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1話 イントロダクション

2021年に初めて投稿したものを加筆、修正したものです。

最後まで楽しんでいただければ幸いです。


よろしくお願いいたします(=^・^=)

 「はやく……俺が自我を保ってる間に……」


 重苦に満ちた声を上げる男は長い黒髪を乱れさせ、薄紫色の瞳は鋭く射るように目の前の女を見る。


 強い視線を向けられる女は、碧色の大きな瞳からぼろぼろと涙を流す。

今にも自分に襲いかかろうとしている男は、幼い頃より深く愛を誓い合った男だ。女はなんとか男の元へ駆け寄ろうと踏み出す。


 だがそれを王家の聖騎士が体を張って止める。王の娘である女の護衛を国王から言い遣った者だ。

 

 他にも辺りには紺色のローブを羽織る魔術士達が、すぐに魔術を発動できるように構えて展開していた。彼らは、相対する同じ魔術士のローブを着た男を、悲痛な面持ちで見守っている。


 大勢の視線を一身に受けている男は、今にも喪失しそうな自我を何とか繋ぎとめていた。


 だがそれももう保たない……


「団長ッ!さっさと決断しろ!!」


 ローブを着た男は団長と呼んだ屈強な身体の男に向かい、咆哮しながら魔術展開させ紫焔を放つ。


 閉じていた瞼をカッと開いた団長は、自身の前に風の壁を作り、迫りくる紫焔の塊を風の壁で封じ込める。魔術の風はそのままぎゅっと凝縮すると、中で収まり切らなかった紫焔が火柱となって天に昇りやがて散る。


 団長は苦心の表情を浮かべて叫んだ。


「許してくれアスター!お前を救いたかった!!」


 その声を合図に、魔術士達から無数の攻撃魔術が放たれる。霹靂と共にアスターの周りを大きなエネルギー体が集まっていく。


「そんな――やめて、アスター様!」

「カンティアーナ王女!ここは危険です!」

 

 カンティアーナと呼ばれた彼女は、波打つ豊かな金の髪を振り乱しながら必死にアスターに呼びかけた。

聖騎士はカンティアーナを無理にでもこの場から連れ出そうと強引に腕を引く。


「離してちょうだい!離して!いやよッアスター様!!」


 騎士の手から抜け出そうと抵抗しながら、カンティアーナはアスターに向かって手を伸ばす。するとアスターの口が何かを伝える様に動いているのが見えた。


――幸せに。


 瞠目したカンティアーナの碧色の瞳に、アスターの微笑む姿が映っていた。ゆっくりとスローモーションのような光景の中で、アスターの微笑みが攻撃魔術に包み込まれるのが目に入る。


「……いや……嫌よ」


 カンティアーナがぽつりと呟いた瞬間、彼女から黄金色の閃光が放たれる。


「うっ!」


 騎士が眩しさに咄嗟に目を覆った瞬間、カンティアーナは弾けるように駆け出しアスターの胸へ飛び込んだ。


 その奇跡の光はアスターの身の内に根付いた呪いと、核であった一片の魔石を消滅させていく。呪いの狂気から正気を取り戻し、胸に抱き着くカンティアーナを強く抱き締めた。


「アスター!!避けろぉぉ!!!」


 団長の鬼気迫る怒号が響く。展開された攻撃魔術は止まる事なく、アスターとカンティアーナの身に迫りくる。撃ち払う猶予はもうない。


 アスターはカンティアーナを守るように抱き込むと咄嗟に念じた。


 どこか遠くへ……!


 落雷よりも数倍凄まじい轟音と共に攻撃魔術が落ちていく。その衝撃のうねりの中、虹色の光柱が方々に立ち上がって消えた。


 濛々と辺りを煙が立ち込める中、アスターとカンティアーナがいた場所に団長が駆け寄る。


 二人がいた場所は大きな穴となっていた。もしあの魔術を受けていたのならば、身体は跡形もなく消滅しているであろう。


 魔術士達も固唾を飲んで立ち尽くし、辺りには重たい沈黙が流れていた。


 「レオノティス団長、アスターと王女は?」


 銀髪にアイスブルーの鋭い目の剣士が颯爽と現れ、この場の沈黙を打ち破る。彼は団長の隣に立つと、未だバチバチっと魔術の放電が起きている大きな穴を眺めた。


「イベリスか。分からん……だが、アスターの魔術の痕跡を感じる……」


 団長であるレオノティスからつうっと冷や汗が伝い、眉間は皺が深く刻まれている。


 イベリスはそんなレオノティスをちらっと見た後、穴の開く崩落した現場に目を向けた。そして口元に手を当て長考するとやがて口を開く。


「最後の閃光はアスターの魔術ですね。恐らくあれは、転移の魔術ではないでしょうか」

 

