閑章 転移者1 -1-27
このゲームはありがちなカルマ値と陣営表示の複合みたいなゲージがあり、神、魔、精霊、竜の四勢力です
±25%の4ゲージそれぞれあって合計200%分、同時に上げられるのは3つまでです
合計25%.50%.75%の時点で大幅な永続バフが入ります
防御と攻撃の基礎ステータス、状態異常耐性も変わるので非常に面倒で、基本的に上がるとうれしいゲージです
マイナスはマイナスでメリットがある
果実水を飲み終わり、一息付いてからトムさんと店を出た
有識者に懸念事項について訊ねてみるか…
「目的地の虎が強いって俺達の間で話題になってるんですけど、王国ではどれくらいの強さなんですか?」
少し前を歩いていたトムさんが立ち止まり、こちらを振り返った
「はて、虎…?…………あぁ!あいつらか…王国にいる肉食のなかでは、4番くらいだから一人で倒せれば…王国ではたどり着けない街は無くなるな…あぁそうだ……ついでに思い出したが、ここから真北と南西にある村に行くなら、二人のどっちかか、両方を絶対に連れていけ」
「どうしてですか?」
「両方ともネクロマンサーがいる村で、代々アンデッドが村を護っているからな…村の防衛に穴を空けさせずにお互い無傷で倒せるのは、今のこの辺だと私と二人しかいない
村は排他的で自給自足しているから、ここに村人が来る事もない」
「もしかして、特産品があるからアンデッドで村を護っていても許されてるんですか…」
「察しが良いな?そうだ…強力な護符と薬草、軍馬を昔から出している…特に軍馬を賊に奪われれば、村長は打ち首だからな………使えるモノはなんでも使って村を護っているというわけだ…ついでに言うと、護符と薬草は霧と霞がどうにかできるから、行くならどうしても用があるときだけにしておけ……物凄く軍馬を手に入れたそうな顔だが、連れていく霧と霞は宗教国家の人間だから、無理だ」
デスヨネ~!他国の人間連れてる奴に取引出来るわけ無いし…
「因みに、伝があれば行けるもんなんですか?」
「無理だな…素直に陸軍に入れ…そして騎馬隊に配属されることを祈るのだ…といいたいが…霧と霞はこの国の軍隊相手に5回程ケンカ売ってるから、軍隊に入るのはやめておけ、お互いに嫌いなんだ」
なんて面倒な…何やったんだ?話題を変えよう
「そ…そうですか…霧と霞は何年前から王国にいるんですかね?」
「………出たり入ったりしてるから……最初に来たのは3年前なはず…その前は皇国にいたんだったか…?門に着いたな…気を引き締めろ」
無言で頷いて後に続いた
着くまでにモンスに襲われる以外は何も起こらないでほしい…霧と霞のログが流れないから襲撃犯達はもう居ないっぽいな?
この際だし、歩きながらログを全部見るか
なんか…配信者みたいな名前も2回倒してるし
、来た奴等も途中から数膨れ上がってるな
野次馬…というか配信者のリスナー…?
粘着されないことを祈ろう
160人前後のゾンビアタックを二人でどうにかしたのか…しかも無傷で……50人斬った辺りから二人ともHPが残り3割になったまま、今の今まで来てるし…奥の手は伏せ字でログに出てないけど強すぎんか?…最後の相手は10分前くらいに倒したわけね…まぁゲームが設定したイベントじゃないし、二人は別にボスじゃないからプレイヤー達は殺られ損なわけだ…同士討ちに誘導されて3分の1は死んでるぞ
誰か気づけよ……野良パーティ組んで二人の所に行ってたら、一緒に行ってくれた奴も死んじゃうだろうし、二人には悪い気もするけどこれで良かったのかもしれんな
前を歩いていたトムさんの背中に突っ込みそうになったので俺も慌てて立ち止まった…どうかしたのか?まぁどうかするわ…血の海だもん…
「こんな奴等相手に精霊化したのか…お互いを守るだけなら精霊が力を貸してくれなさそうだが…まぁアイツらが生きてれば、精霊達が退屈しのぎ出来るから、悪戯する可能性も減る…
それはそれとして説教追加だな…
マサ、二人はお互いに離れたところにはいないから、両手首を両手で掴んで連れてこい…
………本当に面倒な……!すまんな」
「それが二人の奥の手ですか…一人ではここまで来られなかったんで、トムさんが謝らなくて良いですよ!」
「説明すると、精霊は悪意に敏感だから、結界を作るのを手伝ってもらえば、相手は奇襲をしにくくなるという精霊結界の特性を利用して、さらに自分に憑かせて色々やる術技だ…私達は二人に悪意を持ってないから、ここまで踏み込める」
モンスは逃げたか?影も形もないな
そのまま20分程歩いた
「お、いるじゃん二人とも…ん………?トムさん、二人とも見つけましたけどこのまま引っ張って大丈夫ですか?」
テントの入り口の両脇に血塗れで単座夢想(×2)してるけど、スッパリ表情が抜け落ちててちょっとビビる
「よし…連れてこい、二人の両手首を私が良いと言うまで離すなよ」
目の前に立って霞の左手首を掴んだらスッと立ち上がったし、霧の方もトライするか
「ほら行くぞ…もう片方の手も出して」
素直に手を差し出されたので半分は完了ってことで…
霧の方まで歩き、右手首を掴む
霧も同じように立ち上がる
「よし、もう片方も出してね」
ほい。これで良い
二人の目に感情が戻ったな…歓喜、恐怖、……焦燥?どういう心の揺れ動き方なのか…
「トムさん、準備できました」
トムさんが向かい合って立った
「では、 私が右に2歩動いたあと、同じように左に2歩動くというのを二回繰り返す
その間は絶対に私の目から目を離すなよ…瞬きは、私が左右に動いている間はしても良い
私が左右に立ち止まったその時に、二人は振りほどこうとするが、気にせず掴め…始める」
一瞬周りの気圧が変わった気がしたと思ったら、もう終わっていたみたいだ…
「よし、二人の手を離して良い」
手を離そうとすると、倒れるような音がしたので、反射的に手首を握る力を強めて振り返ると、霧と霞は膝を突き、息切れしたかのように浅い呼吸を繰り返していた
震えているし、姿が二回りは小さくなったようにみえる
俺は立ち止まっていたのに、子供を連れて歩いていたような気分になった
自然と童謡と子守唄が頭にリフレインする
二人の手指が動いたので、そのまま手を離し、トムさんの方に向き直った




