フィルム
一人の孤独な人が居た。
肉親も無く、知り合いもなにも無い。
彼はある日、余命3日を告げられた。
あと3日
あと3日で
あとたったの
3日で
全てが終わる
『終わらせる』のではない
全てが
この全てが
男は思った。
『全て、って何だ?』
と。
この体
この目
五感
匂い
視線
景色
人間
笑顔
記憶
故郷
自分
違う
まだわからない
男は都会のど真ん中で、道行く人、すれ違う人、全ての人に優しさを
自分の全ての優しさを
振り撒いた
道行く人々は思った。
『なんだコイツ』
『ああ』
と。
『どうしたの』と聞く人もいた。泣いた。
当たり前の光景だ。
彼は全てでは無かった
全てどころか
一瞬でしかないかもしれない
ただの季節だったのかもしれない
だが
彼は全てだった。
全てと全て、全て、
沢山の『全て』が存在するのに
彼は『自分』という『全て』しか知らない。
3日で科学がそれを解決する事は無い。
ずっと知る事は無い
当たり前だ
当たり前の言葉だ
言葉でしかなかった
認識でしかなかった
教科書の1ページ分より少ない
当たり前だった
何もかもが
当たり前
余命3日を告げられるまで、当たり前だった
どうしようもなく
当たり前だった
全ての時間が過ぎて行く
全てが
この『全て』が
急速に
光が見えた
五感が
生存本能達が
急速に
全てが
光
が
五感
ヒト
愛
無機
感
動いた
彼は人間だった
ヒトだった
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