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5話 解ける想い

 初めて会った時からずっと蓮を想っていた――


「ずっと仕舞っていたのに……勇気なんて出さなければ良かった」 


 暗い海から時折大きな波音がおしてくるように聞こえる。肌にまとわりつくような夜の潮風と共に、大きく溜息を吐きながらあれこれと考えに沈んでいった。


『幼なじみだからって、いつまでも貴女のお守をさせられているなんて……いい加減に蓮くんを解放してあげてよ』


『私と蓮くんもうすぐ付き合うの!』


 波の音と共に桃園先輩の言葉が浮かび、何度も反復する。


 抱き合う私と蓮を見て目を丸くしていた桃園先輩。蓮は彼女の誤解を解く事はできたのだろうか。そしてその勢いで二人は付き合う事になったのだろうか。


 桃園先輩を抱きしめる蓮を想像してこらえきれずに溢した。


「そんなの……嫌だよ」


 蓮が回した逞しい腕の感触、温もり、心臓の鼓動――未だ私の身体に残っている。私は自身の体を抱くようにぎゅっと掴むと涙を落とした。


「何が嫌なんだよ」


 突然、聞こえた声にびくっと身体を揺らし顔を向ける。砂を踏む音を立て近づいて来る人物に驚き口を開いた。


「蓮……なんでここに?」

「ようやく見つけた」


 肩で息を切らせた蓮は、私を確認してホッとすると目の前でしゃがみ込んだ。


「見つかって良かった……」

「もしかして……私を探してた?」

「当たり前だろ!大体、何でこんな暗い海なんかに一人でいんだよ!?あぶねーだろバカ!」


 ぐわっと勢いよく顔を上げた蓮がまくし立てる。


「ば、バカって、すぐバカって言うのやめてって前に言ったじゃない!」

「バカにはバカって言っていいんだって前に言っただろ。バカ奈月」

「また言った!もうっ蓮のイジワル!!」

「ちょ奈月、いてぇって」


 小さな頃から何度もしているやり取り。何年もまともに話していなかったけれど、幼なじみだからかすぐにあの頃のように戻れてしまう。目の前にいる蓮の胸をポカポカと叩いていると、鼻緒がちょうど靴擦れにあたりバランスを崩す。


「きゃっ」

「おっと、あぶね」


 ふわりと柑橘系の香りに包まれる。蓮の腕に受け止められ抱き着いている体勢にドクンと胸が弾む。顔を上げると蓮と顔が近く、恥ずかしさにサッと体を離して背中を向ける。


「ごごごごごめん」

「いや……ってか、足大丈夫か」

「うん……」


 しばらく沈黙が流れ、辺りの音を波が持ちさっているように波音が響いた。


「さっき何が嫌だって言ってたんだ」

「え?」

「……泣いてただろ」  


 振り向くと蓮は真剣な眼差しで私を見ていた。


 さっきまで悶々と考えていたせいで、蓮と桃園先輩の抱き合う姿が脳裏を過っていく。私は持っていたリボンをぎゅっと握りしめて、投げつけるように言った。


「蓮には関係ないじゃない」


 立ち上がって歩き出そうとすると蓮が腕を掴んで引き留める。


「関係ある……」


 雲間に隠れていた月が現れると、影を差していた蓮の顔が私の目に飛び込んできた。


「なんで……なんで――そんなに辛そうな顔するの?」

「奈月が俺に()()()()なんて言うからだろ」


 掴んでいた私の腕をなぞりながら、握りしめるリボンを取ると蓮は口元にあてる。まるで口づけを送るような仕草を惚けて見てしまう。体温を感じるほどの距離に近付くと、私の髪に触れてリボンを結び始めた。


「桃園先輩はどうしたの?」


 しゅるしゅるとリボンを結ぶ音を聞きながら蓮に話しかける。


「タケと藤に任せてきた」

「えっ、離れて良かったの?桃園先輩怒ってるんじゃない?」

「そうかもな」

「そうかもなって……大丈夫なの?その……告るつもりだったんでしょ?」

「は?誰が?誰に??」

「誰がって……蓮が……桃園先輩に……」

 

 話しながらどんどんと悲しくなっていき、私の顔は自然と俯いてく。


「しないけど」


 頭上から聞こえた言葉に反応して顔を上げる。


「え、ちょっと待って……それじゃ、蓮が私に話したい事があるっていうのは、桃園先輩に告るって話じゃないの?」

「はぁぁ??お前、なんでそうなるんだよ。あと頭動かすな」


 盛大に溜息をつきながら蓮は呆れた様子で私の頭を押さえる。頭が動かない様に私は視線だけで蓮を見た。


「でも、蓮ともうすぐ付き合うって……桃園先輩が……」

「あのな、それ先輩が勝手に言ってるだけだから。それにこれから告るってわざわざ人に言うわけないだろ」


 そんな奴いるのか?と蓮は呟き、三人の協力者達を思い浮かべた私は心の中でそっと挙手をした。

 

