邪なる者の集まる川 序 伍
巫女様に殺されるかもしれないということに
相棒はそこまで悲観していないらしい
「似たような目的の奴に片割れも
付きまとわれてるのかもな」
などと楽しそうだった
俺は嫌だけどな…どこかで
殺されてるかもなんて…
今日も今日とて巫女様の
魔術と槍は冴え渡っている
炎と水の魔術が使えれば野宿はとりあえず
困らないってことで、先代にその二つはマスターしろと言われて自主練も重ねた結果、
二属性しか使わないようになってしまった
需要が限られる古代魔術をも復活させて
魔術の手札で先代も超えてしまったそうな…
魔術カウンターは独学で兄を相手に
どうにかしたらしい
その辺の枝を持って俺と相棒は
二対一で手合わせしてみた
巫女様は素手である
「同時にかかってきても良いですよ?」
お言葉に甘えて同時にうちかかった
相棒がみぞおちに突きを出し
俺は枝を横薙ぎに喉元を狙う
…が同じ上下方向への同時攻撃というだけで
一人でやるのと変わらず失敗した
手刀で枝を弾かれ
相棒は突きを出した肘のすぐ上を掴まれて
そのまま投げられた
受身をとって手をつき地面を転がる瞬間に
手をついた土を
巫女様に水の魔術で濡らされてぬかるみ
相棒は手首をひねった
両手をあげて降参する
「しょっぱい手だけど効くなぁ…」
相棒は悔しそうに手首をさすっていた
「ムフフ、あなたは炎で相手をしましょう」
何でそんな妖しい笑顔なの?
膝のすぐ下を蹴られ出しかけの
突きをいなされて
顎を打たれた
脳が揺れる……
その隙に周りを目の高さまで
一瞬でぐるっと青い炎で円状に囲まれて
呆気なく酸欠になり失神した
目が覚めると夜になっていた
焼き魚の匂いがしたので起き上がると、
相棒と巫女様は焚き火を囲んでいて
魚を焼いていた
焚き火の真ん中の鍋では
骨を外し出汁をとって何かを煮ている
「ムフフ、起きましたか」
ムフフって若い女の子の笑い方じゃないだろ…
「笑いが下品とか言われたこと無いですか?」
顔がすごい赤いけど何なの?
「フフンいまあでしょんなこと
ありゃあせんれしたよぉあーしわぁ~…クフ」
は?…突然なにこれ…うっわ酒くさッ!
酒で魚を煮てたのかよ!何で今呑んでるの!?
「もうちょっと
頑張れるかと思ってたんですけどぉ…
私の禁酒とあなたたちぃ…」
起き抜けだしさっぱり意味がわからん
「私達に実地で何となく教えてるのに、
すんなり飲み込んでくれないから、
自分の教え方が下手なのか…
と凹んで村でもらった酒を解禁して
ダメな酒盛りを一人で始めてしまった…」
相棒は諦めきった顔をしている
この人にヤケ酒を飲ませると危ないから
俺達が強くなれってことなの?
なんだよそりゃ…なかなかいない
ヤバイ動機で酒呑んでんじゃん
こんな姿今まで通ってきた村の人達に
見せられないよ…
というか何より野宿でも酒盛りを始めちゃうとか
やっぱりこの人ヤバイわ……
山賊やら団体さん達が魚と酒の香りで寄って
きちゃうでしょうが…
現状酔っ払っていようが
そのへんは瞬殺出来そうだけど…
明日マジで大丈夫なのかな
「酒で煮立てたスープ意外と美味しいよ?」
そう相棒は言うが、焼き魚だけをいただいた
「いやぁ遠慮しときます…巫女様は
そのまま監視しますんで、休んでどうぞ」
ムフフとしか言わなくなっている
巫女様を横目に宣言した
相棒は入れ替わりに寝転がった
翌日
目が覚めると俺と相棒は
酒臭い巫女様の抱き枕になっていた
巫女様の立派なナニカが背中に当たってるけど
酒臭いし全然嬉しくない…
相棒は首が絞まっていて
青い顔をしていたので救出して
巫女様が起きるのを待った
背丈はそこまで変わらないし
背負って移動できなくもないけど
道義的によろしくない
しばらく待つと巫女様はすっきり目を覚ました
「昨日はご迷惑おかけしました
…があなたたちが弱いのも事実なので
頑張ってください」
それだけで済ませられてもなぁ…
こんな人のもとで本当に強くなれるんだろうか




