の方が恵まれている事に嫉妬していたわ。今夜だってそう。ろくな装飾品も着けないで。私の指輪が羨ましいに決まっているわ。だから、セレンティーヌが犯人。そうでしょう?」
ミルド王子が叫ぶ。
「そこまで言うのなら、騎士団長。いるな。」
「はい。なんでございましょう。」
「全員の持ち物検査だ。それから聞き取り調査。早急に。誰も王宮の外へ出すな。」
「かしこまりました。」
夜会は中止になり、騎士団員達は貴族達の持ち物検査を行った。
ルビーの指輪はアリアのバッグの底から出て来た。
「あら、やだ。私ったら勘違いしていたのね。」
騎士団長が、
「勘違いではすまされない。」
ミルド王子も頷いて、
「アリア・レックス伯爵令嬢を拘束しろ。」
「かしこまりました。」
ハイドが首を振って、
「私は関係ない。アリアが勝手に…騒ぎ立てたんだ。我が伯爵家は一切関係ない。」
「ハイド様っ。そんなっ。」
アリアは騎士団へ連れて行かれた。
他にも色々と騒ぎを起こしていた事が発覚し、ハイドの両親が激怒し、クリフトフ伯爵家から婚約破棄され、アリアは修道院へ送られる事となった。
スケッチ部の部員達とセレンティーヌは今日も花瓶の花をスケッチする。
「アリア嬢、いい気味だな。」
「本当に。セレンティーヌを虐めていたバチが当たったんだ。」
「本当にね。」
皆、口々にアリアの悪口を言う。
ミルド王子がスケッチしながら、
「だが、アリアみたいな女性は多いらしいぞ。皆、自分の方が恵まれているって、自慢したいのが女と言うものらしい。」
セレンティーヌの方を見て、
「そうだろう?セレンティーヌ。」
セレンティーヌは首を振って、
「私は今ある幸せを感謝したいと思います。自慢して、人を貶めるなんて、そんな最低な事をしませんわ。」
ミルド王子は微笑みながら頷いた。
学園を卒業した後にセレンティーヌはミルド王子と結婚した。
伯爵家に婿に入ったミルド王子は、一生懸命働いて、セレンティーヌと共に幸せな家庭を築いた。
アリアは修道院でも、
「私がこんな所で終わるなんて、有り得ないわっ…ちょっと。貴方、私のルビーの指輪、盗ったでしょう。私の方が美しいからって嫉妬して。返してよ。」
性格は変わらず、周りの修道女と問題を起こし続け、寂しい一生を送ったと言う。
アリアみたいな、こういう女性は普通にいます。珍しくないですね。ざまぁされずに、それなりに幸せになっています。