2話 異世界人さんいらっしゃい!
小説挿絵は、きくずと申す様に有償で描いて頂きました。
アスターの美麗さ、それに蓮のすこしヤンチャそうな表情!!とてもよく再現されていて感無量です( *´艸`)
蓮との関係がギクシャクし始めてから色々と悩んだ私は、節目の17歳の誕生日に蓮に想いを告げると決意した。なぜこの日だと思ったのか自分でも分からない。でも何かこの時を逃しちゃいけないって気がしていた。
『奈月の誕生日ってちょうど立花神社の祭りがあるのよね。だからそれを利用するわよ』
こうしてユリちゃんの一声で私の一世一代の告白は、立花神社の祭りを利用させてもらう事となった――のだけれど……
「は?何でここに奈月が……?」
目の前にいる蓮が私を見て驚いて困惑している。
「あれ?話してなかったっけ?奈月ちゃん達も一緒だよって」
「聞いてねぇよ。芹田、どういうことだよ」
眉を寄せて芹田君に詰め寄る。そんな予想と違う蓮の反応に、胸がぎゅっと締め付けられる。
(蓮、そんなに私に会いたくなかったのかな……)
「それとお前な……俺を置いてさっさと先行くなよ」
さらに眉間に皺を寄せた蓮が、芹田君の肩を抱いて凄む。
「ははっごめんね。早く咲良に会いたいのに、蓮のせいでちっとも進めないし面倒臭かったんだよね」
「何で俺のせいなんだよ」
咲良ちゃんに早く会いたかったと本音を漏らし、すぐに取り囲まれてしまう蓮と歩くのが本当に面倒くさくなったのであろう。芹田君は悪びれる様子もなくにこにこと話す。蓮は納得いかないといった顔をして腕を組んだ。
「本庄はラフレシアね」
「はぁ?どういう意味だ」
「ハエが寄って来てるわよ」
ユリちゃんの辛辣な言葉に首を傾げた蓮が辺りを見渡す。驚く事に私達の周りには、いつの間にか沢山のギャラリーが集まって来ていた。周囲に目を向けた蓮に対し女子達がキャーキャーと騒ぎ始める。蓮はゲッと心底嫌そうな顔を浮かべた。
「とりあえず移動しよう。蓮はそのままだと目立つからコレつけて」
歩きながら芹田くんが蓮に渡したのはお面だった。
「おい、何でコレなんだよ!?」
それは少年達がモンスターを使って戦うアニメに出てくる、黄色の可愛いモンスターのお面であった。
「はい、文句言わずさっさと着けて」
芹田君と咲良ちゃんが先に行き、ユリちゃんは愚痴る蓮に投げやりに声をかけて去って行く。蓮は舌打ちをしながらもお面を着けて三人の後を追った。私は蓮と一緒にいて良いのか分からず少し離れて歩く。
すると、ピタッと止まった蓮がこちらを振り向いた。
「何してんだよ。はぐれるぞ」
やけに長身の黄色いモンスターがぶっきらぼうに話しかけてくる。
「うん」
下駄を鳴らしていそいそと蓮の横へ並んで歩き始めた。
♢♢♢♢♢
一体ここはどこなんだ?
カンティアーナを攻撃から守るため無我夢中で何かの魔術を展開させた所までは覚えている。腕の中でカンティアーナが意識を失っているが、魔力を大量に浴びた事による"魔力中毒"だと分かりほっとする。過剰に浴びた魔力は徐々に体から抜けていく。明日には目を覚ますだろう。
前に目を向けると、不思議な衣装を着た若い男女が驚いた顔で俺達を見ていた。男の方は警戒して女を守るように背に隠すが、女は興味の方が強いのか目を丸くさせながらこちらを伺っている。
男女は何やら相談を始めたが、彼等の話す言語は全く聞いた事のないもので驚く。だが、音の響きが心地よくもあり不思議と落ち着いていられた。
話し合いが終わったのかおずおずと二人は近付き、理解出来ない言語を話しながら指をさした。指し示した方に目を向けると、高台の所に明かりが点いた建物が見える。おそらくはその建物まで付いて来いという事なのだろう。
目の前の男女を信用して良いものか悩むが、現在いるこの場所は海岸でしかも夜だ。このままカンティアーナを海風に晒しておくわけにもいかないし、ここが一体どくらい離れた辺境の地なのか聞き取りも必要だ。
俺は案内する彼等の後を大人しくついて行った。
「へぇ、すごいね。何もない空間から急に現れたんだ」
私と蓮の説明を淡々と聞いているのは、蓮のお父さんである葵さんだ。いまだ混乱している私や蓮と違い突拍子もない説明と、この状況をも冷静に受け入れている。
