第三話 黒き竜
「ケーシィ起きなさい。可愛い幼馴染よ」
ドサッ
「今日は休みなの、遊びに行くわよ?」
ギュッ
「ケーシィ?起きているわよね?」
ギチ
「ネーさんおはよ。その手はやめよ」
「ケーシィが寝たフリするからいけないわ」
今日の起こし方はまだ可愛い方であった。
ドサッとマウントポジションを取り。
ギュッと胸ぐらを掴まれ。
ギチっと拳を握るだけで終われたのだ。
「朝這いはいけないよ」
「ケーシィは私に責められるの嬉しいでしょ?だからいいの」
10歳とはいえ見た目15歳の幼馴染起こされるのは夢のようなシュチュエーションなのに、何処か残念である。この筋肉ゴr
ドガッ
握っていた拳は緩んでいなかった様だ…。
「ケーシィお弁当があるから山に行くわ。早く着替えて」
「わかったよ」
ジー
「ネーさん着替えたいんだけど」
「私が見ていたいからいいの、早く着替えて」
「ネーさん流石に恥ずかしいよ」
「そんなに喜んでいるのね、よかったわ」
諦めるしか無かった。
着替えも済み、ネーさんが行きたいらしい山に行く事になった。どうやら中間辺りにある花畑が綺麗らしく今の時期はちょうど花見時のようだ。
山に行くのにネーさんは手ぶらである。
それはそうだ俺の荷物は二倍なんだもの。
所々でネーさんのお願いを聞いたり、水浴びしたり、転んだのを見て笑ったら大岩が飛んできたりと色々あり(俺は)疲れた。
木々の間が開けて行き奥から光がさしている。その木を抜けると花畑へと着いた。
大地のキャンパスに沢山の色を落としたような色鮮やかな世界が広がっていた。
「ケーシィどう?」
振り向き髪を靡かせながら微笑むネーさんを見て。
「ネーさん綺麗だ」
「私の感想を言ってどうするの、本当に私のこと好きよね。生意気だわ」
早口で髪を弄るのはネーさんの照れ隠しだ。いつもそうしてればとも思うけど、たまに見せるこれだから可愛いのだろう。
「お弁当を食べましょ、ケーシィの家お肉でないのでしょ?」
「うん、母さんが嫌いだからね」
「お肉入れてきたわ」
「ネーさんありがと」
ネーさんはいつも優しく甘えん坊だ。言葉がちょっとキツイところがあって学舎では友達と話せてないらしい。こんなにも可愛いのに。
それからネーさんとお花を見たり、いつものような話しをしたり、いつものようになぜか殴られ…。昼寝をしていた。
「ん?ネーさん?」
普通に横に並んで寝ていたはずなのにネーさんは俺の上で寝ていた。解けないように手足でホールドして。
この絶世の美少女にされて嬉しくないはずがないのだが技をハメている感じが残念でしょうがない。
「ネーさん起きて、そろそろ戻ろう」
「やだわ…ケーシィといるの」
か、可愛い。
「ネーさんもう日も落ちてくるから起きて」
「ケーシィ?・・・そんなに私の下にいたかったの?」
「どう見てもネーさんが技を掛けてるよね」
ネーさんがまだ寝ぼけている間に荷物をまとめ下山する準備をしていく。
「ネーさんできたよ、行こ」
「まだ眠いわ、手を繋ぎましょ」
帰り道はそんなに時間は掛からなかったがもう直ぐで村だというところで異変に気付いた。
夕方にしては空が明るすぎる。
焦げ臭い。
グォォォォォォォォォオ
耳が引き裂けそうな音が脳に響く。
この咆哮をしている主が見えた。デカく黒い。
冷や汗が止まらない。なにもスキルなんてないのに身体中に警戒音が鳴っているみたいだ。
「父さん、母さん…」
逃げ出したいけど、ケーシィの記憶からみる両親の顔が脳裏を横切る。くそっ。。
「待ってケーシィ行ってわいけない!!あれは…」
ネーさんが何か叫んでいたがそれどころでは無かった。この身体には確かに善一という異世界の人間がつい最近来たばかりだが、8年間一緒に暮らしてきたケーシィの大切な家族を見捨てれなかった。
「父さん!母さん!」
村はどこも火の海でそこら中にエルフの死体がある。飛ばされて木に刺さった者、焼き焦げた者、全身を骨折している者。
家にケビンとルーシーはいなかった。
なら何処かに。何処だ
ドサッ
上から何か降ってきた。
目線を下げ気づいてしまった。
息が詰まる。
認めたくなかった。
指を絡ませてお互いを想うかのように繋がれた男女の腕は、
「なんで、父さん母さん」
その腕に着けている腕輪は二人の結婚してる証だ。いつも頭を撫でられる時に見ていた。ケーシィがよく知っている物だ。
「あ、ああああああああ」
ケーシィの感情が溢れ出す。
「ケーシィ!ケーシィしっかりして」
「ネーさん。うっ。うぅ。」
黒き竜は村を森を蹂躙していく。綺麗だった村は人ごと無くなり、森は今も荒らされていく。
「とにかく逃げましょう、まだ間に合うわ」
震えながらも、涙が溢れそうでもケーシィの為にその恐怖に耐えていた。
今なら二人でも逃げれる。あれはどうにもできない。あんな神話の魔物がなぜここに。ケーシィお願い、耐えて貴方は強いわ。
黒き竜は翼を羽ばたかせ、嵐が巻き起こった。
エルフの森の木々は全て大きく自然の要塞となっていた。そんな大木と一緒に竜巻がケーシィとネーさんを襲った。
ケーシィ。。。
***
「うっ。ここは?」
「ゴホッゴホッ。ケーシィよかったわ」
「え?ネーさんどこに!」
「ケーシィここよ」
下を向くと大木に半身潰されているネーさんがそこにはいた。
「ネーさん、今助けるから」
「無理よ、もう長くないわ。ゴホッ」
「あっ。あ、ネーさんネーさん」
「ふふっ。大好きよケーシィ」
「俺も好きだ、大好きだから死なないで」
「ゴホッ。凄く嬉しいわ」
力ない左腕を上げそっとケーシィの頬を撫で、涙を拭っていく。血も抜け感覚すらもなくなっていく中、愛しの人を確かめるように、温もりを感じていた。
「ネーさんネーさんネーさん」
「大丈夫…。私は巫女だから…生き返る…わ」
「え?」
「転生だ…から。何処に生まれるかわか…らないけど」
「どうしたら見つけれる、会える」
「ケーシィ口づけをして」
「あ、ああ」
ネーさんに口づけをしたと同時に暖かい物が体内へと流れ込んできた。優しくいつもネーさんのそばにいる時に感じる想い。
「その…はん、分があれば…見つけれるわ」
「ああ。」
「かな…らず。見つける…のよ。」
「ああ。」
会えると言われても。今のネーさんが死ぬのは変わらない。涙が止まらないんだ。
もう、いつもお越しに来てくれた人が。不器用な優しさや、可愛い照れ隠しが見れない。
「泣かない…で。ケーシィ。」
「無理だよ。」
「生きるのよ…。あい…してるわ」
「愛してる。愛してるよ。まだ死なないでくれよ。」
彼女の手は冷たく。握っていた腕は力なく落ちていく。