 桃園先輩の話を否定する蓮の言葉に安堵して、ようやく冷静になってきた私はそういえばと口を開いた。


「蓮の話ってなんだったの?」


♢♢♢♢♢


 薄雲に月が透けて明るく色を与える。そんな月の下、蓮と肩を並べて砂浜に座る。穏やかな波の音を聞きながら蓮の話に耳を傾けていた。


 蓮が私を避け始めた理由――それは、中学の頃からもしかしてと感じていた事であった。


「やっぱり……ずっと私を守ってくれてたんだね」


 蓮は小さく首を振ると、全然守れてなかったと後悔の滲む声を出した。


「俺のせいで奈月が怪我するのをもう見たくなかったんだ。浅はかな考えだったけど、俺が距離を置けば奈月が目をつけられなくなるんじゃないかって……でも、なかなか収まらなかった。傷付けられそうになってる奈月のとこに駆け出して行こうと何度も……何度も思って……必死で耐えてたんだ。そんな見てるしか出来ないしょうもない自分に……腹が立ってた」


 握った蓮の拳が小刻みに震えていた。私は握りしめる拳の上に手を置いて両手で包み込むと、蓮の悔し気に染まる目を眺めながらこれまでの事を思い出していた。 


「でも……時々、助けてくれてたよね」


 蓮はバレていないと思っていたのだろう、瞬きをするのを忘れるくらい一瞬で驚いた顔をした。そんな表情にクスっと小さく笑った私はそのまま立ち上がると、ゆっくりと波打ち際へ歩き出す。


「蓮の優しさに本当は何度も救われてたよ。さっきは、中途半端になんて……酷い事言ってごめんね」

「奈月……」

「それとね、さっき嫌だなって言ってたのは、蓮が桃園先輩を抱きしめてるのを想像しちゃって……それが嫌だなって思ったの」


 照れくさい言葉を立て続けに告げ、恥ずかしくて蓮を見れずに海を眺めている。すると、背中からすっぽりと包まれるように抱き締められた。


「れ……蓮!?」

「奈月だけだ」


 私の後れ毛を蓮の熱い息が揺らせると、全身の体温が沸騰しそうなくらいに熱くなっていく。


「こうしたいと思うのは……」


 抱き締める力を緩めると、私の顔は視線ごとゆっくりと蓮の瞳へと向いていった。


「奈月だけなんだ」


 大好きな幼なじみの手が伸びてくる。伸びてきた手が私の耳をするりと撫でて頬に触れると、いつの間にか流れていた涙をそっと拭われた。


 蓮の榛色の瞳が、月明りだけでも見えるほど近い。


「奈月……俺は――」



 吐息がかかる程の近さにドクンドクンと心臓の鼓動が体中に響いてる。いつも囚われて離さない榛色の瞳が、さらにゆっくりと近付いてきた。


(目を閉じなきゃ)


 キスを期待して目を瞑ったその瞬間――


 突然、辺りが激しい光に包まれた。眩ゆい光に視界を覆われて戸惑っていると、蓮がぐいっと私を抱き寄せる。蓮から漂う柑橘系の爽やかな香りが恐怖心を少し沈めてくれる。

 

 光に目が慣れてくると、私と蓮は顔を見合わせて驚いた。なんと目の前には虹色に光る球体が浮いているのだ。暫く茫然とその光景を眺めていると、虹色の球体は突然弾けるように割れて光の粒がキラキラと舞い落ちる。


「え……人?」


 雪のように光が舞う中で人影らしきものが見える。徐々にその輪郭が見え始めてくる――と、そこに現れたのは、長い黒髪をキラキラと靡かせた美しい男性が佇んでいた。

 光と共に現れた男性は人間ではなく、天使や悪魔といった人智を越えた存在のように恐ろしく感じる。けれど同時に、その全ての光景が美しくとても綺麗であった。


「綺麗……」


 思わず声を漏らすと、男性の珍しい薄紫色の瞳と目が合う。ビクっと反射的に蓮の腕を掴むと、私を抱き締める力を強くする。


 私達の目の前で一体何が起きているのか。急に現れた男性の腕には、お伽話に出てくるような金髪のお姫様が眠っている。


 幼なじみに告白しようと思ったらこんな事になるなんて……


**

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