 至極冷静な口調で突拍子もない発言をするイベリスに、レオノティスは鳩が豆鉄砲をくらったような表情をする。 

 

「はぁ!?転移!!?そんな魔術……」


 あり得ない――と、続けるはずだった言葉を飲み込み、そしてニヤッとレオノティスは口の端を上げた。


「あいつなら()()()()か」


 その言葉を聞いたイベリスはフッと笑うと、誰に聞かせるわけでもなく虚空に向かって呟く。


「天才魔術士、アスター・デライトならきっと生きてるさ」


♢♢♢♢♢


 ――私には、幼なじみがいる。


「いってきます」


 家の門を出ると、早朝にも関わらずジリジリと焼けつく太陽が肌を突きさす。蝉の鳴き声も聞こえはじめ、いよいよ夏本番だ。

 

 隣の家の門も開き、同じ制服に身を包んだ男の子が自転車を押して出て来た。


「蓮、おはよう」

「……ん」


 素っ気なく返事をする彼の名前は、本庄蓮(ほんじょうれん)。同じ高校に通う私の幼なじみだ。


 蓮は私と目を合わす事もなく、自転車に跨るとすぐに行ってしまった。


 実は私と蓮はずっとこんな調子で、最近ではまともに話せてもいない。子供の時に起きたある事をきっかけに蓮に避けられ始め、高校に入ってからは学校では口もきかなくなってしまった。

 

 でも今日は朝から会えてラッキーだった。自然と顔が緩んでしまう。


 なぜなら私は初めて蓮と出会った時から恋をしているから。


 蓮との出会いは、遡ること10年前。両親が海沿いのこの街にマイホームを建てたところから始まる。


 我が家のお隣りさんには、キラキラした榛色の瞳と薄茶色の髪の男の子が住んでいた。えっ天使?と思うほど綺麗な顔の男の子。それが蓮だった。


 お隣さん家族も我が家と同じ3人家族。引っ越しの挨拶に行くとチラチラと様子を伺っている男の子と目が合う。初めて見る綺麗な男の子に私はすっかり魅入ってしまい、呆然としていたのを今でも覚えている。

 

 そんな私に母が自己紹介をするように催促する。男の子にじっと見られて恥ずかしさに緊張してしまい……


「は……ははは春田奈月(はるたなつき)でしゅッ」


 思っきり噛んでしまったのだ。ガーンと俯いているとコテコテの関西弁が耳に入ってきた。


「ほらっ蓮もちゃんと挨拶しいや〜」


 驚いて顔を上げるとその声の主は、目の前の綺麗な外国人の女性からであった。男の子に見惚れていて気付かなかったが彼のお母さんのようだ。


「ハハハッ、しょうがないなぁ。奈月ちゃんが可愛いからって照れてるな?」


 揶揄うように男の子の頭をわしゃわしゃと男性が撫でている。見上げる程に背が高くそしてイケメンな、彼のお父さんのようだ。


「別にそんなんじゃねーよ」

 

 男の子はお父さんの手を払い退けて顔を赤くさせる。そして私の方に視線を向けて、少し恥ずかしそうにはにかんだのだ。


「蓮だ。よろしくな奈月。」


 その瞬間、私は簡単に恋に落ちた。

 

 この挨拶から両親同士が仲良くなり、私と蓮も自然と仲良くなり、互いの家を行ったり来たりしながらすくすくと成長していく。


 通学する高校に到着すると校内がいつもより騒がしく、どことなく浮ついている様に感じる。夏休み前の最後の登校日だからか。自分の教室に向かっていると、一際目立つ集団が目に留まった。


(あ、蓮……)


 蓮の容姿はとても目立ち人目を集める。榛色の瞳に、日が当たって光る薄茶色のサラっとした髪。背も高く、成績も良く、運動神経バツグン。何をしても器用にこなす、天より二物も三物も与えられた物語のヒーローみたいな男の子。当然、彼の周りには男女問わずに人が集まっている。

 私と蓮の間にいつの間にか出来た境界線みたいなのを感じ、ふいっと蓮から目を逸らす。するとすぐに、後ろから誰かに抱き着かれた。


「奈月ちゃん!おっはよ」

 

 ぎゅっと抱き着くのは友達の咲良ちゃん。大きくぱっちりした目に、小柄で小動物のような可愛らしい容姿の女の子だ。指先が器用でフワフワの髪を毎日可愛くアレンジしている。