今私達がいる場所は、海岸からすぐの所にある葵さんの経営するレストランだ。ここは海沿いの高台に建っており、さっきまでいた海岸からは建物の明かりが見えていた。
事務室兼休憩室となっているこの部屋には、私と蓮、葵さん、それに突然現れた男性と、男性が抱えていた女性の四人がいて、眠っている様子の女性はソファに横たえている。
先程まで男性は警戒の体勢を崩さず私と蓮それに周囲をきょろきょろと見渡して、腕に抱える女性を決して離そうとしなかった。何度か話しかけている内に、言葉が分からずとも危険がないと判断したのか少しだけ警戒を解いて今に至る。
「大丈夫ですか?」
男性の身体は火傷のような裂傷、それに所々細かい怪我をしていた。私は簡単な手当てをしながら男性に話しかけてみる。
【--------------】
こちらの言葉が通じていないという事は当然、男性の話す言葉も理解できない。けれど、分からなくても何となく大丈夫だと言っているように感じる。聞いた事のない不思議な言語は男性の声色も相まって落ち着く音色だ。
「やっぱ反応しねぇな」
蓮は男性の言葉を何とか翻訳しようと、スマホの翻訳機を使うが意味を成していないようだ。
どこの国の言語で出身なのか、全く見当もつかない私達は首を捻るばかり。そして驚く事に、明るい所で見る男性はものすごく美しい人であった。腰まである長い黒髪をサイドに流し、印象的な薄紫の瞳が不思議な輝きを持っている。
その薄紫の瞳は今、興味津々で蓮のスマホを見つめていた。他にも部屋を見回しては、まるで初めて見る物ばかりといった驚きの表情をしているのが気になる。
「それにしても……すごいなこの服。何かの衣装?」
男性が着ていた服を葵さんが手に取ると、まじまじと眺めて感嘆の声を上げる。
今は手当の為に男性はカッターシャツ姿だけどシャツの上に着ていた服は軍服で、重厚な素材のローブを羽織っていた。有名な映画に出てくる魔法使いが着ているようなローブだ。
その恰好は男性にとても似合っているが、この場ではコスプレ衣装のような違和感しかない。軍服やローブの生地は高校生でも分かるほど上質な素材で、さらにローブには幾何学模様の紋章が刺繍されとても手が込んでいる。
ソファで眠る女性なんて、まさにお伽話の眠り姫のよう。エメラルドグリーンの美しいドレスを着て、波打つような金髪に、閉じている瞼の先は髪色と同じく金色の長いまつ毛で覆われている。白い肌に、薄づいた淡いピンクの頬と、さくらんぼのような赤い唇のとても綺麗な人。こちらもドレスの襟や袖、スカートの裾部分それぞれに細かな刺繍が施された豪華な衣装を着ていた。
とりあえずの応急手当が終わると、ソファに座っていた男性は突然私の前に跪いた。片膝を立て胸に手をあてる姿は王子様のよう。男性は礼をするように首を垂れ、そして顔を上げると僅かに微笑みを浮かべた。
「ふぇ……?」
目の前の光景は一体何なのか、思わず変な声が出てしまう。乙女ゲームのスチルを生で見ているような状況に私の頭は完全にフリーズした。
「おっと、イケメンの微笑みは破壊力がすごいねぇ」
揶揄うようにクスクスと笑う葵さんの声が耳に入ってくる。
「奈月!見たらだめだ」
背後で蓮の声が聞こえたと思ったら突然視界を奪われる。何故か私の目を塞ぎ始めた蓮の謎行動に、我に返った私はその手を退けようと掴んだ。
「ちょっと蓮!なに、なに?何も見えないよ!?」
「だから見んなって言ってんだよ!」
「だから何でなの!?」
蓮の焦った様子に驚くとともに、目を隠そうとする行動の意味が分からずに困惑する。
「バカ!お前、惚れたらどうすんだよ!!」
「ほれっ……って、えぇ!!?」
表情は見えないけど、声から揶揄っているのではなく真面目に言っているのが分かる。私は心の中できゃっと叫び声を上げ、惚れてるのは蓮だよ!っと口を衝いて出そうになっていた。
そんな私達のやり取りを懐かしいねぇっと、葵さんが感慨深い声で呟いていたのは耳に入らなかった。
「とととにかく、手を退けて……え……?」
蓮の手を下ろす――すると、周囲に広がっている光景に私は言葉を失う。
目の前に立つ男性の手から、色とりどりに光り輝く蝶が現れては飛び回っているのだ。蝶は羽ばたく度に光の鱗粉を舞散らしながら飛んでいる。風もないのに男性の黒髪はふわりとなびき、蝶が舞う光に身体を覆われている姿に目を瞠る。蓮と葵さんも部屋中を飛び回る蝶を瞠目しながら追っていた。
無意識に蓮の手を握り締めていた私は、手を離し恐る恐る飛んでいる蝶に手を伸ばす。青く輝く蝶が私の指に止まると、数度羽ばたきをした後にスッと消える。それを合図に部屋を飛び回っていた蝶たちも消えて光の粒子となった。
「すごい……!」
見た事のない幻想的な光景に私は思わず声をもらした。私の声に反応した男性がちらりとこちらを見る。目が合うと男性はふっと微笑で返し、胸に手をあてて小さく傅いた。
思いがけない男性の表情と紳士的な仕草に、じわっと頬に熱が上っていくのを感じ両手で頬を押さえる。すると背後から大きな手が、私の両手を掴んで頬から手を引き離した。
「他の男で赤くなるなよ。むかつく」
耳元で蓮の低い声が響く。途端に頬だけではなく全身がカァっと熱を帯びたように熱くなる。驚きすぎて口をはくはくとさせ後ろを振り向く。するとそこには私の反応を満足そうに眺めている蓮がいた。
「いやーびっくりしたよ!すごい事出来ちゃうんだね。マジック……じゃないよね?」
葵さんが手を叩きながら男性の傍へと寄って話しかける。
「ほっほんとに!びっくりしちゃった……あはは」
誤魔化すように葵さんの話に入って蓮の手から逃れる。男性が見せた不可思議な現象よりも蓮の行動の方に心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「奈月ちゃん?何でそんなに顔真っ赤にしてるの?」
私の顔を覗いた葵さんが不思議そうな顔をして首を傾げる。
「へ!?えっと、すごいものを見て興奮しちゃったみたい」
はははっとカラ笑いをしてお茶を濁す。それから、口元に手を当てて考えていた蓮が口を開いた。
「もしかすっとこれって、魔法……ってやつか?信じらんねぇけど、今リアルで見ちまったしな」
「蓮達の前に急に現れたってくらいなんだから、そういう力もあるんだろうね」
眉を寄せて未だ信じられないって顔をする蓮とは対照的に、葵さんは達観しすぎだと思う。
男性は一体何者で何処からやって来たのか……言葉も通じず分からない事だらけだけど、彼が見せてくれた魔法のような不思議な力は美しく優しさで溢れていた。
【--------】
薄紫の瞳を私達に向けて男性が話し始める。不思議な響きのする言葉は、何かを頼んでいるように聞こえる。私は彼に引き寄せられるように、一歩前に出ると真っすぐと見た。
「あの、私で出来る事があれば協力します」
男性の瞳が輝きを増したように見える。
真っすぐに見つめたまま私は自分の手を握りしめる。男性は真意を確かめるような眼差しで私をじっと見ていた。
「そうだね。奈月ちゃんの言う通り、僕らで出来そうな事があるなら協力しよう」
葵さんはそう話すと私の肩にぽんっと手を置く。
「それに、君は彼女が心配なんだろう?」
ちらりと眠る女性の方を見た後に、葵さんが男性にウィンクをした。
男性は少しだけ驚いた顔をした後に、嬉しいような困ったような複雑な表情をして小さく頷く。先ほどから彼女に向ける男性の眼差しは愛おしそうで、時折こちらが赤面してしまう程であった。
「俺も同じ気持ちだ」
私の頭に手を置いた蓮も男性に向かって話す。
「何かこの二人、ほっとけないよな。ってことで、その力を使って何かするんだろ?俺が協力する」
私の頭を名残惜しそうにポンポンと撫でてから、蓮は男性の傍へ行く。蓮の温かな手の余韻に浸りながら鼓動する胸を押さえる。
蓮と男性は好意的に握手を交わした後、男性は右手をかざした。集中するように目を閉じると青白い光が、男性の手から溢れて蓮の頭の上にかざす。しばらくその状態が続きやがて男性が目を開いた。
特に変化を感じていない様子の蓮が、自分の頭を触りながら男性に尋ねる。
「何をしたんだ?」
すると、蓮の問いかけに応えるべく男性が口を開いた。
「君の記憶を読み取って言語情報を学ばせてもらった」
「はっ!?」
「うそっ日本語!?」
「へぇ~」
蓮と私と葵さんはそれぞれ声を上げる。そんな私達を前に、男性はさらに驚きべき台詞を続けた。
「俺はアスター・デライト。グロキシニア魔術帝国の魔術士だ」
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