「おはよう、奈月」 


 もう一人の友達はユリちゃん。肩まで伸びたワンレングスの髪がサラリと揺れ、高校生とは思えない大人っぽい雰囲気を持つ美人さんだ。


「「奈月、お誕生日おめでとう」」


 二人はせーのっと声を揃えると、可愛くラッピングされたプレゼントを手渡してくれる。


「咲良ちゃん、ユリちゃん、ありがとう!」


 我慢できなくてプレゼントを開けると、可愛い瓶に入った香水とグロスが入っていた。


「ユリちゃんと一緒に選んだんだよ。今日これをつけて頑張ってね奈月ちゃん!!」


 咲良ちゃんが手を握り気合を入れる。


「ついに今日なのね……ヘアアレンジとメイクは、私と咲良に任せてね。とびっきり可愛くしてあの男(本庄蓮)の度肝を抜いてやろうね!奈月」

「う……うん」


 ()()()と言うユリちゃんの目が笑っていなく怖い。


「それにしても本庄君……今日の人気ぶりもすごいね。あっ!悠くんだ」


 咲良ちゃんが笑顔で手を振る相手、芹田悠(せりたゆう)は咲良ちゃんの彼氏で蓮の友達でもある。男友達の輪にいる芹田君が咲良ちゃんに気付いてひらひらと手を振る。隣にいた蓮がつられて視線を向けると、ばちっと私と目が合った。久しぶりに蓮と目が合ってドキっとするが、すぐにぷいっと目を逸らされてしまう。目を逸らした直後、蓮の腕に甘える様にしな垂れかかる女の人が目に入った。


「あ、蓮君と桃園先輩だ。今日も美男美女で目の保養~」

「本庄君って他の女子には冷たいけど、桃園先輩には気を許してる感があるよね」

「もう早く付き合っちゃえば良いのにね!桃園先輩のような美人なら皆納得して、本庄君の彼女ポジ諦めるよ」


 遠巻きで見ている女の子達がきゃっきゃと噂する声が聞こえ、ずしんと体が重たく沈んでいくように感じる。

 桃園先輩は三年の先輩でバスケ部のマネージャーを務めていた。美人でスタイルが良く、他校との練習試合の時は告白の行列が出来るという噂があるくらいの有名な先輩。

 そんな桃園先輩の意中の相手は蓮だ。私達が入学してからずっとアプローチが続いていて、最近では二人の仲を後押しする声が多く付き合って欲しいと望む声もよく聞く。


「奈月ちゃん、大丈夫?」

「ただの噂よ、気にする事ないわ」


 二人の気遣う声に顔を上げると、桃園先輩が気安げに蓮の寝ぐせに触る姿が目に入った。柔らかくさらさらとした蓮の髪に、もう何年も触れていない。私は、ぱっと視線を逸らせて無理やり口角を上げた。


「全然気にしてないから!それより早く教室行こう」


 私はカラ元気を出して教室へと歩を進める。そんな私の後ろ姿を、咲良ちゃんとユリちゃんが眉を下げて見ていた。他に、遠くで榛色の瞳も……


♢♢♢♢♢


 今日は地元で一番大きな夏祭りが開催される。駅前から神社まで屋台が連なり、歩行者天国となった大通りでは太鼓を叩く人を乗せた大きな山車が、行列を成して練り歩く活気のあるお祭りだ。


「お待たせ〜咲良」

「悠君おそいよー」


 咲良ちゃんが頬を膨らませてプンプンと怒っている。


「ごめんね〜。蓮が歩くたびに女の子に声かけられちゃって。振り切りながらここまで来るの大変だったんだよ。それよりも咲良、浴衣姿可愛いね♡」


 よしよしと、咲良ちゃんの頭を撫でながら浴衣や髪型など褒めている。


「あっ、ユリちゃんと奈月ちゃん()浴衣似合ってるね」

「ハッ、社交辞令ありがとう芹田」


 ついでに褒めました感のある芹田君の言葉に、ユリちゃんがすかさず乾いた笑いで返す。


 咲良ちゃんの彼氏の芹田君は、オーバーサイズの白いTシャツに、細みの黒いパンツというシンプルな格好であった。スタイルが良いので良く似合っている。蓮より少し背が低いけど一般男子高生の平均よりは高く、そしてこの人もイケメンだ。いつも笑顔で何を考えているか分からない、ちょっとミステリアスな男の子でもある。けれど、彼女である咲良ちゃんの事は、とても大事にしているのはよく分かる。そんな二人は憧れのカップルだ。


 その時、私達の周りが急にざわっと騒がしくなり始める。


「おっと、稀代のモテ男のご登場だ」


 芹田君の大袈裟な前振りの言葉と同時に蓮が現れた。浴衣を身にまとって現れた蓮は、高校生とは思えない色気に溢れている。長身に合わせた浴衣をきっちりと着こなして、いつも下ろしている前髪は後ろに流して大人っぽい。普段と違う印象に見惚れてしまう。

 

 もうほんと、これ以上私をドキドキさせないでほしい。


**

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